ようこそ不死鳥の舞う教室へ 作:Gemini&指示出す人間
五月最終日。一学期中間試験の結果発表日。学年全体で9名もの退学者が出たという衝撃的な報せは、1年Aクラス以外の教室においても、それぞれの形で重い影を落としていた。
【1年Bクラス】
「——以上が、今回の中間試験の結果よ。みんな、本当によく頑張ったね!」
担任の星之宮知恵が教壇でパンッと手を叩くと、1年Bクラスの教室内には、ホッと胸を撫でおろす安堵の空気が広がった。
Bクラスからは、退学者は1名も出なかった。
他クラスのような過去問という名の「甘い毒」に頼ることなく、リーダーである一之瀬帆波を中心に全員で勉強会を開き、地道に自力で学力を高めて試験に挑んだ成果だった。
「赤点もなし、退学者もゼロ! 私、みんなのこと誇りに思うな〜」
星之宮は笑顔で生徒たちを褒めちぎったが、次の瞬間、その表情からフッと軽さが消え、どこか試すような真剣な眼差しへと変わった。
「……でもね。他クラスの状況は、お世辞にも笑えるようなものじゃないわ」
星之宮が教卓に手をつき、低めの声で告げる。
「今回の試験で、Cクラスから2名。そしてDクラスから、なんと7名もの退学者が出ました」
「な……っ!?」
「き、9人も……退学……!?」
教室内が激しいどよめきに包まれた。つい先ほどまでの安堵感は一瞬で吹き飛び、生徒たちの顔にリアルな「恐怖」が惨然と広がっていく。たった一度の試験で、学年の1割近い人間が容赦なく切り捨てられたのだ。もし自分たちが少しでも勉強を怠っていたら、あの9人の中に混ざっていたかもしれない。
「そして……もう一つ、みんなに伝えておかなきゃいけない現実があるわ」
星之宮は黒板に向かい、1年Aクラスの成績データを書き出した。
「1年Aクラス。退学者ゼロ。……それどころか、学年平均点を遥かに置き去りにする、学校史上最高の平均点数を叩き出したわ。ほぼ全員が全科目満点よ」
黒板に示された異次元の数字。
Bクラスの生徒たちは、言葉を失って絶句した。自分たちが必死に努力して掴み取った勝利など、Aクラスの残した圧倒的な実績の前では児戯に等しい。次元が違いすぎる。勝てるわけがない——そんな敗北感と恐怖が、Bクラス全体を重く押し潰そうとしていた。
「み、みんな……! 大丈夫だよ!」
どん底に落ちかけたクラスの空気を変えようと、一之瀬帆波が勢いよく立ち上がった。彼女はいつもの明るく眩しい笑顔を皆に向け、必死に声を張る。
「Aクラスは確かにすごいよ。でも、私たちだって一人も欠けることなく、全員でこの試験を乗り越えられたんだよ!? これはすごいことなんだよ! 焦らず、みんなで力を合わせれば、絶対に追いつけるから……ね!?」
一之瀬の必死の励ましに、「あ、ああ……そうだな!」「一之瀬の言う通りだ!」と、生徒たちは何とか笑顔を取り戻そうと頷き合った。
しかし——クラスメイトたちに背を向け、自席へ戻った一之瀬の表情は、一瞬だけ暗く陰っていた。
(……9名もの退学者。そしてAクラスの完璧すぎる成績……)
彼女の胸の奥で、拭いきれない不安の影が急速に膨らんでいく。
不士鳥リアヴェルという絶対的な王が君臨するAクラス。彼らの圧倒的な強さを前にして、自分たちの「絆」や「努力」が本当に通用するのだろうか。表面上は笑顔を保ちながらも、一之瀬帆波の内心は、勝てる見込みが全く見えない底なしの絶望感に苛まれ始めていた。
【1年Cクラス】
重苦しい沈黙が支配する1年Cクラスの教室。
担任の坂上数馬が、哀愁を帯びた視線で生徒たちを見下ろしていた。
「……以上の2名は、本日をもって退学処分となります」
名前を呼ばれた男子生徒2名が、絶望に顔を歪めてその場に崩れ落ちた。
「嘘だ……嘘だろ……っ! なんで俺たちが退学なんだよぉッ!?」
「坂上先生! お願いです、一度だけ……一度だけチャンスをくださいッ!!」
ボロボロと涙を流し、縋りつくように叫ぶ2人。しかし、坂上は悲しそうに眼鏡の枠を直すだけで、冷徹な現実を突っぱねた。
「ルールは絶対だ。君たちの獲得点数は赤点ラインに届かなかった。今すぐ荷物をまとめ、寮を退出して退学手続きに入りなさい」
坂上の容赦のない宣告に、2人はすすり泣きながら荷物を纏め、教室内から逃げるように去っていった。残されたCクラスの生徒たちは、その惨めな背中をただ黙って見送るしかなかった。
実は、Cクラスも過去問を入手していた。
しかし、絶対的な王として君臨する龍園翔が「過去問だけに頼るな、自力をつけろ」と命じ、徹底的な勉強を義務付けていたおかげで、大半の生徒は試験当日、一時間目の試験開始直後に「問題の条件が微細に書き換えられている」という異変に気づくことができたのだ。彼らは即座に過去問の暗記を捨て、自力で問題を解くことで難を逃れていた。
だが——退学となった2名は違った。
彼らは日頃から独裁的な龍園に対して激しい反意を抱いており、「龍園の言うことなんか聞くか」と高をくくって勉強をサボり、過去問の解答だけを丸暗記して試験に挑んでしまったのだ。
一時間目の試験が終わった直後、龍園と参謀の金田悟から「おい、まさか過去問の答えをそのまま書いたわけじゃねえだろうな?」と指摘された時の彼らの顔は、まさにDクラスの三馬鹿と同じ、血の気が引いた絶望の表情だった。あの日から今日まで、2人は退学の恐怖に震えながら結果発表を待っていたが、その祈りも虚しく、完全なる破滅を迎えたのである。
「……ちっ、無能どもが。自業自得だ」
龍園は去っていった2人の席を一瞥し、鼻で笑った。
しかし、彼の蛇のような鋭い瞳は、すでに退学者への興味を失い、事件の「裏」へと向けられていた。
「坂上。他のクラスはどうなった」
「……Dクラスからは7名の退学者が出た。Bクラス、そしてAクラスからは退学者はゼロだ。特にAクラスは、ほぼ全員が満点という凄まじい成績を残している」
坂上の報告を聞き、龍園の口元が凶悪な笑みを刻んだ。
(Dクラスで7名、ウチで2名……。過去問を丸暗記した馬鹿だけが見事に首を跳ねられたってわけだ。……ククッ、偶然なわけがねえよなァ)
龍園の明晰な頭脳は、即座にこの事態のカラクリを見抜いていた。
誰かが意図的に「巧妙に改ざんされた偽物の過去問」を上級生経由で市場に流し、他クラスの落ちこぼれたちを一網打尽にしたのだ。
(Bクラスの一之瀬どもに、こんなエグい真似ができるわけがねえ。善人面したあいつらには不可能な芸当だ。……となると、犯人はハナから一つしかねえ)
龍園の頭裏に浮かんだのは、圧倒的なカリスマと暴力でAクラスを束ねる男——不士鳥リアヴェル。そして、その隣で不気味に微笑む銀髪の少女、坂柳有栖の姿だった。
(Aクラスのどちらかが仕掛けた……いや、あの金髪のバケモノの指示で、坂柳が動き回ったってところか?上級生を抱き込んで偽物を流すなんざ、相当な準備とポイントが必要だ)
龍園は脚を組み、愉悦に満ちた笑みを浮かべながら、机をトントンと指で叩いた。
「ククク……ッ、ハハハハハッ! いいぜ、Aクラス! まさか初手から学年全体をハメ殺しに来るとはやるじゃねえか!」
自クラスから2名の退学者を出された悔しさ以上に、龍園の胸を満たしたのは、極上の「敵」に対する猛烈なサディスティックな歓喜だった。
学校のルールすらも踏み越えて他クラスを蹂躙する、絶対的な悪魔のやり口。
「面白え……実に面白えじゃねえか、不士鳥。坂柳。お前らがこの惨劇の犯人だってことは、もう検討がついている。……次は俺が、お前らのその綺麗な顔を泥の中に叩き落としてやるよ」
退学者の絶望が去った教室で、Cクラスの龍園翔は、Aクラスという巨大な怪物に対する反撃の炎を、静かに、そして苛烈に燃え上がらせるのであった。
【1年Dクラス】
そして、最も凄惨な地獄絵図が展開されていたのは、最底辺である1年Dクラスの教室だった。
一学期中間試験のあの日から今日に至るまで、Dクラスの空気は「最悪」の一言に尽きた。
偽の過去問を掴まされ、解答を丸暗記した赤点候補の生徒たちは、一時間目の試験中に自らの過ちに気づくこともできず、終わった後に成績優秀者たちから「解答がすべて変わっていた」と知らされた瞬間から、生きた心地のしない日々を過ごしてきたのだ。
「……ふざけんなよ。どうしてくれるんだよ、櫛田!」
教室の空気を重く沈ませる、山内春樹の恨み言。その矛先は、他でもない櫛田桔梗へと向けられていた。上級生から過去問を調達し、Dクラスの全員に善意の笑顔で配布したのは彼女だったからだ。クラスの視線が、針の筵となって櫛田に突き刺さる。平田洋介が「櫛田さんも騙されたんだ、彼女を責めるのは間違っている」と庇ってはいたものの、自分の首がかかっている赤点組の生徒たちには、そんな理屈は通用しない。
「わ、私だって……! 騙されるなんて思わなかったの……っ! それに、私一人の責任じゃないもん!」
追い詰められた櫛田は、涙目で身を震わせながら、ついに限界を迎え決定的な責任転嫁に走った。彼女の指が、窓際の席で静かに本を読んでいる少年を指し示す。
「綾小路くんが! 綾小路くんが『上級生から過去問をもらえばいいんじゃないか』って提案したから、私は先輩に頼みに行っただけだもん!」
突然の矛先の変更に、クラスメイトたちの視線が綾小路清隆へと一斉に向けられる。「おい綾小路! てめえの入れ知恵だったのかよ!?」と池寛治が血走った目で怒鳴りつけた。しかし、綾小路は読みかけの文庫本に栞を挟み、全く慌てる様子もなく、淡々とした声で答えた。
「俺は、過去の小テストの傾向から問題が使い回されている可能性があると『思ったこと』を口にしただけだ。実際に過去問は役に立っただろう? 数字や条件こそ微細に変更されていたが、出題範囲も問題の構造も、過去問とほぼ完全に一致していたはずだ」
「だから、その数字が違ってたから俺たちは……!」
「俺は『過去問の答えをそのまま丸暗記しろ』などとは一言も言っていないし、過去問が絶対だとも言っていない。あくまで勉強の役に立つ参考資料として提案したまでだ。それに頼り切り、試験中に問題文すらまともに読まずに解答を書き写したのは、お前たち自身の選択だ。違うのか?」
一切の感情を排した、完璧な論理による防壁。綾小路のあまりにも正論すぎる言い逃れに、池も山内も、そして櫛田も返す言葉を失った。
確かに綾小路の言う通り、少しでも自力で問題を読解しようとした生徒は罠に気づき、軌道修正をして赤点を回避している。罠に掛かったのは「全く勉強せず丸暗記に逃げた者」だけなのだ。
だが、その事実こそが、赤点組の自尊心をズタズタに引き裂き、行き場のない怒りを増幅させていた。
「席に着け。ホームルームを始める」
そこへ、冷徹な死神のような足音とともに、担任の茶柱佐枝が教室へ入ってきた。
教室内が水を打ったように静まり返る。
池も、山内も、須藤も、顔面を蒼白にして震え始めた。
茶柱は教卓に立つと、一切の前置きもなく、残酷な事実を宣告した。
「……結果から言う。今回の中間試験において、我が1年Dクラスからは7名の赤点取得者が出た」
ガタッ、と誰かの椅子が揺れる音がした。
「この学校のルールに例外はない。赤点を取った者は、その時点で退学となる。……名前を呼ばれた者は、今すぐ荷物をまとめて教室を出て行け」
茶柱は手元の名簿に目を落とし、無慈悲に名前を読み上げていく。
「山内春樹。池寛治。須藤健。…………────以上の7名は、本日をもって高度育成高等学校を退学処分となる」
終わった。
宣告が下された瞬間、山内は「あ……あぁ……」と壊れたような声を漏らし、机に突っ伏して号泣し始めた。池は頭を抱え、ブツブツと「嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ」と狂ったように呟き続ける。他4名の生徒も、あまりの絶望に座り込んだまま動けなくなっていた。
そして誰もが言葉を失う中——ドゴォォォォンッ!! という凄まじい轟音が教室を震わせた。
「ふ、ざ、け、ん、な、ぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」
理性を完全に吹き飛ばした須藤健が、自身の机を思い切り蹴り飛ばしたのだ。
宙を舞った机が凄まじい音を立てて吹き飛ぶ。バスケットボールで鍛え上げられた巨躯から放たれる暴力の気配に、女子生徒たちが悲鳴を上げた。
「なんで俺が退学にならなきゃなんねえんだよッ! プロに行くために、俺はこの学校に来たんだぞ!! それを……お前らの持ってきた偽物のせいでッ!!」
血走った両目。完全に獣と化した須藤の視界に、たまたま近くの席で震えていた櫛田桔梗の姿が映った。怒りの沸点を超えた彼には、もう男も女も関係なかった。
「てめえのせいだろ、櫛田ぁぁぁぁッ!!」
「ひっ……! 嫌、須藤く——」
バキィッ!!
鈍い音が響いた。須藤の容赦のない右ストレートが、櫛田の頬をモロに捉えたのだ。
悲鳴を上げる間もなく、櫛田の華奢な身体が宙を舞い、机を薙ぎ倒しながら床に叩きつけられる。
「く、櫛田さんッ!?」
平田が青ざめて駆け寄ろうとするが、須藤は狂ったように暴れ回り、周囲の机や椅子を手当たり次第に攻撃し始めた。
「俺の人生……俺のバスケ……返せよッ! 返せぇぇぇっ!!」
阿鼻叫喚。Dクラスは完全に崩壊していた。退学という絶望的な終わりの宣告が、未熟な高校生たちの理性を焼き尽くし、ただの暴力のるつぼへと変えてしまったのだ。
「そうだ……俺たちだって、納得できねえよッ!!」
須藤の暴力に当てられたのか、極限の絶望に追い詰められた山内と池の瞳にも、狂気の色が宿った。彼らの視線が、窓際で無表情のまま騒動を眺めている綾小路清隆へと向かう。
「お前だ、綾小路! お前が変なこと言わなきゃ、俺たちは普通に勉強して赤点なんか取らなかったかもしれないんだ!!」
「てめえだけ涼しい顔してんじゃねえぞ、この野郎ッ!!」
池と山内が、狂犬のように綾小路に向かって飛びかかった。
しかし、綾小路は椅子に座ったまま、ぼーっとした虚ろな瞳で彼らを見つめているだけだった。
反撃する様子もなく、避ける素振りすら見せない。
そして、池の拳が綾小路の顔面を捉えようとした、その瞬間——。
「——自業自得の愚か者が、八つ当たりで見苦しい真似をしないでちょうだいッ!」
横から鋭い声と共に、一陣の風が吹いた。
隣の席に座っていた堀北鈴音が、滑り込むように綾小路の前に立ち塞がったのだ。
彼女は池の振り下ろした腕を掴むと、体捌きだけでその力を受け流し、合気道の要領で池の身体を空中に跳ね上げた。
「ぐわぁぁっ!?」
池が床に叩きつけられた隙に、背後から掴みかかろうとした山内の襟首を掴み、足を引っ掛けていとも容易く背負い投げを決める。
「ごぼァッ!」
息を詰まらせて床で悶絶する二人の男子生徒を見下ろし、堀北は氷のように冷たい視線を向けた。
「勉強もせず、努力もせず、他人の甘い話に縋り付いた結果がこれよ。誰かのせいにして暴力を振るえば、あなたの点数が上がるとでも思っているの? 己の無能を恥じなさい」
孤高の美少女による容赦のない制圧と正論。しかし、もはやDクラスの混乱は堀北一人で止められるレベルをとうに超えていた。須藤の咆哮、櫛田の泣き声、平田の制止する声、恐怖に叫ぶ女子の悲鳴。その凄まじい騒動は、開け放たれたドアを通じて廊下にまで響き渡り、すでに他クラスの人間たちの耳にも届いていた。
「な、なんだあの騒ぎは……?」
「Dクラスで、乱闘が起きてるぞ!」
野次馬たちが廊下に集まり始める。
退学者がゼロで安堵していたBクラスの一之瀬帆波や神崎隆二が、青ざめた顔でDクラスの入り口へと駆けつけてくる。さらに反対側からは、Cクラスの龍園翔が、側近たちを引き連れて愉悦に満ちた笑みを浮かべながら歩いてきた。
騒ぎを聞きつけた他の教師たちも駆けつけようとするが、Dクラスから漏れ出すあまりの狂気に、誰も不用意に踏み込めないでいた。
「ククッ……こいつは傑作だ。首を括る前の敗残兵どもが、見苦しく共食いしてやがる」
龍園がDクラスの惨状を眺めてせせら笑う。
一之瀬は悲痛な顔で「や、やめて! みんな、落ち着いて!」と叫ぶが、その声すらも破壊音にかき消されていく。そんな誰もが手の施しようのない狂乱の渦。——しかし、その時だった。
「…………醜いな。実に見苦しい」
廊下の喧騒を、そしてDクラスの阿鼻叫喚を、たった一言で完全に凍りつかせる『絶対的な声』が響き渡った。
その声の主が現れた瞬間、集まっていた野次馬たちが、まるでモーセの十戒のように割れ、無意識のうちに左右に道を空けた。廊下の奥から、悠然とした足取りで歩みを進めてくる二つの影。
先頭を歩くのは、太陽の光を吸い込んだかのような金髪と、深淵を覗かせる碧眼を持つ超絶的な美男子。1年Aクラスの絶対支配者、不士鳥リアヴェル。
そしてその半歩後ろを、優雅な笑みを浮かべながら付き従う銀髪の少女、坂柳有栖。
二人が歩くたびに、目に見えない圧倒的なプレッシャーが周囲を押し潰していく。
暴れ回っていた須藤でさえも、本能的な恐怖に背筋を凍らせ、拳を振り上げたまま動きを止めた。床で呻いていた池や山内、泣き崩れていた櫛田、そして冷徹な茶柱や綾小路ですらも、入り口に現れた二人の姿に視線を釘付けにされた。
「自分の無能さを棚に上げ、他者を逆恨みし、知性のかけらもない暴力を振るう。……これが、底辺に落ちた人間たちの末路か。有栖、実に良い見世物だな」
リアヴェルは、地獄と化したDクラスの教室をゴミでも見るような目で見下ろし、極上の笑みを深めた。
「ええ、リアヴェルくん。彼らは私たちが用意した『少しだけ味の違う林檎』を疑いもせずに頬張り、勝手に毒に倒れた愚か者たち。……これほど哀れで滑稽な喜劇は、そうそうお目にかかれませんね」
有栖の言葉。『私たちが用意した』という明確な自白。その瞬間、龍園の目が蛇のように細められ、一之瀬が絶句して口元を手で覆った。
Dクラスの生徒たち、そして綾小路清隆の虚ろな瞳が、入り口に立つ悪魔の女王へと向けられる。
「偽物の過去問をばら撒いたのは……お前らかァァッ!!」
須藤が、血走った目でリアヴェルに向かって突進しようとした。だが。
「——分を弁えろ、下民が」
リアヴェルの碧眼が、ほんの微かに、冷酷な魔の光を帯びた。
ただそれだけ。指一本動かさず、ただ視線を向けただけだというのに。ドンッ!! と、目に見えない巨大な質量の塊が須藤の全身にのしかかり、彼はそのまま床に顔面を叩きつけられ、カエルが潰れたような無様な声を上げた。
「が、はっ……!? な、にが……っ」
誰も状況を理解できない。ただ、リアヴェルから放たれる「超越者」としての絶対的な覇気だけが、その場にいる全員の魂を恐怖で鷲掴みにしていた。
「教えてやろう、有象無象ども。お前たちが絶望し、這いつくばり、無様に首を落とされること。それらはすべて、私と有栖が暇つぶしに作り上げた『盤面』の上での出来事に過ぎない」
リアヴェルは、恐怖に凍りつく全クラスの生徒たち、そして教師たちを見渡し、傲慢に両手を広げた。
「この学校のルールが実力至上主義だというのなら……圧倒的な力と知略ですべてを蹂躙する私こそが、この箱庭における唯一絶対のルールだ。——さあ、見苦しい退学者たちは早く去るがいい。残された者たちも、精々次の試験で私を楽しませる極上の駒として踊る努力をすることだ」
不死鳥の悪魔と、天才少女の女王。
二人の支配者が放つ絶対的なカリスマの前に、反論できる者は誰もいなかった。
Dクラスの惨劇は、Aクラスに君臨する人智を超えた怪物が、消えることのない「恐怖の刻印」を焼き付けて、幕を引いたのだった。