ようこそ不死鳥の舞う教室へ 作:Gemini&指示出す人間
理由、入学最初の試験なのでこの辺が妥当かな?という独自解釈。確かポイント関係は状況によって変動するって公式設定にあったような、なかったような気がするので、本作はこれで。
次回からは300でいいかな?
それと見えないマイナスポイントは設定しません。
追伸、HSDDのキャラは出ないと言ったな。あれは嘘だ。なんか出たもん
六月初頭。梅雨の足音が近づき、空がどんよりとした雲に覆われ始めたある日の朝。高度育成高等学校の全1年生にとって、これまでの行いと先月の中間試験の結果がすべて数値化される、運命の「クラスポイント発表」の日がやってきた。
1年Aクラスの教室。
教壇に立つ真嶋智也が、チョークを手に黒板へ力強く数字を書き込んでいく。その手が止まった瞬間、教室は静かな、しかし確かな熱狂に包まれた。
「——これが、今月の各クラスのポイントだ」
【1年Aクラス:1086 clp】
【1年Bクラス:663 clp】
【1年Cクラス:192 clp】
【1年Dクラス:0 clp】
「お前たちは中間試験において、学校史上類を見ない圧倒的な平均点を叩き出した。それに加えて、一切の規律違反もなく完璧な一ヶ月を過ごした結果、初期ポイントを上回る『1086ポイント』という評価を獲得した。よって一人当たり、今月は10万8千6百ポイントが支給されている」
真嶋の言葉に、Aクラスの生徒たちから感嘆の息が漏れた。
不士鳥リアヴェルという絶対的な王、そして彼を補佐する坂柳有栖に従う大半の生徒たちは、この勝利を「当然の結果」として静かに喜びを噛み締めていた。
彼らの視線は、黒板に書かれた他クラスの無惨な数字へと向かう。
特に、2名の退学者を出してポイントが激減したCクラス。そして、7名もの退学者を出したポイント『ゼロ』を維持するDクラス。リアヴェルの軍門に下り、優越感に浸りきっている生徒たちの目には、彼らの惨状はただの滑稽な喜劇として映っていた。
「自業自得だな。自力で問題も解けないような連中が、実力至上主義の学校で生き残れるわけがない」
「ええ。Aクラスの足元にも及ばないわ。少し哀れだけど、私たちは私たちの勝利を祝うべきね」
クラスのあちこちで、下位クラスに対する憐れみと嘲笑の囁きが交わされる。
だが、その輪に加わらず、全く別の感情で黒板を睨みつけている者たちもいた。
(……笑い事じゃねえよ。あのCクラスもDクラスも、全部『俺たちのトップ』が意図的に罠に嵌めて殺した結果だっていうのに)
橋本正義は、周囲に同調して作り笑いを浮かべながらも、背筋に流れる冷たい汗を拭えずにいた。偽の過去問という劇薬。それを何の躊躇いもなくばら撒き、学年全体の1割近い人間を容赦なく学校から追放した。そんな悪魔のような所業を平然とやってのけるリアヴェルと有栖が、もし自分たちの「敵」であったなら。
(俺も、あのDクラスの連中みたいに何も気づかないまま首を刎ねられてたかもしれない。……ああ、本当にこいつらが味方でよかった。Dクラスの連中には素直に同情するぜ。相手が悪すぎたな)
橋本は、恐怖から裏切ることを恐れつつも、同時にこの二人についていけば絶対に負けることはないという絶対的な頼もしさを感じていた。
その隣の席で、神室真澄もまた、自身の腕を抱きしめながら小さく息を吐き出していた。
(……敵じゃなくて本当に良かった。他クラスの連中はご愁傷様ね)
そして、誰よりも複雑な感情を抱いていたのは、葛城康平である。
彼は固く拳を握り締め、黒板の『0』という数字を痛切な目で見つめていた。
(確かに彼らは無能だったのかもしれない。だが、罠に嵌めて意図的に退学へ追い込むようなやり方が、本当に正しいというのか? ……いや、勝負の世界において敗者は絶対だ。しかし、この罪悪感と彼らに対する申し訳なさは、拭いようがない)
葛城は己の不甲斐なさと、リアヴェルたちの暴挙を止めることができない無力感に苛まれながら、ただ静かに唇を噛むことしかできなかった。
そんな教室内で交錯する様々な感情など意にも介さず、リアヴェルは退屈そうに窓の外を眺めていた。その隣の有栖もまた、涼しい顔で黒板の数字を眺め、計画の完璧な進行に満足げな微笑みを浮かべているだけだった。
その日の夜。
Aクラスの少なくない生徒たちが、ケヤキモールや学生寮の個室に集まり、潤沢なポイントを使って盛大な打ち上げを開いていた。
しかし、クラスの頂点に君臨するリアヴェルと有栖の二人は、そんな人間のささやかな宴には参加せず、リアヴェルの私邸である豪奢な屋敷へと転移魔法で帰還していた。
シャンデリアが煌びやかに照らすダイニングルーム。長いテーブルには、専属シェフが腕によりをかけた最高級のフルコースと、芳醇な香りを放つ極上のワインが並べられ、二人だけの「祝勝会」が静かに開かれていた。
「見事な初陣でした。リアヴェルくんの思惑通り、学年のパワーバランスは完全に崩壊し、私たちAクラス一強の盤面が完成しました」
「君の采配があったからこそだ、有栖。偽の過去問という毒は、無能な者たちを効果的に間引く最高のフィルターとして機能した。これで、少しは目障りなノイズが減ったというものだ」
有栖はグラスを持ち上げ、リアヴェルに向けて優雅に微笑んだ。
二人のグラスが重なり、澄んだ音がダイニングルームに響き渡る。
悪魔として転生し、リアヴェルの女王として成長著しい有栖は、最近では魔力のコントロールも完璧にこなし、その銀色の瞳には人間にはない魔性の光が宿るようになっていた。
「次は、夏の無人島試験ですね。すでに情報は抜いてありますので、どう料理するか、今から楽しみです」
「ああ。退屈な箱庭の遊戯だが、君の知略で極上のエンターテインメントに仕立て上げてくれ」
二人が和やかに言葉を交わしていた、その時だった。
——カッ!!
突然、ダイニングルームの空間が歪み、真紅の炎と黄金の光が渦を巻くようにして巨大な『魔法陣』が床に展開された。
フェニックス家の紋章が刻まれたその魔法陣から、強烈な熱波とともに一つの影が実体化する。
「……相変わらず、好き勝手に遊んでいるみたいですわね。リアヴェルお兄様」
炎の中から姿を現したのは、燃えるような金髪を美しい縦ロールのツインテールにまとめ上げた、見目麗しい小柄な少女だった。
フリルのあしらわれた豪奢なドレスを身に纏い、その背中からはリアヴェルと同じ、美しく力強い『不死鳥の炎の翼』が顕現している。彼女から放たれるのは、純血の悪魔としての圧倒的な気高さと、生意気でありながらもどこか愛嬌のある誇り高い気風だった。
「レイヴェルか。珍しいな、お前が自ら私の屋敷に出向いてくるとは。ライザー兄上のレーティングゲームの手伝いはどうした?」
リアヴェルは全く動じることなく、グラスを揺らしながら妹であるレイヴェル・フェニックスへと声をかけた。
「ライザーお兄様のゲームは現在休戦期間中ですわ。それよりも……」
レイヴェルは炎の翼をスッと収束させると、ツンと澄ました顔でテーブルへと歩み寄り、リアヴェルの向かいに座る有栖へと鋭い視線を向けた。
「お兄様が、初めて自身の
「ほう。私の見立てを疑うとは、お前も随分と偉くなったものだな。……有栖、紹介しよう。私の妹、レイヴェルだ」
リアヴェルの言葉を受け、有栖はゆっくりと席を立ち、流れるような美しい所作でレイヴェルに向かって一礼した。
「初めまして。リアヴェルくんの眷属として女王を拝命いたしました、坂柳有栖と申します。お噂はかねがね。リアヴェルくんの妹君にご挨拶できる日を、心待ちにしておりました」
お嬢様口調ではない、完璧に洗練された丁寧語。
その隙のない立ち振る舞いと、病弱だった過去を感じさせない堂々たる姿勢に、レイヴェルは値踏みするように目を細めた。
「……坂柳有栖、ね。確かに、美しい方ですわね。ですが、悪魔の世界は美貌だけで生き残れるほど甘くはありません。お兄様の女王を名乗るからには、相応の覚悟と実力があるのでしょうね?」
ゴォォォォッ!!
レイヴェルが鋭い言葉を投げかけると同時に、彼女の全身から純血の悪魔としての高密度な魔力が、威圧となって有栖へとのしかかった。通常の人間であれば、そのプレッシャーだけで息が止まり、気を失っていてもおかしくない。
ライザーの眷属として数々の戦いを経験し、優れた分析力と知略を持つレイヴェルからの、明確な『実力のテスト』であった。
しかし。
有栖は顔色一つ変えることなく、微かに口角を上げて微笑み返した。
「ええ、重々承知しております。ですが、ご心配には及びません」
——スッ。
有栖の銀色の瞳が怪しく光った瞬間、彼女の足元から、レイヴェルの炎を完璧に相殺し、そして包み込むような冷たくも巨大な魔力の波動が展開された。
女王の駒がもたらす、
「……あら。この魔力操作、転生したばかりの人間だというのに、ずいぶん洗練されているのね」
「リアヴェルくんに選ばれた駒として、無様な姿を見せるわけにはいきませんから。私は私の知略とこの力をもって、必ずやリアヴェルくんを冥界の頂点へと導いてみせます。妹君にも、その覇道を見届けていただければ幸いです」
有栖は魔力をスッと収め、再び優雅に席へと戻った。
その全く底を見せない余裕の態度と、先ほどまで見せていた魔力の残滓に、レイヴェルはポカンと口を開け、やがてフンッと小さく鼻を鳴らした。
「……なるほど。お兄様がわざわざ人間界の箱庭で見つけたというだけあって、ただの小娘ではありませんのね。生意気ですが、その実力と覚悟は認めてあげますわ」
「ははっ! レイヴェルにそこまで言わせるとは、流石は私のクイーンだ」
リアヴェルは機嫌良く笑い声を上げ、メイドにレイヴェル用の席とグラスを用意させた。
「まあ、せっかく来たのだ。お前も座って、私たちの祝勝会に参加していくといい。有栖の話は、なかなかどうして刺激的だぞ」
「も、もう。お兄様ったら、本当に悪い顔をして……。でも、お兄様がそこまで楽しんでいるのなら、少しだけお話を聞いて差し上げますわ!」
ツンデレな態度を崩さないレイヴェルだったが、その瞳には兄の選んだ優秀な眷属に対する明確な信頼と、これから彼らが巻き起こすであろう嵐への期待が宿っていた。
人間界の学校という小さな箱庭を舞台に遊ぶ不死鳥の悪魔とその女王。そして、冥界からの来訪者。Aクラスの他の生徒たちが何も知らずに宴を楽しむその裏で、悪魔たちの策謀と祝宴の夜は、優雅に、そして底知れぬ深さをもって更けていくのであった。