世界を救え?できらぁ! 作:星5すり抜けとNTRは悪い文明
「ありゃ違うな。一戦目からして違った」
避ける。当てる。わざとらしく相手の攻撃に当たらない。かすかな傷で倒れたり諦めて捕まったりしない。
あのマシュではないと思えて少しだけ歩み寄れた。
海賊の酒盛り現場を後ろから見張りながら風香はゆっくりと息を吐く。指示だけ投げて雰囲気を大分重くしたが、これくらい耐えてもらわなければ困る。
(少なくとも俺はいつまでも生き残れるか怪しいしここいらで甘い気持ちは捨て去ってほしい)
立香はまともな一般人である。人間としての命がとてつもなく英霊達の前では塵と同じように吹き飛ばされる可能性が高い。
しかしマシュ・キリエライトは既にデミ・サーヴァント。下手すると生きたままどこかに連れ去られて…連れ去られて…うえっ…
「おえ……っ…」
トラウマをガッツリ思い出して胃液を地面へと吐く。少しだけ立香たちから遠くに離れ、思考をリセットする。
なにはともあれ、俺が守れない可能性が高い彼女が戦場にいるとそれだけで利用価値として見られるかもしれない。
そして立香は助けようとするタイプのマスターだし、カルデアの面々だって可能な限り救出作戦を編み出すだろう。
(─が、そこを強襲してくるのが魔神柱なんだよなぁ)
もとの世界じゃそこまでやってこなかったが、過去の王様に近いのであればこの程度は平然とやってきてもおかしくない。ましてやレフがまだ生きてる状態でここに来ているのだからなおさら。
「…でもよく考えたらあんだけ強かった理由はなんだろうな?」
よく考えてみれば、俺の世界のマシュはやたらと盾の連動性が高かった。異常なまでに動きがよかった…というより体全体を使って動いていた。
(それを今のマシュに使えるようになってもらえば…でも最初のオルレアンと同じくらいにはフラットな状況でなぜここまで動きに差が出てるのだろうか?)
「おっと、なんでそんな端っこで酒も手に持ってないのかい?アタシの酒も飯も食えないってのかい?」
「あぁ…キャプテンね。護衛として飯ならともかく酒はダメだから」
「おかたいこと言うねぇ。カルデアから来た案内人だろうと食っとかないとカラダが保たないんだから遠慮すんな!」
ドレイク船長からドサッと渡された飯。ホカホカの湯気が漂ったが、コレは食えない。一口入れた瞬間に昔から食べてるものとは違う─痺れ薬か睡眠薬。
「…悪いけど、他のやつにでも食わせといて。立香のところに向かわないと」
正直眼の前の船長を殺したくて堪らないが堪えて立香のところへと駆け抜ける。きっともう、この時間ならやられかねない。
(…あぁ、ほらいた)
すやすやと寝ている彼女たちに忍び寄る影。海賊だからなのか手際が今と比べて雑だが静かだ。
「ふぅん、海賊だからといって客人に手を出していい訳ないと思うんだけどさ、どう思う?」
「なっ!?」
とりあえず後ろからガンド。ついでに人間用に改造していない麻酔を噴霧する。
「寝ている子供を襲う奴を撃退するのも面倒なんだよね。宴会の場所で寝てろ」
積み重ねてから宴会の場所にぶん投げる。怪我はしないし万が一しても自業自得だ。
『ちょっと風香!もっと速く来なさいよ!!』
「はいはい。これでも準備してから速く来たほうなんだけどねぇ…っと」
コートの端を千切ってそこいらの地面にぶっ刺す。四隅に置けばこれで結界としては充分だろう。
「えーと…あったあった。何が出るかなっと」
後はタロットカードで補強して終わり。
「
鎖でガチガチに縛られた結界は内側から解かない限り問題ないし、外から強引に解くなりして侵入すれば俺のところへと通知が来る。
『…凄いな。ここまで短時間で結界を張れるなんて』
「まあ受け売りですよ。俺はちょっとこの上にいます」
…悪魔、ねぇ。
まさか、いるわけじゃあるまいし。
「アテシが嵐を呼ぶぜ?夜も呼ぶよ、友達だし」
そんな軽口がうたた寝をする前に聞こえた気がした。
「フーくん。多分起きないとそろそろ鎖がきついかも」
「ん?あぁ、悪かった」
揺れた鎖から立香の声。気がつけば朝なので結界を解除し、二人の傍からとっとと離れる。
(変に海賊が来てたらまた撃退しなきゃだしねぇ)
警戒のしすぎってわけでもないし、既に歩いていたら明らかに怪しい集団が見たことある媚薬と睡眠薬を持っていたのでシバいておく。
「今は無理だけどペットかなんか欲しいねぇ…っと」
こうやって立香と離れなきゃいけないときに見張れるペットが欲しいものだ。ペガサスとかそこらへんの機動力が高いタイプ。
『どうしたんだい風香くん?朝から妙に動きが悪いよ?』
「そうだね…普段使ってない武器ってのはやっぱ疲れるもんだ。特に手元で動かすタイプの大盾はな」
チャッチャッと狩って立香のいる船着き場へと着く。
妙に威勢の良い船乗りの声が─全て、悍ましいものに感じた。
「っと、前方の島に敵だよ!お宝の匂いもするし突撃さね!」
ドレイク船長の一喝により海賊が海賊へと襲いかかる。盾と共に動くマシュは遅れるが、風香は至って普通に戦闘をしている。
「意識外の攻撃を防ぐ場合は盾を捨てること。下手に持ったまま戦闘すると後ろに抜けられる可能性がある」
掌底。回し蹴り。武闘における立ち回りが身についてる彼はあからさまに他よりも一つ飛び抜けた強さを持っていた。
(というかもう既に終わってない?)
海賊を全て倒して自分の近くにいる彼はおもむろに片手を上げて横に振る。コツンと硬いものが当たる音と共に彼の手に銃弾が転がっている。
「海賊はやっぱ銃弾がネックだな。そも麻酔弾も危ないから気をつけて」
「え、うん…」
弾を掴み取るのは反射神経の問題と言わんばかりだが、怪我しないようにするならもっと距離を取ったほうが安全ではないか。
(まぁでもフーくんかっこいいからいいや…)
「立香!マシュ!とっとと行くさね!」
「はい、わかりました!」
後ろを油断なく警戒する風香を横に見つつ、立香は駆け足で二人のもとへとたどり着く。
「対岸にある船まで森を通って行く。至近距離で戦闘が起きるからトラップに引っかからないように気をつけるんだよ」
「あ、ヴァイキングの兜あったから今回のサーヴァントはエイリークだな」
「…ちょっと待って」
「なんだ?」
立香は風香のことを呼び止める。ザクザクと入っていきそうな気配だが、言われた瞬間にすぐに振り返るのを見ると冷静さはありそうだ。
(というかフーくんなにも間違えてなさそうなんだよね。それがよりおかしいっていうか…)
朝のこともそうだけど、彼の行動は合理的すぎたのだ。マシュやロマニにはともかく、立香には違和感しかなかった。
「私の近くにいて。目の届くとかじゃなくて…ええと、なんて言えばいいかな?」
「……あー、うん」
拙い言葉からなんとなく言いたいことがわかった風香。普段見せている姿よりも冷徹でかけ離れている、といえば確かにそのとおりだ。
「わかった。ちょっと難しいかもしれないけど頑張る」
「ううん、ごめん。戦闘するのにそんな変なオーダー出しちゃって…」
そんな気まずい雰囲気の中、パンパンと銃の鳴り響く音。
「ほら、とっとと行くよ!ウチの連中が待ってるんだ」
「悪い…んじゃ、行くぞ」
普段の通学路と同じように手を握り、そのまま二人は森の中へと入っていった、