世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする 作:パンダプリン
「う~ん」
むむむむむ……。ちょ~っとよくないかなあ?
難しいなあ、世界の管理。上位神たちってこんな大変なことを平然としていたんだね。
低位の神である私では想定外の連続だよ。
「どうしました? 神様。翼触ります?」
「触る」
リオラは私が翼を気に入っていることを理解しているらしく、こうやって甘やかしてくれる。
そんな提案されたら遠慮なく乗るからね? 私以外にしたら駄目だよ?
「ふんふん」
よし、癒される。それと同時に頭の中も少し整理できた。
この感覚は中毒性が高いね。神をも虜にする翼だなんて、いいもの持ってるじゃないのリオラ。
「ふふ、好きなだけ触ってくださいね」
さて、問題は一つだけ。
翼人たちはあれ以来死者が出ていない。
魔物たちの討伐に経験値を付与してから、ただの一人も。
これは普通に優秀だね。調子に乗って無茶をする者がいなかったのは計算外かも。
正直なところ、私はこれでも翼人の二割くらいは死ぬと思っていたもの。
彼らは思ったよりも優秀だ。優秀すぎた。
今では危なげなく魔物を狩っているため、ますます強くなっていくし、食料も増え続けることだろう。
それが問題なんだよねえ……。
「魔物が減りすぎる」
「……良いことではないのでしょうか?」
まあ、翼人だったリオラからしたらそうだよね。
ただ、私からすればそういうわけにもいかない。
「魔物も私が管理すべき生き物」
そう。私はこの世界を管理する神なのだ。
この世界で発見したのは翼人と海人族。それと魔物……。
たしかに、魔物はこの荒廃しきった世界の滅びの象徴のような生き物だよ。
でも、それでもこの世界に生きる種族である以上、神である私の力で一方的に滅ぼすわけにはいかない。
「私が勝手に滅ぼしたら、信仰は激減」
魔物という種が絶滅したとき、というかこの世から完全に消え去ったとき。
世界から拒絶された種は世界を恨む。それは管理している神である私にも降りかかり、最後は信仰という力を大幅に奪ってしまう。
これが難しい。あくまでも自然に滅ぶのならいいけれど、今の魔物たちは神である私の力で不当に滅ぼされかけている。
考えなしだったかあ……。翼人を救うことばかり考えていて、魔物のほうまで考えることができていなかった。
「でしたら……滅ぼしますか。翼人」
何言ってんのこの子!?
「……理由は?」
「翼人が魔物を滅ぼすことで神様の御力が減るのであれば、先に翼人を滅ぼすのがよろしいかと」
ぜんっぜんよろしくないよねえ!?
というか、私が翼人を滅ぼしたらそれはそれで信仰が減るし!
「……神様が動けないのであれば、私が滅ぼしますか?」
「必要ない」
本当に必要ないからね!?
たしかにそれなら種の消滅による神への恨みは発生しない。
ただ、翼人からの信仰がシンプルになくなるし。
そもそも、モラルとかどうなのって問題だし!
誰! リオラにそのへんを教育してたの……は……。
ああそっか。この子は忌み子だから、そんな教育されていないんだ……。
私がしっかりと導いてあげなくちゃ。
「か、神様!?」
私が抱きしめてあげると喜んでくれる。
きっと、今までそういうことをされたことがないんだ。
なら、私がいっぱいしてあげるからね。
「私は全ての種族を救う。誰も見捨てない」
「は、はいぃ……」
というわけで、話は振り出しに戻る。
翼人たちが強くなったことで魔物が狩られる。
このままではいつか絶滅する。
それを避けるために修整前の状態に戻す?
そうしたら、結局翼人たちが絶滅するだけ。
「翼人は強くなった。なら、ここでレベルを止めれば……」
魔物たちの生態をもう一度修整して、経験値とレベル制度をなくす?
……いや、今の翼人はそれでもいい。だけど、いずれ生まれる翼人たちの子は、また親と同じ脅威に苦しむ。
であれば、魔物たちの生態を変えるのも、翼人たちの生態を変えるのも駄目。
「狩場を作る」
「狩場ですか?」
「そう。魔物たちが狩り尽くされないように、狩りに適した場所を作る」
それなら、共存とまではいかなくても、互いに絶滅しないですむかもしれない。
魔物の数は多い。数の力で翼人たちが滅びかけるほどには。
だけど、そんな魔物を狩るようになったことで、翼人たちは魔物以上に強くなった。
危なげなく狩れて、自分たちの強化にも食料にもつながる魔物たち。
このまま狩り尽くさない理由はない。
ならば、いっそのこと狩るための場所を提供しちゃおう。
そして、その場所にいる魔物以外は経験値を減らしたり味を劣化させる。
そうすれば、狩場以外の魔物を狩り尽くすこともなくなるよね?
――管理コマンド入力
――[環境操作]
――対象:下位領域地下空間
――操作:循環型迷宮 生成
「こんなものかな」
「今ので狩場ができたのでしょうか?」
「うん。小さなダンジョンができた」
「ダンジョン……」
とはいっても、本当に小さなものだけどね。
洞窟に近いまだまだ未発達のダンジョンにすぎない。
だけど、いずれは魔力を吸収して成長していくはず。
「次は魔物をこっちに移動させる」
まあ、これは何かしなくても大丈夫だろうけど。
これまで翼人たちが狩っていた手頃は魔物は、ダンジョンの魔力を好む。
そういう性質にしてある。だから、すでに移住は行われている。
「十分な魔物が移住したら、ダンジョンの外の魔物の生態を修整する」
「ダンジョン以外の魔物は、狩っても得をしないようにするのですね」
「そう」
そうすれば、わざわざ魔物を狩ることもないでしょ。
ときには魔物と遭遇して身を守るために狩るなんてこともあるだろうけど、全滅させようとまでは考えないはず。
魔物は魔物で翼人たちを一方的に狩るべき餌ではないと理解しているだろうし、互いの生存域に軽率に足を踏み入れないだろうね。
「翼人たちに神様の御考えを伝えましょうか?」
「まだいい。あまりにもダンジョンが見つからないなら、助けてあげて」
「はい!」
なんでもかんでも神様の言うとおりというのは、翼人たちに良くない。
きっと彼らは気付くはず。魔物を狩ってもレベルが上がりにくくなったことにも、魔物の味が落ちたことにも。
そうしたら、オルンみたいにこの世界を探索する者が、いずれはダンジョンを見つけてくれるでしょ。
◇
「オルン、どうした?」
「……いや、少し違和感が」
ここ最近での日課となる魔物狩りを終えた。
仲間は傷一つついておらず、危なげなく安定して狩ることができている。
ただ、魔物を倒したときのこの感じ……。
「違和感? ……もしかして、魔物に囲まれているとかか!?」
「いや、そうじゃない。悪かったな余計な心配をさせて」
「違うっていうのならいいんだが……。どうした? 腹でも減ったか?」
腹が減った……?
言われてみれば、ある意味ではその表現が一番近いのかもしれない。
腹が減ったというか、満ち足りていないんだ。
そう。魔物を倒したときに入ってくるあの感覚。あれが今までよりも少なかった?
「なあ。お前らは、魔物を倒したときにどうだった?」
「何だよ急に。魔物を倒したとき……まあ普通だな。いつも通り少しだけ力が入ってきたような……。あれ?」
「そういえば、今日は力が溢れる感じがあまりしないわね……」
こいつらも同じらしい。
「ステータス」
――自己情報
名称:オルン
種族:翼人
年齢:21
レベル:24
加護:武運の加護
称号:語り継ぐ者、初陣の戦士、魔物狩り、討伐者、熟練討伐者
技能
・飛行
・魔物捕食
・槍術
・汚染耐性
……レベルは変わっていない。
目に見える他のステータスも同じだ。
他の者たちも各自確認しているが、どうやらおかしな部分はないらしい。
「……気のせいか? いや、もしかして魔物から吸収できる力が減っている?」
違和感の正体におおよそのあたりをつける。
これは……帰還して、仲間たちと情報のすり合わせが必要そうだ。
幸いなことに狩りは終わっている。俺たちは長居することなく予定通りに帰還することにした。
「……やはりそうか」
そうして帰還した仲間たちのもとで、倒した魔物の数とレベルの上昇値を比較する。
やはりおかしい。特にレベルがまだ低い者には、そのわずかな違いが顕著に表れている。
昨日までなら、これだけ倒せば次のレベルに届いていた。
「何かが変化している……」
ただ、放っておいていい問題ではないのは確かだ。
巫女様に尋ねるか? ……いや、必要であれば巫女様は神託を伝えてくださるはず。
そうでないというのであれば、これは俺たち自身が探すべき問題ということだな!
「まずは周辺を調査しよう。もちろん、汚染耐性持ちだけでな」
俺の提案に、仲間たちは快く頷いてくれた。
神様が何も告げないのなら、この異変には意味がある。
ならば俺たち自身の力で、その答えを見つけ出そう。