夢と悪夢と青春の物語   作:ぐでたま&なめこ

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惺る(さとる)
意味:物事をはっきりと理解する、すっきりと分かる


Case5『惺(さと)る』

 

意識が浮上する。眠りから覚める。夢(悪夢)から、目覚める。

 

「……もう、朝か。」

 

風を受けたカーテンは揺らめき、部屋に落ちる影が刻一刻と移り変わる。時計はいつもの時刻を指し、チクタクチクタク針を進める。

 

目を開いて真っ先に飛び込んできたのは、見慣れた天井。そこはいつもの部屋だった。この数か月何度も見てきた景色で、何の変哲もない朝。それはいつも通りの日常。それなのに、どこか同じだとは思えなかった。

 

悪夢の残響が脳裏に残り、夢と現実の境目が曖昧になる。だが、今となっては現実も悪夢と変わりやしない。心の影から生まれた憧れは、最後には夢を殺すのだから。笑えてくるぜ。どうせ笑いも涙も出てこねぇがな。

 

結局、お前の信じる夢はお前の悪夢でしかないってことだ。

 

ズキン、と頭痛とともにアイツ…レプリカナイトメアの言葉が頭をよぎる。

 

ああそうさ、俺も本当は気付いていた。けど、俺は怖かったんだ。怖くて、ずっと目を逸らし続けていた。

ソレを見つめてしまったら、自分という存在が何もかも無意味になるんじゃないかって気がしてたんだ。だけど、それは無駄な足掻きだった。目を逸らして逃げていても、いつか追いつかれるだけで。その、いつかが今だっただけ。

 

結局、俺の悪夢はただ目を逸らしていたものを直視させられただけか。ハッ、随分と規模のショボい悪夢だな。

 

夢を叶えたいという気持ちは誰かの手でお膳立てされた幻影で、夢を叶えることは自分を苦しめる悪夢で。ソレを知ってしまった今、この現実にどれだけの価値がある?夢を追うことを許されず、現実(悪夢)を見つめ続ければならないこの世界で、こんな俺は何をして生きればいい?

 

俺はただ、天井を見つめていた。

 

「...朝ごはん、作んねぇとな。」

 

 

 

 


 

 

 

 

ジリリリ!と目覚まし時計が朝を告げる。その音は部屋中に響き渡り、私はゆっくりと手を伸ばしてアラームを止めた。

 

「んんー」

 

寝ぼけ眼をこすりながら目を開ける。いつもの天井、いつもの部屋。ここ数か月間でこの部屋もすっかり自分の部屋だ。

 

「おはよう。世界。」

 

此処は夢にまで見たブルーアーカイブの世界。今でもまだ自分が見ているものすべてが夢なのではないかと考えてしまうほどの、夢のような現実。

数か月経った今でもこの世界(夢)に慣れることはできない。それでも私は、このキヴォトスを全身で楽しんでいる。

 

「……朝かぁ」

 

正直言ってまだまだ寝ていたいけれど今日は平日、そうはいかないのだ。とても名残惜しいがベッドからのそのそと這い出て私の楽園へと別れを告げる。

楽園を追放されてしまった私はカーテンを開く。窓から降り注ぐ太陽の恵みを体いっぱい受けてようやく目が覚めた。

 

「⋯さてと。」

 

化粧台の前に座り、鏡越しに自分を見る。ゲヘナ学園の制服を身に纏い、襟を整える。髪を梳かして、後ろで一つにまとめる。それだけなら問題なく終わるけれど……

 

「見えてるのに触れないってちょっと混乱しちゃうな。」

 

鏡に映る自分のヘイローは朱く、中心に渦を巻くような模様とそれを覆うように三日月の模様が浮かんでいる。それは頭の後ろにあり、髪がヘイローを通り抜けるたびに少し不思議な気持ちになってしまう。

 

「よしっ。今日も完璧!」

 

身だしなみの後は荷物の用意。カバンの中に今日の授業に必要なものが入っているか確認して。あっ、中身が昨日のままだ。今日の用意をしてっと。

 

「あとは……あれだ」

 

私の視線の先には黒く鈍い金属の塊。

 

それは、前の世界での非日常の象徴。されど、この世界(キヴォトス)では日常の一部でしかないもの。ドイツで製造されたサブマシンガン、MP5であった。

 

「今ではすっかりこれにも慣れちゃったな。」

 

そう言いながら手に取ると、その重さが手に伝わってくる。それは、今でこそ片手で軽々扱えるものの、キヴォトスに来る前の私では両手で持つことしかできないような代物だ。まあ、前の世界では持つどころか見る機会すらなかったんだけど。

 

「……あっ、早くしなきゃ。」

 

前の世界への郷愁に浸っていた私は、ふと我に返り、早速銃のメンテナンスを始めた。MP5を分解し、一通り掃除する。その後、ガンオイルを薄く塗り再び組み立てる。

すっかりこの作業にも慣れっこだ。メンテナンスのやり方も湊くんに教えてもらったんだよね。最初のころはメンテナンスどころか、ちゃんと撃つことすらできなかったし。ずっと湊くんに頼りっぱなしだったからなぁ。銃の種類とか使い方とかを教えてくれたのも湊くんだし、ハンドガンを調べてたらいろいろ詳しくなったんだっけ?

でも一人でできるようになって良かった!やっとこの世界(キヴォトス)に慣れてきたって感じがするなぁ。

 

ふと思考の海から浮き上がる。視線を手元に落とすと、いつの間にか全工程が終わっていたようだ。

 

「これで終わりかな?」

 

よーし、後は朝ごはんだけ!湊くんのご飯はおいしいんだよね~。今日も楽しみだ!

おっと。一日を楽しく過ごすためのおまじないも忘れずにしないと。

 

「今日もいい一日になりますように!」

 

ヨシ!完璧!それではそれではリビングへ、レッツラゴー!

 

「おはよー!」

 

リビングにつながる扉を開き、大きな声でそう言った。今日はなんだかいつもより調子がいいみたい。思ったよりも大きな声が出ちゃったみたい。

 

「…………ああ、おはよう。」

 

あれ、なんだか返事が遅い。今日の湊くん、少し体調でも悪いのかな?そういえば昨日カプセムをコンプリートしたって喜んでたっけ?昨晩夜更かしでもしたのかな。

 

「朝ごはんならもうできてる。」

 

「ありがとー。湊くんは食べないの?いつもは一緒に食べてるのにさ。」

 

「俺は…いい。」

 

いつも湊くんは一緒に朝ごはんを食べてくれるのに今日はなんでかダメみたい。洗い物が多かったりするのかな?

 

「えー。一緒に食べようよ。私も食器洗うの手伝うからお願い!」

 

「そういうことじゃ……わかったよ。」

 

やっぱり今日の湊くんはちょっと様子が変だ。

おっきい声で話しかけても少し反応が遅いし、朝ごはんはいつも一緒に食べてたのに今日は別のことしてるし。いつもは私が家事を手伝おうとするとすごい喜んでくれるのに今日はあんまり嬉しそうじゃないし。

 

最後のはやっぱり湊くんは私のことを子供かなんかだと勘違いしてないかな!?確かに私は体は子供だけど頭脳は立派な大人なんだから!

 

「いただきます!」「……いただきます。」

 

それはさておき朝ごはん。私は朝ごはんはいくら忙しくてもちゃんと食べることにしてるんだ。一日の始まりとしてとっても大事だし、何よりこうして誰かと一緒に食べるのが好きなんだよね。

 

「んー!やっぱり湊くんのご飯最高!いつも作ってくれてありがとうね。」

 

「……そうか。」

 

「今日は学校の方で用事があるんだよね~。だから帰ってくるのがちょっと遅くなっちゃうかも。」

 

「……わかった。」

 

……おかしい。湊くんがこんなにも話に乗ってこないなんてありえない。いつもはもっと楽しげに話してるのに、今日はなんだか素っ気ない感じ。

 

「そういえば湊くん、今日は何かするの?」

 

「……いつもと同じだ。」

 

うーん?こんなにも反応がないなんてことあるのかな?湊くんは最近機械弄りにはまって色々勉強してて毎回楽しそうに話してくれてたのに。

やっぱり寝不足?でも、さすがにここまで変だと寝不足じゃない気もするし。うーん、直接聞いてみようかな?

 

「ねえ湊くん。どうかしたの?今日はなんだか元気がないみたいだし……。」

 

「⋯⋯」

 

湊くんの手が止まる。

 

「⋯湊くん?」

 

「…………なぁ。」

 

「うん。」

 

「……お前は、贋作に価値があると思うか?」

 

その質問の意図は分からない。けれど、目が合う。その真剣な表情から、冗談なんかじゃないことだけは分かる。

 

「贋作?偽物ってこと?」

 

「まあ、そんな感じだ。」

 

偽物の価値?どういうこと?でも今の湊くんが聞いてきたことなんだしちゃんと答えないと。

 

「……私は、偽物をあまり悪いものだとは思ってないかな。」

 

「……」

 

湊くんの様子は変わらずこちらを見つめるだけ。

 

「だって、偽物ってことはどこかにオリジナルがあるわけでしょ?もちろん誰かを騙そうと思ってたら別だけどさ、その偽物を作った人はソレ(オリジナル)が好きだったはず。じゃなきゃ真似しようとは思わないよ。」

 

「………」

 

湊くんがどんな気持ちで聞いているのか、私には分からない。

 

「確かに、偽物はあくまで本物を真似ようとしたモノで、本物と全く同じ価値があるとは思わない。けれどそこに込められた思いは、憧れは、紛れもない価値があるんじゃないかな。本物とはまた別の価値がね。」

 

「…………」

 

だけど私の言葉が少しでも湊くんの助けになれたのなら──

 

「だから、私は偽物に価値がないとは思えないかな。」

 

それは、良いことだと思うから。

 

「……そうか。変なことを聞いちまって悪かったな。」

 

「ううん。そんなことないよ。」

 

その後は私と湊くんが話すことはなく、朝食は終わった。そして気付けば、私が家を出る時間となった。

 

「それじゃあ、行ってくるね。」

 

「行ってらっしゃい。」

 

正直、湊くんに何があったのか気にならないと言ったら嘘になる。けれど、湊くんが私に話したくないと言うのなら私はそれを尊重したい。

 

「……あんまり思いつめないでね。」

 

「…ああ。」

 

彼にとっても今日が良い一日になりますように。

 

 

 


 

 

 

 

「……」

 

『そこに込められた思いは、憧れは、紛れもない価値があるんじゃないかな。』『本物とはまた別の価値がね。』

 

……なら、俺はどうなんだ。コードナンバーセブンに憧れ、彼のようになりたいと夢を抱いた。けれど、行き着く先はセブンの偽物。

なら、その思いに価値はあるのか?その憧れに意味はあるというのか?

 

『その偽物を作った人はソレ(オリジナル)が好きだったはず。』『じゃなきゃ真似しようとは思わないよ。』

 

…ああ、そうだ。仮面ライダーが好きだ。

心の内に大きな虚無を抱えながらも、真摯に患者に寄り添いバグスター(一人の天才)と向き合い続ける天才ゲーマー兼小児科医(宝生永夢)が。自分の人生が作られた物であると知りながら、兵器として利用されても愛と平和のために戦う自意識過剰な正義のヒーロー(桐生戦兎)が。

そんな、自由と平和のために強大な敵と戦う勇気と強さを持った英雄(ヒーロー)が。だから、そんな彼らの生き様に憧れた。

 

俺はセブンが好きだ。

自分の悪夢を乗り越え、受け継いだ夢を叶えようとして。究極の悪夢を退け、全ての夢の可能性を守ろうとして。セブンは全てと戦い続けた。

その先で自分の存在が消えるとしても。それでも夢に向かって進み続けた万津莫の姿に。

 

どうしようもなく憧れたんだ。

 

「だったら、その憧れは誰から生まれた?」

 

ああ、そうさ。セブンに憧れたのは紛れもない俺自身だ。

その夢の始まりが己が欠落からだとしても、そう思ったのは紛れもない事実。

その夢を叶えようと思ったのもまた俺自身。たとえその気持ちをアイツ(レプリカ)に利用されたとしても、その事実は変わらない。

 

「なら、それでいいじゃねぇか。」

 

俺がセブンに憧れたのも、夢を抱いたのも、その夢を叶えたいと思ったことも。全部、俺のものだ。誰かから与えられたものでも、アイツ(レプリカ)から作られたものでもない。ただ、俺自身がそう思い、願ったんだ。

誰かから見れば、俺の姿は出来の悪い模倣に過ぎないのかもしれない。俺はセブンの二番煎じでしかないのかもしれない。

 

それでも──

 

この夢だけは変わらない、手放せない。俺がセブンの偽物になったとしても、贋作に成り果てちまったとしても、この夢を追い続ける限り、俺は俺だ。

 

「……それなら後は簡単だな。」

 

もう、迷いはしない。

 

「俺がすべきミッションはただ一つ。」

 

『Prove the possibility of my dream.(夢の可能性を証明しろ)』

 

 

 





遅くなってすみませんでした!!
ゼッツ最終回前どころか、マイスの第五話目が今日放送されるまで遅くなってしまいました。
いやほんと色々用事やら体調不良やらが重なって執筆時間が取れませんでした。
とはいえ、投稿がこんなにも遅れた理由ってのは別にあるんですよね。それは、第五話は元々第六話とまとめて一つの話として投稿するつもりだったってことです。
まあ、二話分まとめて書くことになったからこんなにも遅れたわけですね。
何故分割したのかについては第六話の後書きにて説明しようと思います。

最後に一言
マイス、かっこよくないですか!?

文量をどうするか

  • 減らして投稿頻度上げろ
  • そのままでいいよ
  • 投稿頻度下げてもいいから分量増やせ
  • 何でもいいよ
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