世界を救え?できらぁ! 作:星5すり抜けとNTRは悪い文明
夢から覚めれば不快な匂いが鼻をつく。
『おはようございます』
その言葉をいつから言えなくなっただろうか。
隣に知らない誰かを侍らすようになったのはいつからだろうか。
こちらへと申し訳なさそうにしながら他の部屋へと笑って入るようになったのはいつからだろうか。
考えたところで答えなどない。そもそも自分が新参者であるから横恋慕はこちらのほうだ。
言い訳を口に出すことなく、服に腕を通す。自分で作り出したものなだけあってメンテナンスするまでもなく壊れている。
誰かに任せればいいのではないか、と問うた。
誰も信用がもうできなくなってきた、と答えた。
自問自答。わかりきっていることの返し。
兵士にわざと捕まるようになり、他のサーヴァントも巻き込むようになり、挙句の果てにカルデアの召喚式を歪ませた。
あの無垢である『はずだった』少女は人理修復という機構を放棄させるようになった。
オルレアンの終わりには、もう遅かった。
そんなときに、とある出会いがあったから─
「…はっ」
立香は思わず体を起こす。どこまでも悍ましい─されどどこか見たことのある夢。内容は口に出せない。出すことすら許されずに忘却される夢。
「おはよ……どうした、立香」
抱きついていた体が動き出し、立香の正面へと向く。フードを被った状態なのは変わらないけれども、フニャっとしたら寝起きの声。
(昨日とは大違いだなぁ)
真剣な声も休日によく聞く声もどちらも彼だ。今はそうやって日常を思い出す行為というのがぼんやりと嬉しい。
「で、今日から特異点の攻略。最初はオケアノス」
「オケアノス…?」
「聞き馴染みないけど海域の名前だってさ。海だから海賊もいるしクラーケンとかありそう」
そんなのあるのかなぁ、なんて不思議に思うけれど彼が言うならいるかもしれない。くすっと笑みを漏らすと彼もフードを少しだけ揺らして笑う。
「まあ、機会があったら魚を捌いて食べたりとかできるかもな。船酔いしたら空を飛んで連れてけるから大丈夫」
「フーくんがしっかりお姫様抱っこしてくれるなら安心だね。…よし、行こっか!!」
ベッドからはね起きて風香の手を取る。ぐいっと勢いよく引っ張ると彼も体を起こして白コートをきっちりと払う。
「っと、忘れてた。立香を着替えさせないと」
「私のことなんだと思ってるの?一人で着替えくらいできるから!!」
子供扱いされることに威嚇する立香。まるで猫のように爪を逆立てる彼女に対してまぁまぁと宥めようとする─が、風香はそれだけで留まらなかった。
「せっかくだし魔法で着替えてもらうか」
「え?」
困惑と共にパチンと空気を鳴らす音が聞こえる。体に白い光が巻きついたかと思えば既に着替えが終わっていた。
「え、え、なにこれ?」
「魔術。サーヴァントになったしできるかなーって思ったらできた」
本来の魔術はタロット使わないとだし、と彼はついでのように喋る。メイクや服装選びにかかった時間が1秒足らずで終わるようになる魔法は、妙に立香にファンタジーっぽさを意識させた。
もちろん風香はその意図も込みで使った。一番の目的としては『これが非日常であると理解させる』。それと同時に『楽しいことのほうが多く待ち受けている』ように見せること。
(─手を汚すのは、俺だけでいいからな)
そんな本音をつとめて見せないように努力しつつ、風香は立香に連れられて管制室へと向かった。
特異点を、解決するために。
そしてオケアノス。レイシフトした瞬間海に落ちるなんてことはなく、海賊船の上で囲まれていた。後ろは海、前は海賊。早い話が確保されそうだった。
『ロマニ!あなた最初から海賊船の上になるように座標を調整したわね!』
『いやぁそんなつもりはなかったんだよ!アクシデントのほうが多くなるのはしょうがないじゃないか!』
「…はぁ。とりあえず戦闘か」
呆れた様子で見守り二人の茶番を聞き流し、片手にメスと注射器を持つ。もう既に臨戦態勢な以上、体で立場をわからせるのが一番早い。
「お前ら、やっちまえ!」
海賊の号令。サーベルを防いで精一杯のマシュと藤丸に向けられた弾丸は本来二人だけなら避けられない。
「…マシュ・キリエライト。盾とは本来、守るために使うものだ」
カンカンとメスと注射器が落ちる音。道具としてまだ使えたであろうその二つはちょうど弾丸を弾くような横幅とタイミングで投げ込まれていた。
「いつのまに…!?」
「間に合わなかった、なんてことはないようにしろよ」
相対する海賊のサーベルを真上へと弾き飛ばしてから蹴りを叩き込む。しっかりと吹き飛んだ後に落ちてきたサーベルを手で持って握りしめる。
「遠距離も近距離も意識できるわけがないのなら─全部、防ぎきれる反射神経を身につけろ」
呆気に取られた海賊達の集団へと入り、体を回転させながらみね打ち。
勝負は決したも同然だった。
「…はいはい、了解。そのフランシス・ドレイクとかいう女船長のところに連れてけ」
「アイアイ・サー!」
交渉をすべて終えた風香が二人のところへと戻ってきた。できる限り情け容赦はかけられないと言わんばかりにマシュへと彼は言葉をかける。
「言い方は悪いかもしれないが両方足りてない。守るために力を使うならもっと立香の近くに寄るべきだし、攻めるのならもう少し前に出て積極的に盾役としてヘイトを買うべき」
「はい…面目ありません…」
「…で、ここまで酷いと安心して背中を預けられない。意味、わかるよな?」
風香が責め立てる。立香はどうにも違和感を感じてよく観察すると、奇妙な視線を彼が向けていることに気づいた。
(もしかして…ふざけてる?)
言葉や口調は全て圧のかかるような圧迫感があるものの、目の奥から見える光には『そりゃそうなるか』みたいな納得した感情が出ているのだ。
無論マシュに教えることはしない。風香がわざわざふざけている雰囲気とシリアスを同時に出してるのなら隠しておいたほうがいいかもな、という直感があるからだ。
「マシュ・キリエライト。仮にもシールダーとして、この先戦うはずの少女」
他の誰かに重ねているわけではない、と自分に刷り込ませるような言い方。
どこかから取り出した大盾を床へと打ちつけて彼は宣言する。
「この特異点において、一度でも俺よりも速く立香を守ってみろ。それが出来なきゃカルデアで見守るだけにしてくれ─流石に、二人も生身の人間を庇ったまま勝利できるほど強くない」
自信過剰な─ある意味悪意に満ちたその言葉。どちらかと言えば、単なる優しさに聞こえてくる。
(逆に言えば一人までならなんとかなっちゃうのか…すごいなぁ、もう)
どちらも怪我しないように銃弾を弾くなんて真似は到底できないとわかる。
わからるからこそ、彼がその言葉通りのことをやってくれると信じれてしまう。
『ちょっと風香!?言い方に問題が…!』
「実際に言わんとすることはわかりますよね。立香みたいに16年くらい見てた人間とマシュ・キリエライトを同列に見れない以上、俺はどちらを優先するかは言わなくともわかるはずです」
命の価値。風香にとっては言わずとも決めていることではある。
「だからコレができないのなら俺はマシュ・キリエライトを守りません。そもそも戦闘せずに後ろで待機しとけって話です」
「…そう、ですか」
コンコンとノックされる音。海賊の誰かと話すためにまた彼がどこかに行くのだろう。
「立香、後はよろしく。俺は言うことは言ったから」
手を振ることもなく部屋から彼は出ていった。
『ったく、何よあの男!!マシュ、あんなやつの言葉なんて聞く必要ないから!』
『所長!?…でも、彼の言ってることは間違いないんだよなぁ』
マシュのことを二人して慰めていることを疑問に思う立香。
(そんなに気にすることなのかなぁ…?)
ふと外を見ると、黒い嵐が遠くに発生していた。
6位まで行けたことに圧倒的感謝
なおそのあと低評価でメンタルボコボコにされてますが今日も私は元気です