広場の中央から急速に接近して距離を詰めるヒソカに対し、私は『斬』を付与した杖で迎え撃つ。杖の先には魔力刃も生成しているため、リーチの面ではこちらの方が遥かに優位であることも手伝い、ヒソカは私に対して若干攻めあぐねているようであった。
「刃物の相手は苦手ですか? そういえばハンター試験でも槍使いの攻撃はしっかり避けてましたね!」
「…誰だっけそれ? 悪いけど、死人のことは一々覚えていないんだよね♠」
「371番。イルミのターゲットだった人ですよ!」
――ヒソカは過去を語らない。
過去にあまり興味がないからだ。
初遭遇時には既に心が死人だったゴズのことなど、当然覚えてもいない。
「ふ~ん…君は過去のことをよく覚えているんだね。別に僕は健忘症では無いけど、興味を失ったものはすぐに忘れてしまうんだ♣ もし仮に君がここで死んだら、僕はそう長く…君のことを覚えていられるのかな?」
「死にませんよ。きっとその前に、キルアが助けてくれますから! それより自分の心配をしたらどうですか? 私がただ、専門でもない剣術頼りで、師匠を倒せると思い上がっているとでも?」
「そんなわけ無いじゃないか♥ 僕を打ち倒すための布石を、同時並行で用意していることくらい気付いているよ♥」
「だったら凌いでくださいね!」
そう言い残して高く跳躍、それと同時に土壁がせり上がってドームを形成し、ヒソカをその中に閉じ込める。おまけで硬質化も施しているため、師匠と言えども数瞬で破壊するようなことは難しいだろう。
衣服に『風』を付与してそのまま浮遊。
杖をドームに向け、そのまま必殺の魔法を用意する。
「『火』を付与。最大出力!!」
宣言直後にドームの内部のみが着火。中にいるヒソカは数百度~千度近い高温に焼かれ、蒸されることになるわけだが……その一秒後にはドームの壁が破壊され、ヒソカが脱兎の如く飛び出してくる。
(……熱傷と火傷がイマイチだね。まあオーラで全身を守ってもいるし、流石にこの短時間ではそんなものか。ただ壁の破壊が想定よりも早いから、何らかの攻撃力増強手段を確立したと見るべきか…?)
ドームから飛び出したヒソカは足元にギュギュッと力を込めたかと思えば、今度は驚くべき速度で跳躍! そのまま浮遊している私に向けて飛び掛かってきた。
(そうか…ゴムの反動! スプリングにして跳躍力と速度を高めたのか!)
高さがあることに安心していたことと、咄嗟のことに少々反応が遅れる。杖は左手で押しのけられ、空いた右腕のボディブローが私の身体に炸裂する。
しかし私も…ただ黙って殴られた訳ではない。
「ぐっ……! 流石の威力…結構効きますね…」
「!?」
想定通りの衝撃を受けた私と、想定外の痛撃に驚くヒソカでは、果たしてどちらの方が隙が大きいか?
私は瞬時にオーラを脚に集め、こめかみを強かに蹴りつけることでヒソカを地面へと墜落させた。
ボディブローの際に衣類に張り付いたガムは、付与を『土』から『水』に上書きすることで洗い流すが、浮遊は既に切れているため、そのまま私も地面に向けて悠々と落下する。
「……硬いね♥ 金属を殴ったのかと思ったよ♥」
「『土』による部分的な服の硬質化です。衝撃は防げないので私もダメージを受けましたが…そちらの右拳も痛めましたね?」
「それよりその後の蹴りが効いたよ…♥ パワーも上がって、『流』も随分と上達したじゃないか♣ すっごく痛くて、今でも結構クラクラするね♦」
『風』→『土』→『水』の連続高速切り替え…私がこの世界に来た直後には出来なかった芸当である。私の付与速度は『紫華』になった辺りから当時の教本で紹介されていた理論値を一部超えていたが、今の私はそれよりも更に速い。念だけでなく、付与の技術についてもまだ、私は成長を続けているのだ。
「技術点を加味して…天空闘技場ならこれで2点は入りますね! こっちもしっかり喰らってるので1点取られて『2-1』でリード! こちら有利ですよ!有利!」
「楽しそうだね♥ でも僕は大体後半から巻き返すタイプだから、油断しちゃあ駄目だよ♥ ただ君から折角の神業を見せられたんなら、僕もそれに倣ってみようかな?」
――ヒソカは自分以外の誰にも属さない。
自分が最強だと理解しているからだ。
(……カードをばら撒いた? オーラの糸は張り付いてない…代わりに纏ってるのは…魔力?)
――というのは、過去の話。
ヒソカは既に
己が
(ヒソカの《
――ネテロも…そしてあのレイザーすらも。
立ち回り次第では、打倒が不可能だと断じる領域にはいない。
念での戦闘は、その能力や純粋なオーラ量の多寡だけで決まるものではないからだ。
(念のために『風』で吹き飛ばすか…いや『闇』で侵食して消した方が、確実に再利用を封じられるね)
――ただ真の最強は……そんな次元にはいない。
文字通りに桁が違う、
そんな存在を知覚した後に、自分が最強などと思うのは、思い上がりも甚だしい。
(ヒソカ側の動きはない……よし、ターゲッティングは完了。あとはまとめて…)
――故にヒソカは
属すことでより強くなれると、そう信じたから。
彼が属した先、それは―――
「《
(ああ…君にはもっと…僕という存在をもっと!! 知らしめたい♥ 刻み込みたい♥♥)」
――
▽ ▽ ▽
突如溢れる
それはかつて蹂躙され、尊厳を踏み躙られた数多の犠牲者達の怨嗟であり、残虐な狂人の業の歴史。
相手が丹念に積み重ね、築き上げたものを崩壊させる瞬間を愉しむ死神の顔。
己の永い鍛錬の歴史が、ただのゴミだったことに気付いたとある戦士の絶望の顔。
路傍の石を蹴るかの如く、単に邪魔だった程度の理由で殺された人間の、呆気に取られたような顔。
舞い散る血しぶきが、漏れ出る臓腑の香りが、断末魔の悲鳴が脳髄に気味の悪い余韻を残す。
数え切れぬ程の殺人経験の、強制的な追体験――
常人であれば精神が崩壊してもおかしくない
クーデリアは、
「顔色が悪いね♥ 随分頑張ったみたいだけど、隙だらけだよ♥」
そんな彼女に対し、暴虐的なオーラが宿った無慈悲な蹴りが迫る――
▽ ▽ ▽
(ああ…もう…最低だ…。見たくないもの見せられて、無理矢理体験させられて……肉体的にも精神的にも一杯一杯……これはもう、セクハラとかそういう次元じゃないですよ師匠…)
どうやらここは広場に隣接していた森林エリアのようで、吹っ飛んだ私の身体は、木にぶつかって止められたようである。ヒソカの攻撃は、ご丁寧にもあの時と同じ回し蹴り…しかも今度は振り抜いたようで…お陰で肋骨が折れて肺にまでダメージがあるのか息が苦しい。これではもう、激しく動き回るのは難しいだろう。
ただ今は肉体的なダメージよりも、精神へのダメージが酷い。もはや精神的
まさか触れずにも発現するように、範囲を広げる方向に進化しているとは思わなかった。……私もまだまだだね。どうしても魔法は、私の世界の常識で考えてしまう。この世界の魔法は既に、私の世界の魔法を離れて独自の進化を始めている…。
もう既に、私のノウハウが通じる話では無くなって来ていることは、いい加減認めなければならない事実なのだと、そう認識を改めるべき時が来たのだ。
(リールベルトさんの脚が治ったあたりで、認識を改めるべきだったなあ……療術師が念能力者とタッグを組んでたそうだから、そういうもんだと流してたのが失態だったかな?)
まずは身体と精神を休めないとどうにもならないと、魔力消耗は度外視で『風』の付与を最大出力。二重の暴風のバリアを展開・維持して時間稼ぎに徹する。
それと同時に大小様々な石や岩が襲来して来ていたので、どうやらギリギリ間に合ったようだ。
植物ネットワークから聞こえる声からは、どうやらヒソカはカードからゲインしたそれらを弾丸代わりに次々と撃ち込んでいるらしい。
「ケホッ…うん…。ヒソカもカード使うんだね、だったら私も早く使おう。攻撃を防げてる…今がチャンスだもんね」
暴風のバリアを維持しつつ、手早く「ブック」と唱えて予め用意していたカードを手に取る。そのままゲインするのは…『天罰のつえ』。
「ヒソカ=モロウ!! クーデリア・リーフィス!!」
『天罰のつえ』を高く掲げて、互いの名前を宣言する。追体験させられた悍ましい記憶からして、あれ程の極悪人相手に私が悪人判定で負けるわけがない。元から100%勝つとは思っていたが…今では5000%の確信がある。
念のためもう二回ほど宣言したところ、急に攻撃の波が止んだ。植物ネットワークの声を聞くに、ヒソカは現在別の場所で戦闘を開始したとのこと。状況がよく分からないが、休息チャンスと判断して『風』の付与は止めて暴風のバリアは解除する。
災厄とやらがヒソカを襲っている間、少しでも身体と精神を休めないとね…。
▽ ▽ ▽
クーデリアを蹴り飛ばしたは良いがどこまで飛んだかはよく分からなかったため、飛んでいった方角に向けて道中にガムを張り付けながら飛び道具を仕込む。
あまり隙がない相手には手数で押すのが有効だと、経験則で分かっているヒソカらしい下準備である。
そこで弱っていそうなクーデリアを発見したので、いざゴムを解除としたその直後、クーデリアを中心として突如として暴風が発生! 吹き飛ばされそうになりながらも様子をみるが、どうにも風に阻まれて攻撃が届いていないようだ。
(でもこれ程の暴風の維持には、それ相応の魔力を消耗するハズ♦ あまり長くは続かないから…時間稼ぎが目的だろうね♥ それならこちらはお望み通りに待てば良い♥ どちらにしても彼女のリソースは削れるから、圧倒的にこちらが有利♥)
そう考え、暴風が解除されるまでは手持ち無沙汰に石を拾って投擲したり、新たな弾丸の仕込みをするだけに留めていたヒソカであったが…突如足元に埋まっていた不発弾が爆発!
その後も吹き飛んだ先で暴風に飛ばされた岩が激突したり、倒れ込んだ先でもう一つ不発弾が爆発したりと、どう考えてもあり得ないような不運が連続する。
傷付きながらも何とか立ち上がった場所にいたのは、大量の『ミノタウロス』をゲインして自己鍛錬に勤しんでいたベラム兄弟。ランクBの怪物であるミノタウロスは突然の乱入者に興奮してか、何故か一斉にヒソカに向けて襲い掛かる。ベラム兄弟もまた先日の御礼参りだと、怪物に呼応してヒソカに襲い掛かると大混戦だ。
ヒソカからすればクーデリアとの決闘の邪魔でしかないのだが…ここで潰しておかないと呪文カードで追い掛けてきそうな程の殺気の立ちっぷりである。
そのままヒソカは半強制的に、多対一の戦いへと身を投じることとなったのだった。
▽ ▽ ▽
休息をとり始めて大体8分後…。
随分と傷だらけになった師匠が、私のいる場所まで戻って来た。
(どうやら少々お怒りのようで……でも私の方が絶対怒ってるから、そこのところはおあいこだね!)
「君…『天罰のつえ』を使っただろ♦ 君は今まで、僕には意地でも『闇のヒスイ』を持たせなかったけど…だからと言ってこれは酷いんじゃないかい? 流石に仕込みではないと思うけど、他のプレイヤーとも戦うハメになったんだけど♠」
「因果応報ってやつですよ。それよりアレはなんですか? あんな半生上映会されても困るんですけど!? 身体より精神の方に負荷が掛かってますよ!」
「
「……正直即座に忘れたいですけど、目を背ける気は無いですよ。それに、私が弟子になってからはかなり控えめになったと思いますしね。…つまり私は、殺人鬼の更生も出来る英雄様って訳です! いやぁ…多才すぎて困っちゃいますね!」
強がってはいるが…体調は万全には程遠い。それはヒソカも同じであり、これ以上はもうあまり、互いに戦闘らしい戦闘は出来ないだろう。であれば、私がこれから取るべき選択肢はもう一つだけだ。
「
「ふふ…ふふふふふ♥ 君からそんな情熱的なお誘いを受けれるなんて……ああ♥ そんなの♥ 受けるに決まってるじゃあないか♥
ただ史上最高とは言うけれど、それはレイザー戦で見せた、あの合体攻撃よりも凄いものなのかい? それとも、あれは複数人だから対象外かい?」
「……威力的には全く及びませんが、それ以外は明確に上回っている代物です。師匠には特別に、見覚えのある『最強』の片鱗を見せてあげましょう」
そう言って取り出すのは…若干の白が混じった、青い小さな宝玉。
「二つの世界を跨いでの世界初。光栄に思ってくださいね?」
キルア(さっきから何やってんだ…アイツ?)
※ピタゴラ災厄スイッチ状態のヒソカを見て
クー子を(精神的)レイプしたヒソカは絶許だったので、相応に酷い目にあってもらいました。
まあ快楽殺人鬼と救世の英雄では、悪人度比較では勝負にもなりませんね。
多分あと500回は宣言してもお釣りが来ます。