世界を救え?できらぁ! 作:星5すり抜けとNTRは悪い文明
セイバー・オルタを一瞬で倒した。本当なら勝てないはずなんだけどちょっとだけ切っ先が鈍ったのは幸運だった。
「…高潔な騎士であるなら、舌を噛み切るなりで自殺すればよかったのに」
ボソリと呟いた一言は、彼女にはしっかりと聞こえていたようで。
どこか悲しげに、自虐的な笑みを浮かべる。
「…次からは善処する」
目の前からさっと消えていく。彼女の言葉に立香は違和感を抱いていないけど、他の三人は明らかに怪訝な目でオルタのいた場所へと目を向けた。
「…英霊に、次なんてあるわけねぇだろうが。召喚陣が同じだろうと座に帰ったら何も覚えていないのが英霊だ」
兄貴の呟きに乗っかるように、胸の内を少しだけ漏らす。
「じゃあ本当に不思議なことで。そもそも次以前に『前回』がどこなのかも言ってないしねぇ」
食堂でよく食べてジャンクな匂いを漂わせながら部屋で寝転ぶような暴君だった。
暴力的であっても誰も傷つけなかった優しさが滲んでいた少女。
(嫌だなぁ、嫌だなぁ)
自分がこうやって思い出す度に、立香に夢で伝わる可能性がある。
─忘れられない怒りと悲しみはまだ尽きる気がしない。
パチパチパチパチ。
音のした方を向けばステッキを俺へと向ける成年の男。
「お前は何をしているんだ?」
拍手して開口一番にわけのわかんないことを言い始めるレフ教授。
頭の中に違和感があるがグッと堪えて眼の前の魔神柱と話を合わせる。
(というかそもそもなんで俺に突っかかってくるんだよ…!?)
恐らくそれっぽくはぐらかせば許されるはず。今は立香達の方にヘイトが向いていないだけマシだと思おう。
「別に、人のことをどうしようと俺の勝手だろう。それとも人類最後のマスターを作り出してしまった詰めの甘さは反省するべきじゃないのか?」
「何言ってるの風香!?レフもほら、なんか反論し、て、…」
レフの顔が完全にヤバイのを感じ取ったのか、所長は言葉を失う。こっから先の展開はわかっているけれども助けられはしないのだ。
(いかんせんここでレフを始末するのもオルガマリーを助けるのもよろしくない…ってか、無理)
申し訳ないけど戦力も死んでいることまで含めればできはしないのだ。
「ほら、思ったとおりだ。感情を隠せないくらい化けの皮が剥がれるならいっそ取ってしまえばいいんじゃないか?」
「煽りやがって。…まぁいい、死んでしまえ!」
オルガマリーの手を引っ張り、当然のように放り込もうとする。
「フーくん…!」
縋るような目。助けてほしいと、殺して終わりにしてくれと懇願する二人。殺せなかったからと、代替案で更に苦しめた。
(違う、今はオルガマリーを助けることを考えなきゃ)
しかし手立ては見つからない。もともとが死んでしまった以上、ここで何かすることはできないし…助けることも本来してはいけないとこの姿になって直感してしまった。
「無駄だよ、藤丸立香。そこの奴が高密度で高次元の情報体へと干渉する術などもっているはずがないだろう?」
嘲笑とオルガマリーの悲鳴が混じり合い、大きな不協和音があたりに響き渡る。
「精々頑張って人理修復を目指すのだな。…できないものに手を伸ばした結果、どうなるかなんてわかりきっているがな!」
大量のエネミーを去り際に召喚して、彼は去っていった。
『皆!そこはもう死地だ!聖杯のところまで急いで─速くレイシフトをしてしまおう!』
彼のセリフと共に、先頭のキメラが襲いかかる。幕を切られたと同時に思ったのは、一つの思い出だった。
…彼は、しばし止まっていた。
白い皮を被ったまま、何度も何度もメスを手で持って取り落とす。
何かを確認するかのようなその仕草は、本来の戦場ならば致命的なまでに隙を作る。─が、ソレを庇ったのはクー・フーリンだった。
「どうにも納得いかねぇが坊主のことなら心配いらねぇ!耐久なら任せろ!!」
殴る。燃やす。囲む。刺す。
それでも向かってきたエネミーが食らいつく直前に、熟考の淵から彼は上がってきた。
「…いや、もういい。とりあえず一回話したいことがある」
近くにいるエネミーを吹き飛ばし、袖から一枚のタロットを取り出す。
「
チャンスとなるピンチ。その意味があることを知らずとも、何か劇的な強化がかかったことは理解できた。
「兄貴、30秒よろしく」
「おう、そっから先は任せるぞ」
許可を得た瞬間、彼は立香へと近づく。手には何も持っていないが、凄まじい魔力が集まっていることは理解できた。
「…令呪3画、お願いしてもいい?もしかしたら、ってか1%くらいしかないけど…
逡巡したのは一瞬だった。数多ある要素を重ね合わせたとしても、立香は風香のことを疑うことはない─常に彼女の願いを叶えてくれる存在ということも。
弱々しい言葉とは裏腹の強靭な彼へと指先を向ける。手の甲に入っている令呪の矛先は今この場において彼しかない。
「わかった!なんとかして、フーくん!」
紅い魔力が華やかに散り、彼の手へと更に収束する。そのまま彼はエネミーのひしめく戦場へと突撃する。
「無謀、無責任、無計画」
相手の肉体ごと魔力に変えて一掃。そして、彼は魔力の籠もった手をあろうことかカルデアスへとツッコんだ。
『正気か!?所長を救いたいつもりもわかるがやめてくれ!』
痛み。苦しみ。最初に比べればなんてことはない。
知っているサーヴァントが寝取られていく過程も。
自殺するまでに悩みに悩み抜いた葛藤も。
全身が失われていく痛みも、何もかもないのだから。
「いいや、関係ないね。一度やったことがあるから尚更、な!」
笑いながらあの時と同じように情報だけを抽出する。彼女の核だけを入手するために死に物狂いで見つけ出そうとする。
「─いた」
もはや自分が原型を留めないような感覚になった頃、ようやく彼はオルガマリーを発見する。
「やめて、フーくん…戻ってきてよ!!」
マスターの静止の声すら効かない─かつての彼のサーヴァントが守るために自爆したように。
「かい、ほう」
瞬間、血まみれの彼の肉体の上へと一つの小さな少女が降り立った。先程までいた、そして情報体に削り取られて死んだはずの少女。
「…え、え、え?」
「所長!困惑する気持ちはわかりますが速く移動を!」
『そうだ!というかもうそろそろこの場所がレイシフトしないと閉じてしまう!』
…立香が呆然としている中、後ろから優しく叩いてくるサーヴァントがいた。振り返る気力すらないのを見ると、ため息をついて視界に映るように叩く。
「心配すんな、嬢ちゃん。ありゃ間違いなく自分が死なない算段がなきゃやらねぇ芸当だ。というか英霊は死んだら座に還るって相場が決まってら─つまり、生きてる」
「でもいないよ!?ほら、あそこに!」
血まみれとなった場所にはオルガマリーとマシュしかいない─つまり、彼がいない。反転したかのように赤黒い外套の端切れだけが落ちている。
「…そりゃそうだろ。泣き虫立香が泣いちゃうからとっとと起き上がったんだからよ」
「フーくん…」
呆れたような声。というか申し訳ない気持ちがないような口調で彼は白くなった外套を着て前へと出る。
「無事なんだよね?そうだよね?」
「じゃなきゃ眼の前に出てないよ。…流石に疲れたがな」
立香を優しく抱きしめ、マシュ・キリエライトが呼ぶ方向へと向かう。
外套の隙間。体と皮の狭間からは、絶え間なく血が流れ出る。
決して立香へと見せないように気をつけるその姿は─やはり、幼馴染というには重すぎる感情が見え隠れしていた。