世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする 作:パンダプリン
「思っていた以上に信仰を使った」
「も、申し訳ございません! 私なんかを助けるために」
「リオラのほうが大切だから問題ない」
「神様……」
そう。優先度はリオラのほうがかなり高い。
だから、信仰を使ったこと自体は問題とは思ってないよ。
ただ、こちらにはこちらの事情ってものもある。
これからこの区画を適度に修正しようとしたけれど、それはまた日を改めるべきなのかもしれないね。
……とはいかないか。
翼人たちよりも数が多いから、彼らよりは余裕がある生活を送っているものかと思ってしまった。
だけど、この時点でなんとも雲行きが怪しいよねえ。
一面が海に沈んだ区画。それもただの海水じゃない。私がわりと真剣に修正作業への集中力と信仰力を必要とするほど汚染されたバグの海。
どうやってこんな場所で生き延びているんだろう?
空気が澱んでいるのも大変だけど、海の中にいるのにその海が汚染されているとか生きていける環境とは思えない。
「このあたりの住人たちは」
周辺を調べてみようかな。
もちろん、住民と出会うつもりはないので、リオラともども人目につかないように神様の目で遠隔からの確認のみだけどね。
ええと……。無事な箇所と無事でない箇所は一目瞭然。
例えるのなら墨汁の中に、点々と水を垂らしたような感じかな?
ほとんどは黒く濁っている。だけど、何か所かは人体に害を成さない生存可能な海域ってわけだね。
このあたりは簡易的に浄化したので、幸いなことに海は黒く濁ってはいない。
その周辺は汚染されているけれど、修正した海を維持すれば汚染が侵食することはないはず。
……だとしても私が来る前は、どうやって汚染を防いでいたのか。それが気になる。
「あ、これか」
そうして調べること数分。私は原因を特定した。
これはなんともまあ……。
「結界でしょうか?」
目的に近付いていくうちに、リオラにもそれが見えるようになったらしい。
そう、結界だ。どうやらここらの住人は結界で海域を守っている。
だけどこれ。健全なものじゃないよ。
「何人もの魔力で維持している」
「なるほど。そうやって生存者たちが協力して、汚染を退けながら生活しているということですか」
「……そうだね」
何人もの魔力を使って、ね。
「内部は、私たちの生活圏よりはまともですね」
「そうかも」
翼人たちの居場所もだいぶひどいからねえ。
草木もないひび割れた大地に汚れた水場、洞窟を住処にしているので文明からは逆行している。
いずれはそのあたりもなんとかしたいね。
対する
かいじんって言い方、怪人っぽいなあ。
海底人とかのほうがいいんじゃない? せめて
まあいっか。ともかく、海人族はそれなりにまともな生活をしているかもしれない。
「少なくとも住む家も食料もありそうですね」
「そうだね。海人族のほうがその点はまともかも」
「なるほど。海人族というんですね」
あ……。まあいっか。
私、神様だもん。その種族の呼び方くらい好きにしてもいいでしょ。いいよね?
私とリオラがそう呼んでいるだけだから、彼らには何も迷惑をかけないはずだし。
「綺麗な場所……」
リオラがそんな感想を抱くのも無理はない。
周辺の海こそ汚れているものの、それらから強固な結界で守っている中はとてもまとも。
生活レベルはともかく、人としての暮らしはこちらのほうができている。
だからこそ、翼人よりも数が多いんだろうね。
「でも、翼人より先に滅ぶ」
「え?」
このままだと、そう遠くない未来に破綻するだろうね。この種族は。
となると、やっぱり私がある程度デバッグしないとなあ。
◇
生き残ってしまった……。どう、しましょう。
突如海の汚染が浄化されるなどという奇跡。それを目の当たりにした私の感想はそれでした。
覚悟は決めました。あの時点で自分は汚染された海から逃れる術はなかったから。
だけど、こうして奇跡的に助かってしまうと……。
「死ぬのが恐ろしい……」
結界に身を捧げる。それだけで終わるはずなのに決心ができません。
ただ、ここで私がぐずぐずしていたら……海人全員が死んでしまいます。
……海が綺麗になったのだから、身を捧げる必要はないのでは?
魔が差しそうになる弱ささえも嫌になります。
「大丈夫。大丈夫。みんなそこにいるから」
礎となったみんなは結界となって私たちを守っている。
なら、次は私の番。私もみんなと一緒になる。ただそれだけ!
意を決して結界に触れて力の全てを捧げようとすると、
「あ……あ……」
結界に突撃する巨大な魚。
いえ、魚ではなくあれは間違いなく魔物……。
皮肉にも結界の周囲はいつも汚染された海水だったので、本来なら魔物が結界を襲うことなどありませんでした。
ですが、結界の外が浄化されたことで、魔物たちは穢れていない場所をたどってここまでやってきてしまった。
「す、すぐに結界を補強しないと!」
もう死ぬのが怖いとか言っている場合じゃありません。
結界が壊れる。みんなが命がけで続けてきた結界が……。
結界……が?
魔物が何度も突撃しても、結界はびくともしませんでした。
たしかに、魔物が結界を襲っている姿を直接は見たことはありません。
ですが、古い言い伝えでは魔物たちは結界を破壊しうる存在と聞いていたはずなのですが……。
「な、なにが……」
考えてもわかりませんでした。
私にできることは、今見たことを巫女様に話すことだけ。
結界の礎になるとしても……それからでも遅くない。そう自分に言い聞かせながら仲間のもとに向かうことしかできませんでした。
◆
「やっぱいるよね。魔物」
そもそも、世界が崩壊寸前になったときには必ず発生するし。
翼人だけが襲われていると考えるつもりはなかった。
でも、海人族たちは結界で魔物からも身を守っていたのかあ。
汚染に魔物。結界がなかったら海人族たちは全滅しちゃうんだろうね。
「神様。今回はどんな奇跡を?」
「結界を強化した。それだけ」
「あれだけ広域を守っている結界を……ですか。さすがは神様です!」
「どうも」
「なるほど……。自分のことを守る手段がある者たちは、その力の後押しだけをしてあげるということですね」
「う~ん。まあそう」
それ自体は間違いじゃないと思っている。
あの結界こそが海人族の
そう、良くも悪くもあの結界の効果があるのは間違ってはいないんだよね。
「生命線である結界。問題はその代償」
「代償……ですか?」
そう。それが問題なんだよね。具体的には結界の作り方と維持方法……。
あれだけの結界を作る力なんて、海人族たちには備わっていない。
だから、あれは相当な無理をして作られている。
何人もの魔力で維持している。
——あの結界のために、何人の海人族が犠牲になったんだろうね?
「あの結界の材料は海人族」
「え……」
そうしなければ死ぬとわかっているからこそ、誰かを生贄にして今の平和な暮らしを作った。
質が悪いのは作ったときだけでなく、守るためにも生贄が必要ってこと。
結界の力は有限だ。巫女になったリオラみたいに、その効力を維持し続けるなんてできやしない。
「海人族は作る時と同じく、維持のためにも生贄を選定している」
「そう……ですか」
だから彼らは長生きできない。平和な生活のために何人の海人族が死んだんだろう?
そんな彼らも、もはや百にも満たない。最後の一人になる日は……遠くない。
「結界の強化だけだと、結界に依存する」
だから、応急処置とはいえ結界の力を強めたのはまずかったのかもしれない。
私のせいでこの歪な生き方が進むのはよくないね。
ここは、神様として別の道を示さないと……。