世界を救え?できらぁ! 作:星5すり抜けとNTRは悪い文明
─ああ、やっときた。
受け継いだ全身を震わせ、どこから待ち人が来ているかを確認する。どれだけ遠くにいようと間違えることのない熱を持つそれを補足し、歓喜の声をあげる。
骨になった龍が道を阻むが関係ない。自らの武器たる嘴を使ってその外装を噛み砕く。一つ、二つ、三つ。数えるまでもなく膝を折ったソレの首元をねじ切る。
生態系を壊すかのごとく邁進するその視線の先に映っている待ち人は、獣のことを認識できるかどうかはわからない。そもそも獣とて待ち人との関係性を直接で伝えて納得されるとは到底思えない。
故に鱗を飛ばした。自らの鮮やかな鱗に紫に近い血液が付着したが些細な問題であり、その程度なら敵を弾き飛ばすのに支障はない。
クルル、と独特な声が自らの喉から震わされる。共振するかのごとく飛び立った鱗の方向へと木々を薙ぎ倒しながら動く獣は、とてつもなく強大であった。
密林の奥底に隠れていたはずの色が徐々に見えてくる。自然界で警告を示す紫色の体格は鱗一枚一枚で寒色へのグラデーションを作っており、仮に人間がいたのであれば綺麗と表現して差し支えない肉体。
ただ、同時に乱獲などを考えるような愚か者もいないだろうと予想がつく。誰が好き好んで眠る獣の尾を踏みたがるのか。弱点部位を狙撃したとて痛痒を感じない化物へと手を出そうとするか。
こすり合わせた鱗の音で鳥は消え、進路の邪魔となる大型だとしても骨の龍と同じ末路を辿ることは容易に想像がつく。
獣が辿り着いたときには既に待ち人を襲う矮小な獣がいた。不遜にも襲いかかろうとしてくるそれらへと尾の一撃で首を折る。こちらへと変な目線を向けている女性を気に留めるまでもなく、返す尾で待ち人の体を攫う。
「やめろ、ライダー。やるなら結界を壊してからだ」
懐かしい待ち人の声音。呆れている声だが否定もしない。
彼が変わることはなかったのだ、という喜び。
彼は変わることさえ許されない、という悲嘆。
その二つを獣は狂おしく感じたが、今は命令に従うのみだ。待ち人が呼んだ方向にある箱庭を囲う結界に目をつける。
「速く壊せるならそれでいい。気づかれる気づかれないは二の次だ」
オーダーに従って自らの魔力を溜め、当然のように結界の一部分で体当りする。結界に当たったがヒビが入る音のみ。まだ割れてはいない。
「…上出来。あとは合わせて殴るだけだ」
もう一度のタックルを敢行する直前、後ろから忍び寄る足音があった。並走するバカげた身体能力と手に持っている双剣。確かあれは、少女に贈らなかったもう片方だろうか。
「疑似宝具─
地面へと突き立てた瞬間、立香は寒波に襲われる。雪山での雪崩と変わらない凶兆の先触れは辺り一面を氷に変えた。
無論結界も例外なく凍りつき、一撃目でヒビ割れた透明な部分が浮き彫りとなる。
「これで充分だろ、ライダー」
そうだった。彼の本領はこういう細かいところだ。今さらながらに獣は実感するも、やらなきゃいけないことは忘れていない。
パリン、とガラスが割れる音。魔法が解ける音と同時に、どこまでも続いてたかのような密林の空が濁り始める。
見える空から乳白色。ふわり、と病室の匂いが香った瞬間に彼の纏う雰囲気が変わった。
「あぁ、なるほどね…そりゃそうか」
『立香の味方』から『私欲のための殺人鬼』へ。
『お遊び』から『仕事』へ。
『サーヴァント』から『元人類最後のマスター』へ。
普段の彼とはそぐわない顔をしていた。少なくとも立香は見たことがなかった。
「立香、悪いけど俺だけでここは解決する」
「えっ」
「いやさ、ちょっと空気が汚染されてるのと立香に直視してほしくない」
手元には双剣ではなく大剣。片手で持つことを想定されていないソレを軽々しく肩に担ぎ、もう片方の手に魔力らしき青い力が見えた。
「メタトロンのところに送る。ライダーも見ていって」
ライダーと呼ばれた獣は一瞬で立香を頭の上に乗せる。手慣れている仕草にペットか何かと勘違いしそうになる─なんてことはサイズの大きさで全くないのだが。
「ちょっ、ちょっ、フーくん?なんで?」
「間違いなく立香ごと手元が狂って殺すかもしんないから。安心して、死ぬってこと『は』ないから」
笑いながら手の中にいつのまにか握っているタロットを取り出す。
「月─不安、幻想、揺らぎ」
送還しようとするためなのか、彼はもう1枚取り出した。
「太陽─健康」
ストン、と。
瞬きの合間に、立香はメタトロンのところへと移動していた。ふかふかの椅子に座っているし、何より動けないように拘束される椅子になっている。
「…はぁ。やっぱこうなるんだよねーって予想してた」
パタパタと小さな羽を羽ばたかせながら彼女はお茶請けを食べている。予想したと言っている通り、何も動じていない。
「ライダーもそう思わない?…ま、正確にはランサーの代理のライダーなんだろうけど?」
「…黙秘します。その、私も殺されるべきサーヴァントの一つに入るでしょうから」
いつのまにかいた紫色の髪を持つ少女。身長がエウリュアレととても似ているが、手に持っているものや身にまとう雰囲気は全て異なる。
(お人形さんみたい…)
驚いてる彼女がちょこんともう一つ用意されていた椅子の端に座ると、メタトロンはピッとリモコンを操作した。
「実は彼に対して勝手に盗撮器つけといたんだよね。本当は密林の方を攻略するのかと思ったんだけど…ま、いいか」
見えているテレビの前に映るのは紛れもない彼の姿。こちらに気づいている様子はどこにもない。
「一応10秒前の視点だけ。メタトロンとして見つけられないよう注意してるからそこだけは許してねー」
軽い言葉と共に上映された配信画面。
立香に見せようとしなかった理由がわかるのには、長い時間はかからなかった。