次に投稿しようと思ってる話が、前回の時間からだいぶ飛ぶので、中間として三人称視点の日常回を”挟み”ました。
ただ、こちらの話は食って喋って酒飲んで(しかもwithシロちゃんとかではない)しているだけですので、話の本筋とは何ら関係ありません。要するにめちゃくちゃ蛇足です。
本編だけ追いたい方は読み飛ばしても全く問題ありません。暇つぶし程度にどうぞ。
王途川リサが七番隊副隊長に就任して、1ヶ月が経った。
西日が障子を橙色に染める頃になっても、執務室からは紙を捲る音が絶えない。机に向かう王途川の前には、今日一日で随分と背を低くした書類の山がある。
副隊長となってから新たに任されるようになった仕事も多い。各席官から上げられた報告書の確認、翌月の任務編成、隊士の異動希望に、備品購入の決裁。
席官だった頃にも補佐として触れていた仕事ではあるが、自分の名で判を押すとなれば話は違う。王途川は一枚一枚、思っていた以上に律儀に目を通していた。
愛川はそんな隣でせっせと働く彼女を気遣い、筆を置いてある提案をする。
「おい、王途川。メシ行くぞ」
「えーと、ご飯ですか?」
「ああ、ちっと遅いが、まぁ副隊長就任祝いだ」
唐突な誘いに一瞬驚いたような顔をし、王途川は手元の書類と愛川を交互に見る。何か考えた後、ぱっと顔が明るくなった。
「ありがとうございます!」
随分と素直な反応が返ってきて、愛川の方が僅かに面食らう。
「……おう」
「皆も一緒ですか?」
「いや、今日は俺とお前だけだ」
「二人で?」
「なんだ、嫌か?」
「まさか、嬉しいですよ」
そう言って王途川は筆を置いた。残った書類へ名残惜しそうに視線を落としたものの、明日でも間に合うものだと判断したらしい。乾ききっていない墨を汚さないよう紙を分け、手早く机を片付け始める。
「すぐ準備しますね」
愛川はその様子を黙って眺めていた。
愛川は、彼女が副隊長という立場に見合うよう、自分を律すぎているように感じたのだ。副隊長になって浮かれるよりかは余程いいが、愛川からすれば少々肩に力が入りすぎているようにも見えた。
仕事を抱え込んでいるわけでもなければ、失敗を恐れて動けなくなっているわけでもない。ただ、今までなら一度目を通して終わらせていたような書類を二度確認するようになったし、隊士から何か尋ねられれば、以前より僅かに言葉を選んで答えている。
「お待たせしました、隊長」
いつの間にか、王途川は準備を終えて愛川の隣に立っていた。今日くらいは、仕事のことを忘れさせてもいいだろう。今日の提案はそんな彼の気遣いだった。
————————
連れて来られたのは、流魂街の一角にある小さな店。日も暮れた往来には夕餉の匂いが立ち込め、店先に並んだ提灯がぼんやりと道を照らしている。
愛川が暖簾を上げると、途端に賑やかな声が溢れてきた。
「隊長ここ、よく来るんですか?」
「ああ。昔からな」
「へぇ」
王途川は興味深そうに店内を見回した。長い年月を吸った柱は黒光りし、壁には手書きの品書きが所狭しと貼られている。奥では炭火の上に並べられた串から脂が落ち、その度に炎が小さく爆ぜていた。
王途川の鼻が僅かに動く。
「……いい匂い」
「ここの焼き鳥はうめぇぞ」
「いいですね、私焼き鳥好きですよ」
二人で奥の座敷へ上がる。王途川はこういう店に慣れていないのかと思えば、特にそういうこともないらしい。座布団に腰を下ろすなり品書きを眺め始めた。
「隊長、何がおすすめです?」
「とりあえず盛り合わせ頼んどけ」
「じゃあそうします。あと、これも美味しそう」
「好きなの頼め、今日は俺が出してやるから」
「本当ですか?」
「ああ、まぁ、こんな店で悪いが、祝いだからな」
「ふふふ、やったぁ」
王途川はころころと嬉しそうに笑う。やがて注文を取りに来た女将に盛り合わせを二人前と、王途川が気になった品をいくつか頼む。愛川が酒を注文すると、王途川も当然のように同じものを頼んだ。
「お前、酒飲めたのか」
「そりゃあ飲めますよ、嗜む程度ですけどね」
「まー、今日は程々にしとけ。明日も仕事あんだからな」
「はーい」
本当に分かっているのか分からない王途川の返事を聞き流しながら、愛川は湯呑みに口をつける。
程なくして、注文した料理が次々と運ばれてきた。
皿の上には焼きたての串が所狭しと並び、表面には照りのあるタレが絡んでいる。まだ脂の弾ける音を立てるそれからは白い湯気が昇り、炭の香ばしい匂いが鼻腔をくすぐった。
「「いただきます」」
二人は早速一本を手に取り、一口齧る。
ぱり、と薄く焼けた皮が歯の下で弾けるようで、炭火の香りに遅れて甘辛いタレと脂の旨味が舌の上に広がる。その味に王途川は、美味しいですね、と驚いたように言う。
「ははっ、だろ?」
愛川はさも自分が焼いたかのような得意顔をし、自らも料理を口にする。
「隊長が自信満々に言うだけありますね、これ好きです」
「そりゃ良かった。ほら、これも食べろ」
王途川は言われるがまま隣の串へ手を伸ばす。
どうやら気に入ったらしい。一口食べるごとに小さく頷き、次はどれにしようかと皿の上を眺めている。
愛川はそんな様子を肴に、運ばれてきた酒を猪口へ注いだ。
王途川リサという部下は、愛川には時折よく分からない。五大貴族の娘という生まれからか、礼儀作法や教養は嫌になるほど身についている。隊の催しで格式のある場へ出れば、今の様子からは想像できないほど淑やかに振る舞う。
その一方で、こうした流魂街の小さな店にもすんなり馴染んでしまう。
副隊長になってからの張り詰めた様子を一月も見ていたからだろうか。久しぶりに年相応——もっとも、死神に年相応という言葉がどこまで当てはまるかは怪しいが——の顔を見たような気がした。
その後も暫く、二人は他愛のない話を続けた。最近、七番隊の訓練場の一角がやけに荒れていること。五席の隊士が先日の訓練で派手に転び、治療を担当した四番隊士に笑われたこと。愛川が貸した漫画を、王途川がまだ返していないこと。
「ちゃんと返しますよーっ」
「それ先週も聞いたぞ」
「今いいところなんですよ、もう少しだけ! 一冊一冊ちゃんと味わってるんです」
「漫画に何言ってんだ」
どうやらいつの間にかに店の中はいつの間にか客でいっぱいになっており、隣の卓では仕事帰りらしい男たちが声を上げて笑い、時折、厨房から女将の威勢のいい声が飛んでくる。炭火から立ち上る煙と酒の匂いが入り混じり、開け放たれた窓からは夜の涼しい風が入り込んでいた。
そんな喧騒の中で、愛川はふと猪口を置く。
「そういや王途川」
「はい」
ちょうど串から最後の一切れを食べ終えた王途川が顔を上げた。
「一ヶ月やってみてどうだ、副隊長」
その言葉に王途川は手にしていた串を皿へ置く。そうして、ほんの少しだけ考えるように視線を上へ向け、それから笑った。
「楽しいですよ、今まで見えなかったものも見えるようになりましたし。それに……」
王途川は猪口を両手で包みながら続ける。
「席官だった頃は、自分に任された仕事をこなしていれば良かったでしょう? でも今は、隊全体がどう動いているのかも前より見えるようになって。誰をどの任務に就けるかとか、どこに人員が足りていないとか……自分で考えられることが増えました」
「大変じゃねぇのか?」
「そりゃあ大変ですけど。私、そういうの結構好きかもしれません」
その答えに、愛川は少しだけ目を細めた。無理をしているようには見えないし、実際、こいつは副隊長という立場を楽しんでいるのだろうな、と。
「お前、隊長になりてえのか?」
「えっ? 隊長ですか?」
「ああ」
「……そうですね」
王途川は少し考え始めた。今度は暫し沈黙の後、猪口の縁をゆっくりと指でなぞりながら愛川を見る。
「なりたいですよ」
「七番隊の? 俺の後釜とか狙ってんのかー?」
「いやいやいや!」
王途川は慌てて両手を振った。
「愛川隊長には長生きしてもらわないと困りますよ!」
「死ぬ前提かよ! お前なぁ……」
「違います違います、そういう意味じゃなくて!」
愛川が半眼を向けると、王途川は取り繕うように笑った。
「だって隊長席って、基本的に空かないでしょう? だから、なれたらなりたい、くらいですよ。別に愛川隊長を追い出して七番隊を奪おうとは思ってません」
「当たり前だ」
「ふふふ」
王途川は可笑しそうに笑う。愛川もつられるように口元を緩めたが、すぐにもう一度問いかけた。
「じゃあ、なんで隊長になりてぇんだ? 強ぇ奴と戦いてぇとか、有名になりてぇとか。なんかあんだろ」
「うーん」
王途川は考え込む。どうやら、こうして改めて聞かれるまで、本人も明確に言葉にしたことがなかったらしい。卓上に視線を落とし、暫く黙り込んだ末、ぽつりと口を開いた。
「出来ることが、増えるからですかね」
「出来ること?」
「はい」
王途川は自分の言葉を確かめるように、ゆっくりと話す。
「席官より副隊長の方が出来ることが多いでしょう? 副隊長より隊長の方がもっと多い。自分の考えたことを実行出来る範囲も広くなるし、人も動かせる。私は、自分で決められることが多い立場に行きたいんです」
愛川は暫し考えるような表情をし、やがて徳利を持ち上げ、残っていた酒を自分の猪口へ注ぐ。
「いいんじゃねぇの」
「えっ、あ、それだけですか? もっとこう、『隊長とは責任ある立場である』とか、『権力を求めて目指すものではない』とか言うのかと」
「んなこと俺が言うと思ってんのか?」
愛川は鼻で笑った。
「なりてぇなら目指せばいいだろ。隊長になって何するかなんて、なってから考えりゃいい」
「それでいいんですか?」
「なる前から全部分かってる奴なんていねぇよ」
「……それ聞いて、私、改めて愛川隊長の下で副隊長になれて良かったと思いました」
愛川は若干照れくさそうに顔を背け、誤魔化すように猪口を呷った。向かいの王途川も褒め言葉の追撃をする気はないらしい。残っていた料理へ箸を伸ばした。
暫くして、愛川がもう一度口を開く。
「ただな、一人で全部出来るようにはなるなよ」
「……どういうことです?」
「そのまんまだ。お前、副隊長になってから何でも自分でちゃんとやろうとしてんだろ。部下にやらせるのも仕事だからな」
その言葉に、王途川は黙りこくる。
「お前が一人で十出来るからって、十全部お前がやってたら意味ねぇだろ。お前が五やって、残りの五を誰かにやらせりゃ、そいつもそのうち出来るようになる。副隊長ってのは、自分が一番働く役職じゃねぇからな。そしてそれは隊長も同じだ」
王途川は少しだけ俯き、それから素直に、覚えておきます。とだけ返事をした。
「おう」
「ありがとうございます、隊長」
それきり、仕事の話は終わった。
その後は再び漫画の話へ戻り、愛川が最近見つけた作品を王途川へ勧めたり、今度現世へ任務に出た際に本屋を覗いてみたいという話をしたり。
王途川は途中でもう一皿焼き鳥を追加したので、愛川に「まだ食うのか」と呆れられたが、綺麗に平らげ、最後には茶まで頼んで満足そうに息を吐いた。
店を出た頃には、夜も随分と深くなっており、往来を歩く者の姿も疎らで、先ほどまで明るく見えた提灯も一つ、また一つと消え始めている。
王途川は夜風に髪を揺らしながら、愛川の半歩後ろを歩く。
「ご馳走様でした、隊長。美味しかったです」
「だろ?」
「また来たいですね」
王途川は振り返り、遠ざかっていく店の明かりを見る。
「今度は隊の皆も誘って」
「出来れば隠しておきたかったが…仕方ない、今度は七番隊で行くか!」
「はい!」
王途川は嬉しそうに頷き、別れを告げた後自らの家がある区画へ向かって歩き始めた。
愛川はそんな部下の様子を見つめ、勧められた漫画でも今から買いに行くか、と呟くと、王途川とは別の方向に向かって歩き始めた。
ここすき、お気に入り登録、高評価ありがとうございます。
皆様のおかげで、なんとルーキー日間8位!初めての二次創作でこんなに評価して頂けるとは思わず、感無量です。
嬉しくてパルムとか買っちゃいました。
加えて、誤字報告もありがとうございます。
情けないような誤字や衍字があったりして、恥ずかしいばかりです…ホントなんで気づかなかったんだ……。
また、前回の話で、王途川は色々あって藍染に計画とか色々教えてもらうよになったと書いたのですが、その経緯の話が一応ありまして。
ただ、私自身も投稿するか悩むような出来ですので読みたい方が多ければ投稿します。(とか言って投稿しない可能性もあります)
藍染と王途川の話は必要か
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いる
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いらない