とある付与師の帰還録   作:さくさくの森

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60.グリードアイランド編⑱

 

 あちらの提案を受けたお返しに、少しだけ時間を貰って作戦共有タイムだ。

 ……正直この作戦が成功するかどうかは、半分以上ヒソカの頑張りに懸かっている。

 

「という作戦なんですけど…どうですかね? いけそうですか?」

「うーん……あのオーラのレイザーの球をまともに受けるのってぶっちゃけ不可能だし、方向性は良いと思うけど……結構博打じゃね? 下手したら何人か死ぬぜ?」

「…たしかにこれはヒソカの能力次第だな」

「ボクはそれで良いよ♦ 万が一があっても、『大天使の息吹』があるから多分死なない♥」

 

 そこでピオスさんの名前でなく『大天使の息吹』を挙げるあたり、ヒソカも相当な大怪我をするだけの覚悟があるようだ。……因みにこの作戦で最も外野行きになる可能性が高いのはキルアである。キルアが外野に行くとその後の攻撃の前提が崩れてしまうが、その場合は私が自分から外野に行ければ支障は出ない。

 

「審判、内野の人間が自発的に外野に移動することは可能ですか?」

「ルール上は問題ありません…………が、もう内野には戻れませんよ?」

 

(よし……これなら実行に移しても問題なさそうだね)

 

 

「レイザー!もう大丈夫です!そっちの攻撃をお願いします!」

「もう良いのか? そちらの4人で、15人分のパワーをどう攻略するかは見ものだな」

 

 レイザーに試合再開を宣言し、まずは先に防御側の私たちが打ち合わせ通りに陣形を組む。

 

 二人はちょうど左右に離れて向かい合い、その間を『伸縮自在の愛(バンジーガム)』が一直線に繋いでいる。その二人のさらに下方、ちょうどガムの中央の延長線上に、標的となる私を配置。キルアは私のすぐ傍で『神速(カンムル)』状態を維持して待機という陣形だ。その間私は可能な限りの付与魔法を、自陣の床に対して予め仕込んでおく。……リハーサルなしの一発勝負であるが、即興ではこれ以上の策はどうにも思い浮かばなかったので、多少の不安があってもこれで行くしかない。私は私の仕事に集中するだけだ。

 

 こちらの準備が整ったとみたレイザーは、ついに動く。

 膨大なオーラがボールに込められていき……より頑丈に、より重く強化。そのボールを高く放り上げて跳躍の構えを取るレイザー。宣言通り、バレーのスパイクが私に向けて叩き込まれるその刹那。こちらの魔法を一斉に発動する。

 

 爆発音と錯覚するようなスパイクが炸裂し、人体など紙屑のように引き裂くであろう威力のボールが猛烈な勢いでこちらへと迫る。

 だが、その進路には既にヒソカとカストロの間を繋ぐ『伸縮自在の愛(バンジーガム)』が張られており、ボールがそこへ触れた瞬間、ガムが大きく引き伸ばされ、左右から強烈に引かれることで、その速度を少しずつ削っていく。だがその程度の減速は誤差とばかりに、ボールは私の方へ向かって突き進んでいく。

 

 今度は硬質な床が次々とせり上がり、幾重もの壁となってボールの進路を塞ぐが、一枚、二枚、三枚と砕き、それらはまるで砂糖菓子のような頼りなさで一瞬で突破されていくが…ボールは着実にその運動エネルギーを削られ、減速を続けている。

 そして、ボールがついに最後の壁を突破した瞬間、待ち構えていたキルアが動く。

 

 キルアが両手に持つは、持ち込んだ50㎏超のヨーヨーであり、これにも『念』の付与が掛けられていた。

 『神速(カンムル)』によって疾風迅雷の動きを可能としたキルアは、迫るボールを掬い上げるようにヨーヨーをぶつけ、ボールを上に向けて吹き飛ばす。度重なる減速により威力を大幅に減衰させていたボールは、ボールよりも重い物体*1であるヨーヨーの一撃によりついに弾かれ、大きく吹き飛ぶが…それをヒソカの『伸縮自在の愛(バンジーガム)』によって手元にまで回収することで、ついにレイザーの攻撃を攻略した。

 

 

▽ ▽ ▽

 

 

「肩と指がイッちゃった♥ でもボールは確保したよ♥」

「わ…私は足の方だな。恐らく筋が切れたようだ。」

「ふぅ……いや結構危なかったな。このヨーヨーも、『念』付与無かったら多分壊れてたぜ?」

「皆さん!やりましたね!ありがとう御座います!」

 

 かなりギリギリの勝負であったが、なんとかボール確保成功である。

 MVPは誰だろう? ヒソカかな? キルアかな?

 

 少なくとも全員が殊勲賞を賜ることは確定の大仕事だったと胸を張って言える。いやこんなに心臓に悪いのは久しぶりだよ…。と一息ついていると、己の渾身の一撃が捕球されたことを確認したレイザーが私に話しかけてきた。

 

「脱帽…と言いたいところだが、お前がボールをキャッチする訳ではないんだな? 俺はてっきりお前が捕球するものだと思っていたぞ?」

 

「いやぁ確かに私は『投げるなら私に向けて投げて』とは言いましたけど? 捕球役をやるとまでは言ってないじゃないですか! そもそも付与師って、後方にいるべき支援職なんですよ? 知ってましたか新米さん?」

 

「それは知らなかったな。自分を強化して前線で戦うタイプのファイターかと思ったぞ。……というのはまあ、冗談だがな。流石にあれだけ本を読み込んでおいて、それを知らないとまで言う気はない。」

 

 

 さて…何やらこれで勝ったような気分になるが、実際はこれで折り返し。

 

 次の攻撃でレイザーを仕留められなければまた振り出しに戻る訳で、今度は配置につく時間もくれずに、一人また一人と確実に仕留められてしまうだろう。

 ……悔しいが、私たちと今のレイザーにはそれだけの力の差があるのだ。

 

(ヒソカとカストロさんも負傷したから、そもそも同じ手はもう取れないからね。ただツェズゲラさんの転移が間に合えばずっと私たちのターンだから、実際はそこまで一方的になる訳でもないけどね。外野からの攻撃を含めれば五分ってとこかな?)

 

「バック!」

 

 そしてここでゴン君の内野への帰還である。

 最後の一撃には私とゴン君、そしてキルアの連携が必須なのだ。

 

 さあ、仕込みを始めようか。選ぶ属性はやっぱりこれ。私がこの世界に来て、一番最初に使った属性。

 

「ボールに『壊』を付与、最大出力!!」

 

 次はツェズゲラさんをこちらの陣地の近くまで呼び寄せ、私が敵の陣地との境まで近づくことで、互いの手が届く位置にまで近づく。そこでマーキング作業をしてもらえば、これで準備は完了だ。付与は魔法を上書きしてしまうが、こうして付与した後であれば問題なく共存出来る。順番を間違えてはいけないのだ。

 

 レイザーはレイザーで妨害する気は無いようで…まあその辺はゲームマスターとしての意地みたいなのがあるんだろうね。私としてはありがたいので特に言うことはないかな?

 

「お姉さん…キルア…やるんだよね? アレを。」

「そうだね。練習では1回だけ成功したアレ。でもまあ、今はメンチさんのお陰でコンディション最高だし、成功率は結構高いと思うよ?」

「それの要も結局俺なんだけどな…頼むぜ二人とも? 角度はともかく、時間のズレはどうにもなんねーからな?」

 

 『壊』と転移のマーキングが入ったボールをキルアが持ち、そのボールの前に私とゴン君が二人で並ぶ。ゴン君がキルアの逆側で右拳を構え、私がキルア側で杖を構える。

 

 この合体技において最も重要なのはタイミング。二人がまったく同時にボールに攻撃するのが前提条件だ。

 

 そして最も高度な技量が要求されるのは、間違いなく断トツでキルアであり、ボールがきちんとレイザーに向かうよう、二つのインパクトの瞬間にそれぞれが当たる位置を瞬時に微調整しつつ、手を離し、その直後には私の攻撃が当たらないように大きく回避までする必要があるのだから、瞬間的にこなす必要がある作業量が、あまりにも多すぎる。キルアの超人的なセンスと『神速(カンムル)』のスペックに完全に頼りきった滅茶苦茶な合体技なのである。

 

(まあ、要は私とゴン君の同時攻撃を、キルアが無理やり合わせて一つの攻撃に集約するという荒業だね。よりによって標的がボールだから、難しいのなんのって…こんなのこのルール以外では絶対使えない技だと思う)

 

 レイザーも私たちが何をしようとしているかは大体察しているようだが、大人しくこちらの攻撃を待ってくれているようである。

 

 ゴン君の視線も一度レイザーの方に向き、精神を集中した後に引き出したるは、本日最高の『練』!

 ツェズゲラさんが目を見開き、震えてしまう程のオーラであり、『念』の付与や食事バフも相まってか、そのオーラは普段の師匠(ヒソカ)と比較しても、倍以上はあろうかという規模である。

 

 そんな圧倒的なオーラが『硬』で集約され――

 更に『発』の制約により倍増する!

 

 私は私で、全力の『練』からの『硬』を発動。

 身体を捻り、全身全霊を込めた愛杖のフルスイングを準備!

 

『最初はグー! ジャン!! ケン!!!』

『『壊』を付与! 最大出力!!』

 

『グー!!!!』

『倒れろレイザー!!!』

 

▽ ▽ ▽

 

 クーデリアとゴン、二人の攻撃はキルアという天才の手により一つの強大な攻撃へと昇華され、その全てを受けきったボールはありとあらゆるものを破壊する勢いで俺に向けて迫ってきている。

 

 転移魔法のマーキングが入っているため、俺が取れる選択肢に既にレシーブはない。衝撃を殺すタイプのレシーブであれば間違いなく転移の餌食となり、即座に相手に打ち返すタイプのレシーブについても、クーデリアとキルアの性格的に確実に躱すことが予想され、仮にゴンが避けなくとも、今のキルアであればゴンを強制的に躱させることも可能なはずだ。

 

 ならば普通に受け止め、即座にマーキングを解除する以外に俺が勝つ手段はない。今の俺であればそれが出来る! 故にまずは全力で捕球することにのみ集中を――

 

バッアアアアアアアアアアアン

 

――――!!?

 

 なんだ今の爆音は…空気の破裂音……そうか! あの目隠れの鞭使いか! しまったやられた……最も集中が必要なこのタイミングを狙いすましたかのような一撃。こちらに音が届くまでの速度まで計算に入れて鞭を振るったのか!? くっ不味い…この程度で『硬』が解けることはないが、雑念が――

 

▽ ▽ ▽

 

 私とゴン君が攻撃を振り切った直後、どうやらキルアは退避に成功していたようで、同士討ちの危機はこれで去った。

 ボールは寸分違わずにレイザーに向かって飛んで行っていたようなので、合体技は成功だろう。

 

 どうやらレイザーは直前に集中を欠いたのか少々オーラが乱れたようで……その直後に聞こえてきた空気の破裂音でそれがリールベルトさんの仕業だと気付いた。そういえば初対面の時はコソコソ初心者狩りするタイプの姑息な人だったね…。その経験が活きた(?)随分と効果的な渋い仕事をするものである。

 

「うぉぉおおおおおお!!?」

 

 ミシっ、ビキッ、バキャッと骨が砕け散る嫌な音を響かせながら、レイザーはボールの勢いに押されて後ずさる。しかし…圧倒的なオーラ量によるものか、ギリギリで陣地のラインを超えないところで止まってしまった。

 

 これは…どっちだ…?

 

 と結末を見定める私たちであったが、レイザーの腕からポロリと落ちたボールが、床で跳ねて転がる光景を見て初めて実感が湧く。

 

 

 

 

 

 つまり――

 

『レイザー選手捕球失敗によりアウト! よってこの試合、クーデリアチームの勝利です!!』

 

 

「……勝った?」

「「「うおおおおおおお すげーぜお前ら!!」」」

 

 審判たるNo.0の宣告によって正式に私たちの勝利が確定する。

 激闘の末、ついに掴んだ勝利にチーム全体が歓喜の渦に包まれるが――

 

 

 

 ただピオスさんだけが、うつ伏せになって動かなくなったレイザーのもとに、一目散に駆け寄った。

*1:
オーラがこもったボールはボウリング玉のように重いとのことだが、50kgには届かない。…ただ、今のレイザーが込めたボールだと30kgくらいはありそう。





レイザー戦、完!!
これでパーティを組んでのラスボス戦は終了。
クロス元ではこれが出来なかったので満足です。
作者としては感想や評価が欲しいですね!


…ちゃんと生きてますよ?
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