――1月19日
決戦当日である。
既に競技が割れているものが来ることを願うが、少なくとも未知の競技が来てもこのメンバーであれば大方対応可能ではあろう。
ピオスさんだけはリフティング以外絶望的だが……逆にリフティングであればほぼ確実に勝てる所までは仕上がった。なのでこれ以上に時間を掛ける必要はない。もし駄目そうなら競技には参加しない16人目を検討していた訳だが……どうやらその必要もなさそうだ。
ドッジボール参加の八名については、厳選と協議を重ねた結果、私、ヒソカ、イルミ、キルア、ゴン、リールベルト、カストロ、ツェズゲラが選ばれた。その他の競技はボクシングはバリー、リフティングがピオス、フリースローがケスー、ボウリングがロドリオット、レスリングがゴレイヌ、相撲がビスケ、卓球がメンチという布陣だ。
特にドッジボールの八枠争いはそれはもう熾烈であり、ビスケさんが大人数の前での真の姿の解放を嫌がらなければ、ゴン君かリールベルトさんかカストロさんかイルミが選外となり、大揉めになる可能性があった程である。キルアについては
メンチさんの能力『
他の皆も限界以上のパフォーマンスを発揮出来るとあってか、少々浮き足立っているほどなのだから、その効能は凄まじいものがある。
(食材もゲーム産の希少なバフ食材を集めたからね……相乗効果で普段の1.6倍くらいにはなってるかも?)
これでやり残すことはないとばかりに、ついにレイザーとの再戦である。メンバー集めと準備に少々時間が掛かってしまったが…約三週間ぶりのご対面だ。
▽ ▽ ▽
「ほう……きちんと揃えて来たようだな。見たところ14人か?」
「いえ、15人ですよ? スポーツは戦闘力だけで測るものではないでしょう…。私は全勝を狙えるメンバーを揃えて来たつもりです。」
ではとばかりに下っ端海賊をぶつけてくるレイザーだが、競技さえ前情報通りであれば少なくとも負けはない。ボクシング、ボウリング、フリースローと、ツェズゲラ組の三人が着実に勝利を重ねてこれで3勝。そして次に選ばれた競技はリフティング…ここでピオスさんの出番である。
「私にこのような才能もあったとは驚きです…。オーリスという方は存じませんが、その方に感謝ですね。」
彼女は学生時代サッカーに打ち込んで来たということで、リフティングも20回程度であれば安定して行えるようだが、勿論その程度で勝てるような相手ではない。なので当然、ズルをさせてもらう。
ピオスさんが蹴り上げたボールは寸分違わずに――
私にとって療術師といえばオーリスのこと。そしてオーリスは、療術のみならず結界術と瘴気緩和のスペシャリストでもある。ピオスさんは治癒魔法の適性が強かったから、最初はそちらを勧めたけど、試してみたら結界術にも多少の適性があることが判明した。ならば話は早いと修練を積ませ、ボールが落ちない程度の強度の結界を維持するくらいなら、一週間でなんとか形にしてくれたという顛末である。
平常時ですら形になったのだ。更に加えてメンチさんの料理バフで、コンディションも限界を超えた最高潮ともなれば、失敗確率が殆ど0になるのも当然という話である。
「これで4勝! このままドッジボールまでの残り3戦、全部勝ちますよ!」
次のレスリングはゴレイヌさんがゴリラすら使わずに完勝、卓球はメンチさんがその華麗な包丁捌きならぬラケット捌きで見事に勝利を飾っていた。そして……最後の相撲で事件が起こる。
「はあああ!? 俺の相手が小僧じゃなくて小娘だと!? 最後まで待ってやったのに、いい加減にしやがれ!! トンガリ頭の小僧はさっさと表に出な! 血祭りにあげてやるぜ!!」
「おい待てボポボ。そいつは契約違反だな。またムショに逆戻りだぜ?」
「知ったことかよ! こんなクソゲームに付き合うのはもうやめだ! 誰か俺に乗る奴はいねーか!? 全員でかかればあんな野郎一捻りだぜ! あとは船でもなんでも使って――」
レイザーの静止も聞かず、あろうことか反乱の扇動まで始めたボポボは、バレーのスパイクで弾かれた念弾に頭を砕かれ、脳髄を飛び散らせて絶命した。
何もそこまでしなくても……と咎めるゴン君であったが、そこでツェズゲラさんからの補足が入る。どうにもボポボを含む下っ端海賊は、その大半が島の外では重犯罪者のようで、こうして仕事に従事することを前提に恩赦を得ていること、そしてそれを率いる立場であるレイザーはゲームマスターの一人である筈だということを、分かりやすくゴン君に説明してくれた。
ここで改めてレイザーがゲームマスターであることを認識したゴン君は、ならば同じくゲームマスターである筈のジンのことを知っているかと質問するが、ここでゴンがジンの息子であることを知ったレイザーが、今度は急に破顔した。
「そうかお前がゴンか…まさかお前までいたとはな。」
そう言ったレイザーのオーラが、私を認識した時と同等の規模で大きく膨れ上がる。
「お前が来たら手加減するな…と言われているぜ、お前の親父にな。
今回に限っては元から本気で行くつもりだったが…これで益々力を制限する必要が無くなった。
ああ、相手がいない相撲の勝負は勿論君達の勝ちだ…。つまり7勝…今のところこちらの全敗だな。まさか直接勝敗に帰結しない前座にすら手を抜かないとは思わなかったぜ?」
「言ったでしょう。完膚なきまでに叩きのめすと! それは前座ですらも対象です。そして、互いにこれからが本番! あとはお前を倒して終わりだレイザー!」
「そうだな…確かにここからが本番だ。
おいっ!オレのあの本を持ってこい!」
私の啖呵を肯定しつつも、急に部下に指示を出したレイザー。あの本とは…? と思っていると、ボポボが殺された動揺が未だ冷めやらぬ海賊が、震えた手で差し出すのは私著の『紫華の魔法理論』ともう一冊。
……どうやら随分と読み込んでいるのか、その表紙は色褪せ、全体的に酷くくたびれている。
「
そう言って投げ渡されたのは、『紫華の魔法理論』よりも更にボロボロになるまで劣化した『付与理論大全』。それもただの劣化ではない、これは…何度も何度も繰り返し読み返した本特有の劣化の仕方だ。
「まさかこの俺が、師に己の成長を見せる弟子の立場になるとはな……さあ存分に味わってくれ。
『レイザーと14人の悪魔』
レイザーがそう宣言すると同時に、
出現した念獣達も…数値が低い者達はともかく、13以上ともなると単純な膂力では
(えっ…つまり、
「待ってください!念獣の数が多いですよ!今回のドッジボールは8人制ですよね?」
「ああ分かってるさ、だからこうする」
レイザーがそう言うと、念獣達は突如
レイザーから受け取ったボロボロの『付与理論大全』を、私がギャラリーのピオスさんに預けたのを見届けた後、レイザーは続けてドッジボールの詳細なルール説明を開始した。
・試合は内野7人、外野1人からスタート
・内野が0人になったチームの負け
・スタート時に外野にいた選手を含め、たった1人、「バック」を宣言することで一度だけ内野に戻ることができる
・顔面も当たり判定あり
・武器や道具を所持する場合、それらも身体の一部として扱う
・当たり判定のルールとしては「クッション制」を採用
①敵のAとBに当たった後に地面に落ちるとAB両方アウト
②Aに当たった後、地面に落ちる前にBがキャッチするとAもセーフ
③敵のAに当たった後、仲間のCに当たって落ちた場合はCのみアウト
④ただしCが球をキャッチ出来ればAがアウト
「仮に残り一人の人間がアウトになった直後に「バック」を宣言することは有りですか?」
「無しです。その瞬間に内野が0となりますから、その時点で負けです」
私の質問には、レイザーに代わって0番の念獣が回答してくれた。どうやら彼が審判役としてこの試合を仕切ってくれるようだ。質問は終わったので、次は内野と外野の人員を割り振りすることとなる。
■レイザー陣営
【内野】レイザー 13 14 15 17 18 19
【外野】9
■クーデリア陣営
【内野】クーデリア ヒソカ カストロ ツェズゲラ ゴン キルア イルミ
【外野】リールベルト
(やっばいねこれ……やっぱりあの警鐘は本物だった! レイザー本体が凄まじいのは当然として、周りの念獣も全員がかなりの強者! それこそ正面戦闘では、そのまますり潰されてもおかしくないだけの圧を感じる!)
レイザーの『念』の付与はどうやら己だけが対象のようだが…その精度は私の付与にすら匹敵する。魔法を覚えて一年にも満たない若輩の筈であるが、ここまでの精度を引き出せるのはやはり、念への理解の深さが外様の私とは大きく違うからだろう。
しかしこちらも先達として…そして付与の第一人者を自称するものとして、引くつもりは一切ない。
「ふふふ!認知する気はないですが、弟子にしてはやるじゃあないですか! だったらこっちも見せてやります! 付与師も極まると、こんな事も出来るんですよ? 内野全員に『念』を付与!!」
今の内野の人数は7人。ボールへの付与や突発的な新たな付与を考えるとこれが限界数だ。
勿論状況に応じて付与の対象は切り替えていくが…今はこれで良い。少なくともこれで全員、レイザー本体ですらない、念獣が投げるボールでやられてしまうようなことはない筈だ。
私は最後にピオスさんに預けたボロボロの『付与理論大全』に一瞥をくれた後に、改めてレイザーに向き直る。
(ただの力押しで勝てると思うなよレイザー!
……ここまでしっかり読み込んでくれて、実は滅茶苦茶嬉しいとか別に思ってないからね!)
0~14だと15人の悪魔じゃねーか!てツッコミは禁止。
審判の0は悪魔に含みません。
あと感想欄で一名が正解してましたが、レイザーは付与師です。
ある意味この世界で一番恵まれた適性ですね。
(他の魔法の情報量が5だとしたら、付与魔法だけ100とかなので学びやすい)
おまけ・幕間会話
「あのリングの上にある文字って何でしょうか? どこかで見た気がするんですけど…」
「あれは神字だ。うんぬん」
「へぇ!流石はツェズゲラさん、博識です! 確かにこの指輪の内側にもありますね。念を予めプログラム化するようなものでしょうか? 凄い技術…というよりこれこそ学問的な体系ですね。覚えておいた方が良さそうです」
「ヒソカに師事してもう一年以上経つはずだわさ。クー子は今まで知らなかったの?」
「教えてもらってませんし……結構便利そうなのに、師匠はどうして使わないんですか?」
「……いや、ボクも初めて知ったから♣」
「…………そうですか」
「まあ念覚えて1年程度じゃ、普通はこんなもんだわさ。ただヒソカは駄目。やはり私の方が優れた師匠わさ!」
「いや…オレたちも特にビスケからは教わってねーけど…」