ようこそ不死鳥の舞う教室へ 作:Gemini&指示出す人間
七名の退学者という、高度育成高等学校の歴史においても類を見ない大惨事を引き起こした一学期中間試験。その残酷な結果発表と、それに続く須藤の暴走、そしてAクラスの不士鳥リアヴェルと坂柳有栖による蹂躙劇から一夜が明けた。
翌朝の1年Dクラスの教室は、通夜以上の重く淀んだ空気に支配されていた。
教室のあちこちに点在する、主を失った七つの空席。つい昨日まで、馬鹿騒ぎをしながらそこに座っていたクラスメイトたちが、もう二度とこの教室に戻ってくることはない。
クラスポイントは当然のようにゼロが継続され、今後も支給の見込みはない。これまでの歴代Dクラスの先輩たちがそうであったように、もはや自分たちの未来は閉ざされたと、大半の生徒が完全に気力を喪失し、机に突っ伏すか、虚ろな目で宙を見つめているだけだった。
しかし、そんな完全なる絶望に呑み込まれた1年Dクラスの中にも、単なる諦念とは異なる、特異な感情を抱え込んでいる「例外の生徒たち」が存在していた。
例外の一人目は、これまでDクラスのまとめ役として奔走してきた平田洋介である。
「ね、ねえ、平田くん……。今日、この後のお昼、どうする……?」
クラスの女子たちのリーダー格であり、恋人でもある軽井沢恵が、周囲の女子に背中を押される形で彼に話しかけた。しかし、平田からの返事はない。
彼は自分の席に座り、両手で頭を抱え込むようにして、虚空を睨みつけていた。かつての誰にでも優しく、爽やかな笑顔を振りまいていた好青年の面影は完全に消え失せている。
目の下には濃い隈ができ、焦点の定まらない瞳は、目の前の現実ではなく、彼自身の脳内に潜む『過去の悪夢』を見つめているようだった。
「ひら、た、くん……?」
「…………違う、僕のせいじゃない。僕が、あの時……もっと上手くやっていれば……いや、でも、どうすれば……止められなかった、暴力が、クラスが……また、壊れて……」
軽井沢が恐る恐る肩に触れようとした瞬間、平田の口からブツブツと、呪詛のような譫言が漏れ出した。声は酷く小さく、何を言っているのか正確には聞き取れない。しかし、彼から放たれる異様で神経質な空気は、それ以上近づくことを本能的に拒絶させるほどの重さを孕んでいた。
「ヒッ……」と、軽井沢の背後にいた女子生徒が小さな悲鳴を上げて後ずさる。
(だ、駄目だ。平田くん、完全に壊れちゃってる……)
軽井沢恵は、表面上は心配そうな顔を取り繕いながらも、その内心では爆発しそうなほどの焦燥感とパニックに襲われていた。
彼女が平田を心配しているのは、純粋な愛情や優しさからではない。彼女にとっての平田洋介とは、自身の身を守るための『最強の盾』であり『偽物の彼氏』なのだ。
軽井沢恵の過去。それは、中学時代に受けた凄惨で地獄のようなイジメの記憶である。
心身ともに深く傷ついた彼女は、高校進学を機にそのトラウマを隠蔽し、「イジメられる側」から「カースト上位でイジメを傍観、あるいは主導する側」へと回ることで、完全なる自己防衛(高校デビュー)を果たそうと決意した。そのために彼女が選んだ手段が、クラスで最も発言力があり、誰からも好かれる平田洋介に過去の事情を打ち明け、自らを守るための偽彼氏になってもらうことだったのだ。
だが、その完璧なはずの自衛システムが、今、音を立てて崩れ去ろうとしていた。
七人の退学者。底辺への転落。そして昨日の須藤による暴力事件。Dクラスの空気は今、最悪の険悪さに満ちている。ストレスが極限まで達した閉鎖空間において、次に起こるのは「スケープゴート(生贄)探し」だ。誰かの些細なミスを責め立て、ストレスの捌け口としてイジメが横行し始めるのは火を見るより明らかである。
そんなギリギリの状況下で、自衛のための絶対的な盾であったはずの平田が、過去のトラウマか何かを引き起こして完全に使い物にならなくなってしまった。
(どうしよう、どうしよう……! このままじゃ、クラスの空気が荒れ果てて、また私が標的にされるかもしれない……ッ! 誰かが、誰かが私を守ってくれないと、私はまた、あの地獄に……っ!)
軽井沢は震える両手で過去の傷跡を隠すように抱きしめた。
平田の庇護が失われてしまえば、彼女がカースト上位に君臨し続けるための理由も消失する。新たな寄生先、新たな『絶対的な盾』を見つけなければ、彼女の安全はいつ崩れてもおかしくない。
彼女の視界の端に、窓際で無表情を貫く綾小路清隆や、孤高を保つ堀北鈴音の姿が映るが、彼らでは盾にはならない。そんな軽井沢の脳裏に、強烈な閃光と共にフラッシュバックしたのは、昨日の惨劇の教室に現れた、あの圧倒的な存在だった。
(……不士鳥、リアヴェル……っ)
学年全体を恐怖と絶望に叩き落とし、あまつさえそれを「暇つぶしの遊戯」と言ってのけたAクラスの支配者。常識外れの美貌と、周囲の空気を捻じ伏せる暴力的なまでのカリスマ。
彼が入学初日に告げた『私のもとへ来い、待遇は保証する』といった悪魔の誘惑。
(あいつの、あいつの庇護下に入れば……誰も私に手を出せなくなる。Aクラスの、不士鳥財閥の御曹司の『持ち物』になれば、こんなDクラスの最底辺の連中なんて、私をイジメるどころか顔を上げることもできなくなるはず……!)
それは、誇りも何もない、完全な寄生虫の思考だった。
しかし、生存本能に突き動かされた軽井沢恵にとって、それは一か八かの、しかし最も確実な救済の糸に見えた。彼女は壊れてしまった平田に密かに見切りをつけ、不士鳥リアヴェルとの接触を図るための手段を、不安を押し殺しながら必死に模索し始めたのである。
そして、Dクラスにおけるもう一人の例外。
それは、昨日の乱闘で須藤から強烈な右ストレートを食らった少女、櫛田桔梗だった。
「櫛田さん、大丈夫? 痛まない?」
「無理しないで保健室に行ってきてもいいんだよ?」
彼女の席の周りには、心配そうな顔をしたクラスメイトたちが集まっていた。
骨折などの重傷こそ免れたものの、彼女の右頬には生々しい青痣ができ、痛々しいガーゼが貼られている。天使のように愛らしい彼女の顔につけられた暴力の痕跡に、クラスの男子たちは同情と怒りの声を上げていた。
「ううん、大丈夫だよ。みんな、心配してくれて本当にありがとう。……私こそ、ちゃんとした過去問を手に入れられなくて、みんなを傷つけることになちゃって……本当にごめんなさいっ……」
櫛田は目に涙を浮かべ、痛む頬を抑えながら健気に謝罪の言葉を口にした。
その健気な姿に、クラスメイトたちは「櫛田ちゃんは悪くないよ!」「悪いのは偽物を掴ませたAクラスの奴らだ!」と彼女を慰める。表面上、彼女は悲劇のヒロインとしてクラスの同情を一身に集め、自身の立場を完全に守り抜くことに成功していた。
だが——その天使の仮面の下、櫛田桔梗の腹の底では、煮えたぎるドス黒い憎悪と怒りが爆発寸前であった。
(どいつもこいつも、口先ばっかりで何もしないくせに……ッ! 心配する暇があるなら、今すぐAクラスにいってあのクソ共に土下座させてきなさいよッ!!)
彼女の内心は、周囲の薄っぺらい同情を全身で嘲笑い、唾を吐きかけていた。
昨日の暴力事件。本音を言えば、彼女は自分を殴った須藤を直ちに警察に突き出し、傷害罪で社会的に抹殺してやりたかった。しかし、須藤自身がすでに退学宣告を受けていたことと、これ以上クラス状況を悪化させたくないという周囲の同調圧力と、何よりも天使の仮面を維持するために、結局は「不可抗力の事故」として穏便に済ませる羽目になってしまったのだ。殴られ損である。
(そもそも、私がこんな目に遭ったのは……全部、綾小路のせいじゃんッ!)
櫛田の視線が、ガーゼの下の瞳の奥で、窓際の綾小路清隆を鋭く、そして怨念を込めて射抜く。
あの男が「過去問」などという余計な入れ知恵をしたからだ。その結果、自分はDクラスの戦犯として扱われかけ、最後には見苦しい言い逃れをし、ギリギリのところで同情を買うしかなくなった。何より許せないのは、綾小路清隆が『櫛田桔梗の裏の本性』をすでに知っているという事実だった。誰からも愛される天使の仮面。その裏に隠された、他人の秘密を握り潰し、優越感に浸るという歪んだ承認欲求。それを知られている限り、綾小路はこの学校において彼女の最大の爆弾であり、今すぐにでも消し去りたい存在なのだ。
当然、彼女の過去を知り得る立場にある堀北鈴音も同罪である。
(こんな無能の集まりのDクラスに、私の居場所なんてない。こんなところでチヤホヤされたって、ポイントも将来も手に入らない。……このクラスに見切りをつけて、私だけが『上』へ行く方法を見つけなきゃ)
櫛田は愛想笑いを振りまきながら、自身の脳内で高速の損益計算を行っていた。
Dクラスを裏切り、他クラスへ寝返る。そのためには絶対的な力が必要だ。
(不士鳥、リアヴェル……)
彼女の頭の中にも、軽井沢と全く同じ、あの黄金の悪魔の姿が浮かび上がっていた。
偽の過去問という残酷な罠を仕掛け、Dクラスを崩壊させた張本人。本来であれば恨むべき憎悪の対象だ。だが、櫛田桔梗という少女は、自身の承認欲求と利益のためであれば、昨日まで親友だった人間すらも平気で売る異常性を持っている。
Aクラスの支配者であり、財閥の御曹司。学年最強にして、すべてのルールの頂点に立つ男。
(あいつの懐に潜り込めばいい。私のこの『顔』と『愛嬌』、それに各クラスの生徒たちの『秘密(弱み)』を手土産にして、あいつに私を売り込む。そうすれば、私はAクラスの庇護と、不士鳥財閥という最高のステータスを手に入れられる。……綾小路も堀北も、Aクラスの力を使えば、虫けらみたいに簡単に踏み潰せるはずよ)
櫛田桔梗は、痛む頬の奥で、ゾッとするほど醜悪で冷酷な笑みを密かに噛み殺した。
そして、そんな櫛田桔梗の腹の底で渦巻くドス黒い憎悪と野心を、窓際の席から誰よりも正確に見透かしている者がいた。綾小路清隆である。
(……見事な被害者ぶりだな。だが、その瞳の奥には強烈な憎悪と、このクラスから逃げ出そうとする明確な意志が透けて見えているぞ、櫛田)
綾小路は、自身に向けられているであろう櫛田の隠された悪意を肌で感じ取りながらも、特段慌てることもなく、読みかけの文庫本に視線を落とした。
彼がこの学校に入学した目的は、ただ一つ。『誰にも干渉されない、平穏無事な学生生活を送ること』である。しかし、担任である茶柱佐枝に自身の過去を仄めかされて脅迫され、さらには隣の席の堀北鈴音からの強要もあり、中間試験までは「そこそこの手助け」をしてAクラスを目指すポーズをとるしかなかった。
だが、その前提は、昨日の一件で完全に崩れ去った。
(Aクラス……いや、不士鳥リアヴェルと坂柳有栖の二人。あいつらが仕掛けた『偽の過去問』というたった一つの罠で、このDクラスは事実上、再起不能なまでに崩壊した)
綾小路の脳裏に、凄惨な暴力のるつぼと化した教室を、たった一睨みで氷結させた黄金の悪魔の姿がフラッシュバックする。
綾小路は自身の能力に絶対の自信を持っている。もし、不士鳥リアヴェルと一対一の個人戦で戦うのであれば、どれほど相手が規格外であろうと、やりようはいくらでもあると考えていた。
しかし、これは『クラス対抗戦』なのだ。
統率力ゼロ、学力底辺、そしてすでに7名もの退学者を出し、クラスポイントがゼロとなったDクラスの烏合の衆を率いて、あの絶対的なカリスマと力で完全に統制されたAクラスの軍隊に勝つ。……ホワイトルームの最高傑作である彼がどれだけ論理を構築しようと、導き出される答えは『実質不可能』の一択であった。
(もはや、このDクラスという沈みゆく泥船に固執する理由はない。茶柱の脅しに乗って無駄な足掻きをするよりも、俺自身の『安寧』を確保するための最適解を探るべきだ)
綾小路の思考は極めて冷徹かつ合理的だった。
茶柱や堀北を出し抜き、この学校で自分だけが安全圏に身を置く方法。それを実現できるほどの圧倒的な力と、学校のルールすらも歪められる「外部の力」を持つ存在。
(やはり、行き着く先はあいつか)
不士鳥リアヴェル。
彼が初日に宣言した「待遇の保証」は、単なる嘘ではない。もし自分が彼の目に留まるだけの価値を提示し、取引を行うことができれば、茶柱の干渉を排除し、完全な平穏を手に入れることも不可能ではないだろう。綾小路清隆は、自身の安寧のため、静かに、そして誰にも気づかれないように、学年最強の怪物との接触ルートを探り始めたのである。
「……絶対に、勝ってみせるわ」
そんな綾小路の密かな決断など露知らず、隣の席では堀北鈴音がギリッと唇を噛み締めていた。
彼女の瞳には、絶望的な状況に屈しない不屈の闘志が燃え上がっている。
七名の退学者を出し、クラスが完全に崩壊しようとも、彼女の目標はただ一つ。生徒会長である偉大な兄、堀北学に自分を認めさせること。そのためには、這ってでもAクラスに到達しなければならないのだ。
隣の少年がすでに白旗を上げ、Aクラスの王との裏取引を画策していることなど夢にも思わず、彼女は『Aクラスを倒す方法』を必死に模索し続けていた。
そしてDクラスが完全に崩壊し、主要な人物たちがそれぞれの思惑で動き始める中。実は、軽井沢恵や櫛田桔梗、綾小路清隆といったクラスの目立つ存在とは全く別のベクトルで、密かに不士鳥リアヴェルとの接触を図ろうと虎視眈々と機会を伺っている者がいた。
Dクラスの軽井沢グループの一人として、可も不可もなく過ごしている少女、松下千秋である。
彼女は、裕福な家庭に育ち、学力も運動能力も本来であればAクラスに配属されてもおかしくないほどの高いポテンシャルを秘めていた。しかし、目立つことを嫌い、「能力をひた隠しにして平穏無事に高校生活をやり過ごし、最終的に特権を使って好きな進路を選ぶ」という安泰の未来を目的としてこの学校に入学してきたのだ。
だが、蓋を開けてみれば、進路選択の特権が与えられるのは「卒業時のAクラスのみ」という残酷な実力至上主義。力を隠したせいで底辺のDクラスに配属された彼女は、昨日の退学劇を見て、このクラスにはもはや浮上の目が一切ないことを理解していた。
(あーあ、見事に人生設計が狂っちゃったわ。このまま底辺のDクラスで三年間を過ごして、高卒の資格だけもらって放り出されるなんて、冗談じゃない)
松下は、コンパクトミラーで自身の整ったメイクを確認しながら、内心で冷ややかに現状へ見切りをつけていた。Dクラスが駄目なら、やることは一つしかない。
自分の未来を保証してくれる『絶対的な強者』にすり寄り、その隣で甘い蜜を吸うことだ。
(その点、不士鳥リアヴェルくんは……控えめに言って、超のつく『優良物件』だよね)
松下の脳裏に、リアヴェルの姿が浮かぶ。
不士鳥財閥の御曹司という、この上ないバックボーン。学校のルールを意に介さない圧倒的な力。そして何より——。
(綺麗で、危険な香りのする男の子……私の好みとしては完全に『どストライク』なんだよね)
彼女はペロッと赤い唇を舐めた。
もし、自分のこの容姿と隠し持った能力を使って彼にアプローチし、あわよくば『恋仲』にでもなることができれば?不士鳥財閥の未来の夫人の座。あるいは愛人でも構わない。彼に気に入られさえすれば、Aクラスへの移籍どころか、卒業後の幸福で豪奢な未来が完全に確定するのだ。
(そのためにはまずは私の本当の『価値』を売り込まなくちゃね。ふふっ、待っててね、リアヴェルくん)
松下千秋は、したたかな計算と女子高生らしい欲望を胸に秘め、学年の王を落とすための甘い罠を張り巡らせる準備を始めた。
そして、不士鳥リアヴェルという男の圧倒的な存在感に、最も純粋な形で心を奪われてしまった少女がいた。
昨夜、試験結果発表日の夜──。1年生女子寮の一室。ベッドの布団を頭まですっぽりと被り、熱を持った頬を両手で押さえて身悶える羽目になった長谷部波瑠加だ。
「ああっ、もう……っ! どうしよう、目を閉じても、あの時の顔が浮かんでくる……っ!」
彼女の心臓は、放課後からずっと、異常なほどの早鐘を打ち続けていた。
長谷部波瑠加は、恋人に対して極めてハードルの高い理想を持っている少女だった。Dクラスのまとめ役であり、女子から圧倒的な人気を誇っていた平田洋介でさえ、彼女から見れば「少し優しすぎる」という理由で恋愛対象にはなり得ないほどだ。
だが、地獄と化したDクラスの教室に現れた不士鳥リアヴェルの姿は、彼女のそんな高い理想すらも軽々と飛び越え、成層圏の彼方へと消え去ってしまうほどの衝撃を与えた。
(ルックス抜群……っていうか、もう人間離れした超絶イケメン! 私のド真ん中のタイプ!)
思い出すだけで顔が火照る。
(能力も最高! 誰も気づかないうちにC、Dクラスを罠にハメて、9人も退学者を出しちゃうなんて……冷酷だけど、それだけ頭が良くて凄いってことだし!)
そして何より、あの暴力の化身のようになっていた須藤を、言葉と視線だけで這いつくばらせた『カリスマ性』。周囲を圧倒する堂々とした振る舞いに、彼女の胸の奥で何かが決定的に弾けてしまったのだ。
「これって……これが、『恋』ってやつなのかな。……ううん、絶対にそうだ。私、不士鳥くんに一目惚れしちゃったんだ……!」
長谷部はベッドの上でジタバタと脚をバタつかせた。
ちなみに彼女は、退学になった7名のクラスメイトについて、一ミリの同情も抱いていない。特に、普段から品がなく女子を性的な目で見ている池や山内、すぐ暴力に訴える須藤といった「三馬鹿」に関しては、心の底から『ざまあみろ』とさえ思っていた。あんな不快な連中が、リアヴェルの華麗な罠によって一掃されたのだから、むしろ彼に感謝したいくらいである。
(問題は、どうやったら不士鳥くんとお近づきになれるかだよね……。 私はAクラスの生徒じゃないし、何かすごい特技があるわけでもないし……)
恋する乙女の悩みは深い。しかし、彼女の決意は固かった。
(待ってるだけじゃダメだよね。不士鳥くんが初日に言ったっていう『面接』……ダメ元でも、会いに行ってみようかな……っ)
Dクラスの崩壊。
それは、クラスポイントの消失という形だけでなく、生徒たちの心を完全にバラバラに引き裂き、それぞれの野心、保身、憎悪、打算、そして恋心といったあらゆる感情を、不士鳥リアヴェルという一つの『特異点』へと向かわせる結果を生み出したのである。
かくして、不死鳥の悪魔のもとへ、人間たちの様々な欲望が引き寄せられていく。