世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする 作:パンダプリン
洞窟の中を進む。
無骨な岩肌とひんやりとした空気。殺風景ではあるが汚染がないだけマシといえる。
そう、汚染がないんだ。この場所は。
つまり、神様が管理している土地ということになる。
あの泉や丘と同じく、俺たちに恵んでくださった場所ということだろう。
「オルン、もう少し奥を目指すか?」
「そうだな。ここらの魔物は逃げるやつ以外倒した。逃げる魔物を追って狩るのは、明日の自分の首を絞めることになりそうだ」
狩りすぎない。
だが、必要な分は狩らせてもらう。
それにこのダンジョンは、まだまだ探索し切れていない。
一歩一歩進み、ここの全貌をつかむのがいいだろう。
「奥に進んでも明かりが……」
「ああ。それがダンジョンというものなんだろう」
これは魔力による光か?
日の光も届かない洞窟の奥に進んでなお、俺たちは互いの姿を確認できている。
「神様はどうしてこんな場所を作ったんだろうな?」
「……狩場にしては、あまりにも広い」
それに入り組んでいるし、明かりもあれば水場もある。
俺たちが生きていくには不十分だが、魔物たちにとっては都合がいい拠点となっているようだ。
「狩場というよりは、これではまるで……」
そう、まるで魔物たちのために用意した土地のようだ。
快適な空間を作ることで魔物を集め、俺たちの獲物を増やしてくれているのか?
その可能性も否定はできない。何もない場所に魔物を詰め込んでも、こいつらはすぐに逃げるだろうからな。
だが、俺にはそれとは別の考えが思い浮かんだ。
「神様は、魔物たちまで救おうとしている?」
「魔物たちまで? さすがに、それは勘弁してもらいたいな……」
それには同感だ。
神様が来る前まで、俺たちは魔物という脅威に晒されていた。
それを救ってくださったことは感謝すべきだ。
だが、魔物までが救うべき者であるというのなら、俺たちはいずれまた魔物に襲われるようになるのか?
ただ、それならそれで狩場とした理由はなんだ……。
「狩場である以上、俺たちがここの魔物を殺すことは想定内のはずだ。保護するつもりなら、ダンジョンに俺たちを立ち入らせるのもおかしい」
「それもそうだな。気にしすぎたか」
話しているうちに再び魔物たちを発見した。
向こうがこちらに気付いていないのは幸いだが、なんだか様子がおかしいな……。
「食事中……? いや、あれは」
気付かれないように接近すると、魔物たちが何を食べているかわかってしまった。
それ自体は食べることはできるだろう。なんせ俺たちも食べているからな。
「こいつら……仲間を食べているのか?」
共食い。
追い詰められた俺たちでさえしなかったことを、魔物たちは平然と行っていた。
だが、同時に納得している自分もいる。
魔物の数は俺たちより遥かに多い。それだけの魔物が飢えずに生きていた理由……。
翼人を食べていただけでは足りるはずもない。無数に存在する魔物たちでも食べない限り、飢えを満たすなんて不可能だろう。
「まずい、気づかれた!」
食事を終えた魔物がこちらに気付き襲いかかってくる。
どうやら様子を伺いすぎていたらしい。いいだろう。ならば相手をしよう。
「あれ?」
槍を確実に命中させようと狙いを定めた。
これまでの魔物であれば、どこかしらに当たっていたはずだ。
だが、この魔物たちはそんな攻撃をかろうじて回避してみせた。
「驚いた。まさか、他の魔物よりも強いのか?」
見た目は同じだ。だからといって、同じ実力ではないことは理解している。
ただ、いくら個体差があるとはいえ、ここまで飛び抜けている魔物は今までいなかった。
突然変異の魔物ということか?
「お前たち、無事……のようだな」
「ああ。今までより強いから焦ったが、俺たちのほうが上だったらしい」
俺だけでなく、仲間が戦った魔物たちも普段より強かったのか。
……先ほどの光景と合わせて、嫌な考えが頭をよぎった。
魔物たちは共食いをしていた。食い物が足りないからだろうと思っていたが、別の理由だとしたらどうだ?
生き残るためには変わらない。だが、あれがより強い個体を生き残らせるための行動だとしたら?
「もしかして……こいつらも、魔物を倒したらレベルが上がって強くなるんじゃないのか?」
「……ま、まさか」
「そうだぜオルン。いくらなんでも、仲間を倒して強化されるなんてことは……」
おいおい。狩場とは聞いたが、いくらなんでも多くないか?
これなら、狩りすぎるなんて心配はいらなかったかもしれないな!
「この数で、さっきと同じくらいの強さだとしたら、さすがに骨が折れそうだな」
「げえ……。どれだけ広いんだよ。ダンジョンって」
前向きに考えよう。
魔物がこれだけいるのなら、倒せば俺たちも強くなると。
それに、食料にはしばらく困らないぞ。
「数は向こうのほうが多い。突出しないで確実に倒すぞ」
「ああ!」
◇
倒す。その隙に襲われる。仲間にフォローされる。仲間をフォローする。
この繰り返しだ。何度も何度も飛びかかられ、それでも確実に接近を許さず撃退する。
……さすがに、厄介だな。
これが、これまで倒していた魔物ならよかった。
いや、多少強くなった程度の魔物でもまだマシだ。
だが、今の俺たちが戦っている魔物は、もはや見た目以外は別の種族かのようだった。
「戦えているのが奇跡だな!」
「やめとけ。神様の奇跡はそんなに安くないぞ」
「それもそうだけどよお! なら、この場を切り抜ける奇跡とか欲しくなってくるな!」
まだやれている。かろうじてやれている。
だが、余裕などない。様子を見て撤退するという選択が取れない。
……俺のミスだ! 見た目が同じでも強さが違うことはわかったじゃないか。
どう考えても一段階強い魔物と戦ったじゃないか。
なぜ、その時点で撤退しなかった……。
「くそっ!」
まだやれる。だが、いつまで……?
油断したら食い殺される。そんな相手がもう何匹襲いかかってきた?
今戦っている魔物は、二段階も三段階も強い。
余裕を持って倒せる強さなどとうに過ぎ去り、一つ一つの攻防に命をかけるほどとなっている。
「……まだいけるぞ!」
「ああ! 当然だ!」
だが、泣き言なんて言っていられない。
大丈夫だ。魔物を倒せば強くなれる。そうして確実に自身を高めていけ。
それでも目の前の魔物たちを倒しきれなくなったそのときは……。
また、俺が殿を務めよう。
「しまっ……!」
魔物が同時に襲いかかる。
それでも今までなら対処できた。だが、さすがに疲労が上回ったか……。
ここまでだ。負傷した仲間たちはここで撤退させる。
「俺が止める。お前らは撤退しろ」
「何言ってんだ。さすがに一人じゃ無理だ!」
「いや、魔物を倒してレベルが上がった。今の俺なら、このくらいなんてことないさ」
その嘘は誰も騙すことはできなかった。
だが、俺の覚悟が伝わったのであれば、結果は変わらない。
さあ逃げてくれ。時間は必ず稼いでやる。
「へえ。なら、お前の邪魔をしてやるよ」
!? 仲間たちの声ではない。
いや、仲間ではあるが同行していたものではない。
聞き覚えのあるその声に振り向こうとするが、魔物が邪魔でそれも許されない。
「これ以上お前が強くなる前に、ここの魔物は全部俺が倒してやる」
「セファ!」
彼もまた仲間とともにダンジョンに来ていたらしく、魔物を次々と攻撃している。
さすがにこの強さの魔物相手だと簡単にはいかないようだが、それでも決して負けていない。
「ちっ、強いな……。なんだこの魔物」
「そういうことだ。今回ばかりは協力しようじゃないか」
「疲れ切った足手まといは後ろに行っとけ」
「ひどいな。俺はまだまだ元気だぞ!」
それを証明するように、魔物を確実に減らしていく。
助かった。助けられた。
こんな体験ができるのなら、ピンチもそう悪くないな。
◆
あっぶな! オルン死ぬとこだったじゃん!
これまでは浅い部分の探索だけだから平気と思っていたけど、今日はどんどん進んじゃうんだもんなあ。
もうちょっと段階を踏んで探索してほしかったけど、別の翼人たちが助けに来てくれてよかった~。
「大丈夫そう」
「ええ。オルンとセファたちであれば、モンスターの群れも問題ありませんね」
セファね。セファセファ。覚えとこ。
オルンを助けに来てくれたし、実力も高い。
オルンと同じく、今後翼人たちを率いてくれる気がする。
「それにしても不甲斐ないですね。数が多くなったとはいえ、あの魔物にここまで手こずるとは」
「いや、あの魔物たちもレベルが上がってた」
そう。それが私が気付いたけれど放置していたこと。
魔物の生態を修整し、倒した者は経験値を得てレベルが上がる。
それは魔物自身にも適用されることを失念していた。
だけど、ダンジョン以外の魔物の経験値は減らしたので、ダンジョンで共食いをたくさんした魔物以外はそこまで強くならない。
それに、ダンジョンに避難した魔物たちは、奥へ奥へと進んでいった。
だから、危険な魔物に出会うのはまだまだ先で、オルンもその頃にはもっと強くなっているはずだった。
調子良く狩りが進みすぎたんだろうねえ。
だから、今日はすいすいと奥に行き、そのまま強くなった魔物の群れと出会ってしまった、と。
「これからは、魔物も翼人も弱者じゃない」
どちらの勢力にも強者が現れるはず。
称号に加護にレベル。それらで自身を高めて英雄のような存在が生まれるかもしれない。
ただ、それはあくまでも一握りだろうね。
だから、魔物と翼人で牽制しあって、互いを滅ぼさない程度の関係になってくれるといいなあ。
いや、願望じゃ駄目だね。
なってくれるといいなではなく、そうなるように私が頑張ろう。
世界を管理するというのは、そういうことなのだから。
「ちゃんと均衡を保つ」
そのために頑張らなくっちゃ。