世界を救え?できらぁ! 作:星5すり抜けとNTRは悪い文明
…あのカルデアで僕たちが─僕だけが助かったのは、なぜなのだろうか。
今はもうない海─オケアノス。本当なら特異点のことなんか覚えてるのもおかしいけれど、刻みつけられたような愛とと共に思い出せてしまう。
船に単身で乗り込んできた彼は、最初から武器を手に持たないで黒髭に啖呵を切った。
「悪い、エドワード。アイツラ殺したいから手伝って」
「デュフフw海賊に頼みごとしてなんとかなると思ってるなら笑いものですなwwwそれなりの交渉条件を出すなりしてくれないとww」
「そりゃ確かにな。じゃあ言い方を変えよう」
余裕のある表情でパチンと指を鳴らす。瞬間的に渦潮が船を取り囲むように複数現れ、その外周には嵐が吹いている。
(天候…!それも、海にも作れる…!)
黒髭が交渉のテーブルの着くためだけにすることとしてはいささか過剰だろうし、別の意図を含ませたやり方。
「俺を殺してもこの嵐と渦潮は戻らない。なんなら話の通じないかもしれないバーサーカーがここにやってくる」
脅し。力で言うことを聞かせる世界に力だけで殴り込みを彼はかけてきたのだ。
「おっと、お坊ちゃんかと思ったら意外とやるじゃねえか。…ならまぁ拙者もBBAの物を奪いに突撃しますかね」
「交渉成立だな。んじゃ戻すぞ」
後ろから飛びかかろうとした船員を緩慢な動作で払いつつ、嵐と渦潮が止まった。
「というかアンタ、サーヴァントじゃないの?拙者の船が1ミリも変動しないんだけど?」
「人間だからな。藤丸風香─戦場上がりの高校生だよ」
腕をめくれば令呪が見え、隠した瞬間から魔力の質が更に凝縮された。僕たちが戦っても勝てないということは確かなのだ。
(…嘘でしょ)
一片たりとて奪えない。そう判断したからには、少しだけ
「てか人理救う側なのに拙者達と同盟結ぶって正気?「狂気」デュフフwww即答ヤバすぎてチビっちゃいそうですなw」
「契約はマシュ・キリエライトを助けるまで。助けるの基準は『彼女が何もしなくとも安全に無傷で1日間眠れる場所』かつ『藤丸風香が彼女の状況についてある程度理解できる状況』な?」
「思ったよりやりおるwww…ってかそんくらい頭回るなら警戒くらいしとけよ」
「くっ…何も言えねえ…」
ガハハと笑うエドワードと打ちひしがれている彼。互いに寝首をかこうとしてるわけじゃないから普通の空気だ。
「おっと船員を紹介するぜ!せっかくだから性癖開示ステップで紹介したいなー!」
「おいそのノリだと俺も性癖開示させようとするやつだろ。やめれ」
チャッチャッラ、と耳障りな音楽が流れ始める。聖杯から渡されたふざけた知識にどこまでも乗りたいらしい。
「…これやらなきゃダメなのかな、アン」
「せっかくだしやりましょうよ、メアリー。そこのおじさんも参加してくれますよね?」
「やだなぁ、おじさんの腰が砕けるかもしれない」
ぼやきながらも全員用意してしまったのは、やっぱりこの船長の指示に従わないことが怖いからだ。
(こうやって遊ぶくらいやっとけば息抜きにも最適だからねー)
そしてそのノリに対応する風香という少年は、快晴のような無邪気な笑みを浮かべていた。
「準備はできたな、やるぞ皆ぁ!」
(…今思えば、あのふざけた紹介も牽制だったかもね。黒髭が一番実力差をわかっていたから)
僕がいるのは、本当なら入ることを許されない管制室。マスターがいないときだけは異様なまでに人が集まって、マスターのいるときは誰もいない静かな環境。
マスターのいない─けれど静か。
この結末は、もう予想できていた。
「私たち、なにがダメなのか…ふふっ、言わなくともわかっているんだけど」
「ちょっとアン、僕は無事だよ。君が襲われて精神汚染されたのを戻したのを誰だと思ってるのさ」
ずっとずっと隠れていた。助けなかった、というより助けられなかった。
(誰が好き好んで正気を失いたいんだか。マスターに襲われる以外なら自殺したほうがよほどマシだよ)
他のサーヴァントならつゆ知らず、僕とアンは二つで一つだった。だからこそ最初から部屋に一人だけしかいないと先入観を持っていた彼らを無視できた。
「にしたってやることが理不尽すぎません?わたくしに全ての性欲を押しつけるなんてバグ技、使わないでくださいまし」
「アンは言ってたじゃん、『生前逃げたのが後悔』って。この案を出したのは元々きみだし」
軽口を叩きながら目的のブツを探す。やはり海賊とはいえこういう電子的なセキュリティは知らないからやりにくい。
「そうですけれど…そのせいで他のサーヴァントが正気に戻って精神崩壊した後も大変だったのよ?」
「しょうがないじゃん、職員達のヤリ方が余りにもカスだから警戒しちゃうんだもん」
睡眠や媚薬は僕の頃にもあったけれど、催眠とか電子とか魔術とか全部知らなかった。
というか無駄な方向に技術を詰めていたのだ。その技術を少しだけでもマスターに渡していれば…あぁ、でもやっぱりダメか。
アイツラならそれすらもスパイスにしてマスターをイジメる道具にしていただろう。
「おっと、見つかったよ。僕たちが探し求めていたもの」
ピカピカと光るのは聖杯。今さら変えようとしているわけじゃない。
今からやることは、もっと悍ましい。
「あら、随分と速かったし地球儀もついでに壊してしまいましょうか」
「というか目的はもっと細々としたものだからね。先にやる分にはちょうどいいよ」
誰にも見せていない宝具は、サーヴァントの火力に関係している『神秘』とやらに関わっている。
当然ながら目の前の地球儀─カルデアスだっけ─を壊す。壊れて破砕した音に呼応するように、誰かが廊下から歩いてくるのが見える。
「あれ、誰だろう?」
「知りませんわ。見たことないということは新顔か─マスターのサーヴァントか」
会話をしながらも刃は下ろさない。
「Aurrr!!!」
瞬間、後ろから飛びかかられたナニカに食い千切られて、僕は動けなくなった。すぐに死ぬだろう。
(まぁお似合いの末路かな?)
友達を生贄に捧げて、その上で彼のところへと寄り添うことがなかったサーヴァント。腹から食い千切られて下半身の感覚もない。
「…しょうがないわね。破壊作業だけは終わらせてあげるから安心しなさい」
「…おねがい」
彼女の心は、どこか満ちた上で怒っている。罰することへの罪悪感を心のなかに抱いている。
妙なことだけど、死ぬ前に見えたのは彼女の女神然とした装備。
ソレを着ることが、どうにも無理をしているようにしか見えなかった。
…とはいってもね。海賊としてもう一度蘇ったならやることは一つだよ。
(アンは少しだけ覚えてるけど、僕ほどはっきりとは覚えてないもん)
マスターがサーヴァントになっていたけれど、僕には関係なかった。謝らせてほしい─その為ならなんでもする、と問うた。
結果は全然違った。海賊に堂々と啖呵を切って挑みに来た。それが嬉しくて嬉しくて堪らなかった。
「…チッ、手の内が読まれる…!」
弾幕が最初より当たるのは、僕が彼のことを理解しているから。
剣戟が長くなり続けるのは、彼が少しだけ鈍くなっているから。
わかっている。ワガママだって─彼が望んでいないことだって。
でも、それでも。
臆病な僕のことを。助けるべきときにいなかった最低の僕を。
まだ、海賊として認めてくれるなら。
「
もう二度と、逃げたりしない。あの時みたいな逃げ方はしない。
…今度はもう、僕が傍にいたい。
生きてたときの、
礼装獲得!
『いつかの宝地図』
オケアノスのどこか。人理には見つからない場所にソレは隠されているらしい。
─当然、見つかるはずもない。それは嘘だったのだから。
しかしその嘘に乗ってくれるような、そんなお人好しが二人だけいたのだ。
一人は自らの生前から隣にいた馴染みの女友達。最後に出し抜かれたけれど、悪くはなかった。
一人は底抜けに優しい善人だった。アホかと呆れながら自分の宝物を隠し持ちながらやってきてくれた。
…ないことはわかっていた。なのに、あの空の宝箱がまたどこかにあるのではないかと探したくなる。
「きっとね、望んでいたことはわかっていたんだよ。
かけがいのない、冒険。それを共有する仲間。
…誰かといることが幸せだって、気づけてればさ。
逃げ回ったりなんかしなくてよかったかもね。」
思い出を振り返れば、今でも潮騒の音が聞こえるのだろう。
さながら、もう戻れない幸せを求める海賊のように。