ようこそ不死鳥の舞う教室へ   作:Gemini&指示出す人間

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第二話「不死鳥と人間の交流」

 担任である真嶋が教室を去った後、1年Aクラスの教室内には異様な熱気が渦巻いていた。

 無理もない。入学早々、学校側が隠蔽しようとしていた「実力至上主義」の真のシステム——行動規範がポイントという名の通貨に直結するという事実を、一人の生徒が完璧に暴き立ててみせたのだ。

 その中心にいるのは、窓際の席で優雅に足を組み、窓の外の景色を退屈そうに眺めている金髪碧眼の美男子、不士鳥リアヴェルである。女子生徒たちは熱を帯びた視線を彼に送り、男子生徒たちは畏怖と羨望の入り交じった目で見つめていた。

 

 しかしこのままではクラスが浮き足立ったままになる。そう危惧したのか、一人の少年が重々しい足取りで教卓の前へと進み出た。

 高校生とは思えない屈強な体格とスキンヘッド。葛城康平である。

 

「皆、少し聞いてほしい。俺は葛城康平という。先ほどの不士鳥の指摘により、我々が置かれている状況が特殊であることは理解できたはずだ。まずは落ち着いて、互いを知ることから始めるべきだと思う。そこで自己紹介を提案したいのだが、どうだろうか」

 

 実直で真面目な声色が、浮ついていた教室の空気を引き締める。

 それに同調するように、杖をつきながらゆっくりと立ち上がったのは、銀色の髪を持つ小柄な少女、坂柳有栖だった。

 

「ふふっ。素晴らしい提案ですね、葛城くん。これから三年間、共に戦うクラスメイトなのですから、互いの能力や人となりを知っておくのは有益なこと。私も賛成します」

 

 葛城の堅実さと、坂柳の知性を感じさせる優雅な立ち振る舞い。この二人がいち早く動いたことで、Aクラスの生徒たちは自然と彼らの提案を受け入れた。

 出席番号順に、次々と自己紹介が始まっていく。それぞれが名門校出身であったり、全国レベルの特技を持っていたりと、Aクラスにふさわしい優秀な経歴を口にしていく。

 

 そして、いよいよその順番が回ってきた。

 リアヴェルが席から立ち上がった瞬間、教室中の視線が一斉に彼の一挙手一投足に集中した。

 

「さて、先ほど名乗ったが、改めて自己紹介させてもらおう。私の名は不士鳥リアヴェル。不士鳥財閥の四男であり、人間……いや、世間一般の言葉を借りるなら、大財閥の『御曹司』というやつだ」

 

 滑らかで、それでいて絶対的な自信に満ちた声が響き渡る。

 

「私の趣味は『レーティングゲーム』、特にチェスが好きだ。特技は……そうだな、強いて言うなら『敗北を知らないこと』と『女性を愛すること』かな」

 

 教室からどよめきと、女子生徒たちの黄色い溜息が漏れる。並の人間が言えばただの痛々しい虚勢だが、リアヴェルが放つ圧倒的なカリスマと美貌の前では、それが揺るぎない事実として場を支配してしまう。

 だが、彼が本当にクラスメイトたちを驚愕させたのは、次に続いた言葉だった。

 

「私がこの学校に入学した最大の理由は、学歴でもなければ、学校が用意するつまらないポイントゲームのためでもない。——有能な人材を探しに来たのだ」

 

 リアヴェルは教室全体を見渡すように、碧眼を鋭く光らせた。

 

「私は将来、不士鳥財閥において己の派閥を盤石なものにするつもりだ。そのための『側近候補』、あるいは『リアヴェル派閥の仲間』となる優秀な人材を求めている。この学校には、良くも悪くも能力の高い人間が集まっていると聞くからね。だから、君たちに提案しよう」

 

 彼は唇の端を吊り上げ、蠱惑的で、かつ傲慢な笑みを浮かべた。

 

「我こそはと思う人間は、いつでも私に面接を申し出たまえ。クラスは問わない。学力、身体能力、あるいは何らかの特異な才能……光るものがあれば、私が直々に評価してやろう。私のお眼鏡にかなった者には、不士鳥財閥における破格の待遇と、確約された輝かしい未来を保証する」

 

 沈黙が落ちた。それは、あまりにも規格外の宣言だった。

 ただの一介の高校生が、クラスメイトたちに向かって「自分に仕えろ」と、そして「就職を保証する」と公言したのだ。

 

「ああ、そうだ。この話はAクラスだけに留めておくのはもったいない。君たち、もし他クラスに知人がいるのなら、ぜひ全校生徒へ広めるように唆してくれたまえ。BクラスだろうがDクラスだろうが、あるいは上級生だろうが構わない。ダイヤの原石は、泥の中にこそ転がっているかもしれないからね」

 

 わざとらしく肩をすくめてみせるリアヴェル。

 それは明確な、学校のシステムに対する挑発であり、同時に全校生徒を自身の「駒(眷属)」選びのためのオーディションに巻き込むという、狂気じみたエンターテインメントの始まりだった。

 呆然とする生徒たちをよそに、リアヴェルは「以上だ。美しいレディからのアプローチは、昼夜を問わず歓迎するよ」とウインクを飛ばし、優雅に席に着いた。

 

 自己紹介がすべて終わり、自由時間となるや否や、リアヴェルの席には当然のように二人の人物が近づいてきた。

 葛城康平と、坂柳有栖である。

 クラスをまとめ上げようとする彼らにとって、圧倒的な影響力と異端の思考を持つリアヴェルは、無視できない最大の特異点だった。

 

「少し、いいだろうか。不士鳥」

 

 葛城が険しい表情で口を開く。

 

「構わないよ。だが、私のことはリアヴェルと呼びたまえ。堅苦しいのは好きじゃなくてね」

「……では、リアヴェル。単刀直入に言わせてもらうが、先ほどの君の発言はあまりにも波紋を呼びすぎる。他クラスの生徒まで巻き込んで面接を行うなどと言えば、不要な混乱を招き、最悪の場合、学校側から目をつけられクラス全体のペナルティになりかねない。Aクラスの安寧を乱す行為は、控えてもらいたい」

 

 葛城の言葉は正論だった。保守的で防御を重んじる彼からすれば、リアヴェルの行動は爆弾を抱えて走り回るようなものである。

 リアヴェルはくすりと笑い、頬杖をついた。

 

「安寧、か。葛城、君は強固な城壁を築くことには長けているようだが、少しばかり視野が狭いな。他クラスの優秀な人材を把握し、私のもとに取り込むことは、結果としてAクラスとしての情報収集にも繋がる。盤上を支配するのは、常に攻め手を持つ者だよ」

(なるほど。この葛城という男、堅物だが思考は堅実。防衛戦を任せる『戦車(ルーク)』としては悪くない素質を持っている。だが、まだ私に仕えるには柔軟性が足りないな)

 

 リアヴェルは超越者としての威圧感をほんの僅かだけ——人間には察知できないレベルで、だが本能的な恐怖として感じ取れる程度に解放した。

 

「ッ……!」

 

 葛城の額に、一瞬で冷汗が滲む。目の前で座っているだけの同年代の少年が、まるで天を覆う巨大な竜か何かのように感じられたのだ。重圧に息が詰まりそうになる葛城の横で、杖をついた坂柳が、嬉々とした声を上げた。

 

「ふふふっ、人が言葉だけで気圧される瞬間なんて、滅多に見られない光景ですね」

 

 坂柳有栖。彼女の瞳には恐怖はなく、底知れぬ知的好奇心と、リアヴェルという存在に対する純粋な歓喜が宿っていた。

 

「リアヴェルくん、でしたね。あなたの先ほどの宣言、私は賛成です。学校のちっぽけなルールなど無視して、ご自身の箱庭を作り上げようとするその傲慢さ……とても美しく、そして愉快です」

「おや。私の意図を理解してくれるとは嬉しいね、お嬢さん」

「ええ。ですが、あなたは本当にそれだけの大言壮語を実現できる『実力』をお持ちなのですか? 財閥の力ではなく、あなた個人の力を、私はぜひ試してみたい」

 

 坂柳の言葉には、天才特有の無邪気な残酷さが孕んでいた。彼女はどこまでもリアヴェルを試そうとしている。自分が彼を盤上で踊らせることができるかどうかを。

 リアヴェルは愉快そうに目を細めた。

 

(この小娘……私の気配に当てられてなお、挑発してくるか。頭脳の回転速度、盤面を俯瞰する視野。実に素晴らしい。知将たる『女王(クイーン)』か、はたまた『僧侶(ビショップ)』か。ぜひとも私の眷属として手元に置いて、可愛がりたくなるというものだ)

「いいだろう。私を試したいという君の野心は嫌いじゃない。私からすれば、君たちはまだ駒の動かし方を覚えたばかりの雛鳥にすぎないがね」

 

 傲岸不遜なリアヴェルの態度に、坂柳は目を細め、杖の先でコンと床を鳴らした。

 

「そういえば、自己紹介の際に仰っていましたね。趣味は『レーティングゲーム』、特にチェスだと」

「ああ、そうだ」

「チェスであれば、私も少々嗜んでおります。私、こう見えてもチェスでは誰にも負けたことがないんですよ?」

 

 「レーティングゲーム」とは、悪魔たちの間で行われる領地や権力を賭けた大規模な模擬戦のことだが、当然人間である彼女が知る由もない。リアヴェルは意に介さず、優雅に微笑んだ。

 

「君もチェスを嗜むのか。それはいい」

「ええ。口でどれだけ実力を語ろうと、盤を挟めばすべてが丸裸になります。……リアヴェルくん、私とチェスで勝負していただけませんか? あなたが本当に、私の上に立つにふさわしい王であるかどうか、この坂柳有栖が直々に見極めて差し上げます」

 

 坂柳からの真っ向からの挑戦状。葛城が「おい、坂柳……」と止めようとするが、もはや二人の間の熱を帯びた空気は誰にも止められなかった。

 

「はははっ! いいだろう、受けて立とうじゃないか」

 

 リアヴェルは立ち上がり、坂柳を見下ろして不敵な笑みを浮かべた。

 

「だが、ただ勝負するだけではつまらない。私が勝った暁には、君にはたっぷりと『私の力』を思い知ってもらおうか。絶対的な敗北という美酒を、君のその賢しい頭に注ぎ込んでやろう」

「望むところです。あなたのその過剰な自信、私がへし折って差し上げます」

 

 不死鳥と天才の、火花散る交流。

 それは、これから始まる高度育成高等学校の三年間において、最初の激突であった。

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