世界を救え?できらぁ! 作:星5すり抜けとNTRは悪い文明
彼の戦闘は明らかに異様だった。
ジャックの飛ばした小さなナイフは寸分の狂いもなく急所を狙うし、蒼雷の残光しか見えていない彼は散漫な動作で辛うじて致命傷に当たっていないだけだ。
(そんなことはない…)
「悩むくらいなら口に出してくれよ。久しぶりだからちょっとよくわかってないんだからさ」
大袈裟なまでに振ったその大剣を双剣で受け止めさせられる。怪我を誘発するかのように破片が飛び散り、双剣ごと彼の心臓を抉り出さんと自らを前へと突撃する。
「ほいっと」
大剣が消える。その一瞬の間隙を縫って後ろへとバックステップすれば、雷を纏った短剣が飛んでくる。当たれば気絶するようなものだが、全く効いている様子はない。
「遅めの反抗期くらいは受け止めるからさ。気軽に話してほしいけど…無理ならまぁ、そういうこととして受け止めるから」
「…今でも好きだよ?」
明らかな違和感。攻撃してこない─というより、ジャックの体に傷がつくのを酷く恐れている。敵対したとわかっていても身内にはとことん甘いのがこの風香というマスターの善性だ。
(…なんで、わかってたのにやらなかったんだろうね。殺すのは向いてないってわかってたのに)
後ろに回って首を狙う。分かりきっている筋に大剣が被さって見えなくなる。
「そうだよな、避けられない位置に置いても避けるよな」
「感心しないで…わたし、本気だよ?」
「そりゃわかってるよ。俺が本気になったジャックと拮抗してるのもおかしな話だけどな」
大剣に斬られる瞬間に飛び越えて避け、彼女は鐘を足場にして再び狙う。当然のように大剣で全てを捌く彼はやはりおかしい。
「リリス!後ろ!」
「…ッ!」
言葉を聞いた刹那、一瞬でどこから来るかを考える。彼女の宝具?それともチャクラム?ハサミによる切断?
否、そのなかのいずれでもない。
存在しなかったはずの手が彼女の腕を絡め取る。切り取ったはずの体が残っていることへの驚愕は一瞬だが、それだけで英霊同士の勝負は決まる。
カラン、と石畳の上へと凶器が落ちる音。体を逃さないように要点を抑えた全身での捕獲。
「令呪はないけどな…」
契約をする為に風香が気を緩めたタイミングで、彼女はもがいて抜け出した。
しかし忘れていた。失念していた。ここがどこであるか。
「…あ」
小さな体躯が落下していく。ロンドンの時計塔、その頂上に近いところから一直線に。
仕込み武器で威力を殺そうにも遅い。体が助からないことは、心からわかっていた。
地上に落ちた後の末路は言うまでもない。彼女が殺した被害者のように内臓が見える状態で死体となって消える。
それは、相応しい罰だ。
─だが。
─だけど。
─だからこそ、愚者はもがくのだ。
「…死なせるかよ…!」
タン、タン。
塔そのものを足場にして駆け下りる。本来ならば不可能な挙動を、彼はサーヴァントとして可能にした。
走る。走る。自らが彼女を逃げさせた、あの時よりも速く。
「間に合え!」
彼女の無防備な背中を抱きとめるようにしてスライディング。自らの肉体が血まみれになろうと知ったことではない。
「…ぇ」
か細い少女の声に応えるかのように、体を立たせて抱きとめる。
「…悪いな、ジャック。親ってのは娘を助けるのに命をかけるくらいは当然なんだよ」
ボロボロの体とか、今さっきまで殺し合っていたとか関係なく。
そう籠められた意味に気づいた彼女は、あの時よりも成長した体で、あの時よりも嗚咽を隠すことなく響かせる。
霧夜に紛れたロンドンの中においてのソレは─
─もしかすると、幼子の胎動に似ていたのかもしれない。