世界を救え?できらぁ! 作:星5すり抜けとNTRは悪い文明
その領域は何かで例えるとしたら『失楽園』とでもいうべき場所だった。楽園としての設備はある。城に花園─見た目だけは素晴らしく幻想的な領域だ。ただしよく見ればその景観にそぐわないものがある。
…死体だ。安らかに眠っているだけならばまだ辿り着いた先の安寧として死んだと思えるはずだった。顔を見ればわかるが見える死体は例外なく全て苦悶の表情を浮かべている。
病室の無機質な匂い。その言葉で本来連想する場所は老衰とか病気とか、そっちの想像が最初だろう。
しかし頭の中に出てきたのは嫌というほど見させられた気持ち悪い部屋。もはや最後には帰ることすらなかった人理の箱。
(だから…で、やってくる?)
楽園の奥、明らかに建てられた白亜の城。似つかわしくない程濁りきった城は、さも元からそうであったかのようにこちらに見えている。
「…会いに行け、と。バカじゃないの?」
動かないことには始まらないので鶏の干し肉を齧りながら魔力探知。正直に言えば見切り発車にも程があるせいで探すことすらもしてなかった。
「どんだけ動揺すりゃ気が済むんだかさ、ったく…」
いつでも笛を鳴らせるようにしておきながら罠のあるほうに向かう。今始めたばかりと言わんばかりの戦闘音。罠である、と判断するほうが適切だ。
(周囲を囲んでるほうがさっきのゾンビで………一人のこの魔力反応、は…)
たちの悪い冗談と疑いたかった。だが同時にあの時リリスが謝った理由がなんとなく理解できた。
「…はぁ」
笛は吹かない。手に持っている大剣を投げてスイッチ。高速で移動している最中に大剣を引き寄せれば着くタイミングで手元に握りしめている。
「しゃがめ」
勢いのまま横薙ぎ。ゾンビの肉を潰す嫌な感覚を無視し、逆回転。腐った血が飛び散る不快な匂い。
「…え…?」
困惑して、目をパチパチとさせる白髪の少女。何をそんなにとまどっているのかはしらない。カトラスまで落とした上でなぜそんなにぼーっとしてるのか。
「仮契約を今するようなことはできないしやるつもりもない。…動くなよ、守りにくいから」
大剣をしまう。集団戦をするならデカい武器よりも小回りの利く、それでいてとっとと離脱するのに適したもの。
「疑似宝具展開─
選んだのは素手。爆破性の粉塵を撒き散らし、メアリーを引き寄せてから起爆。
大きな音が遮断された奥で響き渡り、ゾンビと一緒に草木が飛び散る。爆心地に立っていて何もないのが不思議なくらいだ。
「えっ…えっ…?ポップコーン…?」
「だからあんま使う気がないんだよ、これ。真名の隠蔽機能がついてるせいでふざけた出力しかしない。厨二病かふざけたネーミングかどっちかだよ」
驚いているメアリーにそのままスキャンをする。NTRされた奴ら特有の匂いも魂が汚れている感覚もしていない。
(あれ…?俺こんなのどこで学んだっけ?)
不安になってくるが、今は情報がほしい。勝手に疑って殺しにかかっておいて理不尽な要求をしている気はするものの、とりあえず会話を続ける。
「…で?メアリー、お前の状況は?」
「え、その、あの。なんで、助けて」
「とりあえず混乱してるんなら俺の元々のカルデアのサーヴァントでいいんだな。オケアノスでリリスに助けてもらったって形で」
考えてみればメアリーは確実に死んだかどうかの確認もしていないし、本来より速く攻略した影響でアルゴノーツからそこまで遠くない海域で彼女は彷徨う可能性は大いにある。
…少なくとも首絞めで動かなくなったところですぐ息を吹き返していてもおかしくはない。
「…で、どうする?言っちゃ悪いが俺はメアリーに対してどう接すればいいのかわかりかねるんだよ」
俯いてるままの彼女へと一人語りをするしかない。
「…まずは謝罪だけどな。使えないって判断して悪かった。もっと注意深く観察して…い…ゔぇ゙…」
あのカスみたいな情報しかないゴミビデオを思い出して軽く吐きそうになる。咄嗟に手のひらを刺して現実に戻る。
「…取り乱した。それで、今のメアリーには三つの選択肢がある」
「一つ、今ここで俺に殺される。正直に言うなら敵か味方かわからない現状、とっとと目についたサーヴァントを全員殺すのが最適解なんだ」
「二つ、魔力供給だけして単独行動をとる。俺みたいな助けられなかったマスターに従うのが嫌だと思うだろうし。この特異点が終わるまで持つくらいの魔力だけ渡してさよなら」
「三つ、一度だけ仮契約する。特異点のこの場所─少なからず、俺達の世界が原因で混ざり合っているってことは察した。この特異点だけの契約として同行するサーヴァントになってもらうってこと」
どうするかまで具体的に提案すれば、後は彼女に任せる他ない。
「別に他に案があるならそれでいい。俺はあんたに従うし、無干渉がいいならそうすりゃいい」
…正直に言えば罵倒されると思っている。人理修復にかまけて彼女を救わなかったのだから。
『一度寝取られたなら助けるだけ無駄になる』─けれど彼女は実際、寝取られていなかった。
となれば彼女の提案を受け入れなければ公平ではない。ジャック・ザ・リッパーのときも、彼女のときもそうだったのだから。
言おうとした口が開き、閉じる。何度も書き直した解答を確かめるように繰り返したあと、彼女は静かに─しかし力強く、宣言した。
「…うん、わかった。マスター、僕ともう一度だけの仮契約を結んでほしい」
血に塗れた手のひらの中から拍動する紅い魔力がほとばしり、メアリーとの縁を結ぶ。
「…メアリー。先に伝えとくが」
ピクッと背筋を伸ばした。何か間違えたのかと不安になる表情。
「俺のことは風香でいい。そう呼んでくれたほうが俺の都合がいい」
リリスたちならともかく、今ここで彼女に『マスター』と呼ばれたらどうなるかわからなかった。
ただの違和感だ。アイツラ以外から呼ばれるその言葉には酷く軽薄で、ビデオや食堂を思い出す。
「わかったよ、風香。……じゃあ、協力しよっか」
示し合わせたかのように後ろに現れるゾンビ。よく見るとさっき爆破した奴らが近づいてきているようだ。
「命令は一つだ─生存しろ!」
言うなり笛を吹きながら突撃する。獣が爪をかき鳴らすような激しい音が辺りへと撒き散らされる。
記憶の欠片 消せないまま
少しばかり鈍い光沢を放つ重たい武器─本来なら両手で持っていたその武器に詰まっているのは貫通弾。
心の鉛 積み重なる
「疑似宝具展開─
弾丸の嵐の真っ只中にありながら、メアリーへと当たらないように制御する。
「とっととやるぞ。あんな歪んだ白亜の城、ぶっ壊すに限る」
メアリーが混乱しているのを尻目に、俺は更に歩みを進めた。
白亜の城─アレは、生かしてはおけない。
疑似宝具展開の上はふざけるけど下はちゃんと考えてる。
超必殺飛鳥文化アタックまでは自重した。