「天空闘技場は都合の良い玩具箱とは誰が言ったか!?戦闘中に欲情する重度の変態!ここは風俗店じゃねーんだぞ!? 二つの敗北は不戦敗のみ!それ以外は全勝で飾る文句なしの最強実績!! 今宵の彼の死神の鎌は、虎の首をも刈ってしまうのか!? 我が女神からの期待の百億に、どう応えるかが注目です! フロアマスターは指名に怯えて震えて待っとけ! 現在『9勝2敗』、ヒソカァァァアア・モロオオォォォウッ!!」
(楽しんでるのは知ってたけど、欲情まではしてたのかな? まあ変態バトルジャンキーなのは同意するから、別に間違いでもないか……)
「対するは同じく『9勝2敗』! 突如失踪しての山籠りで何を得たのか!? その眼光はまさしく飢えた虎の如し! 一つの不戦敗も何のその!!お釣りがくらぁと言いのけてやれ!! そして皆さんご存知、彼の戦績を穢す唯一の敗北こそ、200階お馴染みの初戦の洗礼! そして、それを浴びせた男こそが、対戦相手の宿敵ヒソカァ!! こんなマッチメイクそうそうないぜぇ!? 推しのぐぬぬ顔も一つの栄養!大番狂わせを見せてやれ!! 虎咬拳のカストロだあぁぁああああ!!!」
(…ここだけの話、カストロさんとの山中での交渉は、かなり怖かった。今更魔獣程度に怖がる私では無いけど、それでも心のどこかが警鐘を鳴らし続けていた。そしてその対象は、山中の環境ではなく、跋扈する数多の魔獣でもない。つまり私が本当に怖かったのは――)
「いまこそ天空闘技場、最高の輝きを見せる時! 審判さんも最高の宣言をお願いします!!」
「試合っ開始ぃいいいい!!」
審判の開始の合図と同時に、二人の姿が弾けた。
▽ ▽ ▽
先に動いたのはカストロ。踏み込みから繰り出された、虎の爪のような攻撃…虎爪をヒソカが紙一重でかわす。ヒソカはそのまま即座に反撃に出ようとするが、彼はそれを予知していたかのように身を低くして旋回し、今度は死角から蹴りを叩き込む。それもまたギリギリで反応してなんとか腕で受け流すものの、続けざまに飛んできたに虎爪の回避は間に合わず、頬を裂かれて早くも出血する。
――速い。
(……技の切れは、カストロさんの方が上か?)
「随分とせっかちだね…♦ がっつく男は嫌われるよ♥」
「本気を出せヒソカ。二年前…そして三か月前の私とも違う」
「本気を出すかはどうかは僕が決める…♠ と言いたいところだけど、実際君の体術は大したものだ♦ 普通の殴り合いじゃあ、既に君の方が上かもしれないよ?」
「そうか…それなら先に本気を見せて、この試合を手早く終わらせてやろう」
彼はそう言い放ち、そのまま体勢を低く…まるで四足獣の如く低く構える。
私が
「――ッ!」
その直後、ヒソカが膝をつく。手で首を押さえ、指の隙間からは赤い血が止め処なく流れ落ちていた。
(狙われたのは頸動脈か…。速度自体は音速よりはずっと遅いはずなのに、それでもまるで見えなかった…。恐らくこれは武術の動き。相手に見せる予備動作を減らすことで、動き出した後から認識させる武の神髄。どんなに速くても見えれば遅く、見えなければ速いのが実戦。私には無い技術、達人だからこその強みだろう)
首筋からの激しい出血を見て、会場が一瞬、静まり返る。多くの観客が決着を予感した、その時だった。
「……ククッ」
ヒソカが嗤ったと思えば出血がピタリと止まり、その瞬間を見計らったかのように踵部分から猛烈な勢いでオーラが飛び出す。
ゴムの弾力により圧縮され、射出速度を劇的に向上させたそれが、振り向いた直後のカストロの胸元に直撃した。
「ぐっ――!」
そのままゴムを猛烈に縮めることで、カストロの身体は宙を浮く。そのような状態で十全な対応が出来る訳もなく、ヒソカの『凝』の裏拳がカストロの腹に直撃、審判がクリティカルヒットを宣告する大きな一撃であったが、カストロはこの程度では倒れない。多少息が上がっているようは見えるが、こちらも『凝』でガードしていたらしく、ダメージとしてはそこまでのようだ。
「解せない……という顔をしているね? 頸動脈を切られながらも何故出血が止まるのか…と。でもまさか、僕の能力を知らないって訳じゃあないだろう? クーデリアと僕の試合を…君も観ていたのは知っているよ?」
「……オーラでの止血か」
どこからか取り出したトランプを手で弄びながらも、ヒソカは回答を続ける。
「ご名答♥ 僕のオーラはガムとゴム、両方の性質をあわせ持つ♠ だからこうやって包めば、止血くらいは出来ちゃうんだよね♥ 僕にとっての血管は、急所と呼ぶには少々心許ないものなんだ♣」
(つまり大量出血による戦闘不能もまた、実質的に封じている…どこまでも汎用性が高い、憎らしい程に嫌らしい能力。分類としては一つの能力でしかないのに、対応出来る状況があまりにも多すぎて…ここまで来ると狡いとすら思えてくるね。)
「そして勿論、こんな無駄なお喋りをするほど、僕は君を過小評価はしていない。もう仕込みは終わったよ♥ 死ななきゃいいね?」
話をしている間、既にカストロの身体には十を超えるオーラの線が繋がっていた。その線の先にあるのは…先ほど弄んでいたトランプのカード。オーラで強化されたそれらが、カストロに向けて殺到する。
飛来したカードは
……かに見えた。
「!?」
信じられないことに、フッという音一つを残し、確かに致命傷を負った筈のカストロの身体が消えたかと思えば、ヒソカの背後の位置にある闘技場の石畳が持ち上がる。
なんとそこから、無傷のカストロが現れた!
「コォォ」ボンッ!!
「ななな…なんということだぁあああああ!カ、カストロ選手!? 大量のカードが刺さった痛ましい身体が消えたその瞬間、もう一人が床下から現れたぁあああああああ!! そ、そして彼の代名詞たる『虎咬拳』が炸裂ぅうううううう!! 一体何時間隠れていたんだぁあああ!?」
(…嘘!? どういうこと!? 確かにさっきまでカストロさんはヒソカと戦っていた。達人もかくやという攻防で、ヒソカの頸動脈を掻き切った体捌きと攻撃力は、間違いなく本物! まさか幻影魔法…いや…違う、カストロさんには魔法を教えて無いし、仮に教えててもこの短期間であのレベルの魔法が使えるはずもない。つまり間違いなく、なんらかの念能力。ただ、仮に任意の分身を作る能力だとしたら、それは具現化・操作・放出の複合発のはず…自身の系統からは大きく外れているのに…一体どうやって開発を? それとも実は強化系では無かった?)
「狩りの基本は――待ち伏せ。私は山籠もりの修行にてそれを学んだ。」
ヒソカの左腕を一撃で奪ったカストロ。
混乱冷めやらぬギャラリーを放置し、いまだ宙を舞っているヒソカの左腕に追いつくように飛び掛かる。
「そしてもう一つの基本、何事も徹底的に…だ!」
『
超高速で振るわれる虎爪が、本体から離れたヒソカの左腕を削り飛ばす。
肉と骨が修復不能なレベルに細かく分解され…
「…ここまでやって、初めて再利用が封じられる。そうは思わないか、ヒソカ?」
「たかが頸動脈、たかが左腕」
「お前とクーデリア嬢とのあの試合で、私はお前と…私自身を再確認した。それまで私が見ていたお前は、ただの虚像だった。」
「私はお前の奇術に魅せられていた。それと同時に、どこまでもお前を恐れていた。」
「
「…馬鹿馬鹿しい。畜生は皆体一つ、失ったものは二度と帰らない…」
「ならば、削って削って、最終的に消してしまえば安心だ。それが私の結論だよ……果たして、お前はそれでも愉しめるのか? なあ……
カストロの長い独白に…ヒソカは答えない。語らない。
顔は下を向き、表情からも何も悟らせない。
(オーラも…分からない。凪のように静かで…それでいて力強い…一切の澱みのない、まるで教科書のお手本のような『堅』)
「ここから先は二頭一対の狩り。今からお前に引導を渡してやろう……肉片一つ残らずこの世から消してやるぞ、ヒソカァ!!」
対するカストロは、飢えた猛虎に底知れない狂気が宿った、根源的な恐怖を醸し出すその相貌を露にする。
(――そう、
カストロ鬼強え!
このままムカつく奴ら全員ぶっ殺していこうぜ!!
……闇落ちしてない? 大丈夫君?
実は事前に穴掘ってステンバーイしてたカストロ本体。
誰も、誰も気付かないのである!
ダブル入場⇒本体穴に入って闘場まで進む⇒ダブルが戦う⇒頃合い見て奇襲
なので、実際のステンバーイ時間自体はそんなに長くないです。