とある付与師の帰還録   作:さくさくの森

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1⇒50⇒200(10刻み)と完全にストレートで上がったゴンキルが一人4億稼いでいるので、100-120で足踏みしたクー子は4.1億稼いだ前提で2話と34話を修正してます(2億⇒4.1億)。
二人で4億と勘違いしてましたね。



36.筋力特別強化月間

 

 ここ最近の私…世界中を飛び回り過ぎである。

 

 ハンター試験後に天空闘技場に帰り、ヨルビアン大陸に行きグリードアイランドの島に向かう、その直後にアイジエン大陸に飛ばされてまた天空闘技場に戻ったと思ったらまたハンター協会まで戻り、そしてまた天空闘技場に戻ってくるという、あまりにも(物理的に)激動の日々である。

 

(大変だったけど…収穫は沢山あったから良いか。)

 

 得た収穫はここ20日程度で190億増えた口座残高と、時価1000万と評された幻のヴィンテージマッカラン。今夜は祝杯だぜ〜と顔を綻ばせながらも、帰り慣れた我が仮宿に戻る。

 キルア達は既に150階に到達しているようだが、会うのは明日で良いだろう…。私も色々と溜まっているのだ、主に疲れとか、飲酒欲とか…。

 

 発動するは『オールグリーン(二日酔い知らず)』。たまには一人でゆっくりしんみり、味わうようにも飲みたいからね。頑張った自分へのご褒美の時間は、決して侮れない心の栄養…得難いものがあるのである。

 

▽ ▽ ▽

 

 翌日。

 

 ゴン君キルアの二人と合流し、遅れた経緯の詳細や、その間に何をしていたかなどの話を聞かせてもらう。

 

「あっお姉さん! 久しぶり! 心配かけてごめんね…キルアの家で色々あってさ。」

 

「俺が許してるのに周りの反応がビミョくてさぁ…。せめて試しの門くらい自力で開けろやって空気があまりに重いから、ゴン達にはちょっと鍛えてもらってたんだよね。ぶっちゃけ遅れたのは大体そのせい。」

 

 キルアの実家の門は『試しの門』と呼ばれ、一番軽い一の門でも片側2トンあるらしい。それを開けられるかどうかで部外者を名前の通りに試しているらしく、開けられないならイヌの餌というのが通説らしい。

 

 普通なら絶対無理と諦めたくなる重さの門だが、ゴン君達は20日程度で開けられるほどに筋力を付け、そこで正式にキルアの友達として認められたようである。

 

(……人体ってそんなすぐに筋力付くものだっけ?)

 

(鍛え始めはかなりペースで付くと聞くが…そう思うなら試してみてはどうだ? 最近は移動と指導ばかりで鍛錬を疎かにしているであろう。金策についても、汝の分の目標達成には既に目処が付いたと、昨日言っておったではないか)

 

 言った…確かに言ったけど…筋トレなあ。

 

(でも確かに筋トレの効果は元の世界よりずっとある気がするかも? 林檎くらいなら念無しでも片手で潰せるようになったし……魔法の代わりにそういう神秘で満たされていた世界なのかもしれないね)

 

 あと一つの金策と、出版後に予定している銀行融資で、合計150億は固いだろう。現在の口座残高、約194億を合わせれば344億。ヒソカに稼いでもらう予定の300億と合わせれば600億は軽く超える。万が一の時には全面的な協力を取り付けているゴン君にも助けてもらえば、700億までは対応できるかもしれない…。

 

金策とは少し違うが、『付与理論大全』の追加執筆も確定事項だ。寄与範囲が限定的とのことで、副会長もこちらにはそこまでのお金は出せないそうだが……まあこっちはこの世界の同胞(付与師)のためのプレゼントのようなもの。これに限ってはお金はついでだ。

 

「凄いね試しの門。私も素の力で片方くらいなら開けれるようにならないかな?」

 

「絶対イケるって! レオリオなんて倍重い二の門まで開けてたし、キルアなんて三の門まで開けれるんだよ!」

 

「地味にやべーよなレオリオ。明らかに伸び方がおかしいだろ…」

 

 その次は私の番ということで、二人にもハンター試験後の激動の日々を事細かに伝える。いや本当に色々あり過ぎて情報量が多すぎる…執筆については話してたけど、それでもここまでの話になるとは思っていなかった。

 

「9…9月までに600億!? 俺、今の段階でも口座の金額見て実感湧かないくらいになってるのに…」

 

「しかもそれで買うのがゲームソフトだろ? いやまあそんな値段でも買う奴がいるからこそ、クリア報酬が本物って確度が上がる訳だけどさ、それでチョコロボ君何個買えるんだよ…。」

 

「ここまでの情報を集めるのでも、既に3000万以上使ってるし、サザンピースオークションの入場料も1200万。どんどん自分の金銭感覚がおかしくなってくるよ…」

 

「…そのゲーム、親父(ジン)が作ったものかもしれないんでしょ? そ…その…もし入手出来たら俺も遊べないかな? お姉さんには貰ってばかりで悪いから、少ないかもだけど出せるだけのお金は出すよ!」

 

「天空闘技場でこのペースだと一人頭4億てとこだろーなー。

はした金もいいとこだから、殆どタダ乗りになりソ」

 

(融資ありなら一人頭40億は見込めるけどどうかな? なんて言える空気じゃないなあ…)

 

 子供に集るお姉さんの絵面は私としても想像したくない…いやまあそれでも全体の一割にも満たないから、別に集ってる訳ではないんだけど……流石にね。

 

「ははは…本当に困ったら二人にも頼ろうかな? それこそただライセンスを持って近くにいてくれるだけでも、助かることもあるかもね。」

 

 プロハンターの存在とはそれだけで強いステータスである。最低でも十億、ややもすれば数百億を動かせる存在と認識される訳であるからには、相手に己の底を見せないことが重要なオークションでは大きな力を持つ。……と考えていたのだが。

 

「あーー実は俺、今ライセンス持ってないんだよね…兄貴との『取引』に使っちゃってさ。だから来年のハンター試験が終わるまでは返ってこない」

 

「えっ!?」

 

 どういうことかと驚きつつも事情を聞くと、キルアの兄…イルミの様子を見に行った際に、とある"取引"をしたようだ。それは互いに確実に履行することを前提とした血の契約。

 ゾルディック家にとってはかなり特別な意味合いを持つようで、違反する一族はいないし、違反するものは最早一族ではないという暗黙の了解があるほどに、非常に重いものであるようだ。

 

「クー子に頼まれてたろ? 正直嫌だったけど様子見に行ってさ…まあ聞いてた通りの酷い有様だったけど、片足も無いくせに「仕事に必要だからキルのライセンスを貸せ」って言われたんだ。…ああクー子のことは別に恨んでなかったみたいだぜ? 何なら母親の方がぶち切れしてたけど、余計な手出しは要らないって断ってたくらいだったしな。」

 

「そ…そうなんだ。仕事熱心なお兄さんだね…‥あれ? 確かライセンスって本人しか使えないんじゃ?」

 

「ああそうだよ。だから俺も最初意味分かんなかったけど、豚君…ああごめん、俺のもう一人の兄貴ね。ミルキっていうのがいてそいつがネットに強くてさ。ハンター専用サイトに無断侵入できるレベルらしい。…ただまあ警察やハッカーハンターが面倒で実際に手出しまではしてなかったみたいだけど、ライセンスの現物があるなら話は別だってことになってね」

 

 ああ成程、つまりイルミは『狩人の酒場』を仕事に使いたかったのか。確かにあれは本人でなくともライセンスとアドレスさえあれば使えるはずだ。もしかするとライセンスの読み込みの際に生体情報も読み込んでいる可能性もあるが、そこは肉親であればどうとでもなる範囲だろう。

 

「そんで"取引"の内容だけど…俺のライセンスを来年の試験終了まで預ける代わりに、兄貴にはその期間中の仕(・)事(・)以(・)外(・)の(・)殺(・)し(・)を(・)禁(・)止(・)にした。」

 

「え…なんで…?」

 

 あまりに想定外の取引の内容に、ついそのままの言葉が口から出てしまった。

 

「……俺はさ。陰を糧に動いて、人の死に触れたときに歓びを抱くように教育されてきた。兄貴(イルミ)もそうとは限らないけど、似たようなもんだって確信はある。…でもさ、だったら違う生き方もあるんだって知ることが出来たら、もしかしたら兄貴が変わることもあるんじゃ…て、ちょっとだけ期待したんだよね」

 

「……そっかあ」

 

まだまだ子供であるキルアと異なり、イルミは既に自我が完全に確立した大人だ。キルアの言い分は分からないでも無いが…それで生き方を変えるようなことも、強く影響を受けるようなこともきっと無いであろう。それこそ「窮屈な一年だったなー」と、あの感情の起伏が少ない顔でぼやくところが目に浮かぶくらいには…きっと彼は変わらない。…どうにもそんな気がしてしまう。

 

「まあ後は普通に嫌がらせ! あいつズタボロな怪我人のくせにエラソーでさぁー! だったら一年間、殺さない窮屈さを味わって見やがれって話だよ。これで我慢できずに"取引"破ったら、一生一族の笑いもんだぜw」

 

「そっかあ……」

 

「ごめんねお姉さん。キルアってこういうとこあるから…」

 

 

▽ ▽ ▽

 

 

 150階以降の猛者達を、キルアは手刀で、ゴン君は押し出しで瞬殺していく。その映像を尻目に――私は自室で筋トレに励んでいた。三次試験の待ち時間以来であるから、真剣に筋トレをするのも久々である。

 

「うーん…重りはこんなもんで良いかな? 『土』の付与でガッチガチに固めて圧縮したけど…普段の生活用品を百倍近く重くするって…随分変わった鍛え方だよねえ…意識しないで鍛えるのが目的ってことなら分からなくもないけど…」

 

 ゴン君クラピカさんレオリオさんが経験したというゾルディック家掃除人式筋トレ法を再現して、オーラ垂れ流しの状態で実践している訳だが…どうにもやり方が合っているとは思えない。肉体に負荷をかけて鍛えるという方向性は合っているとは思うが、やはりそれ用の家具があってこそかと反省する。

 

「家具はやめとこ…付与の連続で精神の方が疲れるし、三十キロの重りだけして、腕立て腹筋背筋とかで地道に鍛えよう。最終目標は片側1トン…一の門の半分の重さの扉を素で開けるとこまでに設定して頑張れればいいかな? 仮に出来たらもう十分超人の域で、少し怖くなってくるよ…」

 

 疲れたら絶で休み、回復したら練を維持…。今回は『念』を付与してないので十分と保たないが…これでいい。今は筋トレに注力すると決めたのだ。

 

(取り敢えず、ゴン君達に倣って二十日は継続してみよう。継続は力なりって言うからね)

 

 

 ――後日、師匠であるヒソカにも筋トレ中心で鍛えていることを伝えたところ『念』付与ありの『堅』の状態でも鍛えられるようにと『伸縮自在の愛(バンジーガム)』で全身を覆われた。ゴムの収縮の力は変化系であるヒソカが離れる程に弱くなるが…それでも中々外れない程に締め付けが強い。

 

 今の私では、ヒソカが部屋を出てから暫く経っても、そこから更に時間をかけなければ脱出できない程度に非力である…。

 

 実戦であれば服や身体に『水』を付与することでサッと洗い流せるかもしれないが、ヒソカ相手にその隙は致命なのは言うまでもない。攻撃の威力も素のフィジカルに合わせて向上すると考えれば、間違いなく鍛え得。

 

 その後も己の弱点を必死に埋めようと頑張る私の様子を眺めるヒソカの表情は、どことなく嬉しそうに見えた。

 





キルアを抱き込んで抑えられるマチでも引き剥がせないバンジーガムの拘束力は、大分反則だと思う。
まだ部屋の中とはいえ、既に手元から離れたものすら引き剥がせていないという理不尽。
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