世界を救え?できらぁ! 作:星5すり抜けとNTRは悪い文明
知らない天井だ。立香はふかふかのベッドで目を覚ます。
(フーくんが作ってくれたのかな…?)
正直英霊の全力疾走の風を受けた上で怪我もしていない。寧ろ着ていた服もより綺麗になっていることから、恐らくは彼がやったのだろうとあたりをつける。
「まったくもう…でも、確かにちょっとびっくりしたしなぁ…」
逃げることを基本的にしなかった立香だが、あれを見て悲鳴を上げなかっただけよかったと思っている。パニック状態になってしまうと今よりも面倒なことが起きていたに違いない。
「ともあれ行動しなきゃ」
人をダメにしそうな柔らかさから離れるように転がり、ベッドの縁でようやく立つ。どんな作りであるかはわからないけれども、彼女はここに留まったところで風香が来るとは思わなかった。
「フーくん、フーくん…どこにいるのかなぁ?」
悩みながら部屋の扉を開ける。大理石の床をローファーで進むのはどこかのホテルに泊まっている感覚に似ている。
異質で、異物で─されど、自分がここにいなければならないという感覚。たとえ周りと断層が生じたところで逃げ場はない狩り場。
(…フーくん、見つけてくれるかな)
普段と違うのは、手を握って励ましてくれた人の不在。何があっても助けてくれた愛しい人。
魔力のパスからなんとなくここにいる、ということを探るのも無理だった。立香がそのような魔術の手ほどきは受けていないし、第一令呪を使用したせいでサーヴァント契約がいつ切れてもおかしくない状況なのだ。
そう考えると、自分がどれだけ風香に寄りかかって人理修復をしているのかを実感する。風香は頼られることも、そしてそれで傷つくことも当たり前のこととして当然のように振る舞っている。
「でも、そう考えるとマシュに対しておかしいよね」
そう考えれば、最初の方─そして、ロンドンが終わった後から向けている殺意というのは非常に珍しい。立香を傷つけた相手に対してさえ四肢を粉砕骨折する程度で済ましている。
「いろいろと凄いなぁ…あ、フーくんかな?」
考えながら歩いていれば、いつの間にか大きな広間へと出ていた。神聖な雰囲気の中で明らかに異質さを放つゲーミングチェアが二つ置いてある。
(せっかくだし寝起きドッキリでもしようかな…?)
トタタッと近づいて後ろから覗き込む。中にかかっている白いコートの中でもぞもぞしているのは彼に違いない!
「とりゃーー…?」
最後に行くにつれて徐々に声が尻すぼみになっていく。なんせ中にいるはずだった彼ではなく、幼い金髪の少女であるのだから。
そしてその幼女に対していきなりガバっと布団を開けて大声を出したら、当然の帰結として起き上がるだろう。
「ん〜…?」
寝起きの潤んだ目がこちらと合う。何やってんだこいつという目。
「あわわっ、ごめ、ごめん!そ、そそ、そんなつもりじゃなくて!」
弁明を重ねるかのように立香は喋りだす。慌てているせいで会話が会話として成り立っていないものの、相手がどう思ってるかを考えずに喋りだす。
「あーうん…いっかいめんどーだから静かにして?」
静かにして、という言葉。強制力のなさそうな言葉だったがそれだけで立香の口は閉じた。
「えーとね、はじめまして。アイアムメタトロン・ジャンヌ、クラスはルーラー。ジャンヌ・ダルク・オルタがやらかしたせいで縁召喚されたサーヴァントだけど、とりあえずはぐれサーヴァントと同じって考えてもらえればいいかもー?」
「多くない…?」
ジャンヌ・ダルクはまだわかる。フランスの聖女、だった気がする。
だがそんな複数いてたまるか。
「…はぁ。メタトロン、でいいのか?」
疑問が頭の中で爆発しそうになった瞬間、対面にあったもう一つのチェアから風香が目を覚ます。
「うん。まったく君が起きてくれなきゃ話がややこしくなっちゃうから助かったよ」
「…って言われても俺もよくわかってないからな?お前が助けたってのとカルデアの通信を切ったことだけはわかる」
カルデアの通信がないこと。当たり前のように言われたそれに、やはり立香もそうなんだ程度にしか思わない。
聖杯での妨害、あるいは風香が意図的に遮断。理由はわからないけれど、恐らくいいことなのだろう。
「んで、メタトロン。敵か味方かってところをはっきりさせてくれ」
「はーい。
だる~んとした雰囲気でそう言ってのけた少女の発言に対してもやはり心は動かない。何かおかしなことがあったのだろうか。
「どうでもいいけど通信の繋がってた部屋だけはやめろよ。恩人と被害者がいるし、結界壊すのが面倒だから」
「壊すのは止めないんだね。…ま、とりあえずここの特異点で協力するサーヴァントってことで納得してもらえればいいよん」
ムグムグ、といつの間にか取り出したマカロンを食べるメタトロン。傍若無人ではあるものの、年相応の少女にしか見えなかった。
「壊す話は後に回そう。この特異点の領域の押し合いってのを詳しく教えてほしい」
「はにゃ?なんでいきなり領域の押し合いってわかったの?」
「…どこが何やってんのかわかんないから適当に言っただけだ。推理も何もしてない当てずっぽうだよ」
「フーくん…私に嘘をつかないで?」
女の直感で嘘─そう見抜いたわけではないが、適当に言ったセリフ。じーっと見つめたときにまっすぐ見つめ返してくれたら、それは彼が嘘をつくときの癖だ。
「…はいはい、わかってたよ。今回のケースは『聖杯が複数ある』ってことが一番大きなポイントなんだ。誰が選ばれたのかわからないし、そもそも一つだけでやっているかもしれない」
「ふむふむ。でも違うって出せたのは?」
「わざわざオルレアンの土地そのものを改造する理由が説明つかないんだよ。キャスターじゃないメタトロンでさえもやってる…なら、考えつくのは一つだ」
「土地そのものが聖杯の出現に関係している。あるいは聖杯同士が『聖杯が複数ある状況』を解消するための代理戦争を行っている、と考えた」
なんとなく立香はオセロが思い浮かんだ。白と黒が入れ替わり続ける、そんな盤面だ。
「…あーあ、天才ってやっぱやだね。じゃあなんで私のことを警戒してないのさ」
「わざわざ瀕死の連中を助けるような天使を警戒するのは無駄、でいいだろ」
ペラペラと喋る彼に、チクリと痛む心を押し付けるように前から抱きつく。信頼を向けている相手が自分以外に向いているのが少し嫌なのだ。
(リリスちゃんたち、いないもんね。私がしっかりしなきゃ)
独占したい。彼の心を自分以外に向けられていることが許せない。愛してることを全身で受け止めたい。
「えっ、あっ……うん…」
欲望に塗れた立香が別のものと重なりそうな彼は、頭を振って優しく抱きしめた。
自分の大切なものは間違えていない、と断言するためなのか。
自らが誤って殺してしまわないように気を使っただけの怪物の仕草なのか。
それはどちらにもわからなく、またわからないままにしてよいことだった。
「…もー、私もいるんだけどなー?」
メタトロンにとっては、心底面倒な案件が転がり込んだだけだった。
まったく関係のある話ですが、今回の章の重要な要素を挙げると
『機械』『一撃』『複数』
『ヘリコプター墜落』『ゾンビ』『鎮魂曲』
『竜』『獣』『酸性の飛来物』『☓☓』
『裁判』『矛盾』『公平』
がもとから決まってましたね。
追加した要素は
『天使』『(秘匿)』『大嘘つき』『境界線』
です。もしかしたら『地球大統領』が来るかも、ってくらいのプロット。