評価バーに色付くのはもうちょいかかりそう。
「こちらから要求しておいて悪いが私は降りる」
「え?」
リールベルトさんに勝利したその日、闘技場の自室にCALLが入ったと思ったら突然のギドさんのリタイア宣言に思わず素で聞き返してしまう。
「ど、どうしてですか? 確かに私は今日リールベルトさんに勝ちましたけど、だからと言ってギドさんに勝てるかどうか分かりませんよ。え……えと『
因みに嘘では無い。四方八方縦横無尽、不規則に襲い掛かる破壊力抜群の独楽の攻略法等、そう簡単に思い浮かぶものではないのだ。独楽を無視して本体を直接攻撃するにせよ、ギド自身が高速回転する『竜巻独楽』の上から潰せるかはやってみないと分からない博打の域を出ない。そう……
そんな私に溜息を一つ落とすギドさん。
「……君ね、リールベルト戦で闘技場の土台そのものを操作してたでしょ」
「は、はい」
「私は義足なんだよ。それも一本足だ」
「そ……そうですね」
ここまで言えば分かるだろ?
とも言いたげな声色に耐え切れず、私の方が根負けしてしまう。
「確かに私は闘場をぼっこぼこに動かすことも出来ますし、そうすればギドさんはまともに行動出来ないでしょうね……」
「まあそういうことだ。何も正面から私の技を撃ち破らずとも、君は楽に私に勝てる。負けると分かってる相手と戦う趣味は無いのだよ」
全部言われてしまった……一番綺麗でダメージが少ない勝ち方が出来たと思った矢先、まさかギドさんに飛び火するとは読めなかった!
「もし仮に君がその戦法を自分から封じてくれたとしよう。それでも正直気乗りがしなくてね」
「えーと……それは何故でしょうか?」
「君は今までその拳の破壊力で『破砕の魔王』とやらと称されていた訳だが、実際は別に拳で無くとも良いのだろう?」
そこで一拍置いて、続ける。
「例えば杖だ。君の能力を全て把握した等と自惚れるつもりはないが、途方も無い破壊力をその杖に
やはりギドさんの独楽への思い入れは、並々ならぬものがあるようだ。
「……はい、ご配慮痛み入ります」
──―翌日
お流れになってしまったギド戦であるが、まだサダソ戦が残っている。少なくともサダソさんからキャンセルの連絡は無いし、そこは心配せずとも良いだろう。モヤモヤして調べ物にも身が入らないと感じた私は、気分転換と少しの打算を胸に、果物と清潔なタオルを用意してリールベルトさんの療養室に向かうことにした。
▽ ▽ ▽
その日、リールベルトは失意に暮れていた。
余りにも重い手痛い一敗の後、念を覚えてからは新人狩りに精を出し、順調に勝ち星を重ねていった。彼としてはフロアマスター自体には余り興味が無く、現・元問わず、フロアマスターという名声を利用して、市井で勝ち組人生を謳歌することこそが最終目標である。
何処までも強くなりたいと願うような求道者精神はとっくに枯れ果てて久しい。それでも彼には才能があり、それに相応しいだけの努力もあった。200階の闘士というのは伊達では無い。
しかし……しかしだ。彼は負けた。新人狩りを狙っての返り討ち。穴があったら入りたい程の屈辱である。
身体の方は全身を強く打ち付けたため念のため安静としているが、特に問題は無いだろう。問題は足替わりの車椅子の方であり、己の能力に合わせた特注品であるため、再発注するにしても暫くは戦うことも出来ない。90日の期間を過ぎることは無いが、次の相手を探すための時間が確実に縮まってしまうのは頂けない。
「はぁ……」
油断は無かった。全貌が掴めない不思議な能力ではあったが、最初から最後までオーラを纏うことすらしない、少なくとも耐久面では一般人である筈の相手だった。その相手に、自分は傷一つ付けることなく完敗。今後の進退を考えるのはまだ先にしても、今回の負けは暫く引きずりそうだと、柄にもなく黄昏ていたその時だった。
「リールベルト様。お見舞いをしたいと仰る方がいらっしゃいますが、如何なさいますか?」
療養室に最低一人は配属されている看護師が声を掛けて来た。
(俺にお見舞い? ギドかサダソか?)
「ああ……そうだな。折角だし通してくれ」
「畏まりました。それでは連れてきますね」
さあどっちか……そう思って入ってきた相手の顔を見て固まった。
あまりの衝撃に、現実逃避からかつい全身を舐めるように観察してしまう。
光の角度によって水色にも銀色にも見える青色の髪。ゆるやかに外へ流れる毛先が、知的な印象に柔らかさを添える。前髪はやや厚めに下ろされ、紫がかった深青の瞳を際立たせている。肌は白く、光を柔らかく反射する透明感を持つ一方、胸は目を引くボリュームで、華奢すぎず、しなやかな均整の取れた体つきでありながら、無駄の無い筋肉のラインが実戦を想定した鍛え方を意識させる。
「あ……あの……突然すみません。これ、果物とタオルです」
ジロジロと見過ぎたからか、少し恥ずかしそうに答える女……つい昨日、俺に完勝してみせた女。一瞬見惚れてしまう程の美貌が今は少し腹立たしい。
「クーデリアか……何が目的だ?」
「はい! ちょっとお願いしたいことがあります!!」
普通そこはもっと段階踏まない?
▽ ▽ ▽
何か不貞腐れているようなリールベルトさんだったが、私は構わず語り出す。
勝者こそ私であるが、純粋に凄い武闘家として尊敬したこと。
だから仲良くなりたいとも本心から思ってるということ。
そしてそれ以上に勿体ないと思ったこと。
「勿体ない? どういうことだ?」
残念ながら私はまだ『オーラ』を纏えないので実証が出来ない。だからこそリールベルトさんに私の仮説を試してもらう必要がある。
「まず前提ですが、オーラを纏うことで身体は頑強になるんですよね? だから例えば……例えば何ですけど、リールベルトさんの鞭にも、オーラを纏わせることって出来ませんか?」
「……鞭にオーラを? 考えたことも無かったが、そんなことが可能なのか?」
質問に質問で返されたが、それを実証するために来たのだ。
「衣服は正確には身体の一部では無いですよね? ですがオーラで纏う範囲に入っているように思えます。とはいえイメージし辛いでしょうし……これを」
お見舞いセットから林檎を取り出してリールベルトに持たせ、私も彼の手をそのまま握る。
「おおおおおおいおいおいおいおい待て待てままま」
「落ち着いて下さい。私もオーラの感覚を掴みたいので協力して欲しいんです!」
なんとか彼を落ち着かせてから林檎を身体の一部だと見做してオーラを籠めるようにお願いする。最初こそ手間取っているように見えたが、落ち着きを取り戻してからは早かった。
「おお……確かに林檎も含めてオーラを纏った……! だが……そう長くは続かないな」
「……これが……オーラ! 直接触れたのは初めてだけど、蒸気のような……少し熱いお湯のような……不思議な感覚」
(やはり魔力とは完全に別物。身体の内側から噴き出している生命エネルギーのようなもの! 今のこの感覚を覚えろ私。集中しろ! 今、ここで、完全に記憶する!!)
継続すること数分。リールベルトが限界を迎え、林檎に纏われていたオーラが切れる。二人とも知らぬ話であるが、四大行の応用はオーラの消耗が激しい。『纏』の応用である『周』は身に着けた道具にもオーラを纏わせる技術である。時間にして半刻にも満たない短い時間。しかしこの日の体験によりリールベルトは『周』の概念と実践経験を。そしてクーデリアは纏われたオーラに直接触れるという経験を積んだ。
▽ ▽ ▽
──―30分後
「リールベルトさん! 本日はありがとう御座いました」
「いや、礼を言うならお見舞いされた俺の方だろう」
互いに何か手応えを掴み、その上でリールベルトは再三に渡りクーデリアから念能力者としても武闘家としても凄い凄いと持ち上げられ続けたため、すっかり機嫌が良くなっていた。人は褒められると嬉しいのだ。褒めて来る相手が少なからず好ましいと思える相手であれば猶更である。リールベルトが己の伸びしろを見出した以上、腐っている時間等は無いのだ。
「最後にこれ……連絡先です。今は話せませんが、私には『絶対に達成すべきこと』と『可能な限り達成したいこと』の二つがあるんです。その為には色んな人の協力が必要だと思っています。もしその時にリールベルトさんの都合がよろしければ、お力添えを頂きたいです。そちらの連絡先も頂けますか?」
「あ……ああ、構わないが……」
最後に連絡先を交換してから退室するクーデリア。
正直な話、リールベルトからすれば何のことやらであるが、それでも自分に勝った女が、自分の伸びしろを示して、そして自分を頼ろうとしてくれた。そこに何か特別な意味を見出すか否かは、リールベルト自身の意志である。
まさかのリールベルト強化パッチ。
実際彼は周を覚えればかなり化けると思います。
鞭で石板程度は砕けるでしょうし、あの時点のキルアでは周で強化された鞭を素手キャッチは流石に無理だと思うので、ゴンキルが相手でも普通に勝てるかもしれません。
…ゴンは兎も角、キルアはちょっと微妙かも。