ようこそ不死鳥の舞う教室へ 作:Gemini&指示出す人間
夏を象徴する太陽が、ジリジリと無人島の白い砂浜を焼き焦がしていた。
波の音と、ジャングルから響くけたたましい蝉時雨だけが支配するこの大自然の牢獄で、学年主任である真嶋智也からの『特別試験開始』の宣告を受けた一年生の生徒たちは、各クラスの担任のもとで様々な反応を見せていた。
絶望、困惑、あるいは焦燥。だが、1年Cクラスを絶対的な暴力と恐怖で統治する王、龍園翔の顔に浮かんでいたのは、極上の獲物を前にした肉食獣のような獰猛な歓喜であった。
「ククッ……なるほどな。無人島でのサバイバル、そしてスポットの占有とリーダー探し。学校側もずいぶんと悪趣味で、面白えゲームを用意してくれたじゃねえか」
龍園は、担任である坂上から渡された分厚いマニュアルを片手で乱暴にパラパラと捲りながら、喉の奥で笑い声を鳴らした。
彼を中心に円陣を組むCクラスの生徒たちは、誰一人として口を開かない。彼らに許されているのは、王の命令を忠実に実行することだけだからだ。
「金田。お前がリーダーだ。今すぐ坂上のところへ行ってカードを貰ってこい」
「承知いたしました、龍園氏。ですが、よろしいのですか? 私のようなものが、このクラスの命運を握るカードを持っても」
「構わねえよ。どうせ他のクラスの連中は、俺がリーダーだと勝手に思い込む。お前みたいな目立たねえ地味な野郎がカードを持っていた方が、カモフラージュには最適だ。カードを受け取ったら、このマニュアルで最低限の『必要物資』をリストアップしとけ。水、簡易トイレ、虫除け……ポイントは極力温存する。無駄な贅沢品を買った奴は、その場で海に沈めるからな」
「ははっ、完璧な采配です。すぐに手配いたします」
金田が眼鏡を押し上げながら足早に坂上の元へ向かうのを横目に、龍園の視線は砂浜の端——早々に森の中へと姿を消していく、1年Aクラスの集団へと向けられた。
不士鳥リアヴェルの黄金の髪と、坂柳有栖の白銀の髪が輝いて見える。そして、葛城康平や橋本正義といった目立つ実力者たちが、大仰に周囲を警戒しながら別路で森へと分け入っていくのが確認できた。
(フン。あの金髪の化け物と、銀髪の女。連中もスポットの重要性に気づいて、早々に場所取りに動き出したってわけか。……だが、どんなに個人の能力がぶっ飛んでいようが、この試験のルールの本質を理解していなければ、あいつらの敗北はすでに確定している)
龍園は、マニュアルに記載されていた『スポットの占有』というルールから、ひとつの極悪非道な、しかし絶対的な必勝法を導き出していた。
カードで占有できる時間は8時間。そして、他クラスが占有しているスポットを無断で使用すればマイナス50ポイントのペナルティ。ならば——力で奪う必要などない。『数の暴力』で行動そのものを封鎖してしまえばいいのだ。
「石崎、アルベルト。お前らはここで金田の護衛と物資の管理をしろ。俺は少し、お花畑の連中と『交渉』してくる」
「了解ッス、龍園さん!」
龍園は砂浜を歩き出し、未だにクラスの方針を決めかねて円陣で話し合いを続けている1年Bクラスへと、堂々たる足取りで近づいていった。
「みんな、まずは慌てないで。300ポイントっていう限られた資金をどう使うかが鍵になるから、必要な衛生用品と、全員分の最低限の飲料水から計算しよう!」
Bクラスのリーダーである一之瀬帆波が、不安がるクラスメイトたちを太陽のような明るい笑顔で勇気づけ、見事な統率力で場をまとめようとしている最中だった。
彼女の隣には、参謀役である神崎隆二が控えている。
「よう、一之瀬。相変わらず学級委員長ごっこがお上手だな」
不躾な声とともに現れた龍園に、Bクラスの生徒たちが一斉に警戒の視線を向けた。
一之瀬も笑顔を崩し、真剣な眼差しで彼を睨み据える。
「龍園くん。私たち、今クラスの大事な話し合いをしているんだけど。Cクラスのあなたに構っている暇はないんだよね」
「冷たいこと言うなよ。俺はてめえらに、この無人島で『確実に出血ゼロで生き残り、あまつさえあのAクラスをぶっ潰す方法』を教えてやろうと、わざわざ親切心で出向いてやったんだぜ?」
その言葉に、一之瀬の瞳が微かに揺れた。
神崎が一歩前に出て、龍園を牽制する。
「下らない虚勢だな、龍園。お前たちCクラスが、何の対価もなしに僕たちに有益な情報を渡すはずがない。どうせ裏があるんだろう」
「ククッ。堅物だなぁ、神崎。だが、今回は本当にてめえらの協力が不可欠なんだよ。……いいか、よく聞け」
龍園は周囲に他のクラスの人間がいないことを確認すると、声を潜め、彼が構築した『封鎖作戦』の全貌を語り始めた。
「この試験のキモは『スポットの占有』だ。占有したクラスにポイントが入り、他クラスは使えなくなる。だが、島は広い。Aクラスの連中がいくら優秀でも、たかだか40人じゃあ、全てのスポットを管理し続けることは不可能だ。そこで、だ」
龍園はニヤリと、蛇のように凶悪な笑みを浮かべた。
「ウチのCクラスと、てめえらBクラス。合わせて78人で『同盟』を組む。そして、島中にあるスポットをすべて俺たち連合で探し出し、キーカードで占有する。それだけじゃねえ。見つけたスポットには、常に俺たちのクラスの人間を『見張り』として配置し続けるんだよ」
「……見張りを立てる?」
一之瀬が怪訝な顔をする。
「そうだ。もしAクラスの連中がスポットの更新に来たり、新たに奪おうと近づいてきたりしたら、見張りが身を挺して『物理的』に端末への接触を邪魔する。暴力は使わねえよ、ただ端末にしがみついてるだけでいい。それでも強行突破しようとすれば、それは向こうからの『暴力行為』として学校側に申告して失格に追い込める」
龍園の策略。それは、試験のルールを悪用した完全なる『活路の封鎖』であった。
「俺たち78人で島のあらゆるスポットを占拠し、肉の壁で防衛する。Aクラスの連中には、ただの一ポイントも渡さねえ。あいつらを、水も拠点も得られない『根無し草』にして、この過酷な森の中を無意味に彷徨わせてやるんだよ。そうすりゃ300ポイントも吐き出す上に、ポイントがなくなりゃあ疲労と渇きで自滅する」
「…………ッ」
一之瀬と神崎は、言葉を失い息を呑んだ。
あまりにも悪辣で、しかしあまりにも理にかなった必勝法。一学期中間試験において、不士鳥リアヴェルと坂柳有栖が仕掛けた「偽の過去問」という凶悪な罠により、学年全体が恐怖と絶望に叩き落とされた記憶は新しい。あの圧倒的なバケモノたちに正面から挑んで勝てる見込みがないことは、一之瀬も神崎も痛いほど理解していた。
だが、龍園の提案するこの戦術ならば。個人の能力がどれほど突出していようと、システムのルールと数の力で、彼らを無力化することができる。
「……Cクラスは、スポットを折半する気があるの?」
「ククッ。俺はAクラスのあの澄ました顔を泥水に沈められればそれで満足だ。スポットで得られるポイントは、同盟を組む以上、きっちり平等に分け合ってやるよ」
嘘であり、真実だった。龍園の腹の底では、Aクラスの行動を数で潰した後、Bクラスの裏をかきリーダーを指名し、最終的にはCクラスが1位となる算段がすでに出来上がっている。
だが、今の一之瀬たちには、龍園の言葉を信じてその手に縋るしか、Aクラスという巨大すぎる絶望に対抗する手段がなかった。
「……分かったわ」
数分間の重い沈黙の後、一之瀬は決意の眼差しで龍園を真っ直ぐに見据えた。
「一之瀬! 本当にこの男を信用するのか!?」
「神崎くん、他に方法はないよ。私たちだけでAクラスに勝てる保証はない。……でも、龍園くん。一つだけ条件があるの」
一之瀬は、彼女の持つ絶対的な善性から来る『譲れない一線』を口にした。
「私たちBクラスは、この同盟においていかなる『暴力行為』も認めない。もしCクラスの誰かがAクラス、あるいは他のクラスの生徒に暴力を振るったり、卑劣な手段で怪我をさせたりした場合、その時点でこの同盟は破棄。私たちはCクラスを学校に告発する」
「ククッ。安心しろよ。さっきも言っただろ、暴力なんて野蛮な真似はしねえ。ルールに則った、美しい『数の力』で押し潰すだけだ」
かくして、ここにBクラスとCクラスによる、対Aクラスを目的とした総勢78名の大規模な『BC連合』が誕生した。
龍園はさらに、Dクラスをもこの連合の鉄砲玉として組み込もうと画策し、彼らのリーダー格である櫛田桔梗に接触を図っていたが、堀北鈴音や幸村輝彦の強硬な反対に遭い、そちらの交渉は未だ宙に浮いたままであった。
だが、龍園にとってDクラスなど所詮は使い捨てのオマケに過ぎない。本命のBクラスを取り込んだ時点で、彼の勝利へのピースは完全に揃ったのだ。
「よし、契約成立だ。無駄話をしている暇はねえ。一之瀬、さっそくお前のクラスの連中とウチの連中で混成の『探索部隊』をいくつか作るぞ。まずは拠点となりそうなスポットを虱潰しに見つけ出し、一気に占有する」
「うん、分かったよ。みんな、聞いての通りだよ! Cクラスと協力して、まずは安全なキャンプ地を確保しよう!」
一之瀬の号令により、Bクラスの生徒たちも士気高く立ち上がり、Cクラスの荒くれ者たちと共に部隊を編成していく。
78名という大所帯が、砂浜から緑深いジャングルへと、怒涛の勢いで進軍を開始した。
熱帯特有のまとわりつくような湿気。容赦なく体力を奪う太陽の熱と、まとわりつく虫の羽音。
都会の快適な環境に慣れきった高校生にとって、無人島の森の中は想像を絶する過酷な環境であった。ただ歩くだけで汗が滝のように流れ落ち、呼吸が荒くなる。
それでも、BC連合軍の生徒たちは「Aクラスを倒す」という共通の目標のもと、励まし合いながらジャングルの奥深くへと足を進めていた。
「龍園くん、あそこの川。水場なら、絶対にスポットがあると思うんだ」
「ククッ、だろうな。そこを最初の拠点にする。金田、カードの準備はできてるな?」
「抜かりはありません。いつでも占有可能です」
先頭を進む龍園と一之瀬、そしてリーダーである金田たちの視界がふっと開けた。
そこには、透き通るような清流が流れる美しい川辺があった。水面が木漏れ日を反射してキラキラと輝き、周囲は開けた平地になっていてテントを張るには絶好のロケーションである。
そして、川辺の岩の上に、明らかに人工物である金属製の端末——『スポット』の機械が設置されているのが見えた。
「あったぞ! スポットだ!」
「やった! これでまずはポイントゲットね!」
Bクラスの生徒たちが歓声を上げる。
龍園も口角を吊り上げ、金田の背中を叩いた。
「行け、金田。まずはこの水場を俺たちのもんにする」
「承知いたしました」
金田は眼鏡を光らせながら、誇らしげな足取りでスポットの端末へと近づき、ポケットから取り出したリーダーカードを、端末の読み取り部分へと勢いよくかざした。
——ピピッ。
無機質な電子音が鳴る。
しかし、金田が期待していた『占有完了』とはならなかった。
代わりに、端末の液晶画面に表示されたのは、冷酷な赤文字であった。
『エラー。このスポットは現在、【1年Aクラス】によって占有されています』
「…………は?」
金田の口から、間抜けな声が漏れた。
後ろで見ていた龍園が訝しみ、一之瀬たちも「?」と顔を見合わせる。
「おい金田、何をもたついてやがる! 早くカードをかざせ!」
「りゅ、龍園氏……それが。このスポット、すでに……Aクラスに占有されていると表示が……」
金田の震える声に、龍園は舌打ちをして端末の前に歩み寄り、その画面を乱暴に覗き込んだ。
確かにそこには、はっきりと『1年Aクラス』の文字が刻まれている。
「チッ……。葛城の野郎どもか。あいつら、砂浜から早々に森へ向かいやがったからな。運良く最初にここを見つけて、タッチの差で奪いやがったんだ」
「そ、そんな……私たちも結構急いできたのに」
一之瀬が悔しそうに唇を噛む。
「気にするな。島は広いんだ、ここ一つ取られたところで痛くも痒くもねえ。次に行くぞ、次だ!」
龍園は無理やり苛立ちを抑え込み、部隊に再出発の号令をかけた。
彼らは汗だくになりながら、さらに森の奥深く、上陸した島の裏側へと向かった。
三十分後。獣道を切り開き、息も絶え絶えになりながらスポットへ到着した彼らを待っていたのは、再び無情な占有の文字であった。
『このスポットは現在、【1年Aクラス】によって占有されています』
「…………ッ! なんだと!?」
龍園の顔に、明確な焦燥と怒りが浮かんだ。
偶然ではない。川辺から島の反対側までは、そこそこの距離がある。葛城たちの集団が、自分たちより早く川辺を占有し、さらにこの場所まで移動して占有を完了させるなど、時間的にも行動範囲的にも不自然すぎる。
「龍園くん、どういうこと……? Aクラスは、複数の部隊に分かれて同時にスポットを回っているの?」
「バカ言え、カードは一つしかねえんだぞ! 物理的に不可能だ。……クソッ、別のスポットへ向かうぞ! まだいくつか候補はある!」
焦りに背中を押されるように、BC連合は狂ったように森を駆け回った。
次に向かった『森の中の開けた空き地』。『このスポットは現在、【1年Aクラス】によって占有されています』さらに奥の『森の中の倒木の側』。『このスポットは現在、【1年Aクラス】によって占有されています』『森の中のトウモロコシ畑』。『このスポットは現在、【1年Aクラス】によって占有されています』
「ハァッ……ハァッ……嘘、だろ……」
灼熱の森の中を何時間も歩き回った生徒たちは、疲労と渇き、そして何より『得体の知れない恐怖』によって、一人、また一人と膝をついて崩れ落ちていった。
一之瀬は青ざめた顔で座り込み、神崎は信じられないものを見る目で空を仰いでいる。
龍園翔は、目の前の端末に刻まれた『1年Aクラス』という文字を、まるで親の仇のように血走った目で睨みつけていた。
「どうなってやがる……。森中が……。島の中央に位置する主要なスポットが、全部……全部Aクラスに取られてるじゃねえかッ!」
物理的にあり得ない。
これほど広範囲に点在するスポットを、たった一つのカードを持ったリーダーが、試験開始からわずか数時間のうちにすべて回って占有を完了させるなど。
「龍園、くん……。さすがに私たち、もう……歩けないよ。水も、まだ確保できてないし……」
一之瀬が、絶望に満ちた声で呟く。
圧倒的な数の暴力で盤面を封鎖する。
そんな龍園の完璧なはずだった戦略は、始動する前にすでに『完全な死に体』となっていた。
彼らがどれだけ数を頼りに探し回ろうとも、そこにはすでに『Aクラス』という見えない怪物の刻印が押されているのだ。
占有できなければポイントは入らない。それどころか、無断で使用すればペナルティでマイナス50ポイントの地獄が待っている。
BC連合は、島の主要な資源と拠点をすべて奪われ、文字通り『根無し草』として無人島の中に放り出された哀れな迷子と化していた。
「……クソッ!! 不士鳥リアヴェルーーーーッ!!」
龍園の怒りに満ちた咆哮が、無人島の空に虚しく響き渡った。
同時刻。
無人島のほぼ中央に位置し、側には川と、外の熱気を遮断する涼やかな空間を備えた極上のスポット——『洞窟』。
「ふふっ。心地よい風ですね。天然のクーラーといったところでしょうか」
洞窟の奥深く、手頃な石に腰掛ける坂柳有栖は、涼やかな声で微笑んだ。
彼女の手元には、購入した飲料水が握られている。
洞窟の入り口付近では、葛城康平や鬼頭隼人といった屈強な男子生徒たちが、周囲の警戒と、集めてきた果実などの物資の整理を粛々と行っていた。
彼らは森の中を大仰に歩き回り、他クラスの目につきやすい場所で「スポットを見つけたフリ」をするという陽動任務を完璧にこなし、最終的にこの拠点である洞窟へと帰還したのだ。
「有栖。美紀からの報告は」
有栖の隣で、洞窟の壁に背を預けながら目を閉じているリアヴェルが、静かな声で問いかけた。
「ええ、先ほど完了の報告を受けました。……美紀さん、本当に素晴らしい働きです」
有栖は銀色の瞳を愉悦に細めた。
「彼女の俊敏性と隠密能力をもって、島の中央から北、東、南にある、集団が拠点とし得る【21箇所】の主要スポットは、すべて我々Aクラスの占有下に置かれました。現在、美紀さんは誰にも見つかることなく、それらのスポットを巡回し、8時間ごとの更新作業に入っています」
その報告を聞き、リアヴェルの口角が不敵に吊り上がった。
「素晴らしい。たった一人の影の騎士が、この島の盤面を完全に制圧したというわけか」
「はい。先ほどの報告によれば、森の中を彷徨うCクラスの龍園くんとBクラスの一之瀬さんたちの集団を、美紀さんが木の上から確認したそうです。彼ら、我々が占有済みの端末を見て、信じられないという顔で絶望し、汗と泥に塗れて這いずり回っているとか」
有栖はくすくすと、心底おかしそうに笑い声を漏らした。
彼女には、龍園の思考など手に取るように分かっていた。数の暴力による盤面の封鎖。いかにも彼らしい力押しの戦術だ。
だが、それは大前提として「相手よりも先にスポットを見つける」必要がる。
悪魔となった美紀の規格外の体力と移動能力の前には、人間の物理的移動速度など止まっているも同然なのだ。
「ふふっ、滑稽ですね。数を頼りに群れることしかできない羊たちが、狼の縄張りで迷子になっているようです。彼らがどれほど歩き回ろうと、見つけるのは私たちが残した『絶望』という名の足跡だけ。……さあ、たっぷりと無力感を味わっていただきましょう」
有栖の冷酷極まりない言葉が、ひんやりとした洞窟内に響き渡る。
少し離れた場所で物資の整理をしていた神室真澄は、有栖の言葉を聞き、ブルッと全身に悪寒を走らせた。
(……あいつ、本当に血が通ってないんじゃないの。どうやって島中のスポットを押さえたのかは知らないけど、他クラスの連中、完全に手のひらで転がされてるじゃない……)
神室は、自分たちが恵まれた涼しい洞窟で休息を取っている一方で、灼熱の太陽の下、水も拠点も得られずに絶望しているであろう他クラスの生徒たちに、密かな同情を寄せずにはいられなかった。しかし、同時に、彼女自身がこの『Aクラス』という絶対的な勝者の側にいることへの、強烈な安堵感も噛み締めていた。
リアヴェルと有栖を敵に回せば、待っているのは理不尽で完璧な破滅のみなのだから。
「さあ、第一幕は完璧な形で終了だ」
リアヴェルは目を開き、その碧眼に魔性の光を宿して立ち上がった。
彼は洞窟の入り口へと歩み寄り、眩しい外の光を見下ろすようにして、傲慢な王の笑みを浮かべた。
「ここからは、飢えと渇きに苦しむ有象無象が、どのように見苦しく足掻き、互いを裏切り合うのか……この安全圏から、ゆっくりと鑑賞させてもらおう」
「御心のままに、我が主。彼らの絶望の悲鳴を、最高のBGMとして捧げましょう」
無人島試験の初日。
生徒たちが己の知略と体力を振り絞って挑むはずだったサバイバルは、開始からわずか数時間にして、不死鳥の悪魔とその女王による『完全なる蹂躙と封鎖』によって、早々にその勝敗を決定づけられていた。
焼け付くような太陽の下、為す術もなく彷徨う人間たちの悲喜交々を他所に、悪魔たちの残酷な遊戯は、まだ始まったばかりであった。