リアルタイムでの情報伝達やネットワークでのノウハウ共有が異常に簡単になったことで、罠に引っ掛かる人が大幅に減った感じですね。それこそ応募者全員が287期のニコル並の知識をその場で得られる訳ですし…さもありなんというやつですね。
──第288期ハンター試験会場
集まった1600人を超える受験生を一気に300人未満に減らすため、他の受験生を六人倒してプレートを奪い、そのプレートを扉の向こうにいる己に渡すことを合格条件に設定した一次試験の試験官。
本試験会場まで集まったものの多くは腕に覚えがあるものばかりだが、ハンターたるもの、より腕っぷしが強いものこそが相応しいと考えているのが今回の試験官……そんな彼のスタンスが色濃く反映された野蛮な試験が、今まさに始まろうとしていた。
▽ ▽ ▽
(楽な試験で助かるな。殺せないのは面倒だけど、さっさと全滅させて終わらせるか)
純粋な生身の戦闘力でも、念の使い手としても世界有数の存在たるイルミと戦える非能力者等いる筈もなく、それこそ1秒2人以上のペースでバタバタと倒されていく有象無象の受験生たち。
中には
──試験開始から僅か10分足らず。
残りの受験生は、既に200人を切っていた。
「オレを魔法で倒したいなら、最低でもクーデリアくらいは連れてこいよな。ああでもアイツが頂点か。じゃあ全員無理だね。ご苦労さん」
そこから更に数分──残った受験生の中ではかなりの上澄みと思われる狩人風の男が放つ、痺れ薬が塗ってある矢を針で弾いてそのまま手元にお返しする頃には、目に見える範囲の受験生は全滅していた。
(プレート全部集めるのは面倒だな……一旦6枚だけ集めて、試験官にこの惨状を見せればいいか。適当に何人か操作して集めさせてもいいけど、それでも30分くらい掛かりそうだし馬鹿らしいよな)
そこで思考を打ち切り、近場の人間からプレートを外す作業に入るイルミだったが……そこで彼は
見覚えのある療術の光──
目の前の人間をただ救うことだけを考えているかのような、そんな愚直な
その眼を、イルミは知っていた。
「ピオス……? なんでお前がここに? まさかハンターになりたいのか?」
「……イルミ様ですね。お久しぶりです。そちらの左脚は御健在のようで……素晴らしい仕事ぶりに感服致します。ただ……貴方はこちらなど気にせず、そのまま合格すると良いでしょう。私が必要とされる場所は、今、ここなのです」
こちらの質問に答えず、ただ黙々と処置を続けるピオス。
そんな彼女にイルミは若干の苛立ちを感じ──
▽ ▽ ▽
「で、一緒に合格したってわけ」
「「いや端折るなよ!!」」
そのまま「意味分かんねーよ!?」と続けて叫ぶキルアだが……私だって叫びたい。でも電話口の外であんまり騒ぐのってマナー違反だからね……今はちょっと我慢中だ。
ただ先ほどの「端折るな」発言がピオスさんにも聞こえていたようで、彼女たっての要望ということもあり、イルミの携帯をピオスが、キルアの携帯を私が使うという状況で会話が始まった。彼女は会話の前には常々畏まった挨拶から始めるので、そこは適切に応対しつつもさっさと本題に入ってもらう。
「ピオスさんとイルミ以外の受験生が全滅して、ピオスさんが気絶したり動けなくなってる受験生の治療を優先したのは
「それはですね。私がイルミ様に認められたからですよ」
「???」
詳細は不明だが、それこそ小一時間にも及ぶ押し問答の末、ついに彼女はイルミを根負けさせたようだ。その過程で二度と試験が受けれないような身体にすると脅されたり、針を刺して一生飼い殺しにするとまで言われたようだが、その全てを撥ね退けたとのことで……それこそ圧倒的格上のハンゾー相手に、最後まで負けを認めずに勝ちを拾ったゴン君のような──理屈では無い強い想いが、イルミの鉄面皮のような心をも動かしたということだろうか?
ピオスさんとしてはこれで一通りの説明が出来たそうなので、携帯はそれぞれの持ち主に返却された。
「キルとの"取引"が無かったら、多分途中で殺してたよ。可愛い弟に感謝だね」
「お……おう。兄貴もその……良かったな。その調子で今後も続けたらどうだ?」
「んー。どうだろね。ゼノ爺さんは家業以外で人殺したことないみたいだし、別にそれでも困らないんだろうけど、やっぱ選択肢としては持っておきたいかなー。キルはどう? やっぱり窮屈じゃない? 殺しを忘れて友達なんて作っちゃってさ」
「そっちもヒソカとかと友達だろ!?」
「いやあれはビジネスパートナーだから別枠」
会話内容は少々物騒であるが、こうしてギャイギャイと悪態をつきながら会話する様は……まるで普通の兄弟みたいだ。キルアはまだまだ苦手意識があるようだが、イルミがキルアに対して向けている感情からは多少の屈折はあれども確かな愛を感じる。
しかしその愛の源泉は、キルアという個人というより彼の一族全体……家にあるということが、言葉の端々から薄っすらと伝わる。
それが確信に近づいたのはやはり──
「『勝ち目のない敵とは戦うな』……これさえ徹底するなら、好きに生きればいいさ。
イルミが電話口でキルアに残したこの言葉。
この言葉を最後に通話が終了しようとしたその時、今度は思い出したように私と会話したいと言い出した。
「危ない危ない。忘れてたよ。実はヒソカから依頼されててさー、これからそっちに向かうんだけど、一回ゲームに入って9日くらいにまた出て来てくれない? さっさとピオスに『練』を覚えさせること考えたら、そっちのが都合良いんだよね」
「えと……ごめんなさい。どういうことですか? 何故ここでヒソカ?」
「え~聞いて無いの? これからレイザーとかいうのと戦うんでしょ? 助っ人として呼ばれたんだよね。オレ。勧誘自体はハンター試験前だったけど」
「いやこっちが「え──!!」ですよ!? 何なんですかあの謎行動ピエロ!?」
「え……? マジで兄貴こっち来んの? しかも女連れで? 一緒にドッジボールすんの?
……そういうギャグだよな?」
「ピオスも話を聞かせたらオレに弟子入りしてでも付いてくとか言い出してさ。随分愛されてるね君。いや……今この状況だと『紫華の付与師』が適切かな?」
「療術師の一番星たるピオスさんが、伝説の殺し屋一族の長男の弟子!? 駄目ですよそんなの!? 考え直して! 師匠はもっとまともな人にしないと!!」
「いやヒソカを師匠にしてるクー子にだけは言われたくないと思う。」
後ろから刺された!!
でも悔しい……否定できない!!
▽ ▽ ▽
指輪のデータが消えるまであと12時間ということで、そろそろ大事を取ってゲームに戻ろうとした矢先、なんとヒソカがカストロさんを連れて帰って来た! 二人とも欠損こそないもののボロボロなようで…随分と激しくやり合ったのが見て取れる。
「久しいな…クーデリア嬢…。完膚なきまでに叩きのめす必要がある強敵に挑むと聞いた。私も微力ながら力になろう」
「微力なんて言っちゃ駄目だよ♥ 君も
(本当はイルミのことを問い質したかったけど…もういいや。ヒソカはヒソカで、頑張って人材集めに協力してくれたってことは分かるからね)
カストロさんとの挨拶もそこそこに、今度こそグリードアイランドに戻る私たち。
積もる話はゲーム内での人材確保に動いているゴン君やビスケさんと合流してからでも良いだろう。
――1月8日
この日にはなんとツェズゲラさんの方から接触があった。どうやら外に出てバッテラ氏に実質的なリタイア報告をしたところ、その時点で契約の解除が告げられたようだ。それ自体には何も不思議なことは無いのであるが、ツェズゲラさんが自分を打ち破った相手として私の名前を挙げたところ、目の色を変えてクリアを手伝ってあげなさいと改めて依頼したとのこと。依頼料はクリア報酬500億と同額。4人で分けても125億の十分な大金である。「私が本当に欲しいものはもう手に入った」と、そう告げるバッテラ氏の顔は……どこか憑物が落ちたかのように穏やかなものだったようだ。
「我々はクリアに失敗したにも関わらず、クリアと同額の報酬を既に依頼料として受け取ってしまった。故に!我々としては君に、全面的に協力をする義務がある!」
(……やっぱり昏睡患者はバッテラ氏の大切な人だったのかな? 私が魔法をこの世界に伝えて、それで沢山の療術師が生まれて、それで誰かの大切な人が救われた……。うん。いいね……やっぱり世界は、こうして優しさで満ちている)
「ありがとうございます。ツェズゲラさん。泣いても笑っても、No.002『一坪の海岸線』がクリアまでの最後のピースです。100枚目のカードについては未知数ですが……まずは一発やってやりましょう! ランクSSカードを巡る大捕り物です!!」
ツェズゲラさん達には現状で分かっている敵の情報、把握できている勝負内容を伝えつつ、別途対策を練ってもらう。ただ勝負に勝つだけなら8人制のドッジボールで勝てばいいが、こちらは「完膚なきまでに叩きのめす」と言ったのだ。その他の競技でも可能な限り勝ち星は重ねたい。……目標は勿論全勝であるが、個人的には12勝以上稼げればそれで満足である。
(肝心要はレイザーが出張るドッジボール。そこで確実に勝つために、ピオスさんを含めて試合外のサポート要員の確保も視野にいれたい!)
――1月9日~10日
イルミの要求通りに天空闘技場で待機していたところ、本当にイルミとピオスさんが二人揃って現れた。
ピオスさんはどうやら仕事中に無意識にオーラを纏う天然の能力者でもあったようで、イルミから見てもかなり念への素養が高いとのこと。これならば私の『念』の付与があれば、『纏』の安定から『練』までは三日もあればきっと十分だろうと見込んだところ…なんと一日で『練』まで覚えた。私の付与による下駄は確かに大きいが、それを加味しても早過ぎである。この世界で生まれ育った人間であり、元々無意識で念を使っていたあたり、念の才能についてはほぼ確実に私より上だと思われる。
(当然療術師としての才能も世界有数レベルであるんだよね……これはきっと大成するぞ?)
せめて20秒は維持出来るようにと、イルミと一緒に追加の指導中。今度はついに大案件を終わらせたメンチさんが合流。事情を説明しつつも今度は三人がかりで指導している内に、ピオスさんの『練』の維持時間は1分を超えた。念を覚えて一日半でこれなのだから末恐ろしいものである。イルミもなんか途中からちょっと楽しんでたしね…。
(人に教えるのは初めてかな? 殺し屋なんて辞めて、イルミも講師にならないか?)
――1月11日
ゴン君とビスケが厳選なる審査の元、ついに探り当てた人材をお披露目とのことで紹介されたのは、プロハンターのゴレイヌさん。彼もまたバッテラ氏が集めたプレイヤーの一人のようなのだが、私とツェズゲラ組の攻防を観測していた彼は最早自力でのクリアは不可能と見切りをつけ、新たに私に自分を雇わないかと売り込んできたようだ。
こちらとしては元からそのつもりだったので、まずは彼の要求額を聞いたところ20億という額を提示された。彼の実力はある程度把握出来ているので、少なくとも下っ端海賊相手に負けることはないだろうということでまずは雇うことを確定させ、その後に彼の『発』を聞き出した。
(う~ん…成程、かなり面白いし、有用な能力だと思う。ゴリラ二体の具現化と操作、そしてそれぞれのゴリラが位置の入れ替え能力まで持っているのは非常に優秀な『発』だと評する他ない。ただ……)
私は懐かしの岩石地帯に場所を変えさせて貰って、そこで最終選考を実施する。
「すみません。ちょっとこれから強めに攻撃するので、ゴリラ一体に受けさせてくれますか? この杖で殴るので、可能な限り全力でガードするようにお願いします。耐久力的には、ゴレイヌさん本体とそこまで変わらないんですよね?」
「ああ…そうだが、それで何が判るんだ?」
「覚悟。ですかね?」
――杖に『壊』を付与、最大出力。そして更に『硬』を重ねる。
身体への『念』の付与は無し……その上での、私の全力。
「おっ『硬』か、それなら俺も出来るぜ? 流石に念獣には使えないからやられちまうかもしれないが…」
「いえ『硬』+『壊』です。そして私はこれ以上の攻撃をレイザーに叩きこむつもりでいます。その上で、ドッジボールに参加するつもりかを決めてください。それだけ8枠の争いは熾烈なんです。」
そう言ってから振り下ろした私の杖は、白ゴリラの両腕のガードを貫通し、胴体を粉々に破壊しながら真っ二つに引き裂き、地面に衝突。かつてのゼビル島のような局地的な地震を彷彿とさせる衝撃を伴い……近くの岩山が崩落してそのまま収まってしまう程の巨大なクレーターを生成した。
(威力としては、リディアの最大火力魔法にも引けを取らないね。私もついにここまで来たか…)
「ゴレイヌさんの能力は非常に強力です。しかし…このレベルの攻撃が飛び交う可能性がある場所で、貴方はいつも通りに戦えますか? それだけの覚悟がありますか?」
――1月12日
正直、自分でもなんで昨日あんな事をしたのかがよく分からない。
レイザーは確かに強そうだ。ヒソカや本気のビスケさんと同等…いや…正直少し上回っているようにも感じる。……でも、そこまでだ。私が付与をしたヒソカと比較すれば、明確に一段は劣る程度でしかない。
なのに――
何故か分からないけど『油断するな』『全力でも尚足りない』と、そう脳が警鐘を鳴らす。それこそ探索者としての本能が訴えかけてくるように……少しの準備不足が、心得足らずが命取りになるような、そんな不吉な感覚が、どうしても拭えない。
気付けば、全身に冷や汗をかいていた。どうにも、気持ち悪い感覚がある。まるで開けてはならない、恐ろしい悪魔が封じられた箱を開けてしまったような……そんな感覚。
「……勝負は七日後。メンバーは揃ったから、後は全力でやるだけだね。」
プロハンター13人にフロアマスターが3人……まるで大魔王を倒しに向かう勇者パーティのような布陣。
いや、相手は14人の悪魔を率いてる訳だから、大悪魔という方が適切か。
(これが終わったら…私は……)
――終焉は近い
(こいつ何しても折れないな…なら合格させて恩売る方が合理的か)
という目論見がイルミにはあったりなかったり。
VSレイザー フルメンバー15人
クー子、ヒソカ、ゴン、キルア、ビスケ、リールベルト、カストロ、ピオス、イルミ、メンチ、ツェズゲラ、バリー、ロドリオット、ケスー、ゴレイヌ