大体普段の倍くらいあります。
長編エターなし完結記録更新中!
「ラナ! 氷雨! こっちだよー!!」
「「クー子!!」
私の呼び掛けに即座に反応した二人が、私の近くにまで駆け寄って来てくれた。ラナから迸るエネルギーは、最早観測することすら徒労に思える程に強大であったが、そのエネルギーも私との距離が縮まるにつれて急速に減衰。三人で抱き合う頃には、念獣を全吸収した後のレイザー程度の出力にまで収まっていた。
存在のスケール感があまりに違いすぎて感覚が麻痺してくるが…どうやら私が知らない間に、完全なオン・オフではないセーブモードを覚えたようだ。
(背中の翼がロードの身体くらいに小さくなってる…そこからのザックリ計算だと…減衰率は大体八万分の一くらいかな? うう…再会できて嬉しいのに、つい戦力分析しちゃう……この世界で随分と荒んじゃったなぁ私。
……あーもうこの戦闘狂馬鹿女が! 誰の影響だ! 今はそんな状況じゃないんだよ!)
「迎えに来てくれて、本当にありがとうね…二人とも。
私は…ずっとずっと…皆と会いたかった!
片時すらも、忘れたことなんて無かった!」
気付けば涙がボロボロと出て来る。
それは一度自覚すると、もう止まらない。
目の前が滲んで、鼻水まで出て……今の私は絶対に酷い顔だ。
「私さ、頑張ったんだよ!? この願いを叶える魔人さんの入手にどれだけ苦労したか……命懸けで戦ったり…お金を沢山稼いだり…プロハンターになったり…この世界に魔法を広めたり…その過程で私たちの今の使命、星の寿命問題解決の手段まで身に着けた! それ以外にも、もう、色々! 途中からは一人じゃなかったけど、それでもずっとずっとずっと!!…グスっ…頑張って…来たんだ。一年以上…ずっと…。」
「……知ってるよ。クー子はずっと『元の世界に帰る』って、それだけは一貫して言い続けてきたもんね。僕は…それが聞ける度に、飛び上がる程に嬉しかった。この世界でどんなに仲間が増えても、どんなにお金持ちになっても、僕たちの世界を忘れないで、ただただ僕たちのことを思い続けてくれていた。」
「うん。私もそうだし…今この場にはいないけど、他の皆も知ってるよ。ちょっと変わった女の子と『約束』してね……その約束を守る代わりに、クー子のことは、夢で見てたんだ。」
「……ゆめ?」
周りも気にせずワンワンと泣き喚き、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を二人に拭わせながらも、異世界で頑張る私を夢で見ていたと宣う二人に、その言葉の真意を確認する。
「そう、夢。流石に全部を見てた訳じゃなくて、かなり断片的にだけど……ヒソカって人の弟子になったり、ハンター試験で走ってたり、この世界に魔法を広めたり……一人一人が確認出来た情報は少なかったけど、七人で集めればそこそこ解像度高めに状況は把握出来たよ。夢の頻度は月三回とかだったから、内容はかなりダイジェスト寄りだったけどね。」
「リールベルトって人にクー子が悪女ムーブかましてた時はドン引きしたね! あの時は氷雨と夢の内容が被ってたんだよねー! 感想も同じだったし!」
「うん。あれはちょっと…僕もどうかと思った…かな?」
「あー! やっぱり二人ともあの時見てたんだ! 『見損なったよクー子……』て絶対言われたと思ったし!!*1 そんなことないもん! ギブアンドテイクの関係だもん! ほら見なさい、今じゃもう私そっくりの実況ちゃんと、すっかり距離を縮めたあのリールベルトさんの幸せそうな顔を! 美人の彼女にフロアマスターの座も合わさって、もう人生勝ち組薔薇色確定! 私に悪女要素なんてどこにもないってこれで分かる!」
……女三人寄れば姦しいとはよく言ったもので、ギャラリーも気にせずそのままワイワイギャイギャイと騒ぎ立てる私たちを止めたのは、完全に放置されて所在なさげな魔人さんの一言だった。
「あの…もうこれで1つ目の願いは叶えたという判定で良いか? 叶える願いがあと2つ残っているのだが…」
「「「すみません。騒ぎ過ぎました。」」」
周囲の皆様方は仲間との再会に心から喜ぶ私のために、空気を読んで黙ってくれていたようであるが…随分と時間を使わせてもらった。良い感じに涙も収まったし、ここからは声を抑えて見守りモードの方がいいだろう。ゴン君のお父さんにも会えそうだしね。
ラナが居ればもう不安を感じる必要もないし、折角元の世界への帰還が確定したのだ。せめて魔人が消えるまではここで見届けてもいいだろう。それこそ元の世界に繋がる裂け目は、今もずっと開いたままなのだ。
……あれ? 変だな。確かに裂け目は残ってるけど…あんな場所にあったっけ? もう少し左奥だったような…? う~ん…単純な視覚の欺きだけでなく、認識すら歪んで違和感が減っていくこの感覚は……。
「ねえ…あれって氷雨の仕業…だよね? さっきラナが言ってた約束とやらが関わること?」
「流石はクー子。一年以上ご無沙汰なのに、それでもバレちゃうか。それで質問の答えだけど…まあ、そうだね。それが正解。実際に会ったのはラナだけだけど、吃驚するくらい可愛い白髪の女の子が急に目の前に現れて、クー子の様子を夢で見れるようにする代わりに、もし私たちがクー子を迎えに行けるようになった時は、異世界の人間をこの世界に入れるな…て内容の契約を結んだんだって。」
「そ…そんな事があったんだ…エルドじゃなくてラナを狙い撃ちにする辺り、私達のことに詳しそうだねその子。」
「…そうなのかもね。急な話を勝手に契約したラナもラナだけど…クー子が異世界に渡ったと、やっと確信を持てた頃の時期だったし、少しでも情報が欲しいと思っていたのは皆一緒。独断専行には少々厳しい僕らの隊長ですら、ラナを褒めてたくらいの一大イベントだったよ。あれは。」
私の小声にしっかり小声で応対してくれる氷雨であるが、内容は中々に重要な話だ。
まず間違いなく、その約束…もとい契約を結ばせたのは、ノルンという器の女の子…もういいや、ぶっちゃけ
(ロードはどう思う?)
(これで違ったら、我はもうこの世界に残って一介のマウスとして余生を過ごそう)
(つまり確定と…)
少なくとも私は誰かを異世界に連れて行く気は最初から無かったけど、
うん……無理だねコレ。多分レイグレンでも厳しい。
師匠は残念。何事も、諦めが肝心なのである。
(でも折角の裂け目が近くにあるのに、ヒソカ側からは特に動きが無いね。…なんでだろ? 途中で止められる可能性は高いにせよ、割とそういう過程すらを楽しみそうな人だと思っていたのだけど…?)
▽ ▽ ▽
「よ~しよしよし! 1000個の願いの中で、一番の難関を乗り越えたぞ! 気まぐれなのに選んでしまうのは不思議よなあ…いや、儂が気まぐれだから選んだのか!? まあ良いお次だ!……ほう。『ジン=フリークスをこの場に連れて来る』! 父親に会いたいと願う息子の清らかな願い! 今ここに叶えて進ぜよう! ふんっ!!」
魔人がグイッと腕を持ち上げる動作をすると、どこからともなくゴン君の目の前に一人の男性が出現。その直後にゴン君が、「ジン!!」と叫んで捕まえていたので、彼がゴン君の父親とみて間違いないだろう。急に転移してその直後にゴン君に捕まったことに加え、セーブモードの今ですら人間を辞めてるレベルの存在感を放つラナにまで遭遇して心底驚いているようであるが…それでも表面上は何とか平静を保てていたのは、流石は実質トリプルのプロハンター様である。
顔立ちも結構似てるなーと思って眺めながらも、私の方からゴン君の方に近寄っていく。元世界の仲間の三人で盛り上がってばかりであったが、私とキルアを紹介したいというゴン君の言葉を、私は勿論忘れていない。
「オイオイオイ…マジか…!? こいつは『気まぐれ魔人』!! つーことはセットで『リスキーダイス』か! くはぁーやられたぜ……まさか『磁力』や『同行』じゃなくてそっちで来るとは…。ただつまり、お前は俺が作ったゲームをクリアしたってことだな! しかも俺の想定すら覆して、こうして捕まえられちまったって訳だ。………あーその…なんだ?…優秀なハンターに育ったみたいで、俺は嬉しいぜ? 俺が作ったゲームは楽しめたか?」
急に飛ばされてきて迷惑じゃないのかな? とも思ったけれど、どうやらそれは杞憂なようだ。ジンさんは先ほどから、まるで父親らしくない気恥ずかしいような初々しい反応を見せているが、それでも言葉の端々からは子供の成長を純粋に喜ぶ親のような感情が見え隠れしている。ゴン君は会話もそこそこに「ジンに紹介したい人がいるんだ!」と、キルアの手を引いて紹介を始める。キルアは照れているのか少し赤くなっており、これではまるで婚約相手の紹介である。
「紹介するよ! こっちがオレの最高の友達!キルア!! 去年のハンター試験中に出会ってさ。それからずっと一緒なんだ! キルアは本当に最初っから凄くて――」
ドストレートな好意全開に紹介され「恥ずいからよせ!」と窘めるキルアを他所に、褒め殺しはエスカレート。最後は限界が来たキルアがゴン君の頭を殴って強制終了した。
「たーっ! 殴らなくたっていいじゃん…。えーとじゃあ次! こっちのお姉さんが…」
「クーデリア・リーフィス…だろ?
俺の息子が随分と世話になったな…会いたかったぜ?」
「あ…はい。お初にお目にかかります。既にご存知のようですが…私がクーデリアです。息子さんとはキルアと同じく試験中から縁があり、今でも同期のプロハンターとして、こうして仲良くさせて頂いております。ゲームクリアの最中も、彼には大変協力してもらいまして…」
「あーそんなに畏まらなくてイイ。少なくともこの件については、寧ろ俺が頭を下げたいくらいだ。『紫華の魔法理論』は俺も読んだし、適性なんざ無くても色々参考にさせてもらったくらいだからな。ただなあ…諸々の窓口がこの
急に名前を出されたからか、今まで近くで黙って見ていただけのパリストンさんが口を開く。
「酷い言い草ですね。本が発刊されて、魔法が世界に広まったのは、ボクの発案からですよ?」
「別に功績にケチ付ける気はねーよ。ただ、
「何のことやら、まるで分かりませんね。
ただ…貴方もボクと遊んでくれるだなんて、それは嬉しいですねぇ。」
(……何やら急に不穏な空気が漂ったけど、この場ではこれ以上には発展しないみたいだね。完全に初耳の騒動もあったみたいだし、私が最後に残した言葉じゃ駄目だったのかなあ…。それとも、積極的に遊び相手を増やす方向にシフトしたということだったり?)
パリストンさんとの会話はそこで切り上げ、改めてゴン君と私に向き直るジンさん。今度はゴン君による私の紹介を、最後まで遮らずに聞いてくれていたが…どうにもゴン君の紹介はむず痒い。キルアの気持ちも分かる気がするなあとモヤりながらも、ゴン君の褒め殺し攻撃を甘んじて受けるのだった。
「――だからもうオレずっと憧れてて…グリードアイランドだってお姉さんに買ってもらって…最初から最後までおんぶに抱っこで自信失っちゃうくらいだったんだ! でもその時にお姉さんが〜」
(ふええ…キ、キルア助けて…私も強制終了させたいくらい恥ずかしいんだけど!?)
一方その頃、私の視界の端では我関せずとほっつき歩いて、いつの間にかキルアと親し気に話し込んでいるラナと氷雨がいた! 何故か揃って二人ともが、キルアの頭を撫でたがっているようである。
▽ ▽ ▽
「君がキルアだね! うちのクー子が随分とお世話に…いや、むしろお世話をした方なのかな? どっちでも良いか! それよりもう、超可愛い!! ツンツンした白猫みたい! このちょっと生意気な感じがグッとくる!」
「ラナ…なんかテンション変になってるよ。ああ、ゴメンね騒がしくて…僕もラナも、クー子を迎えに来れて、内心落ち着いていられないみたいなんだ。」
「ああ別にいーよこんくらい。オネーサンさん達がクー子が言ってた仲間なんだろ? 剣士のラナさん…と幻影師の氷雨さん…で合ってるよな? でも氷雨さんと俺ってそんな似てるかな? なんか勝手に重ねられて弟扱いされたんだけど…」
「僕も急に『こっそり妹扱いしてた』とかカミングアウトされた時は、爆笑し過ぎて過呼吸になったもんだよ…まあ僕らのパーティはクー子が下から二番目だからね。あれは姉ぶりたいが故の言動…そう思えば可愛いもんでしょ?」
そう言って極自然にキルアの頭をよしよしと撫で始める氷雨。実は彼女も、心の何処かでは姉ぶりたいのかもしれない。更にそこにラナも加わったことで、キルアの髪はもうワシャワシャである。
「いや末っ子扱いすんな!」と抗議する声も虚しく、撫でられ続けるキルアだったが…ここでラナの手がピタリと止まる。
「ん〜? なんかノイズを感じるなぁ…存在に異物が混じってるというか…頭に何か刺さってる? 多分針かな? 私ならスッと抜けそうなんだけど、抜いちゃっても大丈夫?」
ラナの確認の言葉に「針」が含まれたその瞬間、キルアの視線が反射的にイルミに向かい、イルミの視線は横に逸れた。何か言いたげだったキルアは一旦言葉を飲み込み、代わりに「ダイジョーブだからさっさと抜いて欲しいな!」と元気よくお返事する。
そこからは文字通りの神速の早業。「えいっ」という軽い声の後には、血の一滴すら零さずに、キルアの脳から一本の針が摘出された。
「多分効果は暗示の強制かな? 悪意は薄めで庇護目的ぽいから強くは言えないけど…それでも酷いことするなあ。キルアは大丈夫だった? 痛くない?」
「ああ…大丈夫…どころかすっげースッキリした! 完全に生まれ変わった気分だし…今ならゼッテー単独で『
「…キルの発言はまあ良いとして、これは家族の問題なんだから、部外者が余計なことはしないで欲しいな。強ければ何をしても良いわけじゃ――「現役の殺し屋が何言ってんのさ! 道徳語るなら先に廃業してこい!」
「あー殴っちゃった……お兄さん吹き飛んでったけど大丈夫? 後でラナに謝らせようか?」
「いや良いよ別に。兄貴にはあれくらいが妥当だし…死んでないだろ…多分。
……それよりピオスさんはいーの? いつもなら助けに行くとこだけど?」
「私も人の子ですので…今日くらいは見て見ぬ振りを致します。
それより先にキルア様ですね。血も出ていないみたいですが、念のため治療をしておきます。」
▽ ▽ ▽
――そこからたっぷり1時間後。
「あの……最後の願い…良いですかな?
願いが叶う瞬間なのに、普通ここまで放置するかね?」
「重ね重ね申し訳ありません…」
折角だからと集まった方々との追加の歓談をしていたら、随分と放置してしまった魔人である。もう既にあからさまに不機嫌な様子なので、今度ばかりは脱線しないぞと心に決めて、続きをお願いする。
「儂としてももうさっさと帰りたいのでな。ほれ『魔女の若返り薬』だ。それではサラバ!」
「あ…ありがとうございましたー!!」
最後に叶った願いは『魔女の若返り薬』…水増し無しで願いを1000個近くも用意するのは大変なので、取り敢えず指定ポケットカードは全部書いとけという、投げやり思考の産物からのヒットである。小人さんは私と同等の思考をする筈だからね。仕方ないね。
とはいえこれは恐らく大当たりの部類であろう。なにせ1粒1年…最大100年分も若返りが出来る薬なのだ。魔法でも念でも、ここまでの性能を実現するのは、非常に難易度が高い代物であろう。それでも無理に狙うことを断念したのには理由がある。何しろダイスが一回でも外れれば、目出度い門出の日が一転してお通夜会場になりかねないのだ。それを恐れて保留したものの一つが、こうして入手出来るのは、非常にありがたいことである。
100粒入っているので50粒は私たちの世界で、残り50粒はそちらの世界で使いましょうという決まりで均等に分けたのだが…ビスケさんが凄い物欲しそうな顔をしている…。『ブループラネット』を優先したからこそ、流石に一人でがめつくもう一種を望むことは自重していたようだが……今にもタガが外れそうだ。
向こうは管理が大変だろうなあと他人事のように思いつつ、こちらの薬は氷雨に預ける。私は荷物が多いので、これ以上は持っていられないのだ。
「氷雨、もう帰るし、幻影解除お願い。」
「了解。結構時間使っちゃったね…でもクー子がお世話になった人達とも話せて、僕も楽しかったかな?」
「帰ったら国を挙げての大宴会だよー! クー子の誕生日も近いし…折角なら一緒に祝っちゃおうか! 沢山お土産があるみたいだけど……その辺は準備期間中に全部片付ければ万事解決!」
「それは嬉しいけど…私は私で帰ったらやりたいこと沢山あってさ。大規模な宴席は来月以降にでもお願いしようかな…帰還祝いと誕生祝いは仲間内だけでひっそりやるじゃ…駄目?」
「僕はそれで良いよ。あまり騒がしいの苦手だし…持ち帰り物品もその一つ一つが世界に激震が走りそうなものばっかりだからね。クー子が見つけた星の寿命問題解決の糸口も皆で共有しなきゃだし…」
「ふ…二人とも真面目過ぎる…これじゃあ私だけ馬鹿みたいじゃん!? クー子も宴会大好きだよね!? どうしちゃったの!?」
「何事も、優先順位というものがあるんだよラナ……ただまあ、今夜くらいは皆で集まって、しっかり飲むから心配しない!元世界初!無敵の『
「オフ状態なら普通に酔うからね、ラナ。」
私が皆のことを忘れなかったように、皆も私のことを忘れていなかったようで……やっぱり仲間って良いもんだよね。
そう思いながらも、これからは振り返らずに帰路につく。帰還メンバーは、私、氷雨、ラナ、そしてロードの三人と一匹だけだ。
(クーコばいばーい!)
(ばいばーい!)
恐らくリールベルトさんの肩に乗ってるであろうチュー助とまーちゃんからも最後のお別れが飛ぶ。私は手を少し上に上げるだけで、その返事とした。
お別れはきちんと済んで、更にその上で想定外の歓談タイムすらあったのだ。これ以上の滞在は、流石に蛇足というものである。
「やあ♥」
等と考えていたら、裂け目の目の前にヒソカがいた。どうやら氷雨の幻影が解除される前から、ずっとここにスタンバイしていたようである。
(ラナが現れたあたりから見かけないと思ったら…でもなんでこんな所で待っていたのかな? ラナは裂け目を潜ろうとする人だけを警戒してたみたいだけど…反応が無かったってことは、本当に待っていただけ?)
「もしかして、最後にお別れを伝えるのは自分だー! てやつでしょうか? それとも異世界に渡るのをご希望でしょうか? 残念ですが、こちら側にも色々と都合がありまして……師匠を異世界には連れていけないですよ?」
「分かってるさ♥ この裂け目は…目には見えないけれど、オーラとも魔力とも異なる不思議な力で覆われている♦ その力はどうにも僕を拒否してるみたいでね…ちょっと悲しくなってきたところさ♠」
ラナに目配せするとフルフルと首を横に振るので、ラナの力では無い…となるとまあ、容疑者は一人だろう。今からそのご尊顔が気になるところだ。
まだ見ぬノルンちゃんに意識が向いていたところ、ここでヒソカが何かを取り出す。……思わず身構えて『凝』をしてしまうが、不審なものは何もなく――その手にあるものは、ヒソカが愛用していたトランプの一枚と、紫色の一本の造花だけだった。
「クレマチスの造花とジョーカーさ♥ この世界を旅立って異世界に帰る。そんな旅路への…君の師匠としての最後の餞別♦ 受け取ってくれると嬉しいな♥」
瞬間――私の脳内に溢れ出るは……この世界の観光名所と思われる土地の光景。珍しい動物が沢山いる秘境、世界最大の大瀑布、世界樹の天辺からの景色等……忙しくてまるで巡れず、体験することが出来なかったこの世界の姿である。
それだけではない。私とヒソカとの戦いの記憶、念を覚えたての頃の鍛錬の記憶、バンジーガムで拘束して筋力を鍛えている時の記憶、私との他愛の無いやり取りの記憶――そんなかけがえの無い大切な思い出が…今ここで、改めて追体験させられる。
「君には紫の花がよく似合う♥ クレマチスの花言葉は…『旅人の喜び』♣ 今の君にはピッタリかと思ってね♥ そのジョーカーは…まあ、オマケさ。僕だと思って、ダンジョンの探索時には持ち歩いてくれると嬉しいな♥」
そんなヒソカからの最高に気の利いたプレゼントに、ラナが口笛を吹き、氷雨は「クー子は罪な女だねぇ…」とポンと背中を叩く。
(いやまさか…ゲームクリア後にフラフラしてたのが、全部私の為だとは思わないじゃん! 猶予期間中、世界中を旅してせっせと景色集めしてたってこと!?)
「あ…あの…ありがとうございます…。その、大切にしますし、非常にありがたいのですが…何故今このタイミングで? それこそ魔人が、私をヒューンと元の世界に帰していたら、渡す機会は無いままにお別れでしたよ?」
「ただの勘さ♠ 君に出会ってからというもの、どうにも僕の勘は外れたことが一回も無くてね。ラナが来て、君を直接迎えに来る…それだけは絶対に外さないという確信があったのさ♥ そして現にそうなった! …実はチョット、ドキドキしてたのは内緒だよ♥」
……随分な博打を打つ師匠であるが、これもまた『リスキーダイス』で最後の博打をした私に合わせた結果であることに、はたと気が付く。
(確か私は過去に、この人を『鏡みたいな人』って評してたなあ……やっぱりそれは、外して無かったってことなのかな? 駄目だなあ…こんなことされちゃうと、私もそれ相応のお返しをしないといけない気分になってくる)
私はおもむろに、紫華の称号を示す紫の華の意匠を持ったブローチを取り外す。ラナと氷雨が目を見開くが…生憎、今の私にはこれ以上のお返しが思い浮かばない。
「とても素敵なプレゼントでしたよ。私の方からはこちらを贈らせて頂きます…。私が『紫華』となった際に賜ったこのブローチには…元の世界での記憶に加え、この世界での記憶までもがぎっしりと詰まっています。
ふふ…《
私のまさかの行動に、パクパクと言葉にならない氷雨とラナを引っ張り、裂け目の前に立つ。私はこれから…紫華ではないただの付与師として、この世界を去るのだ。
「ええ…と…。ほ、本当にいいのクー子? あれ、完全に一点物だよ? クー子のトレードマークなくらいだったのに…王様が聞いたら泣いちゃうよ?」
「まあ別に、ブローチ無くてもクー子はクー子だし、似たものはまた用意してくれるでしょ。僕がパーティに入った時点では、クー子はまだ紫位じゃ無かったし?」
「うーん…それはそうなんだけどさー。まさかクー子がここまで入れ込むなんて衝撃……隊長が聞いたら動揺激しそう」
「それは完全に同意。実質寝取られ。」
「氷雨はそんなこと言わない!!」
妹分の口の悪さに若干の衝撃を受けつつも、最後に一度だけ振り返り、集まってくれた皆の顔を、端から順に眺めていく。
ゴン君、キルア、ビスケさん、リールベルトさん、実況ちゃん、チュー助、まーちゃん、カストロさん、メンチさん、ツェズゲラさん、バリーさん、ロドリオットさん、ケスーさん、ゴレイヌさん、パリストンさん、ピオスさん含む私の生徒200人…そして、ヒソカ。
イルミについてはまだ復帰出来てないのか…それとももう帰ったのか未だに不在。ジンさんは今のレイザーの埒外な強さを聞くや否や「久々に遊んでやるか!」と飛び出して行ってしまった……まさかゴン君から逃げたのではあるまいな?
レオリオさんは今日が医大の受験日とかで泣く泣く諦めたし…クラピカさんも連絡が付かずに結局会えず仕舞いと、何でもかんでも思い通りには行かないものである。
ただ、私の旅路はこれくらいが丁度良い。何故なら他ならぬ私自身が、完璧には程遠い存在なのだから。
「ありがとう。お元気で。」
最後の言葉は小さく呟くように。前を向き直した私は、今度こそ歩みを止めずに、裂け目を潜っていく。集まってくれた人達のお礼の言葉やお別れの言葉が背中に次々と刺さってくるが、私はもう、振り返らない。
完全に潜り終えた後、裂け目が独りでに閉じる感覚がする。広がる景色は、懐かしの王都ソルディア…の修練場。ラナとの稽古によく使っていた、馴染みの深い場所である。
そこには既に、迎えに来た二人以外の仲間達の姿が揃い踏みして、私の帰りを待ってくれていた。
「みんなただいま!! 紫華の付与師改め、とある付与師! 489日ぶりに帰還しました!!!」
これにて本作は完結です。
後日談とかやるかは現状不明。
皆さんの評価・ここすき・感想・誤字報告・メッセージのお陰で、毎日投稿以上のペースで完結まで投稿を続けることが出来ました。この場を借りて、改めて感謝申し上げます。一次創作小説をクロスさせた二次創作って結構な地雷要素だと思ったのですが、それでも結構な方に好意的に読んで頂けたかと思いますね!
クロス元作品の方も気付けば累計PVが倍くらいになってましたので、そういう意味でも投稿して良かったなあと感じております。
最終話はちょっと詰め込み過ぎましたね…何度かリテイクも入って大苦戦しましたが、一応納得のいくものはお出しできたかと思います。
最後に感想なり評価なり頂ければ、作者がもっと喜びます! 読了ありがとうございました!