世界を救え?できらぁ! 作:星5すり抜けとNTRは悪い文明
あのカルデアで汚染されなかったのは運が良かったからだ。
彼の部屋になんでか知らないけどポツンと呼ばれたアテシ。
「令呪を以て命ずる、動くな」
召喚された瞬間から剣を向けられた。普段見てるような殺意とは違う、否定したいがゆえの殺意。
(どうしてっかな〜…?)
わかんない。わかんないけど恐らく嫌なのだろう。
嫌われるのが?─それなら、召喚できないはず。
殺されるのが?─まさか、だったら見る前にアテシを殺している。
じゃあなにが?─わからないけど、彼はきっと困っているのだろう。
「…悪い、開幕早々こんな殺意を向けて」
謝る姿は人間くさいし、そもそも見た目は18歳とかそこらへん。
軍人みたいな過酷な訓練を送ったにしては筋肉がそんなにないし、ふつーのひとっぽい。
それがより、矛盾してると感じた。
「おっ、謝れてエラいエラい〜♪んで、アテシはお眼鏡に適ったのかな?」
そう問いかけながら淀みなく彼とその周囲を観察する。ベタついている下着が散乱し、目の下がクマだらけなのにシーツは生臭い。
でも整頓されてない割には彼の体はとっても綺麗。服に関しても異臭がしないくらいには
なんだか部屋の状態を考えるとチグハグな彼は、洗いざらいのことを打ち明けてようとしてきた。
「…なんて言うんだろうかな、言っても信じてもらえないような話になっちまう」
「いいよん。怖いなら終わった後に殺してくれれば安全だしねん」
アテシの軽い口調に少しだけ釣られたのか、ほんのりと彼の唇の端が上がる。そこまで上がらなかったのはもうやつれきっているからなのだろうか。
「…まぁ、じゃあ、話す、か」
ぽつりぽつりと、途切れずに出している言葉には重い後悔ばかりが乗っていた。
おかしくなった時期。既に人理保障期間としての機構の維持すらできなくなった世界。
言葉を聞き続けるだけで一時間が経った。それだけでも大いに危険なことがわかった。
「ある種こうやって呼べたのも奇跡みたいなもんだって話だよ。想うだけでどうのこうのってわけじゃないし…もっとも、名前すら聞けないのは許してくれよ」
彼の視点でしか語られない話。…つまり、嘘をついているかもしれない話だ。
でもそんなの聞いておいて外に出ようなんて気にもならなかったし、正気と狂気を履き違えたやつらに混じるのも嫌だった。
「…ねぇマスター。アテシのことも隠した上でカルデア視察ってできる?」
「は?正気か?」
「正気だよ。アテシのこと守ってくれるって信じてるからヨロ」
にんまりとほほえみながら眼の前の彼に告げる。万が一のことがあれば即座に手に持っているハサミで自分の首を貫けばいいことだし、あまり気にするほどのものでもない。
「
淡々と手札から出してくれた効果は、おそらく目くらましなのだろう。サーヴァントには霊体化というものもあるけど、恐らく彼は直で見たほうがよりよいと判断した。
(まぁ五感で経験したほうがいいともいいますしー?)
「不安定な効果時間だからとっとと行くぞ。万一のことがあったらすぐ首を落とす」
「やーん、きびしー♪アテシのこと警戒しすぎじゃね?」
軽口の応酬。殺意を持っているはずの剣は、先ほどとは真逆なくらいブルブルと震えていた。
(アテシに情が移ったのかな?…バカだなぁ、いい意味で)
…サーヴァントとして彼を守るだのと言えないけれど、少なからずフラットな目線で見れるように努力はしよう。
アテシは彼の手をとってその気持ち悪そうな廊下へと出た。
もっとも、こんな優しいマスターなのに裏切るやつが多い理由がわからんけどね。
掃除されてない廊下。所々空いている部屋はどこかケダモノの声がそこから反響している─マスター、と呼んでいるくせに寧ろ見せつけようとしているのは風紀の乱れが進みすぎた末路だろう。
「…うわっ、落ちてちゃダメでしょコレ」
「触れるなよ。どっから変なもんが感染するかわかんないし、ただでさえ二人同時に翻弄を使って隠すのは慣れてないんだから」
恐らくまぁ、使われた跡。散乱としているソレらからは気持ち悪い生臭さしか感じ取れない。
「…んで、既にこの時点で嘘をついてないわかると思うんだが」
「ダーメ。アテシはマスターに寄り添うって決めたからやれるところまでやったります」
間違いなく味方するべきなのはマスターのほうだ。それは、事実として私のなかに受け止められた。
(そもそも他の奴らに対して護衛するなんて概念がなかったのかもね。ってなるとアテシが呼ばれたのは本当に奇跡?)
「嫌な気分になるならこのまま帰ってもいいけど…」
「構わんよ。万が一のことがあったらここからレイシフトすればいい」
手放せない剣をカタカタと震えさせてる─まあ、そりゃそうか。少なからずマスターが部屋に閉じこもっている理由もなんとなくわかっていたし。
(…さてどうしたもんだか。アテシから言い出したとはいえトラウマの可能性が高そうなんだよねぇ)
なんせこの地獄よりも地獄らしい場所でコイツラを救うために駆け抜けていたのだ。食堂で軽いご飯でも作ってあげたい。
「…ねぇ、食堂は無事なの?」
マスターにあったかいご飯位は作ったげよう。そんなつもりで放った一言は、予想だにしない言葉で否定された。
「俺が料理人なら小特異点で作ったほうがよほど衛生環境が整ってると思う」
「じゃあ特異点でご飯作りたい。アテシのカツ丼とパン、おいしいよ?」
…想うだけで幸せ、なのはアテシだけだろう。
ちょっとだけでも、彼が幸せになるように。
「…頼むわ。久しぶりだな、誰かと飯食うの」
彼が張り詰めた雰囲気を緩めた瞬間、『頑張ったね』って声をかけたくなった。けどそのセリフを言うよりも─辛いことを思い出させるよりも、嬉しい記憶で彼の心を満たしたい。
「ふふっ、アテシの料理技術なめんなし!」
「よろしく」
一瞬の浮遊感と共に妙に整えられたどこの家にでもあるようなキッチンへとたどり着く。
「職員に聖杯を盗まれるとたまったモンじゃないからな。…でもまあ、特異点までは付いてこないから安置してるってわけだ」
「むずかしいねぇ」
本当なら聖杯はもっと大切に扱われるものかもしれない。でもアテシのマスターを見てると、こういうのが数少ない支えなんだと考えてしまう。
信頼している仲間もいなくなって、しかも一人ぼっちで戦わないといけなくなっていたのだ。
(でもまぁ、夢があるのはいいことなんかね?)
どこもかしこもおかしい─だからこそ、日常を取り戻したい。
「はい、カツ丼!人理をヘンテコにしたやつに『勝つ』ってことで!」
「ゲン担ぎも悪くはないか。よろしく、バーサーカー」
彼がしょっぱいと濡れた顔で文句を言ってくるがアテシは軽口で不満を返す。
(戻してあげたい)
…そ。
こうしてアテシは、マスターと一緒に人理を救うことになりましたとさ。
一緒に死んでくれたし、何も言うことはないんだけどね?もし、もしね?アテシの願いを聖杯を叶えてくれるんだったらね?
─最初からいたかったなぁ、って。
アテシが来たのはセプテムの前だった。その前はきっと、彼は苦しみ続けていたに違いない。
だから救いたい。想われたい。ドロドロに依存させたい。
恋や愛というものは、知らないから醜いとアテシは思ってたわけ。
でも今はね、
他人を燃え尽くすためにアテシの心も体も捧げちゃいたい。
やっぱね、アテシは変になっちゃった。
…だから、さ。
責任とってよ、マスター?
礼装獲得
『嵐の前のカツ丼』
今はなき小特異点の中で、彼女が作ってくれた思い出のご馳走。
彼女はマスターにご褒美としてここへ連れてくる─わけではなく、普段からもここで料理をしていた。
日常というものから離された彼にとっては、普通の食事というものがどれだけ大切なのかを確信していた。
…しかし、彼女がカツ丼を作ったのは最後の晩餐と最初のひと時だけ。
「なんでか、って?
アテシにとっては大切なタイミングだったから。
それ以外の理由なんていらないでしょう?」