「そのお酒こっちでーす! ああそれも…はい! ご苦労様です〜。いやーやっぱいいお酒揃ってるねーここ!『酒生みの泉』産のお酒も美酒揃いだけど、それ以外も負けてないね!」
「うん! 料理も凄い豪勢だし! もうずっと食べっぱなしで最高だよ!」
ゴン君の大食いを肴にグイグイ飲んでいると、呆れた顔をしたキルアがやってきた。この顔を見るのもこれで三回目かな多分。
「クー子お前…もう三日目だぞ? 既に樽4つは飲み干してるし、ピオスさんも程々に…て言ってたじゃねーか!」
「あーキルアぁ? ピオスさんならだいじょーぶ大丈夫……うん。その辺はきちんと私の能力を説明した上で納得してもらって、ドクターストップは不要って言われてるから問題ないよ。気を付けるべきは暴食の方で、そこは意識してセーブしてるし」
「うわっ!? 急に落ち着くな! こえーよ!」
「失礼な弟だなあ…」
「お前の弟ではねえよ!?」
「呼んだ?」
「
▽ ▽ ▽
グリードアイランドの島全土を巻き込んだ大宴会であるが、流石に三日目ともなると死屍累々というか…参加する元気が無い人も増えてくる。
私? 私は勿論元気ですよ? 何ならこの宴を一番楽しんでるまであるね。初日は元から用意されているプログラムがあるからか、神輿に乗せられてパレード行脚したり、踊り子のダンスを鑑賞したりカラオケしたりと盛り上がってたけど、二日目からは酒盛りが本番!
ドゥーンさんもリストさんも、レイザーからの口添えもあり、クリア者の私の希望を最大限叶えるとのことだったが…その結果がこれである。
島中の美酒美食を掻き集めて、イベントで知り合えるユニークNPCとの交流を用意して、暇があれば出入り口の管理をしてるイータ・エレナ姉妹との会話をする機会まで与えられた。
どうやら10人いるゲームマスターの半数以上はこの島で常に働いているようだが、肝心の発起人といえるジンを含めた何人かはそういう訳でもないようで…その辺りの待遇の差は謎である。レイザーは死刑囚との司法取引だったけど、まさか他の人達も元死刑囚だったりするのだろうか?
「息災だなクーデリア。バッテラ氏へのクリア報告は済んだよ…どうやら今はもう資産の整理中だそうでな…恋人と二人で静かに余生を過ごすと決めたらしい。処理しきれない資産は君かピオスに渡すことも検討していたようだが…どうだ?」
運ばれてきたお酒をじっとり味わっている途中、話し掛けてきたのはツェズゲラさん。ただ話の内容はあまり嬉しいものではない。
「いやぁ勘弁してくださいよ…元の世界に貴金属や宝石に変換して持ち帰るにしても、百億以上は流石に考えてないんですから…追加で何千億とか渡されても困ります。どうしても渡すならピオスさんに渡してください。目の前の人を救うことを最優先に考える彼女なら、きっと悪いようにはしないでしょう」
「……そうか、そう言われるとマネーハンターを自称するのが少々虚しくなってくるな…。ただまあ、君ならそう言うとは思っていた。バッテラ氏とピオスにはこちらから話しておくが…そうだな。折角だから何枚か写真を撮らせてくれないか? ああ、カメラは意識しない自然体で良い」
「写真? なんかリールベルトさんみたいなこと言いますね? ツェズゲラさんなら構いませんけど…飾る趣味でもあるんですか?」
「なに、マネーハンターとしての勘さ。そう遠くない未来で君の写真は、その1枚1枚が恐ろしい大金に化けるとみている」
写真なあ…そういえばゾルディック家の人間の顔写真も、一枚一億とかするんだっけ? 希少なものには価値がつくことが多いし、今後は入手不可能になる私の写真は、確かに価値がでるのかも?
――クーデリア帰還後、それらの写真はそれこそ一枚一億を超える値段で取引されることとなる。中でも最高値を付けたのは、サザンピースオークション用に着飾った際のクーデリアの写真のネガであり、普段とは異なる装いかつ、完全なる一点物というレア度も手伝い、その落札額は世界中のオークショニアを驚愕させ、落札者は世界中の魔法使いからの羨望の眼差しを集めたという。
落札者の名前は伏せるが…その人物は療術が非常に得意な人物であったようだと噂されている。
▽ ▽ ▽
「いやーやっぱ最高だわ~! クー子に感謝感謝♪ この三日でこの島の殆どの食材とレシピを把握出来たし、こりゃ美食ハンター冥利に尽きるわ…船のことなんてもう全然怒って無いのに、食材ツアーやったりパレードを三日に延ばしたり……随分気に掛けてくれるのはイイ子よねーやっぱり。…って…ん? なんか見覚えある顔ね」
「むっ? 確か貴女はメンチ氏…だったか?」
「あー思い出した。カストロねカストロ! あんた随分といいオーラしてるじゃないの! 食事への感謝も強く感じられたし好印象よ! 今年のハンター試験はもう終わっちゃったけど、来年どう? あると色々と便利よハンター証。あとメンチで良いわ」
グイグイとパーソナルスペースを侵食してくるメンチに面食らいながらも、カストロとしては別に邪険にする気は無い。レイザーとの決戦前の彼女の料理が最高に美味しかったことは記憶に新しく、その食事が引き出した最高潮のコンディションは、一人の闘士としては何度でも味わいたい魅力的なものである。
「……食事については、数か月の山籠もり中にその有難みを痛感してな。己の糧となるものに敬意を持たない訳にはいかないと感じたまでだ。メンチの食事は今まで味わった中でも最上のものであったが故に、特に感謝している。出来ればまた味わいたいものだ」
「 (んーよく見ると中々にイケメン…しかもフロアマスターだったわよね) へえ、結構評価してくれるじゃないの。そんなに私の料理がありがたかったかしら?」
「ああ。食事とは単に腹を満たすものではない。己を鍛える者にとっては、その一食一食が修練の一部でもある。何を食べ、如何に己の力へと変えるか……そこまで考えてこそ、強さを求める者として相応しいと私は考えるに至った。山の中の、限られた食材の中でこその気づきだな」
「……それ、あんたさ。美食ハンター向いてるんじゃない?」
「私が? 美食ハンター?」
「 (よし! 美食ハンターにしてそのまま弟子にしちゃおう。ずっと欲しかったし!) そうそう。食材そのものだけじゃなくて、それを食べる人間のことまでちゃんと考えてる。あたし、そういう考え方は嫌いじゃないわ!」
そう言いながら、メンチはカストロの肩を軽く叩く。
「それにハンター証があれば、珍しい食材を探すのにも便利だしね。立入禁止区域に入れることもあるし、一般人じゃ手に入らない情報も集まる。強いだけじゃ勿体ないわよ」
「……なるほど。確かに興味深い」
「でしょ?」
「だが、私は己の武を極めることを第一としている。ハンターとなることで、その道が疎かになるようでは本末転倒だ。それこそいずれヒソカに勝つためにも…」
「そのヒソカがプロハンターじゃない。しかもあいつがプロになった時の試験官、私よ? 私の試験に本当の意味で合格出来てたのって、クー子とヒソカの二人だけだから印象にも残ってるしね。
あと、ハンターになることが強さへの枷になることなんて一切ないのは保証するわ。少なくともクー子は試験中と比較しても、今の方が数段成長してるんだから」
「……試験の件は考えておく」
「受けるなら教えてね~。来年の試験官になれるかまでは分からないけど!(脈アリ! こりゃ逃がす手はないわ…まず先に胃袋の方から掴んじゃる!)」
▽ ▽ ▽
そろそろ日が沈むなあと考えながらもワインをちびちび味わっていると、ビールジョッキ片手に近付いてきた。ビールいいよねビール。お腹に溜まるから最初の一杯で十分だけど。
「ちょっとクー子!あんたはま〜だ酒飲んでんだわさ!? まあ能力で好きなものを身体に害無く楽しむ発想は良いと思うけど、そのプロポーションは崩しちゃ駄目よ? 私からすりゃ最高に羨ましい身体してるんだから…向こうに行ってもちゃんと維持すること! いいわね!」
「ふふふ…こうしてみるとビスケさんて…やっぱりお母さんみたいですね。一緒にいると安心します。」
「あ〜ん? お母さんだぁ? オネェさんの間違い……て、クー子に言ってもしゃーないわさ。まあ、そうね…私からすればあんたが息災なら何でもいいから、さっさと良い男でも捕まえておきなさい。
で、実際どうなの? こっちは兎も角、元の世界の方ではそういうのいるの!?」
随分とグイグイ来るなあ…ビスケさんも実は結構飲める人だし、もしかして少し酔ってるのかな? それとも素のお節介かな?
「ん〜……元の世界には…一応いますね」
「なぬ!? ほ、本当に!? ど、どんな人だわさ!!」
く…食い付き方が半端じゃない…ビスケさんてやっぱりこういうゴシップ系の話題が好きというか何というか…これだとオバ…いや、止めておこう。
「えーと、私が所属するパーティのリーダーで…30代前半の凄腕レンジャーで…外見的特徴としては金髪翠目で背が少し高い人です。それ以外ですと…王様が一日三回拝んでるくらいには国家に貢献してて…探索者なのに国家運営にも関わってて…単独で龍種討伐出来るくらいには強いことが挙げられますね。あとは…私を探索者にした張本人で、私が知る限りは一切の嘘を吐いたことないくらいには誠実で、リーダーとして不満を感じる要素が一ミリも無いくらいには優れた指揮能力と対外交渉能力を持っていますね…そんな人です。」
「そ…そう。えーその王子様とはどこまでお進みに?」
「なんでちょっと引いてるんですか!? あと王子じゃないです普通に探索者です! その…進展については恥ずかしいのでノーコメン「駄目!!」ええ…」
結局、相手側からの『お前を一生支える』宣言を引き出したことまでを語らされると、ビスケさんは何やら昇天しかけていたが……その後に真意を確認する前に逃げられてしまい、そのまま宴がお開きになってしまった話まですると「ヘタレチキン野郎がっ!!」とキレていた。
(そういえばリディアも似たような反応してたなぁ…流石にここまで露骨ではなかったけど。まあ私としてもあの瞬間は、結構ドキッとはしてたんだけどなあ…)
▽ ▽ ▽
どんなものにも終わりというものはあるようで……楽しかった三日三晩の宴会も、残念ながらもうお終い。まだもう少し酔っていたいので『
まあキルアがそう言うなら…とフラフラと室内に案内されると、そこに待っていたのはヒソカと…ちょっと表情が固いゴン君とビスケさん。
男三人の部屋というのは流石に不用心だとオーリスあたりに怒られそうだが、ビスケさんもいるなら安心だなあと、勧められるがままにクッションに座る。
そう…クッションの上に座ってしまった。
「…座ったね? 実は君にはお願いがあってね♥
『三日後、ボクと死力を尽くして戦って欲しい』んだ♥」
「『良いで…』あれ…? う〜ん? いやなんで? いや別に『良いです』けど、せめて理由と条件は確認したいですね…うん…? なんか変だなあ…?」
「おいヒソカ…なんか効きが悪くねえか?
やっぱり『
「これで良いんだよ♠ 彼女は抜けてるようで警戒心と注意力は低くないから、素面だと座ってくれない可能性があった♥ 『
(ヒソカとキルアが何やら話しているけど何だろうか? う~ん…なんか変だなあ…ビスケさんもちょっとビスケさんらしくないし…
「
「当然さ♥ 場所はここ…ゲーム内でやるつもりだし『大天使の息吹』も2枚確保済み♦ よっぽどのことが無い限りは、戦闘後に死んだり怪我が残ったりすることはない筈さ♥」
「なるほどー。確かにそれなら割とアリなような……う~ん? でも折角帰れるのに、万が一にでも死ぬ可能性があるのは…ゴン君からも何か言ってくれないの?」
「ええ!? お、オレ!?」
「うん。何か普段よりカチカチだし…どうしたの?」
「い…いや…なんでもナイヨ。
その…師匠の最後のお願いくらいは聞いてあげてもイインジャナイカナー」
「ねえキルアぁ…俺たちこんなことしてるのバレたら後でビスケに殺されないかな?」
「ここで弱気になるなよ! しゃあねーだろ、ヒソカにも数か月は世話になって恩もあるし、言い分も分かるしよ…師弟として最後に手合わせするためだけに、こんだけ根回ししてんだぜ?」
違和感は感じるけど…まあ確かに最後の師匠孝行として悪くないし、ゲーム外で戦うよりは遥かに安全と
「それもそうですね。分かりました!『やります!』
では三日後、覚悟しておいてくださいね…こちらとしても負け越したまま帰るのはどうかとも思いますし、折角やるなら絶対負けませんよ!」
▽ ▽ ▽
クーデリアが部屋から退出した後、
「ご苦労様♥ これは約束の小切手だよ♣ 現実に戻ったら換金するとイイ♥」
「『マッド博士の整形マシーン』てスゲーよな。本当にビスケそっくりだぜ?
流石に背格好が近くないと体格でバレるけど…ぱっと見じゃあ全然分かんねー」
「お姉さん、ビスケの顔を見た途端にちょっと安心してたから、効果覿面だったと思うな。…ごめんねお姉さん。」
「ふふふ…やっぱり効いたね『コネクッション』♠
ああ……今からもう楽しみで仕方がないよ♥
ゴンとキルアも助かったよ♥ ボクだけだと、頷いてくれるかちょっと不安だったからね♥」
整形した女性はアマナです。
ゲンスルー組がプーハットに倒されたので、彼女も当然生存しました。
※影武者遂行後に再整形して顔を戻しています。
そして真のラストバトルへ