世界を救え?できらぁ! 作:星5すり抜けとNTRは悪い文明
昔の旅を思い出す。様々な空間で特異点を解決し、一人で全てを捌くという凡人には過ぎた行動を取り続けた。
その記憶の中にある魔術王が送り込んだ七つの特異点。攻略する順序が変わっても問題がないのなら、彼はここから始めるべきだと判断した。
「─オケアノス、だ」
最果ての海。かつて征服王がたどり着けなかった─そして大航海時代を指すその言葉。
1573年のカリブ海。初手にしては広すぎてやりにくいのではないかと二人が心配していた場所を彼は選んだ。
「なんでよ、他の特異点と吟味した上で決めたわけ?」
「それ以外に理由はないだろ。もう一つロンドンもあったが立香の迷子になる可能性と天秤にかけてこっちにした」
あいつは迷子になりやすい、と話す風香。本来ならそんなに迷わないはずなのだが
恐らく気分が上がってるからなのだろうなぁ、なんて呑気に言える状況ではないので離れるつもりは基本ないのだ。
「歴史の転換点で、大航海時代と産業革命以外の特異点には大きな差異がある。戦争があったかどうかだ」
「…なるほどね。流血とかを見て吐いたりする前に他の特異点で耐性をつけるってこと?」
「そ。トラウマになって再起不能になったら俺が出ればいいんだけど、流石にそこまで追い詰められたら人理修復そのものを諦めたほうがいいじゃん」
仮にもサーヴァントの立場でマスターと離れて動くことはよくないことである。ということをNTRされる前から知っていたけど助けられなかった。
「オケアノスかロンドンか。悩んだけど視界の良さを優先してこっちだ」
「確かにロンドンは霧が発生してる可能性が高いもんね」
ロマニもこちら側の意見に賛成してきたしもう一押し。ゆーてもオルガマリー所長が頷くかどうかだ、言い方はいくらでもある。
「それとジャック・ザ・リッパーが怖い。逸話は知らないけど女性に対しては特攻だから最初から鉢合わせたくない」
「そうかな…そうかも…」
「…はぁ。心配しなくてもあなたの言う通りに進めるわ。た、だ、し!」
ピシィっと指を俺の中心に突き刺される。間髪入れずに所長はこう続けた。
「あなた、まさかレイシフト適正なかったらお留守番なのわかってるわよね?立香はともかくあなたみたいなイレギュラーが行けるとは限らないのよ?」
「もし行けなかったろ自力でレイシフトして行きますので気にしなくていいですよ。そもそも存在は証明されてますし」
くすねた検査キットからできた検査結果を渡す。しなくてもわかってたことだけど見せるにはこれがちょうどいい。
「うわっ、特異点の場所だけピンポイントな証明がされてる。風香くん、君じつは黒幕だったりしない?」
「心外なことを言いますね」
ロマニから黒幕疑いされるのは悲しい。なんか言わなきゃいけないけど、どうもいい言葉が出てこない。
「黒幕ではありませんよ。サーヴァントとしちゃ異質ですけど…彼女たちさえ守れるなら黒幕にでもなります」
「言ってる意味が全然わからないんだけど?もっと詳しく説明しなさいよ!」
「
昔のカルデアと一緒だ。万が一が起きれば聖杯で小特異点を作って逃げ込む。そこから他の特異点に飛んで解決するノウハウは掴んでいるし、それ以上の応用も今のサーヴァントとしてならやれることがある。
(…詳しい説明なんてしてられっかよ)
ロマニが男なので心配はいらないが、オルガマリー所長は女だ。そして、俺は何度も寝取られているようなクズである。
よって説明は最小限。助けられる範囲でのみ助ける。それが今回の人生でやらなきゃいけないことだ。
「失礼。立香のことが心配なのでもう戻ります」
持っていた琥珀色の液体を飲み込んで席を立つ。味はわからないが、温かいその感触が喉をつるりと通って腹へと伝わる。
後ろから聞こえる音も無視して閉める。
…はやく、戻らないと。
今度こそ、取りこぼしたくはないから。
『一緒の部屋で寝たい』
風香に戻るなりそんなことを立香は言った。一緒にお風呂に入りたいとかそういう年頃になってから甘えさせてくれなかった兄的な存在が許してくれるとは思っていなかったが、今の状況なら─そう考えた彼女は思いたったが吉日と言わんばかりに突撃しにいった。
「別にいいけど…」
だからその恥ずかしげな表情と共に頷いたことに驚いた。なぜ、とか考える前に逃げられないようポンポンとベッドを叩く。
「フーくんは私の隣。嫌とか言わないでよ」
思いのほか頑固な幼馴染が言うことを聞いてくれるときはすぐに畳みかける。誕生日のときも襲われたときもこうして立香は生きてきた。
コテンと素直に従った年上の幼馴染の背中へと抱きつくと、その状態から声が聞こえてくる。
「…当然だ。立香が俺のことを嫌わなきゃ死ぬまで隣にいさせてもらう覚悟だからな」
「えっえっえっえっ」
すわプロポーズの言葉かと思って彼の顔を見る。普段の仏頂面からはあり得ないくらい真剣で、儚くて─そして、触れない。
(こんなに近いのに、なんで…?)
手を伸ばそうとしても感触は妙に柔らかさだけを残す腕から離れない。奇妙な感覚を覚えながら、彼の独白が聞こえてくる。
「先に勘違いしないよう言っておくけど、単純に俺が勝手に思いをぶつけるだけだからな。気にしてもいいけどつきあいたいとかは関係ないから」
そう前置きした上で、立香の幼馴染は─人として、最低の発言をする。
「俺は立香を守ってきた。物理的にも、精神的にも─それこそ依存させるくらいに」
「だからこそ今が怖い。カルデアの中で立香を守れないのが。特異点でどこまで自分の使命を全うできるかわからないのが」
「…うん、言いたいことは一つなんだよ。守ります、ってわけじゃないから。監禁とかそっち系の全然重い感情だから嫌ならやめるから」
「立香。大切な君が変わらない限り、命を賭しても君を守り続ける。だから、だからさ?」
「─アイツラのせいで変わったら、命尽きるまで君を殺す。ごめんね、立香」
彼の言葉は、どこか鬼気迫るようでいて哀愁が漂っていた。言い終わると同時に、安らかな寝息が立ち始める。
(ちょっとフーくんは何を言ってるんだろ…?)
そう思いながら体の下腹部の
『彼が、私を、殺す』
そのことが立香に甘美な妄想を浸らせる。
どこまでも頼りになる幼馴染が、こうやって自らのことを刻みつけてくれるのだ。
自分が求めるよりもずっと重々しく、そして鈍い輝きを放つであろう彼の恋心の矛先が立香であることはとてもとても嬉しかった。
(フーくん…本当に、殺してくれるんだよね?)
不安気な感情とは別に、顔と心は歪んだ喜悦で満たされていた。