カストロは階層全体の気配を把握してキルアの気配が急に消えたことを察知できるレベルの達人なので、床下で息を潜めながらでもヒソカの正確な位置や動きも感知出来ていた…という扱いです。
円とは別の達人的な技能としたいところ(円だとヒソカにバレますし、絶で感知力は上がりますしね)
二人に増えたカストロが、動かないヒソカを中心に正面と背後に陣取る。完全に挟み撃ちの格好となった上で手数は二倍…唯でさえ反応が遅れて頸動脈を切られた相手に、あまりに不利な陣容を取られた訳だが……不気味なことに、それでもヒソカは不動だった。
(な…何故? 片腕を失って再利用まで封じられた。頸動脈も止血が出来ているとはいえ、常に一定のオーラを首に回す必要があるような状態。そんな状態にも関わらずに、わざわざ自分が不利になるまで待つ理由は…?
駄目だ…全く分からない!)
「…これでも動かんか。しかし観念したという割にはオーラは不穏。カウンター狙いと見受けるが、前後からの同時攻撃にまで対応出来るとは思えんがな?」
二人のカストロが、一人のヒソカを中心にじりじりと間合いを詰める。
罠を警戒してか『凝』も怠ってはいないようで、つけ入る隙がまるで無い…。
「「お前はここで死ね!ヒソカ!!」」
『虎咬拳』
『虎爪乱舞』
二人のカストロの、それぞれの必殺技がヒソカを襲う。一人は頭蓋を砕く一撃、一人は腸を引裂くことを目的とした乱撃…どちらも致死を目的とした、濃密な殺意を乗せた攻撃であることが、この距離からでもありありと伝わる。
『伸縮自在の愛♥』
――勝負は、一瞬だった。
▽ ▽ ▽
思えば彼女が僕の弟子になってからというもの、僕は随分と欲求不満が少なくなったように思える。
今まではずっと、有望な青い果実が見つかれば、それが美味しく育つように願い、少しでも熟れてきたらその収穫を我慢するため、有象無象で
信じられるかい? 僕が日に日に育つ青い果実に囲まれながらも、きちんと我慢が出来ているんだよ? 少なくとも僕は、今でも信じられないよ♣
彼女は毎日のように新鮮な刺激を与えてくれるし、徐々に溜まる欲求不満を察してか、適度に発散までさせてくれる♥ これじゃあまるで、僕の都合の良い専属マネージャーみたいじゃないか♥
……そんな彼女がイルミに殺されそうだった時、実は僕は、一切動かなかった。死なすには惜しいと思ったし、それと同時に楽しい
それでも最後まで動かなかったのは、あそこで彼女が死ぬとは思えなかったから♠
マチじゃあないけど、感度ビンビンの時の僕の勘は、とっても良く当たる♥
それは綱渡りのようで必然に、結局彼女は生き残った。…思えば僕との戦いでも、そんな感覚があったなあ♥
(…さて、そろそろ状況が動きそうだし整理といこう。)
(カストロの発は恐らく『
(まるで獲物を取り囲んで逃さぬように、僕との間合いをジリジリ詰める二人のカストロ…『凝』を怠らないのは高得点♥ これも山籠りとやらをしてくれたお陰なら、その心意気には感謝しなくちゃ♦)
(先の奇襲で左腕は奪われた♣ 綺麗な武術家然としていたかつての彼がここまで変わるなんて驚きだけど…それとは別種の興奮がある! 他ならぬ僕が、彼の人生に影響を与えて、本気で命を獲りに来させるこの瞬間!)
――カストロがついに動き出す。正面と背後から、致死を目的とした濃密な殺意を感じる頃には、僕の方も迎撃の準備が整っていた。
(コンマ一秒にも満たない刹那の攻防が、互いの生死を分かつ♦ ああ…!なんて飢えた目!命を奪うことにどこまでも真摯なその姿勢!! ああ…カストロ!!カストロ!! 君はなんて…)
(なんて素晴らしいんだ!!)
▽ ▽ ▽
ヒソカの残された手足から伸びる複数のガム…それも先程のように射出するかの如く高速で飛来するそれらは、反撃を予期していたカストロに避けられてしまう。
「「獲ったぞ!!」」
勝利を確信し、渾身の一撃を叩き込もうとするカストロだが、そこでヒソカは真上に向けて跳躍する。
(間一髪で躱した!このままガムを天井に張り付けて逃げれば…!)
しかし私の予想に反し、ヒソカが選んだのは逃げの一手ではなく、詰めの一手。カストロ達に躱されたガムは、まだ上空のヒソカと繋がったままであり、ヒソカを中心にして垂れ下がるように追随する。
そんな垂れ下がったままのオーラをそのままに、ヒソカは空中で回転を加えることで、まるで絡め取るように振り回した。
ヒソカの真下にいるのは――当然二人のカストロ。
「なっ!? なんだこの拘束力は!? ふざけるな!外れろ! 外せ!」
「甘えちゃ駄目だよ♠ 僕の愛はしつこいのさ、君も分かった上で付き合ってくれたんだろ♥」
ガムにより雁字搦めに絡め取られたカストロとその分身は、ヒソカと繋がっていることにより、一切強度が落ちていないそれからの脱出に苦慮しているようだ。
(カストロさんの力ならいずれは脱出は叶うはず…でも)
ヒソカは人間二人をガムで拘束したまま、まるで紐付きのハンマーのように振り回す。今のゴン君と比較してすらパワーが上のヒソカである。体重80kgにも満たないだろうカストロ二人分など、例え片腕であっても軽いもの。
もの凄い勢いで回転する人間ハンマーと化したそれを、ヒソカはそのままの勢いで地面に叩きつけた!
それも一度や二度ではない…何度もだ!
「ほらほらほらほら♥ 早く脱出しないと、ポイントで僕が勝っちゃうよ!? それで良いのかい!? 君はその程度なのかい!?」
審判はもうこの試合を止めるべきかを迷いながらも、テクニカルジャッジを発動してガンガンポイントを与えていく。
途中からカストロの腕が拘束から外れ、闘技場の床との接触時にガードを始めたことでポイント加算は鈍化したが…それでも既に9ポイントがヒソカに対して与えられている。審判としてはあと一撃でもクリーンヒットがあれば、即座に試合を終わらせる心づもりだろう。
「まだだ!私は…まだ!……戦える!!」
時間こそ使ったものの、無理矢理での脱出に成功したカストロ。確かに脱出は成ったが…かなりの消耗があったようだ。
カストロのダメージは色濃く、最初の数撃の時点で肋の数本は逝ってしまったかのように見受けられる。対するヒソカも、頸動脈と、失った左腕への止血は今も尚継続中。ポイントは圧倒的にヒソカ有利だが…次の瞬間には命を刈り取られていてもおかしくないだけの力が、カストロにはまだ残されている。
「OK♥ 僕も最後まで付き合おう♥」
空手の息吹と思われる、独特な「コオオ…」という音が聞こえると同時に、虎咬拳の構えを取るカストロ。分身は出さず、己の身一つで戦うようだ。
「いくぞ!ヒソカ!!」
瞬時に距離を詰めるカストロの姿は、二回目でもやはり目で追うのが難しい。かろうじて視認した頃には既に必殺の間合い…彼の両腕が
ガードは不可能…しかし躱すには既に近すぎるその攻撃がヒソカに届くその直前、今度はヒソカが何かに引っ張られるように、勢いよく後方に下がっていく。そして引っ張られるがままに、カストロの左右にオーラを纏ったカードを投擲した。…さながらカタパルトの形である。
(…カストロさんが構える頃には、既に背中の死角からオーラを飛ばして後方への緊急回避手段を用意していたのは流石に上手い。そして今投げたカードは恐らく楔…片腕でこのレベルの精度の投擲が可能なのも、地味に凄い特技だ。)
――ゴム、解除♣
時間にしてコンマ数秒程度の攻防であり、カストロの腕はまだ振り切った直後。そこにゴムの反動で圧倒的な速度を得たヒソカの飛び蹴りが迫る。
カストロはそれでも尚諦めず、どこからか生えた脚、恐らく分身の脚を足刀として迎え撃ち、ヒソカの膝をザクリと深く斬りつける。しかしそれでも尚、加速したヒソカの勢いを止めることまでは叶わず……
「クリーンヒット&ダウン!! 『11-3 』!よって!」
蹴りの直撃を受けて倒れ込んでしまった。
「勝者! ヒソカ=モロウ!!」
▽ ▽ ▽
私は試合が終わった直後、文字通り闘技場まで飛び降りることでヒソカと合流した。病院への搬送を断る彼を訝しがりながらも、取り敢えず包帯等が用意されている控室へと連れて行く。
――控室に戻ったあと。
「……まずは、勝利おめでとう御座います。おかげで大損しなくて助かりましたし…師匠はフロアマスターにも挑戦出来ます…ですが…」
「そんな顔しないでくれると嬉しいな♥ 左腕については残念だけど、僕の場合はほらこうやって…♦」
応急処置を施しながらの会話であったが、ヒソカはあまり大事とも思わないとばかりにゴムで腕を型取り、それに大きな布のようなものをかけたと思えば…ものの一分程度で、見た目だけとはいえ腕を復活させてみせた。
「ほらね♥ だからあんまり気にすることじゃあ…」
「いや気にします!馬鹿なんですか!?」
珍しくも、急に私に罵倒されたからだろう。ヒソカの表情がピタリと固まる。本当に…馬鹿である。それなりに付き合いがある仲間が、師が、腕を欠損したのだ。
試験中に敵対していたイルミとは、状況も立場もまるで違う。取り返しが付かない大怪我を、身内が負ったことへの心労は、計り知れないものがあると…この人は本当に気付いていないのだろうか?
そもそもカストロさんとの試合をマッチングさせたのは私である。ヒソカが心の底からこういった死合を望んでいることは知っている…怪我することも、最悪死んでも仕方が無いことだとも理解している。……それでも、それでも尚、この怪我は私の責任でもあるのだ。なのにそれを『形だけでもすぐ取り繕えるから安心♥』で片付けられてしまっては、私の気が休まらない。
「そ、そうは言ってもね…くっつける腕も無いから何にせよ義手にはな――」
「ならせません。つい数か月前まではそうでしたが…でも、今は違う!! 可能性はそこまで高くありませんが…行きますよ! 付いてきてください!」
そう言って残った右腕をグイグイと引っ張る私に、困惑しつつも大人しく付いてくるヒソカから、至極真っ当な疑問が飛ぶ。
「君のことだから…何か当てがあるのかい? 確かに僕も君の草稿は読んだから、治癒に相当する魔法があるのは知ってるけど…♦ 腕を生やすなんてのは、最早そんな領域じゃあ…」
「少なくとも私の仲間のオーリスなら、十分な設備さえあれば一週間以内に治療できます! この世界のまだまだ新米の療術師で、どこまでやれるかは分かりませんが……私の世界と比較して若干進んでいるこの世界の医療技術と合わされば、不可能と断じるには早いです!」
裏で観戦していたゴン君とキルアにも連絡を取り、怪我人を彼等に預けて私は療術師を探す。
先程の試合を観ていた中にいたのだから…そう遠いところにはいないはずだが…?
「ああっいた!待って!ええと…ピオスさん!!
貴女の力が必要なんです!!」
――この時私が彼女の治癒魔法と大病院を繋げたことにより、発足した人体再生プロジェクト。
ハンター協会の後ろ盾と豊富な資金力を背景に急速に進んだそのプロジェクトは、僅か一か月の短期間で実を結ぶこととなる。
彼女の治癒魔法はまだまだ拙いものではあったが、既存の医療技術に足りていない分野を補う形でその力を存分に発揮、後世『療術の神ピオス』とまで讃えられることとなる彼女の伝説は、今ここで始まりを告げた。
そしてそのセンセーショナルな技術革新が、ハンター協会出版とはいえ、魔法の学術書という眉唾甚だしい書籍の信頼性と知名度を、世界レベルにまで高める大きな役割を果たしたのである。
▽ ▽ ▽
「思った通りになったのぉ…」
「これで200億程度の出費なんて、安いもんですよ本当に」
医療の目に見える進歩が人類に与える影響は大きいですし、未知の技術への心象もぐっと良くしてくれるんじゃないかな? とこんな感じに。
ある日突然、治癒魔法と現代医療が融合して欠損も完治!とか報道されたら注目度エグそう…