世界を救え?できらぁ! 作:星5すり抜けとNTRは悪い文明
それが『未来を奪う』理由というのは、存外大したことではなかった。
ジャック・ザ・リッパー。名づけられた名前と同じように情報を叩き込まれた水子の悪霊。
本来なら一度目の生きるということも満足には遂げられない、愛を感じなかったサーヴァント。
『母のもとに産まれたい』
異質なまでに執着する理由はやはり愛だった。
普通の人間なら満たされているはずの欲望。
子供ならば満たされなければいけない欲望。
母から無償の愛を受け取り、他への慈愛を覚えていく。それが人として正しい感覚なのだ。
だからこそ、彼女はとてもではないがあの空間を嫌いと言えなかった。腐っているとはいえ、不実であるとはいえ、苦しめる類のものであるとはいえ、『愛』で満たされているような空間ではあった。
「あー…まじか…子供なら…う〜ん…いや、英霊としてなら使役することに抵抗はないけど…」
召喚してくれたマスターは明らかにこちらに対して同情していた。困惑さえしていることを理解した彼女は、すぐにどう振る舞うかを決めた。
(マスターが子供らしくを望むなら、わたしたちもそうでないといけないかな)
聖杯が与える知識とは便利なものだ。自らが望めは必要な知識を出してくれる─それが、正しくないとしても。
無理せず純真に。けれど彼から離れない程度の行動を心がけて彼女は過ごすことになった。まずは明らかに自分のことを意識させる呼び方で興味を引く。
「おかあさん、どうしたの?」
おかあさん、と呼んだときの酷く困った顔。何かおかしいだろうか。しかしおとうさんと呼ぶべきなのだろうべき彼には、どうにも「おかあさん」と呼んだほうがしっくりきた。
「俺は母じゃねぇ…ってか、リリス達もいるからやめろ。母の側面を持ってるやつしかいないんだからさ」
「いいじゃん別に。アテシらとしてはいつでもお母さんにしてもらって結構だよ?」
「ええ、そうですね。寧ろこちらから襲いたいほどです」
笑いながら談笑する二人の目つきは明らかに蛇が獲物を睨みつけるのと変わらなかった。彼は動ずるまでもなく深いため息をつく。
「流石に今の状況でそんなことをやるほど俺は猿じゃないよ。英霊の子供はなんでかいるけどな」
憎々しげに吐いた言葉。確かにカルデアという専門機関にしては子どもがいることは不自然だ。なぜかを考えようとする前にこのカルデアの気持ち悪い部分が彼から伝わってくる。
聖女が乱れながら腰を振って子供を孕み、そしてそれを嬉々としながら彼へと報告をする。ごめんなさいなどと心の籠もっていない言葉を吐きながら快楽に身を委ねる姿は英霊ではなく奴隷と変わらない。
そしてその子供も親に奉仕することを当然のように親から教えられ、それを止めることすらもしないで肉欲に溺れる親。狂気に満ちていることはよくわかった。
「素材庫で閉じ込めてるだけマシな対応でしょ。育児に悪影響にも程があるじゃん」
「ぶっちゃけ殺したほうが速いんだけど産まれてきた命を取るのもどうかと思うし。いずれにせよ対処しなきゃいけない問題だけど今は人理修復の方を優先する」
正しかった。間違えることが許されないからこその慎重さ。彼女の駒としての扱いを悩む人類最後のマスターは、判断をつけるための材料を並べていく。
「
「まぁ確かにそうだねぇ。正面突破で勝ち続けるとマスターの体も保たないかもしれないし」
正面突破。つまり万夫不当の英霊と戦ってきたということ。
(これが日本の一般人?そんなことはあり得ないでしょ)
既に体が傷だらけだというのに、これ以上やろうとするのか。
「本当なら兄貴に頼みたかったけど、座に帰っちまったからな。ったく、つくづく妨害の上手い天才サマがよ」
「ということはマスター、この娘を偵察として使うのですか?」
「まぁそうなる。別に偵察中のことは全て任せるけど精神汚染されてたら首切るってだけ」
「…わたしたち、どうすればいいの?」
「周囲に敵が来たら教えろ。相手の危険なやつと交戦したらすぐに戻れ。殺すのを躊躇うな。例え万が一罪悪感ができるなら俺のせいにしていいから戦え」
どこまでも自分勝手な指示を出した彼は、机を叩いて即座に何かを起動した。
「カルデアはまともな人手が足りてなくてな─今から特異点修復だ」
広がる荒野に放り込まれながら、自らへとタロットを押しつける彼は─やはり、今でも頭がおかしいとしか思えなかった。
鐘のなるところ。すなわちロンドン内にある相応しい決戦の舞台─時計台。その鐘のある部屋。
微睡みの中、わたしたち─否、わたしは目を覚ます。彼が気に入っていたトロイメライがなるオルゴールを止め、聖杯の中へと放り込む。
「…ああ、来た」
わたしにはわかるのだ。なんせ一度は同じになった人だから。
『母親の胎内に帰ること』─男には不可能な願いを、彼は最後の最後で叶えてくれた。
『慈愛』を教えてくれた。母からもらう無償の愛を注いでくれた。
『友愛』を教えてくれた。リリスと一緒に遊ぶのはとても楽しかった。
何もかも教えてくれた
「おはよう、
「そうだな、ジャック・ザ・リッパー。ジャックと呼ぶべきなんだけど…鎧のせいでわかりゃしないんだ」
片腕を斬り落としたのに変わらない。本来なかった傷をつけられて平然としている
(そりゃそっか、わたしってわからないもんね)
この特異点に本来いるはずだったモードレッドを襲撃し、不貞隠しの兜だけを盗んだ。だから勘違いしていたし、真名がわかっていても鎧の中とわたしを結びつけないといつまでも見た目はわからない。
「しょうがないな…んしょ、っと」
鎧を『抹消』し、わたしの姿を
長く伸びた白髪。
彼と同じくらいの身長。
もらった布切れと変わらない面積の鎧。
彼がずっと使っていた青白い光を放つ双剣。
「どう?綺麗でしょ?」
「だろうな。味方にはなってくれない?」
「勝ったらいいよ。わたし、
ワガママを子供は言うものだ。確かに何も間違えたことは言われていない。
「…あいにく、一人では挑まないけどな」
「いいよ。わたしはそれでも勝ってみせるから」
どうしようもなく、
開幕の合図のように、時報が周囲へと響き渡った。
ということでサーヴァントはジャック・ザ・リッパーでした。
劇的ビフォーアフター。