とある付与師の帰還録   作:さくさくの森

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59.グリードアイランド編⑰

 

 『神速(カンムル)』を発動したキルアがボールを持ち、ゴン君がそのボールの前で構える。

 使うは当然必殺技だ。

 

『最初はグー…ジャンッケンッ!』

『グー!!』

 

 インパクトの瞬間を狙ってキルアは手を離す。本来であれば『流』が間に合わず、衝撃による大ダメージを負っていた筈の両手も、十分な距離を離せたことが功を奏し、完全に無事だ。『突』を付与され、ついでに電気まで纏ったボールは19番に向かって真っすぐと飛び、捕球体勢に入ったその身体を――そのまま貫通した!

 

「ボ、ボールがレイザーの念獣を貫きやがった!?」

「大砲みたいな威力に加えて…貫通するのはえげつねえな。これも付与の力って訳だな」

「あれは『突』で間違いありません。キルア様のオーラ…電気も纏っているため、触れる際には一瞬身体が硬直する筈……これを捕球するのは非常に困難でしょう」

 

 念獣を貫通したボールはそのまま体育館の壁にぶち当たり、その壁すらも貫通してどこかに行ってしまう。ここは要塞の中なので、流石に外にまでは飛び出してはいないと思うが……最早とんだ兵器である。

 

 しかもボールは私達の外野側で消失したため、ボールの所有権は当然こちら側。連続攻撃権を入手である。

 

「よし!これであとは念獣一体とレイザーだけだぜ! レイザーにバックを使わせなければあとはもう…」

 

 キルアの科白の途中であったが、ここでレイザー側に動きがあった。なんと外野の念獣達のオーラがレイザーに吸収され…それを内野に残る一体に再分配をしだしたのだ。外野には1番だけを残しつつ、内野の念獣は104番へと急速に進化したのだから恐ろしい。

 

(それにしてもデカいよ…13番の時点で2m以上あったのに、4mは軽く超えてるし…腕の太さとかもう私の上半身くらいあるんじゃないの?)

 

 殴られれば一流の念能力者でもミンチになるのでは? と思えるほどの圧倒的な暴力性とオーラを感じるが…それでもコイツを超えなければ、レイザー本体を破るなど夢のまた夢だろう。

 

「あれを超えるには…もっとオーラがいる!」

 

 そう言って気合いを入れ直して発動したゴン君の『練』は、私を含めてギャラリーが戦慄するほどの圧倒的なオーラ量を誇った。およそ少年の肉体には似つかわしくないその莫大なオーラが、『発』により更に倍増する。

 

「キルア!本気で行くよ!」

「たりめーだ。手加減なんてしたらぶっ飛ばすぞ! 今のオレならいくらでも平気だから、レイザーに見せつけてやれよ!」

 

 放たれたるは先程を明らかに超える超威力のボール。ボールは104番に真っすぐと飛び、またも貫通――はせず、その身体にめり込んで停止する。

 

(『突』付与のボールでも貫けないとかどんな身体してんの!?)

 

 と言いたくもなるが、止まってしまったのは事実である。今の威力なら厚さ200cmの鉄とかでも貫通すると思うのだが…しかし今重要なのはそんな話では無い。

「審判!今のはセーフですかアウトですか!?」

「当たった後にボールが地面に付いていないため、捕球と見做してセーフです!」

 まさか今の攻撃でも駄目だとは…付与する属性の選択をミスったか? 丸いボールと『突』では流石に相性も悪い……いやそれでもそれを止める念獣側の身体の頑丈さのほうが異常ではあるのだが…。しかし反省はしていられない。これでまたボールはレイザー側に戻ってしまったのだから、取り返せなければ勝機は無い。

 

「いい攻撃だった…ならば次はオレが見せてやろう。受けられるか? ゴン?」

「来い! レイザー!」

 

 滑らかな美しさすら感じる『堅』により備えるゴン君に向けて、殺人的な威力のボールが迫る。彼は着弾箇所に咄嗟に『硬』を発動することでなんとか防ぐが、足の踏ん張りが効かずに大きく後方に吹き飛び、壁に激突。

 ボールを受けた両手を痛めて頭からも流血するが…どうやらまだまだ元気なようだ。

 

 ピオスさんに治療をお願いしたので、数分もあれば復帰は可能な筈…複数骨折しているツェズゲラさんはまだ時間が掛かりそうだが…外野で魔法を使うくらいの回復であればもう直だろう。療術師ピオス様々である。

 ただ…今回はボールが弾かれた方向が悪く、ボールはまたもレイザー側。こちらの窮地は未だ脱していない。

 

「レイザー! 次のボールはこの私が受けよう! 私は虎咬拳のカストロ! 天空闘技場のフロアマスターが一人である!!」

 

 カストロさんが名乗り上げつつ、私とヒソカにこっそりと合図を送る。……成程、確かにそれならばレイザーの球をなんとか受けられるかもしれない。

 

「いいだろう。確か猿山の塔の天辺の称号だったか? ボス猿…いやお前は虎だな。ボス虎の強さを見せてもらおう!」

 

 レイザーがボールを投げる直前、私は持ち込んだ杖で地面を叩いて『土』を付与。相当頑丈に作られている床をせり上げ、即席の岩盤としてカストロを支える。

 

 迫りくるボールに対し、カストロはまず分身の腕を前面に出して『硬』でガード。そして本体は捕球と背中側の衝撃に備えて『堅』とすることで、捕球役と緩衝役を一人二役でこなす。更にそこにヒソカがバンジーガムをカストロの腕に纏わりつかせ、ガムの粘着力で保持力を補強することで取り零しを防ぐ!

 

 そんな三位一体の即席の連携が、レイザーの投球を受け切った!!

 

「やはり君を誘って良かった♠ 君が強化系じゃないなら間違いなく今のでリタイア♥ これでもう、『分身(ダブル)』がメモリの無駄遣いだなんて言わせないね?」

「……なんの話だ?」

 

 カストロさんは少々臓腑に損傷を受けたのか口元からは血が流れているが、それでもまだ余力はありそうだ。流石はヒソカと死闘を繰り広げた現役フロアマスターである。大きな外傷もなく、あのレイザーからボールを奪取してみせた。

 

「素晴らしい捕球でしたよカストロさん! 名乗り上げからの有言実行!痺れました!」

 

「礼を言うのはこちらの方だ。異世界から貴女がこの世界に来ていなければ、きっと私は思い上がったままにヒソカに挑み、それこそ道化のように踊り狂って死んでいただろう……これはほんの恩返しだ」

 

「それ、ボクが君を誘った時の殺し文句だったんだけどネ♥ 嫌だなあ…口説いた相手の前でそれを流用するなんて、とっても失礼じゃあないか♥ 嫉妬しちゃうよ♥」

 

『なあ兄貴…もしかしてヒソカって……両刀?』

『ノーコメント』

 

▽ ▽ ▽

 

 人数差的にはまだこちらが有利であるが、まずはあちらの104番を倒さねば勝機は無い。しかも一回では駄目で二回だ。レイザーを最後に倒すにしても、バックの権利を消費させる必要があるため、レイザー側としては104番にバックを使わせてくるだろう。

 

「ゴン君は恐らくあと一発が限度です。なのでここは私がきっちり104番を仕留めます。

ご安心を、ちゃんと勝算はありますから!」

 

 今度は私がボールを打ち込む番…一旦私とキルアを除く全員の『念』の付与を解除して、必要なものへの付与だけに集中する。

 

 ボールに『雷』、キルアに『雷』、私に『念』、そして私の杖に『雷』だ。雷の三重奏で念獣の機能を停止させる…先程のゴン君の一撃で感電がある程度効いていたのは確認済み。あれは『突』で半端に身体に突き刺さってしまったことによる、不幸な事故のようなものだ。

 

 私の目論見はどうやら外れてはいなかったようで、猛スピードで弾かれた()()()()()()に触れた瞬間、104番の身体は硬直し、捕球もままならずに取り零してしまう。

 

 それこそ《雷電天穿(あまついかづち)》を凌駕するほどのエネルギーだ。ブスブスという音と、焦げ臭い匂いがここまで届くほどには、色濃いダメージを念獣に与えていた。

 

「バック!」

 

 ここで104番がバック宣言。

 これでレイザー側のバックは消費させた。

 

(念獣てバックの発声出来たんだ…まあさっきから「ギシェ」とか「ギッ」とかは言ってたし、審判のNo.0は流暢に喋ってるから、特定ワードを喋らせるくらいのことは出来るか…)

 

 しかしまずはレイザー側に戻ったボールをまた取り戻す必要がある。先程と同じ戦法をとっても良いが、あれはあくまでこちらの名乗り上げにレイザーが応じてくれたからこそのもの。カストロさんも万全とは言い難いのであまり適切とは言えない。

 

 そんな風に考えていると、なんと外野の1番が103番に、内野の104番が2番に変化する。

 流石にそれは駄目だろ!と審判に抗議するが、内野と外野の人数は変わっておらず、それぞれの番号も異なるので単純な交換とも言えないのでセーフとのこと。

 正直屁理屈極まりなく、一切の納得が出来ないが……試合中の審判の言うことは絶対であるため抗議は取り下げる。

 

(卑怯だぞレイザー! まあこっちの攻撃は意地でも避けないみたいだし、その分でイーブンとして許すけどさ!)

 

 不平不満を言っても始まらないので、レイザーの投球に備えて全員が『堅』で構える私達であるが…ついにレイザーから渾身の一投が放たれた!

 狙いは…またしてもキルア。今度は恐らくブラフではなく、発射台の役割を持つ要のキルアを的確に潰しに来たようだ。

 

 とはいえキルアは今『神速(カンムル)』中。はっきり言ってこの程度のボールを避けることは容易い。キルアは楽々と避け、そのボールが外野の103番を経由したことまでも完璧に知覚していた。

 

(『凝』でイケるか!? 受けた手は砕けそうだけど、今はそれがベスト! これ以上の減衰が見込めないなら、肉を切らせてでも捕球が最適解!)

 

 そう結論付けたキルアが咄嗟に構えた両手がボールに触れるまでのその刹那。長時間念を込め、異常なまでに強化した針がボールを差し貫く――その下手人は勿論、キルアの実兄、イルミであった。

 

「なっ!兄貴!? 余計だ!今のボールくらい止められた!」

「頭を冷やせよキルア。お前は発射台としての役割があるんだろ? 今ここでその手を壊していい筈が無いだろう。殺しに限らずプロを名乗るなら、その程度は徹底しろ」

 

(…イルミの言う通りだね。針が貫通する過程で多少威力が減衰したボールですら、針を押し込んで当たったイルミの右手首を砕いている…もし仮にキルアがそのまま受けていれば、手か指の骨が砕けて仕事に支障が出た可能性は高い)

 

 これでイルミはアウトとなったが、キルアは無事で相手はバックも消費した残り二人…しかも内野の104番(外野の103番はまた1番に戻った)も既に攻略法を確立した相手となると、残る敵は実質レイザーただ一人だろう。

 

 ヒソカの『伸縮自在の愛(バンジーガム)』があるとどうしても勢いや雷を阻害してしまうため、ボールの回収は出来ないが…あと一回。あと一回ボールを受け止めることが出来れば、こちらの勝利が見えてくる。

 

 そんな私達の願いを載せた二回目の雷の三重奏は、見事バックで戻った104番を再度打ち倒し…これで内野に残るは――レイザーただ一人。

 

「ここまで追い詰められるとはな……どうやら念獣では勝負にならんらしい」

 

 自陣に落ちたボールを持ったレイザーは、なんと全ての念獣をオーラに変換して吸収。唯でさえ馬鹿げた量のオーラが、更に倍近くに膨れ上がった。

 

 そのオーラの規模はコートの半分を覆うほどであり、当然『円』のように薄めてもいない濃密なオーラである。一人の人間が抱えられるオーラ量とはとても思えない……魔法と念と、ゲーム的な補正*1の融合の奇跡がそこにあった。

 

「そちらの転移魔法の使い手も、今さっき外野に復帰した。もしかするとこれが俺の最後の手番かもしれないな…。

だからこその提案をさせてもらおう。俺の全力を、正面から受けて欲しい。」

 

「それは『避けるな』ということでしょうか? 外野が空な時点で、避けたらそのままこちらボールになりますしね。……まあ、『完膚無きまでに叩きのめす』と啖呵を切った手前、一度くらいはそうすべきかと思いますが……それ以外に何か要求はありますか?」

 

「なに、俺の本気にはバレーのスパイクが必要でな。お前ならきっと、ボールを上に投げた途端に風で流すなりなんなりでボールを回収するだろう? それを止めて欲しいかな。あまりにも間抜けで悲しくなる。」

 

 随分と脱力してしまうようなお願いであったが、やるかやらないかで言えば()()()()()()()

 向こうが外野を空にしてでもこうして提案をして来たのだ。乗らない方が失礼というものだろう。

 

「いいですよ! でも投げるなら私に向けて投げてくださいね!

カストロさんと同じく、名乗り上げって奴です!」

 

 レイザーの攻撃を全力で受けて、今度はこっちの全力を受けてもらう。

 内野は残り4人…私、ヒソカ、キルア、カストロ。

 

 ゴン君が「バック」で戻るのはこちらの手番と言い含めているので、この4人でなんとかあちらの渾身の一撃を凌ぐ必要がある訳だ。

 

 …ここで一番頑張らないといけないのは、多分師匠(ヒソカ)になるだろね。

 

*1
念獣の具現化はドッジボールの試合限定の能力と推測




原作ではパス回ししてゴン回復のための時間稼ぎをしてましたが、それでは「完膚なきまで~」判定的にNGなので時間稼ぎは縛っています(今作だとツェズゲラ回復まで時間を稼げば楽に勝てる)。

まあそもそもクー子とゴン抜きでやればレイザーは超弱体化してくれるので、ゲームクリアだけならもう確定してます。

今やってるのはウルトラハードモードですね。
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