世界を救え?できらぁ! 作:星5すり抜けとNTRは悪い文明
倒れ込んだ風香を引きずりながらリリスは動き出す。
「え、そんな強引に運ばなくても…」
「やめときなって。立香ちゃんを守れないよりこうやって床をゴロゴロ転がったほうがマスターも喜ぶから」
気絶しているため動いていない風香は引きずっても音が出ない。コートがどうやらクッションになっているみたいだ。
(まあならいいの…かな…?)
不安に思いつつも、その当の本人なら言いそうなセリフを言っているのでツッコむのも野暮な気がする。
『というかどこか安全なところを確保しないと大変じゃないかな?一回休ませてあげないと危険だし』
「確かに。マリーっち何か知らない?」
『…私の家くらいしかないわね…そもそもこの時代あったか怪しいけど…』
悩んだ末に出された場所へとピンが立つ前に引きずって行こうとするリリス。
「はやくいこー。どーせ何かあっても立香ちゃんはアテシが守っとくから」
「え、あ、うん!マシュもナビゲートよろしくね!」
リリスはマシュのことをどうでもいいとして喋らない。敵対するように振る舞うことはない。されど友好的な関係を築けるとは思ってない。よって無視が安定、というのが人理修復が終わるまでのリリス側の結論だった。
そのことを立香に伝えることはなかったが、実際にマシュとの問題性を踏まえて今回はリリスだけがレイシフトに参加した。故にマシュはここにはいないのだ。
『…は、はい。少しだけ砂嵐が酷いですがナビゲート用の線は引いておきますね』
どこか慌てながら言っている声でリリスは確信する。
もうこれはダメだ、と。
(いやまぁ前回に比べりゃまともだから油断してたけどやっぱムリだよねー…アテシもマスターも基本的に立香ちゃんしか守れる気しなかったからね…)
ロンドンで騒ぎを起こしている『彼女』ならどうするのだろうか、なんて思う。平等に与えるけど、かといって一線だけはきっちり守る。
「ま…とっとと行きますかぁ」
ともあれ急がないと風香が起きてしまう。
看病するなんてチャンスを乙女として逃したくないリリスは、はぐれない程度に足を速めるのだった。
…雨。霧。夜。血。
彼女は俺よりも脅威を正しく認識して殺せる人間だった。
「俺もできるから大丈夫だ」
強がった。無抵抗の人に剣を突き刺しただけで震えるような平和ボケした俺にはできなかったのだ。
『…そ。きにしなくていいよ』
音を鳴らさずに人を殺す姿は美しかった。白髪に血が跳ね跳んだところさえも芸術品のように完成していた。
こうなりたい、とは思えなかった。
隣で助けたい、とも思えなかった。
彼女は人から与えられるべきだった
だからこそ、救いたかった。
身勝手な欲望とわかっていた。彼女とは会えなくなるというのに無駄な行為をしてしまった。
『ありがとう?…ふーん、うけとっておく』
『…あいさつしないと時間がわかんないの…わかったわかった、ちゃんとやるから』
『おかえししなきゃ…え、そこで笑う理由あったの?』
子どもの正直さに、きっと少しだけ緩んだ。張り詰めるべきだった糸をほつれさせた。
危なかった。怖い思いをさせたことよりもあの男に襲われた後処理のことしか考えられなかった。
(…もちろん、そうじゃないとは思いたかったけどな)
泣き叫ぶ声で救えたのはギリギリだったと思う。助けられたあとの小さな体は更に泣いていた。
だから、ちょっとした。
…本当にちょっとした物をプレゼントした。
寒そうな体に纏うようにした露出度の高い衣装。触るだけでスタンガンと変わらない高電圧が流れるように。
防犯ブザーの役割を持たした無色のカード。彼女の魔力にだけ反応する効果を持たせるにはこの環境を作った元凶の部屋へと忍び込まなきゃならなかった。
そして最後に、普段使いしていた双剣を改造したもの。壊れないように大切に使ってくれていて、それで。
最後のときにも─
─直後、薄い光があたった。
「…どうしたものですかねぇ。流石に起こすべきかと」
「そうですね…起きてもらえませんか?」
目の前にいる好青年の二人から声をかけられ、片腕を使って起き上がる。
「悪い。ちょっと懐かしい夢を見た」
謝りながら周囲を見渡す。霧の中ではなく調度品の整えられた部屋であり、またリリスや立香も怪我もなく変な匂いもしない。
(安全なところ、ってことか…)
目の前の二人は知らないサーヴァント。というか男性サーヴァントが新鮮でしょうがない。
「二人とも誰だい?名前わかんないや」
片方の金髪はともかく、もう一人の黒髪のサーヴァントはまったくわからない。
『ロマニ、見なさい。風香が口調を崩してるわ』
『あぁ、今日は悪夢でも見るんじゃないかな?』
「酷い言い草なのは聞こえてるからな?帰ったら覚えてろよ?」
圧をかけつつチラリとオルガマリー所長のビジョンを見る。クマを含めて判断はしづらいけど、まだ大丈夫な気がする。
(最もマシュが会話に入ってない時点で気をつけにゃならんのだけどな)
そこで一度思考を打ち切り、彼らへと視線を向ける。
「僕はジキル。野良で呼ばれたサーヴァントなんだけど、訳あってここに居るんだ」
「私はクリスティーヌに従う哀れなサーヴァント─ファントム。真名は他にありますが、ひとまずはこうお呼びください」
優雅な一礼をする二人はあきらかに普通だ。
だからこそ、おかしなことがある。
「ファントム…ねぇ」
納得する風にして、ファントムの片手についている凶器を見る。彼女に渡した双剣─ソレを渡すようなサーヴァントではないことを、俺は理解している。
…こいつは、ファントムじゃない。