世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする 作:パンダプリン
「あなた。巫女に興味ない?」
神様の言葉の意味がわかりませんでした。
言語が違うという意味ではありません。なぜ私にそんな提案を? そんな気持ちでいっぱいになり、私の胸中は疑問で埋め尽くされました。
神を殺しに来た私を巫女に?
私はあなたを殺しに来た者なのに、そんな者さえも救うのですか?
「……」
神様はじっと私の目を見つめ、こちらの答えを待ってくれているようでした。
……生贄にされた理由は白い忌み子として生まれたから。
生贄として与えられた役割は神を殺すこと。
できるできないではなく私を追い出す口実だった。今にして思うとそうだったのでしょう。
ですが、神殺しの刃などを与えられたことで、私はこんな自分にもまだ役割があると思ってしまった。
万が一にでも神を殺せたら、それが彼らの考えだったのでしょうね。
使い道がないどころか、所持していたら神の反感を買うような道具を私に与え、役目を全うできたらよし、失敗しても神の怒りは私一人に下されるだけ。
事実、私は神様を殺すつもりで神殿へと向かっていました。
——あの奇跡の泉に立ち寄るまでは。
神様は私たちを見捨ててなどいなかった。
だから、私は神様にお会いして感謝したかった。
そして、神様に危害を加えないために神殺しの刃をお渡しするつもりでした。
だというのに、いざ出会ったらそのお姿を見てまともに言葉が出せず、そこにいたのは支離滅裂な言葉とともに武器を見せる醜い翼人が一人……。
殺されてもおかしくないというのに、神様は私をお許しになり、そして……。
「巫女やる?」
ここがわかりません……。
なぜ、忌み子である私なんかにそんな重要な役割を……。
◆
あれ、言葉通じてるよね?
内心と違って相変わらずぶっきらぼうな言葉しか出てこないけれど、さすがに意図を取り違えられるような発言はしてないつもり。……してないよね?
だとしたら、この子が黙っている理由は……。
巫女をやりたくないけど、神からの圧力のせいで断りづらいと感じているとか?
まいったなあ。たしかに、私の巫女になって仕えるなんて嫌かもしれないけど、私わりとがんばるつもりだからね!
今はしょぼい神様だとしても、ここから成長を期待できると思うんだ。
だから、今の私にできることをせいぜいアピールしようかな。
「住む場所は?」
ないよね。そんな危険物をもって神のもとに送り込まれるくらいだし、仲間たちとうまくいってないと見た。
ここなら廃墟に近いけど、最低限の屋根と壁はあるよ!
「食べるものは?」
これはそもそもこの世界全体の問題として、ろくになくなっているよね?
あまりリソースは割けないけれど、それでも最低限飢えないことは保証するから!
「仕事は?」
私の暗殺はやめたんだよね? なんかよくわからないけど、やめてくれたんだよね?
きっと心優しい少女なんだと思う。なら、その弱みに付け込んで悪いけど巫女にしてしまおう……。
「巫女にする。いいでしょ?」
だからなんでそんな誘い文句!
うまく回らない舌を引っこ抜いてやろうか! どうせリソースを消費してまた生えてくるけどね!
あ~……終わったかも。こんな誘い方でついてきてくれる人、存在するはずが……。
「やります!」
いたよ。ここに。
うわあ。私の巫女が純真無垢すぎる。あるいは世間知らず?
とにかく人を疑うことを知らない。……私、神だけど。
少々心配にはなるけれど言質はとった。よし! なら、今日から私も巫女付きだ。
ちょっと……いや、だいぶ心配なこの子は、これから私がいろいろと教えてあげればいいよね。
「そう。よろしく」
お、教えられるかな? こんなぶっきらぼうな口で。
◇
「住む場所は?」
ありません……。かろうじて居ることだけは許されていましたが、私はそこからも追い出されました。
神様を殺す役割なんて、追い払うための口実だとわかっています。
だから、もう私には住む場所なんてありません……。
「食べるものは?」
私に限らずそれは誰もが求めています。
この荒廃した世界で、毎日食べるものを見つけることなんてできるはずもありません。
それは私たち翼人だけでなく、この世界に跋扈する魔獣たちも同じことなのでしょう。
私たちは飢えて狂暴化した魔獣という脅威からも怯えながら暮らしていました……。
「仕事は?」
神様を殺すこと……。それが唯一私に与えられた役割でした。
できるはずがない。与えられた武器はたしかに神様に届くものだったのかもしれませんが、瘦せ細った貧相な忌み子に神殺しなどできるはずが……。
それでも初めて与えられた仕事という響きに誘われ、神様に刃を向けようとしたことは変えようのない事実なのです……。
あの奇跡の泉で神様の力を知りました。その美しさにこの命を捧げられると思いました。
せめて、一目見たいと思ったのですが……。
神様は全てを見抜いている。
私があさましくもその命を狙いにきたことも、その力を疑っていたことも。
そんな不敬極まりない存在に慈悲を与えてくれるはずが……。
辞退しましょう。私はあなたに慈悲を与えていただける存在ではありません。
そう決断し、名残惜しいですがこの場を去ろうと決めたそのときでした。
神様は先ほどよりも強い言葉で私に語りかけました。
「巫女にする。いいでしょ?」
断言。神様からの有無を言わせないというお言葉。
私のような者があなたの威光に触れてもいいのでしょうか?
神様はやはり私の決断を待つように、じっと美しい瞳で覗き込んでいました。
勇気を……。出さないと……。
「やります!」
その言葉に私自身が驚きました。
私、こんな大きい声出せたんだ……。それに、結局は神様の慈悲にすがってしまうなんて、随分と図々しい存在だったんですね。
ですが神様はそれを咎めません。心なしか、わずかに笑みを浮かべているようでした。
「そう。よろしく」
か、神様……!
はい! この命、全てあなたのために使います! あまりにもちっぽけな命ですが、どうか神様のお役に立ててください!
そんな思いとともに、私はただ神様に頭を垂れて祈り続けることしかできませんでした。
私は神様に拾われて巫女になった。神様のものになった。それがあまりにもうれしくて、感極まって涙さえ流れそうになりました。
いけない。水は貴重だからこんなことで消費できない……。ぐっと堪えて心を落ち着かせないと。落ち着かせ……。
「羽、きれいにしよっか」
そう言いながら私の翼に神様が触れると、白さを少しでも隠そうとしていたかのような薄汚れた羽からは一切の穢れが消え去りました。
神様に触れていただき、翼の色が元通りの白い色へと戻った……。
それだけで、忌み子の象徴である白い翼が許されたような気がして、堂々としていていいと許されたような気がして……。
私はあふれる涙をとめることができませんでした。
◆
巫女ゲット。はい、幸先がいい。
いきなり現地の協力者を手に入れられるなんて、意外となんとかなるもんだね。
人類相手には口下手になる私でもこうして巫女を雇えるのだから、なんでもやってみるものだ。
さて、そうなるとこの子は私の巫女だ。 誰が何と言おうと私の大切な巫女なのだ。
であれば、今日の修正は決まり。この子の修正をさくっと終わらせちゃおう。
――管理コマンド入力
――[生体操作]
――対象:翼人種翼部
――操作:正常状態復元
ええと……。特にこの翼の汚染がひどいね。
ここを直せば、この子ももっと元気になるはず。
二日目にして、自分の巫女を直すという私利私欲な神の力の行使だけど、これはあれだから。先行投資だから。
この子が直って巫女として働けるようになったら、この世界の修正作業ももっとはかどるから。
「羽、きれいにしよっか」
誰に言い訳するでもなく、私は目の前の少女の翼の修正を開始した。
実際に触れて確かめながら、万が一にでも悪化させないようにしっかりと……。
よし、いけるいける。このくらいの汚染なら簡単に修正できるね。
それにしても、きれいな純白の翼。
触り心地もいいし、これはなかなかの拾い物……。
などと邪な考えが見透かされたのか、私の巫女は急に号泣した。
違う! ごめんって! 別にこれは神のセクハラ的なやつじゃないし!
修正作業! そう。単なる修正作業だから!
修正を終えてぱっと手を離したものの、少女はなかなか泣き止まなかった。
だ、大丈夫だよね? やっぱり巫女辞めますとか言わないよね?
……もし言われたら、言葉が通じないふりしてごまかそう。