どうぞ暖かな目で見てくださると幸いです。
Case1『始まる』
悪夢を見ている。
そうして、悪夢は続く。続いて、続いて、続いて続いて続いて続いて。そして一つのことを悟った。こんな悪夢は現実じゃない。ただの夢なんだと。その事実に気付いた途端に体が浮上するような感覚に襲われ、やがて意識が途絶えた。
「っ、はぁッ!!...夢、か」
勢いよく飛び起きる。なんなんだあの悪夢は、あんな不吉な夢を見るようなことはしてないはずだ。寝る前にホラー映画を見たわけでもないし、日頃の行いも良い方だと自認してるんだけどなぁ。
そうして顔を洗おうとしてベッドを降りようとした時、一つの違和感に気づいた。いや、これは違和感ではなく明らかな異常だと言っていいだろう。そこはごく普通のリビングだった。ダイニングと繋がっており、真ん中には二人分の椅子と同じデザインのテーブルがあり、そこから少し離れたところにはテレビもある。少し生活感が薄いこと以外はごく普通の部屋だった。
だが、全くもってこの場所に見覚えがない。寝室のベッドで寝たはずがいつの間にかリビングのソファに横になっていた。そして、ここは自分の家ではない。だとすると寝ている間に誘拐されたのだろうか。それに寝る前は何も入っていなかったポケットに球体状のふくらみがあることが分かる。
「ん?何が入ってんだ。」
ポケットから出てきたのは上下が赤いクリアパーツで構成されており中間部には透明なパーツの奥に黒と深緑の異形がポーズをとっている拳より少し小さいぐらいの球体があった。
「これは...インパクトカプセム!?でも何でこんなとこに?」
中心部を覗き込んでみても特に機械のようなものはなく、見た目以上に重いわけでもないためサウンドカプセムではないようだ。今まで見てきたものより大きく、恐らく劇中で使われていたであろうプロップ版とは同じくらいのサイズだろう。少し変なカプセムについて考えていると廊下からこちらに向かってくる音が聞こえる。
「おっ!やっと起きたみたいだね。」
扉を開けて現れたのは少女だった。見たところ高校生くらいのようだが、ただの少女というには明らかに異質だった。
背中あたりから蝙蝠のような皮膜がある翼が、腰のあたりからは蛇のように艶がある黒い尾が生えている。そのどちらもコスプレグッズのようなチープさは感じられず、肉体の一部のように動いていることが分かる。だが、この少女の神秘性を際立てているのは此処まで悪魔の要素があるというのに頭上には
「あなたは一体...?」
「私は
「あなたもいつの間にか此処にいたんですか。なら、此処って何処も知ってるんですか?」
「そんな畏まった口調じゃなくて大丈夫だよ!それで、此処が何処か、ねぇ......えっと、とりあえず“日本” “3DS” “ブルーアーカイブ”って知ってる?」
日本と3DSとブルーアーカイブ?日本と3DSはともかく、いや3DSは古くないか?*1もう発売から十年以上経っているはずだが。それはともかくブルーアーカイブ...名前だけは聞いたことがあるが、何か関係があるのだろうか。
「全部知ってはいる。と言ってもブルーアーカイブは名前だけで、詳しくは知らないんだよな。でも、それらと今のこの状況と何か関係があるのか?」
「“日本”と“3DS”に関しては同じ場所から来たことを確認したかっただけであんまり深い意味はないよ。」
「深い意味はないのか。いや、ちょっと待ってくれ。今、同じ場所から来たって言わなかったか!?」
「あぁ、うん。言ったね。でもそれがどうかしたの?」
「君と俺が同じ場所から...なら君は一体何なんだ。今まで翼と尾が生えた人間なんて見たことも聞いたこともないぞ。」
「ああ!そういうこと。えっと、此処に来た時にこの体になっただけで、元々は羽も尻尾もないただのOLだったよ。」
「OLってことは、その見た目で年上か。混乱しそうだな。」
「えっ!もしかして君って未成年!?20くらいだと思ってたのに!」
「少し前に18になったばかりだ。そういえば自己紹介をしてなかったな。俺は
「よろしく!それで此処が何処かだけど、ここはキヴォトス。学園×青春×物語RPGのスマートフォンアプリゲーム、ブルーアーカイブの舞台となる場所だよ。」
「つまりここはそのブルーアーカイブというゲームの中ということなのか!?」
「そう! とは言ってもまだ実感がわかないだろうから実際に見たほうがいいかな。」
そう言いながらレイカはテレビの電源を付けた。そこに移っていたのは、高校生くらいの少女がリポーターやキャスターとして働いている様子だった。
彼女らが読み上げるニュースはミレニアムがHP弾*2を違法にしただとか、ゲヘナの投票率が5%を切っただとか、“超人”である連邦生徒会長がまた一つ難解事件を解決に導いただとか、まったくもって理解できないものだったが、此処が今までの常識が一切通用しない場所ということだけは理解できた。
「ブルーアーカイブは透き通るような世界観で送る学園RPGで数千もの学園で構成された学園都市キヴォトスで主人公である『先生』がそれぞれの学園に所属する生徒の悩みを解決していく物語なんだ。」
「その『先生』とやらは普通の教師とは何が違うんだ?」
「まずそもそもこの世界に生徒に勉強を教える教師は居ないんだよね。BDや学習ノートなどの教材を使って自主学習みたいな感じで勉強を進めていくから。そしてキヴォトスでは学園一つ一つが国のような役割を果たしていて、学園の組織がそのまま政府だったり警察の役割を果たすんだよ。」
「それってつまり、生徒が行政だったり治安維持を行うってことなのか!?」
「そうだね。さらにそれぞれの学園とは別に連邦生徒会って組織があって、そこではキヴォトスの全行政を担っていて超人といわれる連邦生徒会長を中心に12個の部署がキヴォトスの様々な事柄を管理しているんだ。」
前の世界では大人たちがやっていたことはこっちの世界では基本的に生徒がやっているのか。なら、この世界で大人は何をして生きているのだろう。
「さらにこの世界では、銃を持っていない人より全裸の人のほうが多いといわれるほど銃が普及してて、生徒たちが銃弾に当たっても痛いだけで済むから銃撃戦がそこら中で起こってるよ!」
「なんだこの世紀末な世界は...死なないとはいえ銃撃戦がそこら中で起きてる?北斗の拳がマシに見えるほどの治安の悪さだな。」
「あはは...後、生徒は私みたいに悪魔みたいな翼や尻尾が生えてる子もいれば、天使のような翼があったり、動物の耳があったり、角が生えてたり、そういうのがなんもない子がいたりするよ。基本的に生徒全員に共通するのは銃弾が効かないのと、頭上にヘイローがあること!」
「その
「やっぱり君もヘイローが見えるんだね!」
その言い方からすると、普通は
「生徒自身はヘイローがあるってことが分かるぐらいで、色や形とかの詳しいことは先生しか見えないんだよね。私たちが分かるのはもともとキヴォトスの存在じゃないからなのかも。」
「なんで俺達がここに来たのかも分からない以上そう考えるしかないのかもな。」
「そうだねー。今まで長々と言っていたけどまだまだ分からないことのほうが多いんだよね。でも、生徒を中心として社会が回っていることと銃撃戦がよくあることだってことを知ってれば大丈夫だし、その分ストーリーはもっと面白いよ!」
「ならよかったよ。それにしても、これがキヴォトスか。予想以上にとんでもないところに来ちまったみたいだな。撃っても死なないから銃撃戦が多発するわ、生徒が行政から治安維持まで行うわ、これからの行く末が不安になってくるなぁ。君はおそらく生徒になったから銃撃とか大丈夫だと思うが。だが俺はどうしたもんかな、1000%生身だし。」
「多分私の学生証と銃があったから私は大丈夫...だと思う。けど、君はそういうのなかったし、どうすればいいんだろうね。そういえば!それは君の?何かのオーパーツだったりしない?」
そう彼女が指さす先には俺の手に握られたインパクトカプセムがあった。
「これはオーパーツじゃない。インパクトカプセムだ。」
「インパクト...カプセル?」
「カプセ“ム”だな。これは仮面ライダーゼッツに登場する変身アイテムだ。」
「仮面ライダー!懐かし!小さい頃キバとか電王とか見てた~。今の仮面ライダーってこんな感じなんだね。」
「ああ、最近の仮面ライダーのアイテムには色んな遊び方があるんだ。作中ではドライバーに装填して変身したり武器に装填して必殺技を発動させたりするだけじゃなくて、単体でもカプセムごとに強力な能力を発動させることができるんだよ。こんな風にすれば」
「…………は?」
「なっ、なんで、湊くんの膝が壁に埋まってんの!?」
いやいやいや何がどうしてそうなったんだ!?壁に脚をめり込ませるだなんて俺ができるはずがないのに!いや待て、一回落ち着くんだ、冷静になろう。冷静に何が起きたかを思い出すんだ。
まず俺はインパクトカプセムを回転させた。レイカにカプセムの使い方を教えるためにだ。その後カプセムから音が鳴った。あのカプセムは音声ギミックが搭載されたサウンドカプセムじゃない、だから音が鳴るはずがないんだ。そして俺はその鳴るはずがない音に驚いた。驚いて反射的に動いてしまった、いや、動こうとしてしまったんだ。そうしたら何故か俺の脚は力を出し過ぎてそのまま膝が壁の中に埋まっちまったというわけだ。
「いやどういうことなんだよコレ。考えても全く分かんねぇわ。」
「だっ、大丈夫!?脚折れてたり血が出てたりしてない!?」
「いや、多分大丈夫...だと思う。アドレナリンのせいかもしれないけど全く痛くないからな。」
そう言いながら、壁の破片で怪我をしないようにゆっくりと壁から脚を抜いていく。予想通り脚には傷一つ無かった。強く押し込んでも痛みがないことから、内部で損傷があるわけでもなさそうだ。肉体が強化されてる?やっぱりアレは...いや、決めつけるにはまだ早い。一度試してみないと。
「確かに....大丈夫そうだね。でも何が起きたんだろう?いくら湊くんがムキムキだったとしても生徒じゃないただの人間にこんなことはできないだろうし...」
「生徒ならできんの???これが???」
「実際ストーリーの中では素手で壁を壊して脱獄した娘もいるし、全然できると思うよ!」
「素手で壁を壊して脱獄!?なんか想像以上に人間やめてんな。なら、もしかして君も素手で壁壊したりできるようになってるのか!?」
「うーん、どうだろう。この体になる前は普通だったんだけど、生徒の体だとどうなのかはわからないや。さっき言ったようなことができるのはほんの一部しかいないし、個人差が大きいから試してみないとわからないんだよね。」
「流石に素手で壁壊すような奴がその辺うろうろしてるほどキヴォトスが魔境じゃなくて本当に良かったよ。それでさっき起きたことについてだけど、何か壊してもいいものってあるか?少し試したいことがあってな。丈夫そうなやつだとよりいいんだが。」
「うーん、壊していいもの、壊していいもの。あっ!これとかどうかな!あっちの部屋に置いてあった金属製の定規!結構硬い感じの定規だからちょうどいいと思うよ。でもこんなの使って何するの?」
「ありがとう。さっきは何が起きたのかを試したくてね。俺の予想が正しければこれを使って面白いものを見せれると思うよ。」
「面白い物?というか、それってさっきの状況再現するってこと?ならさっきのことがまた起きるかもしれないし、周りに何もない状態でやったほうが良くない?」
「あー、確かにそうだな。失敗したときのことを全く考えてなかったわ。だけど、此処だとソファとかテーブルとかが置いてあるから一旦どかすのを手伝ってくれないか。」
「オッケー!こんなのお茶の子さいさいだよ!」
「片付け、これにて完了、っと。」
「これなら湊くんの脚が急に跳ね上がっても壁に穴を開けることはなくなるね!」
「ああ、これなら安心だな。いやはやそれにしても君がソファを片手で持ち上げられるほどの怪力を持っていたとは思わなかったよ。」
「私もびっくりしたよ!ソファを持ち上げようとして力を籠めたらスッって持ち上がったんだから!腰抜けるかと思ったよ~。」
「というかやはり、今の君の見た目であんな怪力を発揮されるとかなりこう....違和感があると言うか。自分よりも頭一つ分小さい少女にここまで膂力を差を見せつけられると心にクルものがあるというか。」
「今のうちに見た目と実際のパワーとのギャップには慣れておいたほうが良いと思うよ?さっきも言ったように身体能力には個人差によるものが大きくて見た目から強さが分かりにくいんだよね。キヴォトス中でもすごく強い人たちの中でぱっと思いついた三人が140台だったはずだし。*3」
「140台!?もはやなんでもありだなキヴォトス....ま、まあ。準備が終わればやることは一つ。レイカは一応離れておいてくれ。何かあるかもしれないからな。」
「わかった!成功するといいね!」
「さあ、実験を始めようか」
....今のところは何かあるわけではなさそうだ。なら次の段階へ移ろう。定規の表を上に向けて挟み込むように両手で定規を持ち、そのまま一息に押し潰す!
閉じた掌を開いてみるとそこには、グニャグニャと折れ曲がり重なり合い原形を留めないほど歪んだ定規。否、歪な金属塊があった。
「やっぱりこれは本物だったのか....!」
「何が起きたの!?もしかして湊くんってすごいマッチョだったりするの!?」
「いくらマッチョでもこんなことはできないだろ.....今回の実験で俺が試したのは、このカプセムが本物なのかどうかということだ。」
「本物?あのカプセムって海賊版みたいだったりしたの?」
「ああいや、本物っていうのはそういうことじゃあない。このカプセム、インパクトカプセムは仮面ライダーゼッツに登場するカプセムのうちの一つで『衝撃』を司る夢を叶えるカプセム。その能力とは身体能力の強化であり、自分の筋力を何倍にも増幅させたりある程度の衝撃にも耐えられるようになったりすることができる。つまり、このカプセムは仮面ライダーゼッツの劇中と同じく夢をかなえる力が込められている、という意味での本物ってことだ。」
「ちょっと待って!つまりそのカプセムを使うと超マッチョになるってことでしょ?でも、最初の時は壁を蹴ってたじゃん。ただマッチョになるだけでは起こんないはずじゃないの?」
「あの時は急にカプセムから音が鳴ったのに驚いちゃってね。一応実際に販売されてたカプセムの内にサウンドカプセムという回すと音が鳴るカプセムもあるんだが、それは普通のカプセムと同じで5㎝くらいで普通のカプセムより少し重いからな。これはサウンドカプセムではないと思っていたんだ。だから驚いて動こうとしたらそれをカプセムの力で強化されてそのまま勢い余ってあんな事が起きちまったんだ。」
「なーるほど。じゃあちょっと力比べしてみようよ!そのカプセムを使ってる時と使ってない時別々でさ!」
「おっ、いいね。何にしようか。腕相撲とかいいんじゃないか。その方違いが分かりやすいだろう。」
「いーじゃん!腕相撲!さっそくやろう!絶対勝ってやるからな~!」
「ハッ!俺のことは舐めてもいいがこのカプセムは舐めるんじゃあないぞ!勝つのは俺..だ...」
意気揚々と力比べをしようとしていた二人が見たものは、さっきの実験のために家具をどかして無理やりスペースを確保したが故にぐちゃくちゃになった部屋の惨状だ。
「.....片づけるか。」
「.....そうだね。」
読んでくれてありがとうございます!
設定:
年齢:18歳。(高校三年生)
好きなもの:仮面ライダー、スーパー戦隊、アップルパイ
嫌いなもの:酸っぱい物、苦い物
特徴:猫舌、甘党
年齢:前20代前半/今16歳(高校一年生)
好きなもの:青春、可愛いもの、ブルーアーカイブ
嫌いなもの:労働、デスマーチ
特徴:辛党、酒豪