世界を救え?できらぁ! 作:星5すり抜けとNTRは悪い文明
「あーあ、吐いちゃった」
どうでもよさそうな私の声が神殿の中にこだまする。目の前にいる『この世界での』人類最後のマスターだった藤丸立香ちゃん。
別に神殿が汚れると掃除がもっと面倒だから掃除の魔術でさらっと綺麗にする。これをわざわざ魔術にしている風香にありがとうの気持ちが止まない。
「………え、あれ…人…だよね…?なんで…」
「…まぁ、サーヴァントの宝具というのはあんなふうに誓約をしないと発動できないこともありますから」
ちっちゃなランサーが擁護してる。彼女も気づいているから顔が真っ青だけど、それでも立香ちゃんよりはまし。
「一応そういうものだったってことでしょ。あったじゃん、オケアノスでも単独行動してたの」
「でも!魔力を取られる感覚は…」
「あの宝具の量、見えましたか?あんな風に大量に使っても立香さんには何の負担もかかってないです…こうなっても、おかしくないですよ」
元々彼に関しての計画はリリス発案だけど存外うまくいっている。
(まー、最初にあんなことしちゃったせいで余計わかりにくくなったもんね。イレギュラーもイレギュラーだけど結果的にうまく行ったし)
ズズッとタピオカミルクをすすり、ちゃんと立香ちゃんに釘を差す。
「いやさ、忘れちゃ困るけど人理を救う戦いなんだからね?フィクションみたいに綺麗な戦いなんて存在してないよ」
「…マスターなら、きっと綺麗な戦いにしようって思いますよ」
「うん。だけどさ、考えてみりゃわかるけど『余計』なんだよね。無駄に人の命を考える必要はあるの?マシュ・キリエライトのように現実逃避するやつもいるよね?」
うぐっ、と立香ちゃんがうめく。実際そうなることを止められなかったのは彼女の問題だ。
(かといって立香ちゃんが止められたか、って言われたら違うんだけどね)
もしかしたら私たちが来たからかもしれないし、ということは胸の中。ルーラーとはいえ今回の指標は決まってるからね、しょうがないよね。
「んでさ、立香ちゃんをそこまでして守ってる理由ってわかる?」
「それは…幼馴染だから…!」
あまり強い語気になると私が言い負かすのがメンドーなのでランサーにウインク。ちゃんと意図わかってくれる程度の信頼関係があるって便利だよね。
「…多分、違います」
「え…?」
「そういう意味なら、私はファーストサーヴァントです。彼の旅路において最も助けた仲間だった」
無論最後まで従うことはできませんでしたけど、と続ける。
「理由は彼に首を絞めて殺してもらったからです。だからその、ええとですね。もし仮に、私と同じ理由で立香ちゃんが生かされてるとするなら」
「その理由は『好きだから殺したい』─その一言に尽きると思います」
淡々と、事実を述べる─実際は、もっと複雑なことが起きていたけど。
(…なーんて、私が知っていることをバレたらいけないんだよね。特に風香に気づかれたら本当にマズイもん)
リリスちゃんからも言いくるめられてるしね。ちゃんと計画を進めるためには必要なことが山程あるし。
あくまでその一環。だから仮に立香ちゃんがこの言葉で倒れちゃったらちょっとだけ計画を変えなきゃいけない。
(ふふん、どうなるのかな…?)
ちなみに最後までコレをやりたがったのはジャックちゃん。子供だからしょうがないよね。
そんな試練にかけられている彼女の様子を見ると、何度も何度も口を開こうとしては閉じている。弱気ではないのはなんとなくわかった。
「…うん、いいんだよ。私はそれで構わないもん」
「えっ」
表面上は驚いた彼女の声。でもフードの奥の表情は間違いなくそうだろうなと共感して納得していることは想像がついた。
「言ったよね、ランサー。殺されてもらったって」
「はい。それが何かおかしいですか…?」
「おかしくないよ。私だってそう思うもん」
にっこりと笑っている。普通の人間なら後ずさりするようなナニカを携えながら、光のない目をこちらに向けている。
「自分の最後の瞬間まで彼に捧げられるんだよ?凄くない?」
正確には目には恐らく風香を映しているのだろう。かすかに見える彼への愛情と─凄まじいくらいの執着と依存。
「私はフーくんに置いてかれるのが嫌。私がフーくん以外に殺されるのも嫌。フーくんに全部捧げて死ななきゃ嫌」
「…私ね、彼より後に死ぬのが怖いの。すぐにあっちに向かったりしたら、彼が愛想を尽かしたりしないかって。死んだからって割り切って新しい恋をフーくんが見つけちゃうんじゃないかって」
「おかしな話だよね。私と会う前からランサーとかジャックちゃんとかリリスちゃんとかメタトロンさんともいるのにさ」
「…だから、さ」
「彼の
重症だねぇなんて思いつつ、今やってきたビデオを急いで編集する。彼女にメアリーのことは黙っていたほうがよりいい。
「…どうなっても私には関係ないんだけどね」
掠め取るなんてことはしない。ルーラーとしてどうかと思うし、皆で共有するところまでは協力しないと殺されるから。
だから、動くならその後。
(今回ばかりは、見届人にはなりたくないから)
やっぱりお腹が減ってしょうがない。誤魔化すのも含めて、私は常備してあるマカロンを食べる。
彼女らが食い入るように見つめている嘘の配信の中では、ゆっくりと束の間の眠りにつく風香がいた。
…酷い目に合うの、もう少しで終わるからね。
読まなくてもいいこと:このメタトロンの司る大罪は怠惰じゃなくて色欲と嫉妬