とある付与師の帰還録   作:さくさくの森

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63.グリードアイランド編 VS ヒソカ=モロウ①

 

 私がヒソカと本気で戦ったのは、天空闘技場での試合1回だけ…まだ念も覚えたてで、師弟ですら無かった時代の話だ。結果は……私の惜敗。私が与えたダメージの方が大きかった筈であるが、最終的な敗者が私である事は厳然たる事実。

 

 とはいえあの当時ですらかなり追い詰めていたのだから、当時より遥かに強くなっている今なら楽勝なのでは? 等とは当然考えない。あの時の私は所謂初見殺しのオンパレードであり、魔法という存在を碌に知らない相手に対して好き放題に動いていただけだ。

 あの戦闘巧者のヒソカが…既知となった魔法という力に対応してこない筈がない。

 それ故に、此度の戦いは間違いなく、初戦と変わらず厳しい戦いとなることだろう。

 

(さて…どうしたもんかな。パレードが終わってあと三日…今朝やっと小人が完成させたマジックアイテム2つ…1つはキルア用で、1つは私用だ。こちらを実戦投入するの当然として、あとはどう戦略を練ったものか…)

 

 修行後に構築を始めた植物ネットワークは既に島の半分程には広がっているし、それも上手く利用出来るかもしれない。それに折角ゲーム内で戦うのだから、カードの力も使いたいね。

 『死力を尽くす』のがお願いに含まれてたし、使えるものを使わないのはその条件に反してしまうのだから…「しかたがない、しかたがないねぇ……」てやつである。

 

 ゲームクリアから更に帰還が三日遅れるようになってしまう問題については、クリア自体はもう終わっているということで元ハメ組メンバー及びこちらが雇ったゴレイヌさんには小切手でお支払い済みである。

 その際は20人換金しては1人が戻って報告というサイクルを取って、万が一の不渡手形を防止するというやり方を取っていた。この辺りはニッケスさんの集団統率の手腕であろう。

 

 ビスケさんにリールベルトさん、カストロさんにメンチさん、イルミにピオスさんにも個別に話を通しておいたので、私とヒソカの師弟最後の我儘は、きっと無粋な横入りもなく完遂出来るはずである。

 

 ……この話を聞いたビスケさんは何故か初耳のような反応をして、随分と訝しげな表情をしていたが……どうにも私の勘が「深入りしない方が良いよ!」と警告しているのでそこは敢えて無視することとした。

 

(勘や直感は経験則からくる無意識的な最適解の選択らしいから、こういうのは大人しく従ったほうが正解なことが多いからね。ただまあ…やっぱりこの不自然な違和感の正体だけは、先にきちんと分析した方が良さそうかな?)

 

 

 

▽ ▽ ▽

 

 

――1月27日 決戦当日

 

(頬が腫れ上がったゴン君とキルアが地面に正座させられてる……)

 

 二人のことは気になるが、ビスケさんが近くで仁王立ちしているので、きっとそ(・)う(・)い(・)う(・)こ(・)と(・)だろう。

 

 双方同意のもと、決戦場に選んだ広場は周囲が樹木が溢れる森林となっているため、私は植物ネットワークが活用できるし、ヒソカは遮蔽物やガムの接着対象が沢山あるので、それらを利用しやすいものとなっている。加えて前提条件としても邪魔な怪物は出現しないので、双方にとって利点があるフィールドのチョイスだ。

 

 そんな決戦場に集まったのは、レイザー戦に参加した15名。

 審判にはなんとビスケさんが名乗りを上げ、広場の中央に陣取りながらも随分とヒソカを威嚇していた。

 

「私が審判を務める限り、この私が絶対的なルールだわさ! 一方が敗北を認めるか、私が戦闘不能を判断した時点で戦いは即座に終了すること! そしてゴンとキルアは戦闘終了時に即座に双方に『大天使の息吹』を使用すること! 以上を守っての尋常な手合わせとしなさい! …クー子、そして特にヒソカ! それで良いわさ!?」

 

「う〜んそうだね♣ まさか心源流の師範代ともあろうものが、師弟の最後の手合せを生温い決着で強制終了♥ なんてことがある筈も無し……ただ同意するのは戦闘不能の基準次第かなあ?」

 

 凄みを利かせるビスケさんにも師匠はどこ吹く風の如く動じずに要求を通そうとする。 

とはいえあのヒソカが半端な決着でヨシとする筈もなし、戦闘不能判定を別の人間に委ねる以上は、ここは譲れないラインであろうことは想像に難くない。

 まあ私とて当然死にたくはないが…それでも、『手痛いダメージを受けました!終わりです!』程度でさっくり終わらせて良いような勝負では無いと、そう感じている。

 

 少なくとも…この思い自体には一(・)切(・)の(・)違(・)和(・)感(・)を(・)感(・)じ(・)な(・)い(・)。ならばここは弟子として、援護射撃をしてやるべきだろう。……ビスケさんからすれば、背後から撃たれたような感覚だろうしで非常に申し訳が無いけどね。

 

「ビスケさん。心配してくれるのは有難いのですが…これは私達師弟の最後のケジメのようなものです。

 勿論死に至るような追撃には断固反対しますが、腕や脚の一本や二本、即座に死に直結しない類の損傷であれば…審判側による戦闘不能と処理して頂く必要は御座いません! 厚意を踏み躙るような物言いとなって申し訳ありませんが…これが私の本心です!」

 

「バカ言うんじゃないわさ! あんたのその想いはこの馬鹿弟子達の――」

 

「知ってます。『コネクッション』でしょう?」

 

 仕業…と言いかけたビスケさんの言葉を遮り、私は今回の師弟対決の発端となった原因の核心を突く。

 

 私のこの言葉を聞いて…師匠(ヒソカ)が纏うオーラがぴくりと反応する。

 

「クー子…あんた気付いて…?」

 

「気付いたのは、座(・)っ(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)翌日の夜ですね。流石にそれだけの時間があれば、自分の中の違和感の原因にも当たりがつきます。

 細かい推理フェーズは省略しますが…何らかの約束やお願いを強制させるアイテムとして、うってつけのものが指定ポケットカードの中にありましたからね…違和感を生じた時から逆算すれば、何(・)を(・)さ(・)れ(・)た(・)の(・)か(・)特定するくらいは容易いことです」

 

「そういことだよビスケ♥

 彼女(クーデリア)は彼女(クーデリア)自身の意思で今この場に立ち、これからの勝負を受けるのさ♥」

 

 私の説明を聞き終えたと同時に、最高の笑顔と共にビスケさん相手にそう宣う師匠(ヒソカ)。

「それすら操作の結果ともとれるわさ!」

 と反論するビスケさんであるが…またも私が背後から打ち込む弾丸を追加する。

 

「いいえ…それが違うんです…」

 

 私はクッションに座る際、『オールグリーン(二日酔い知らず)』を使用していたことが手伝ってか、お願いされた内容をそのまま受け入れる自分に、強い違和感を感じ取ることが出来た。

 ただそれは本来の意思を捻じ曲げられているからこその違和感であり…無関係な部分や、己の意思と差異がない部分については何も感じなかったのだ。

 

(私は……少し嬉しかった。師匠(ヒソカ)は私のことをきちんと理解して、可能な限り危険が少ないゲーム内での戦闘を選んでくれた。更に私が拒否することまでを予測して、入念な根回しまで行った。そして…それだけじゃない)

 

「ゴン君、そしてキルア」

 

 私の呼び掛けに正座したままにビクリと反応する二人。ビスケさんにこってり絞られたからか、罪悪感を感じているからか、その反応は随分としおらしい。

 

「二人がビスケさんに黙ってまでヒソカを手伝ったのは……ヒソカの想いが正しいと思えたから。…少なくとも間違ってる訳ではないと、そう二人ともが判断したからなんだよね?」

 

 …これは念のための確認だ。私が知るこの二人が、正しいとも思えない相手に従い、あまつさえ手伝うことなどあり得ない。つまりこの二人がヒソカの奸計を手伝った時点で「ヒソカの願いを叶えてあげるべき」と、大なり小なり考えている証左に他ならない。

 

「……うん。ごめんお姉さん。俺…ヒソカがずっとお姉さんと戦いたがっていたことを知ってたからさ。でも、お姉さんが帰っちゃったら、それはもう一生叶わないと思ったら…ヒソカの作戦を手伝ってあげたくなったんだ」

 

「俺もゴンと似たようなもんだよ。何なら去年のハンター試験後の時に言ってた…というか俺が聞いたんだよな。『異世界に帰る人間を鍛えるのは惜しくないのか?』って…そしたらヒソカは『あと一回…夢のような思い出をくれればそれで十分』とかって返してきたんだぜ? なんつーかさ…ここまでやってそのままサヨナラって……そんなのはなんか違(ちげ)えーって…そう思っちまったんだよな……」

 

 二人から返るは、想定通りの答え。

 

 私だって薄々気付いていた…育った果実を収穫したくて堪らないあのヒソカが、日に日に育ち、強くなる私に対して我慢を重ねていることを。

 そう…それに気付いていたからこそ、私はあの時、態々カストロさんを探しに行って交渉したのだ。それこそ不戦勝のような八百長紛いの勝利でさえ無ければ、相手は別にカストロさんで無くとも、ヒソカの強さを碌に知らない200階に上がったばかりの初心者でも誰でも良かった。

 そうなると当時の金策には少々影響が出ただろうが、ヒソカへの100億BETはカストロさんとの試合を決定させてからの後付けなので、無いなら無いで別の金策を考えていたことだろう。

 

 ……それこそまるで臨界点を超えないように調整する技師のような感覚で、師匠(ヒソカ)という危険物を制御し続けてきた側面は、確かにあった。

 

 そんな師匠(ヒソカ)が最後の最後、本当の最後の機会に育てた弟子と戦いたいと思う心のどこに、邪な感情があるというのか? …少なくとも、私にはあるとは思えない。

 

「今の私に…一切の違和感はありません。確かに切っ掛けはアイテムの効果でしょう。私はヒソカの奸計に狂わされた被害者なのかもしれません。しかし私は今確かに、自ら望み、自ら決断し、自らの意志でここにいます! 故にこの戦いは、私達師弟間の問題です! 私の身勝手なこの選択について、ビスケさんには重ね重ね不義理を謝罪致します。……ですが、その上で、ここではっきりと言わせて頂きます!」

 

 

「ビスケさんはこの戦いを、ただ黙って見届けてください!」

 

 

「…………はあ――。おい馬鹿弟子ども」

「「オ、オス!!」」

 

「指示は変わらんわさ。戦闘終了時に即座に双方に『大天使の息吹』を使用すること…ただ強制終了のタイミングは…キルア、あんたに任せるわさ。多分今この場にいる人間の中で、人(・)が(・)殺(・)さ(・)れ(・)る(・)瞬(・)間(・)に(・)一二を争うレベルで感度が高いのはあんたよ。その上で、誰よりも早くそれを止められるのもあんただけ…『神速(カンムル)』とやらでその瞬間を見定めて止めなさい」

 

「……ああ、その時は絶対(ぜってー)止める。

 だから…任せてくれよな。クー子とヒソカ(二人とも)。」

 

 私がキルアに渡した『電雷石』――電気を与えるとそれを増幅して自発的に発電してくれる機能と、周囲の空間を、若干ながら電気を受け入れやすい状態にする機能があるそれを所持していれば…へっぽこなれど『雷』の付与に近い状態になり、キルアは無理やり『神速(カンムル)』を使えるようになる。

 どちらかというと充電用途がメインの道具であるため『神速(カンムル)』の精度が私が付与をした時と比べると大幅に下がってしまうという欠点こそあるが…『神速(カンムル)』状態の疾風迅雷の反応と速度であれば、多少の劣化があったところで確かに致命の一撃の瞬間に横入りすることも出来るだろう。

 

▽ ▽ ▽

 

 さあいざ開戦というところで、おもむろにヒソカが服を脱ぎだすという、この場の全員を驚かせる珍事が発生したが…本人としては至って真面目な付与対策とのこと。燃やされたり硬質化して拘束にも使える衣類は確かに付与師からすれば絶好の的であり、この場には既にその被害者が二名もいるため、こちらとしても真っ当な付与対策だと強弁されると反論が難しい。

 

 流石に全裸で戦われても私もギャラリーも色々と困るので、ヒソカの衣類には付与を使わないことで決着した。

 ヒソカとしてはこの流れまで予測した上で脱ぎだしたそうだが…もしかするとそれは嘘(ブラフ)で、ただ私の目の前で脱ぎたかっただけかもしれない。

 

(他の対策思い浮かばなかったのかな…ただまあ実際難しいよね。付与なら耐火服を着てても服そのものを燃えやすくして燃やせる訳で、しかも私は11属性扱えるからどれか1つの対策をしてもそれも無駄と隙が無い。う~ん…考えれば考えるほど、こうやって脱ぐのが最適解な気がしてきたなぁ…)

 

▽ ▽ ▽

 

 広場中央、互いに『堅』の状態で対峙する私たち師弟の二人。 

 

 纏うオーラ量の差は…1.5倍差といったところか? 当然ヒソカの方が多い訳だが、あの時は10倍差があったと思うと、随分と近い領域にまで辿り着いたものである。

 

「僕らの戦いに、合図は要らない♥ そうだろ?」

「そりゃあそうですよ! だってもう始まってますし!」

 

 突如生成された身の丈を超える程に巨大な土腕が全方向からヒソカに殺到するが、迫る土腕の一つにガムを張り付けて加速して回避。回避先を予測して放った《風弾翔撃(ウィンドバレット)》は『凝』で防がれ、お返しとばかりに粘着質なオーラを纏った4枚の鋭利なカードが私に向かって投げられる。

 飛んでくるカードは『周』の強化と『水』を付与した杖を使って的確に叩き落として、互いに無傷で師弟の闘争のファーストコンタクトが終了した。

 

「フフ…随分と懐かしい攻防をする二人だな」

「全くだ。双方随分と進化しているが…師弟揃って粋な対話をするもんだぜ」

 

 カストロさんとリールベルトさんは気付いたらしい。まあそりゃそうだよね。あ(・)の(・)試(・)合(・)を観戦してたのは、この中では天空闘技場組だけだもの。私の全試合映像の限定版では、この攻防の元ネタは超迫力で演出されて魅了されるので、未視聴の方は是非天空闘技場200階までお買い求めを! 売り子の実況ちゃんが喜ぶよ!

 

 ――準備運動代わりの挨拶はこれで終わり。

 ここからが、本当の闘いだ。

 





クー子用のマジックアイテムはドッジボールでは使えない…というより使い辛いものです。
有用ではありますが、かなり使いどころが限られるので、完成を待つ前にレイザーに挑んだという事情があります。

既に周りの準備終わってるのに、それだけのために6日も待たせるのはどうかと思いますしね。

キルアの『電雷石』についてもクー子が普通に『雷』を付与した方が遥かに強いので待つ必要がありませんでした。
というよりこっちはクー子帰還後を見越して作成してます。
キルアのお姉ちゃん(嘘)からの最後のプレゼントですね。
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