世界を救え?できらぁ! 作:星5すり抜けとNTRは悪い文明
白亜の城─の、玉座の隣。本来なら騎士王の伴侶が座るところにマシュ・キリエライトは座っていた。
【背、世々、センパイ?】
…最も、本来知っていたあのシールダーとは程遠い見た目をしている。未練がましく盾を腕につけ、体は肥大化して単純な力だけならバーサーカーに匹敵するかもしれない。腐っても英霊が入ってた名残り、って感じだ。
反対にマシュ・キリエライトとしての側面は完全に真ん中にある彼女の形だけだ。有り体に言えば醜く、そして汚らしい。手に持つ辛うじて剣と盾と呼べる存在が、彼女を騎士と呼ばせられるのかもしれなかった。
「…ねぇ風香、本当にアレってマシュ・キリエライト?」
「どうだろ。少なくとももう一つ英霊が混じっているんだろうなとは思ってる」
普通に考えてあそこまでカルデアが乱れた原因がそこにあったのか、と言われれば否だろう。
悲しいことに今でも人の善性を信じる、と俺を仮定するならば該当する英霊は一つだけ存在する。
「…メアリー。マシュ・キリエライトが混じったサーヴァントの名前はわかるか?」
「うん。確かギャラハッドだろう?」
「そ。円卓の騎士で13番目の騎士。あるいは聖杯を入手した人間、とも言えるんだけど」
本来ならばとても高潔な人間であることはわかる。一度は直接マシュではなく俺に憑依しようかと相談されたくらいだから。
…流石にマシュ・キリエライトが死ぬとわかってるのに入れ替わってほしいとは言えなかったが。
「そこから軽く調べたんだよ。円卓に関係する─もっと言えばアーサー王伝説においての女性。破滅に深く関わる女性」
クー・フーリンの兄貴も殺されたよなぁ、ってことも思い出す。ゲッシュ含めて死ぬなんてことはないと思っていた彼が死んだだけに、わりと代替として呼んだジャックに強く当たってしまった。
「んでさ、不思議だったんだよ。天下のケルトの英雄サマがたかだか英霊を宿した少女に負けると思うか?」
「確かに…不意をつかれたならともかく、英霊からも見放され始めた時期に負けるっておかしいよね」
「そ。考えられるのは逸話とかその類─で、多分カルデアの崩壊もそのせいかなって考えられる」
実際に伝説とは異なる方法で壊れたけど、恐らく見立てとしては『女の不倫で物語が終わった』ということだ。
「だから解答は一つだけ。アルトリアによって女性としての幸せを失い、ギャラハッドの父親であるランスロットと不義理を働いて円卓の崩壊を招いた人物」
「あぁ、クラスに関しては頭の狂ったところから間違いなくバーサーカーでいいだろ。シールダーとして守らなければならない人間を見捨てたんだしちょうどいい」
「真名─ギネヴィア。あるいはマシュ・キリエライト・オルタ」
そう呼べば、彼女は心底気色の悪い笑みを浮かべて笑い始めた。びちゃびちゃと何か液体が飛び散っている。
【祖、楚々、ソウデス!センパイ、ハクシキ!ダカラ、夢、緩、赦シテクレマス?】
「しねぇよ。また裏切られるだけだからな」
チャキ、と前回の宝具の影響で引き当てたピストルを構える。中身が間違っていなくて助かった。
「だからこうするんだ」
一発で彼女─
「え」
「黙って沈んどけ。元からそういう話だったろ?」
そのまま二丁の中に入っていた銃弾を次々に撃ち出す。全弾命中したメアリーは前に崩れ落ちる。
「…りょーかい…」
「しばらく待ってろ」
弱々しい返事をした彼女に対して追い撃ち。再び液体が飛び散り、狙い通りのところに飛ぶ。
【絵、得柄、ナンデ?】
「そりゃそうだろ。平等に殺す。魔力が少なかろうがもうあと二人くらいしか殺す相手が残っていない─お喋りの時間は終わりだ」
倒れたメアリーを乗り越える。話すことはないとして銃を切り替える。本来なら使われることのなかった二つの角があるコレ。
「疑似宝具展開─
【位、唯々、イイデス!センパイ、ハワタシノ、モノニシマス!】
放ってくる剣戟を貫通弾で貫き、地面に斬裂弾を放ちながら接近。相手の大振りに合わせて回避しながら銃を乱射する。
(……ッ!)
思っているより、強い。
攻撃を受けることはないが当たれば一撃死なのは間違いない。恐らく前の世界から生き抜いたせいでこうなっているのだろうな、と冷静な思考で判断する。
(そりゃあっちから持ってきたモンがことごとく神秘纏ってるもんな…)
やることは全部やりきったかもなぁ、なんて思いながらステップして盾を避け、またたく間に飛んできた返す刃に貫通弾を撃って軌道を逸らす。
【刃、母、ハハハハッ!センパイ!ニゲルダケジャ勝テマセンヨ!】
(横、縦、縦、縦、ジャンプ、乱射、退避)
事実として一度も俺の攻撃は当たらず、彼女だけが一方的に攻めている。無駄に戦闘能力があるのは辛いな、とどうでもよさげに思う。
【負、不腐、フハハハッ!モウ逃ゲラレマセンヨ、センパイ!】
後ろに圧迫感。どうやらもう逃げ回ることはできなさそうだ。
狙いすまして一発の弾丸を放つ。狙い通りに着弾した以上、もう俺から動くことはない。
【無、武矛、ムダナアガキ、トッテモカワイイデス!デハ、イタダキ…?】
首を傾げた彼女の腹からは、心臓を貫いた綺麗な刃が立っていた。
僕に対してなぜマシュ特攻と言ったのか、最初はわけがわからなかった。
『なんでそんなこと言うのさ。僕はただの英霊だよ』
『というよかほぼ俺の勘だよ。アイツ聖杯持ってるだろ?なら俺だけは対策しててもおかしくない』
普通に考えればその通りだ。彼女を恨む理由こそあれ、放置する理由なんてどこにもない。今となってはあの配置も彼の裏切り者に対する態度を見極めるためだろう。
『だから一番切り札として適しているメアリーを使う。リリスとかジャックにやらせたくない』
『ふーん、僕は汚れ仕事のために使われたってわけね』
『そういう意味じゃねぇよ。順当にどっちのほうが恨みが強いかを考えた結果だ』
曰く、サーヴァントを誘惑して使えなくしていたのはマシュ・キリエライトだと。
曰く、彼はたかだか最初の裏切りである以上割り切らなきゃ先に進めなかったと。
曰く、もはやどうでもいい救えないクズであると。
『ならお前のほうがいい。俺が手を下してまだ気があるとか勘違いされるくらいならサーヴァントのメアリーに殺してもらったほうがな』
『…あいよー。でも僕はどうすりゃいいの?』
『シンプルな不意打ち。何するかはその場で決めるけど基本的にこの弾丸が当たったら思いっきり相手を殺しに行って』
言うなりパァンと体に放たれた弾丸が僕の体へと突き刺さる。大して痛みは感じなかったし、むしろ体が強化された。
『その強化されたと思ったら即殺しに行け。だいたい無防備な状態を作っとくから』
…そして、彼は後ろからピストルを撃ってきた。
(…ペイント?)
畳みかけるように何発も撃たれて、ようやく彼の意図を理解する。倒れたふりをしろ、ということなのだろう。
しばらく剣戟の音が聞こえ、ジリジリと詰めている空気が漂った頃に弾丸が僕へと届いた。
(…今!)
起き上がった瞬間、彼女の背中へとカトラスを突き刺す。間髪入れずに引き抜き、その反動で飛び上がって首を断ち切る。
「…おつかれ。念入りに殺してくれて助かったよ」
「そりゃ二回目はしくじらないよ。それよりもほら、立てる?」
壁に油断なく立っていた姿は跡形もなく、戦場が終わった兵士のように銃にもたれかかるようにして座っている。
「無理だな。あんなふざけた固有結界擬きを使ったから魔力が尽きた」
「え、それって…」
「一旦魔力が戻るまで休憩してから立香のところに行くぞ。まだこの特異点は終わってないからな」
まだ終わっていない。
その事実が嬉しいけれど、きっと時間はもうない。
スースーと寝息を立て始めた彼の横に寄り添う。警戒する必要もない、と判断したのか起きない。
「…いや、いいんだ。僕が想いを伝えたことが奇跡だったんだから」
目を閉じて彼と繋がる魔力のパスを感じる。
涙でちょっと冷たかったけれど、やっぱり暖かかった。
礼装獲得!
『さびたたて』
かつて無垢だった少女。
かつて人理を救うはずだった少女。
その世界にはしっかりと助けてくれる優しい少年がいたはずだった。きっと元へと戻すはずだった旅路があった。
気がつけば他の男の部屋で股を開いた。快楽のために他のサーヴァントも利用し始めた。アイパッドに送りつけるように考えた。彼に信頼されたサーヴァントすらも地獄へと無理矢理引きずり込んだ。
どこから間違えただろうか。
いつから間違えただろうか。
はたまた─存在することが罪だったのか。
それさえもあやふやになった世界から逃げ、彼女は普通だった頃の特異点へと駆け込んだ。
一つしかない聖杯を使って自らの領域を作った。
自らの腐って汚れきった心では殆ど思い通りにはいかなかった。
それも当然のことだろう。必然的な道理だったのだろう。
彼女の中に少年を愛する心はなく、ただただ快楽を貪るばかりの自己愛だけが残っていたのだから。
彼の心も彼女を繋ぎ止める道理もなく、二度目の人生ではあっけなく死んでいった。
たった一つだけ、残った盾。
誰からもどうでもいいとされた少女が、最後に残せたもの。
もう数多の英霊の呼び水であり、縁をつなげる盾ではない。
誰かを不幸にしたことを示すだけの、単なる鉄くずである。