世界を救え?できらぁ! 作:星5すり抜けとNTRは悪い文明
さて、どうしたものか。
二度目なのにどうしても嫌な記憶ばかりがフラッシュするマシュ・キリエライト。殺意は引っ込めたものの、ぶっ殺そうとしたいのは変わんない。
けどなー、いないと絶対に修復するまでの旅路が長くなるんだよなー。
「あ、あなたはセンパイ…いえ。マスターのなんなんですか?」
「……ふぅん(
皮で隠した立香を守るように抱きしめる。前にそうやって言葉に釣られたサーヴァントがいたからだ。
(ったく、まだ無垢だと思うのに警戒し過ぎか…?)
とりあえず真名を明かしたくない。知られると間違いなく利用される可能性がある─男だから放置されるとは思うが、そこらへんはキッチリ考えておきたかった。
「…ま、どうとでも呼べ。仮にもサーヴァントだ─いくらでも定義できるだろう?」
『…Dr.ロマニ、解析をお願いします』
ロマニ。あのカルデアで唯一のまともな人間だったドクター。
(あっちの世界じゃどうなったんだろうな?死ぬ前に声かけようとしたら見つかんなかったしなぁ…)
考えるだけ無駄なことである。そもそも最後まで見なかったから逃げてしまって当然だろう。
俺としては全然構わなかった─寧ろ、居座られて綺麗な思い出を汚されるような形での再会だけは嫌にもほどがあるから。
『えーと…うん、わかんない!解析してるはずなのになんかエラーが出てくるんだけど!』
「じゃあ真名は立香には言ったし、聞き出すのはあんたらの自由だ。というかこの状況で信用できるのは立香以外いねぇんだよ」
フールって名乗ったのにしては中々変な名前で出させてくれたものである。
「…では、マスターを離してもらえますか?」
「はいはい、わかったよ」
立香をいい加減解放しないと話は進まない。白いコートを再び羽織ると彼女がポコポコと上から叩いてくる。
「いきなり包まないでよ!!声届かなかったじゃん!」
「ごめん。でも見たことのない人間がいたら誰だって庇うに決まってるだろ?」
「ぐぅ…!」
悔しそうにしている立香をマシュのほうにそっと出し、普通に後ろから来ていたシャドウサーヴァントを電撃で撃退する。
「警戒しないとすぐに狙われて死ぬから気をつけろよ。こんなふうにな?」
崩れ落ちた塵を集めて注射器で吸い取っておく。素材は落とさないときはとことん落とさないから必ず取っておくことである。
『なんていうか凄い人だけど…立香くん、真名を教えてくれるかい?』
ロマニの音声越しの疑問は久しぶりに聞いた。そもそもレイシフトするときに誰かがバックアップしてくれる、なんてほぼ碌でもないことの前兆だった。
(やけにその時連れてたサーヴァントが挙動不審だったりしたからなぁ…ロマニのとき以外は全部酷かった)
つまりロマニしか勝たん。またお医者様と紅茶を飲む時間がとれたらいいなぁ、なんて思う。
そんなことを考えていれば、立香が自信満々に俺の名前を出してきた。
「藤丸風香!フーくん!私の…えーっと、大切な人!!」
『英霊ですらないの…?というかもしかして先祖とかそっち系?』
「フーくんはフーくん!」
説明になってないなぁ、なんて思う。大切な人って言われたあとに少し熱くなった顔を隠すようにフードを強く下に引っ張る。
「…訂正はしておく。『藤丸風香』は日常の立香のプロファイルの中で出てくるだろう人物だ」
『えーっと…つまり…
恐る恐る聞かれたその言葉に頷きと共に返す。
「そもそもサーヴァントなんて言葉の意味がわかってるわけないだろ」
苛立ちと共に吐き捨ててる言葉に見えただろう。少なくともそう振る舞った。
(嘘です。バリバリ黒幕からマシュのサーヴァント名までわかってます)
ゆーて探せば
初手のフルネーム呼びから立香にした行動。ツッコまれた瞬間に破綻するタイプの嘘。
「さて、とっとと先に進みましょ。…殺されたいなら、話は別だけどね」
その不都合の全てを隠すように、歩みを進めよう。
(…なんて、カッコつけても今は変わんないだけどな)
オルガマリー所長とはぐれサーヴァントのクー・フーリンにあった立香たちは、たき火の前で小休止をしていた。
「立香、万が一のことがあったら令呪を使うなり大声で叫べばすぐに守るから。しばらくそこで休んでて」
「だそうだ。俺とコイツで一帯を調査してくるからそれまで休んでろ」
男二人がいなくなったあと、いつのまにか用意されていた即席の椅子へと三人は腰かける。誰が作ったかなんて言葉にするまでもなかった。
沈黙に耐えかねたのか、それとも単に彼が気になって仕方ないのか、はたまたその両方か。
オルガマリーは立香へと体を向けて淡々と質問を始める。
「で、あなたの幼馴染はいったい何なの?」
「フーくんのこと?えへへ、すっごいでしょ」
自分のことのように喜ぶ立香。助けの来ないと思う状況に何度も何度も晒されても善性を失わないのは、彼のお陰ともいえた。
「はぁ…そもそも疑似サーヴァントそのものはまだわかるのよ。別に召喚式が特殊な以上、依代を使ってダウンサイズするのは魔術の世界でもよくあることだわ」
遠目でオルガマリーは彼らの方をちらりと見る。青白く光る雷撃はさぞやわかりやすい『彼が戦闘している場』と言えるだろう。
「じゃあなんでフーくんがいることがおかしいの?」
「あのね、一般人が偉人の依代になることはおかしくはないの。……
オルガマリーの言葉は確かにわかりやすいかもしれない。しかし立香にはどうにもよくわからなかった。
「わからないようだから説明してあげてちょうだい」
「…は、はい。通常のサーヴァントは私のようではなく、サーヴァント特有の肉体と性格を持って顕現します」
「えーと、どういうこと?」
普段はもう少し頭の回転が良いはず…なのだが、立香は風香が関わっているせいでよくわかっていない。
(なんとなく凄いことをやってのけてるんだなぁ)
昔からそうだし、今さら気にするほどでもない。恋する乙女からすればその程度のことは気になりはしなかった。
『えーとね、彼は神霊を乗っ取るくらいに強い精神力の持ち主って思えばいいよ。能力まで使えてるってことはなんとかしたんだろうし』
ハッハッハッと笑うロマニのホログラムの横に大砲が着弾したような青白いクレーターができる。下手人は言うまでもなくその中央へと鎮座している風香。
「…身体能力が上がるってのは中々に難しいもんだな。おいおい慣れなきゃ立香に当てちまう」
すわ会話に対するイラつきかと身構える三人だが、手に持っている奇怪な剣を見れば疑問は氷解する。
「聖杯のある方向に恐らくアーチャーがいる。無論立香が見たくないならここから狙撃して倒すこともできるが…」
「ううん、大丈夫。休憩も終わったし」
裾を勢い良く払って眼の前で力こぶを作る。普段と変わらない仕草にほっと息を彼は吐いた。が、すぐに手に持っているバッグから注射器を取り出す。
「痛み止めの薬だ。万が一傷ついたら使ってくれ」
「え、私錠剤のほうがいいんだけど…」
沈黙した次の瞬間、少し小さい袋が彼女へと投げつけられる。当たってもペチっと可愛らしい擬音がなる程度の強さ。
「…どうせ大きい戦闘はあと3回程度だ。マシュ・キリエライトは前出て経験でも積んどけ」
「は、はい!」
吐き捨てるように言葉を出し、彼はゆっくりと歩く。燃える火の中に、チロリとその影がもたげる。
それはまるで、悪魔のようだった。