絶は疲労回復であって治癒促進効果は無いようなので、7話は一部改訂してます。
私に……一切の勝算が無い訳では無い。目の前にいる男は
ヒソカさんは……強い。どうやら一度解禁して開き直ったのか、纏うオーラの量も、心なしか先ほどよりも更に増えているように感じる。互いに『纏』であっても倍近い差。そして今では……10倍はあるか? どう考えても同じ土俵で戦って良いような相手ではない。……そうだ、思考を切り替えろ。相手は
──躊躇いなく殺して良い敵性体。そう、認識してしまえば良い。
相手を人間では無く、
ダンジョン最下層の階層主を想定、魔力の温存も一切考えない。
うん…それならきっと何とかなる。
さあ、ここからが私の本気。
『紫位』の探索者の――
正真正銘の全力である。
▽ ▽ ▽
観客席にカストロという男がいた。その男は、かつてヒソカに敗れてからはそのリベンジを誓い、あと2勝……フロアマスター挑戦にほぼ王手が掛かる段階まで登り詰めた、天空闘技場200階最強候補の一人に数えられる程の凄まじい念能力者である。彼は今日、200階の闘士の中でも上澄みと思われる、不可思議な能力を持つクーデリア嬢。そして何より、宿敵ヒソカの久方ぶりの試合ということもあり、ダフ屋が横行し高騰するチケットもどこ吹く風、楽々入手し観戦のために直接足を運んでいた。
……そこで彼は見てしまった。『念』の概念を知り、超常的な現象を知覚しても『そういう能力』として冷静に判断を下せるようになった筈……しかし、そんな既成概念を覆すような──―
石造りの闘技場が突如として
最早ここまで来ると「爆弾でないものを即席で爆弾にしました。」と言われた方が納得がいく。これは本当に『念』なのか? 念能力とはここまでのことが出来るのか? と、自身が踏み込んだ世界の奥深さに戦慄してしまう。……私は彼女に勝てるのか? そしてその猛攻を嬉々として防ぎ、最悪な足場の沼地の中ですら暴力的な脚力で蹂躙し、彼女を追いこみ続ける
──―この日を境に『虎咬拳のカストロ』は天空闘技場から姿を消す。当時既に8勝1敗。『フロアマスターに最も近い男』と称された男の突然の失踪に、周囲は大きく騒然とした。それから暫く……数多の魔獣が住み着く危険な山中、幾本もの大木を
▽ ▽ ▽
蹴りの一撃を貰ってからは一撃たりともクリーンヒットは無い。それだけ聞くと一見有利に進めているようにも思えるが、実際は違う。
身体に『念』を付与して『纏』と『周』の維持、衣類と靴に『風』を付与して浮遊の制御、そして杖にあらゆる属性を付与して状況に合わせた有利な盤面を構築、そして時折飛び道具への付与と牽制……正直言って脳がパンク寸前である。
与えているダメージはこちらの方が多い筈……なのに
「あ~~~~! いい……!! いいよ!!! 君はどこまで僕を悦ばせるんだい? その眼! その心意気! そしてその強さ!! 僕をここまで理解して、一緒に踊ってくれるなんて、ああ……こんなの君が初めてかもしれない♥」
左腕は折れて使い物にならず、全身にはガラス片が突き刺さり、その両脚もまた沼地での度重なる無茶な移動を代償として擦り切れ始めている……。ただ、明らかに追い詰められているようで、動きが鈍る気配は一向に見せない。あまりにもタフな敵だ。
(多分こいつは、自身がもう動けないと自覚しない限りは止まらないタイプの階層主(ボス)……確実に殺しきるためにはそれ相応の隙がいる。)
──―後になって思えば、この時は私も相当ハイになっていた。未来の師匠を殺してどうすんだこの馬鹿飲兵衛。素面でこれとかもう救いようが無い。…しかしどうにもこれが最適解だったようなので、やはり世界というのはイマイチ良く分からないものである。
「足場を沼地にしておいて自分は浮く。僕の『
会話はこれで最後。
流石にもう、終わらせよう。
「魔法使いじゃなくて……付与師ですよ。これからは覚えてくださいね。そう、私は…」
「『紫華の付与師』!!」
ここからは
「服に! 『火』を付与!!」
「っ……まさか!?」
「燃え盛れ!!!」
「~~~~~~~~~!!」
声にならない程の熱傷・火傷に苦しむ声。我ながらここまでやるかとも思ってしまう。でもやる。だって目の前にいるのは『魔物』だから。私は本気で行くと心に誓い、そして本気で命を賭けて戦っている。それが最善最強の戦術であるならば、『やれるのにやらない』選択肢なんて、無いと断ずる。どんなに泥臭くても、どんなに残虐であっても、勝たなければ、
前後不覚になる程の深刻なダメージを負った筈のヒソカに、駄目押しとばかりに『突』を付与した杖を槍のように突き出す! しかしそれをヒソカは即座に回避、そのまま左脇に挟み込む形で杖を固定する。何という精神力かと目を見開くが、ヒソカの目は紅く血走っている。……どうやら向こうも限界が近い。
「やっと捕まえた♥ 可燃物がもっとあったら、僕も死んでたかもね♣」
『周』で強化されたカードが私の杖腕を狙う。……限界までダメージが蓄積していてもなお、こちらの杖は全く動かせそうにない。ここで腕を切断されてしまえば、勝ち筋は完全に消滅する。そう判断した私は躊躇いなく杖を手放し、後ろに跳ぶ。そして持ち込んだ最後の装備である一本のナイフに持ち替える。
その隙にヒソカは杖を実況席まで投擲……少なくともこの試合中に杖を回収することは不可能だろう。
……きっと次が最後の攻防となる。
未来の師弟の直感は、ここに完全に一致した。
▽ ▽ ▽
(今の私は……
(
こんな時に……いやこんな時だからこそ。
今以上に強くなるための理由は振り返っておくべきなのだ。
「『土』を付与──固まれ!」
沼地に手を置き付与を上書きすることで、ヒソカの足が埋まっている箇所を含めて沼地が急速に固まり、その身動きを封じる。彼の脚力であれば脱出にそう時間は掛からないだろうが、当然そんな時間は与えない。彼もそれが分かっているのか、無理に抜け出そうとはせず、そのまま私を迎え撃つ構えだ。
急速に間合いを詰める私に、唯一無事である右腕での痛烈なカウンターが迫るが、私には沼地が無くなり、浮遊を切った分の脳のリソースが空いている! 私は風で再現した『
(これが私の! 今の全力!!)
「ナイフに『斬』を付与!! 斬り、裂けろぉおおおおおお!!!」
『斬』を付与したナイフの刃は超硬質な魔力刃へと変質し、剣と形容すべき程に射程が伸びたソレが、オーラの防御等まるで存在しないかの如く、ヒソカの右腕……その上腕を容易く切断する。
……これで実質両腕を奪った。幾ら何でもこれ以上の続行は本当に殺してしまう。そう判断して少し気を抜いた。…果たしてそれが私の失敗だったのか。それともそれすら見越していたのだとすれば、ヒソカが一枚上手だったのか…。
──―斬られた筈のヒソカの右腕からオーラが伸び、私の顎に付着する。
(馬鹿な!?)
あり得ない。斬れる前なら兎も角、
──―ゴム、解除♦
あり得ない軌道で私の顎に一直線に引寄せれられる腕。回避は不可能。そして当然受けも間に合わず、切断したヒソカの右腕が顎にぶち当たり、的確に脳を揺らす。
(…念……奥……深………………)
思考が纏まらず、身体への『念』の付与も切れる。
景色が揺れて、意識が朦朧とする。
「100点♥」
意識が闇に沈む直前、そんな声が……聞こえた気がした。
WINNER ヒソカ!!
・試合映像が残る天空闘技場
・マチも裏で観戦
・ヒソカの上半身の服が全焼
※背中のテクスチャの耐火性能により物語が分岐します