世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする 作:パンダプリン
『セファさ~ん。俺たちももっと奥に行ったら駄目ですか?』
『駄目に決まってんだろ。そういうことは、もっと強くなってから言え』
『オルンさ~ん。セファさんが許可をくれないんですよ~。オルンさんからも言ってくださいよ~』
『セファが言うことが正しいな! ダンジョンはとある地点を境に魔物が一段階強くなる。それを理解せずに潜ったら大変なことになるぞ』
『お前、俺たちがいなかったら死んでたしな』
『返す言葉もないが、感謝だけは返せる。あの時は本当にありがとう!』
うんうん。仲良くやってるねえ。
翼人たちの中では、オルンとセファという二人が特に優れた戦士になっているみたい。
そんな二人が率いる組は、今では翼人たちの中でも特に発言力を持っているように見える。
ちょっと無謀な翼人がダンジョンに挑もうとしても、こうしてしっかりと注意してくれるのは助かるね。
「浄化処理」
今日の作業もおしまい。
昨日は空気、今日は水源。翼人たちだけでなく、魔物たちが住むこの世界は少しずつ改善できている。
まだまだ草木もほとんどないさみしい土地だけど、もっと余裕が出てきたらそのあたりもなんとかしよう。
「神様、今日もお疲れ様です」
「平気。疲れるほどじゃない」
これは本当のこと。
疲れるほど作業したら、私はきっとのめり込んでしまう。
信仰もぎりぎりまで使ってしまうだろうし、余計なお世話までしてしまう。
そうしたらいざというとき何もできなくなる。それは、私自身だけでなく翼人も魔物もだ。
神はこうして眺めているくらいがちょうどいい。
力を示して信仰されたはいいものの、その世界の生き物が独り立ちできないなんてのはよくないからね。
「……オルンたち、強くなっていますよね?」
「そこそこには」
無理せず魔物を倒してレベルを上げているからね。
ただ、魔物がそれで絶滅するってほどじゃない。
魔物は魔物で共食いをして強くなっているから、翼人たちに一方的に殺されるほどの力関係にはならないはず。
こればっかりは、澱んだ土地の魔力から無数に生まれるという魔物の特性のおかげだね。
「魔物たちも共食いをして強くなっていますが、それで翼人たちに復讐したりはしないのでしょうか?」
「そこは注意しないとね」
そう。リオラの心配していることは、特に注意しないといけない。
魔物たちは本能のままに生き物を襲う存在。だけど、知能を持つように進化した場合は話が変わってくる。
翼人と魔物は今の状態でパワーバランスの釣り合いが取れるようにしているから、もしも魔物が賢くなったらそれが崩れちゃうからね。
「ところで、私たち翼人や魔物たちは神様の御力で変化しましたが、自然に変わるということはあるのでしょうか?」
「長い時間をかければできる」
ただ、私がやっているように短時間でとなると、さすがに自分たちだけでは無理だね。
だから私はデバッグして生態の修正を行っている。
今のところ、誤った修正で壊れたりはしていないけれど、細心の注意を払いつつ続けていかないとなあ。
ただ、今のところはダンジョンの調整のほうも考えないとね。
魔物の住処。翼人たちの狩場。その二つを両立させないといけない矛盾。
ただ、それをやり遂げてこその神様だ。
魔物たちはダンジョンで生まれて暮らしながら強くなる。
翼人たちはダンジョンの魔物だけを狩り続ける。
今はまずダンジョンで均衡を保つのがいいだろうね。
「宝とかいるのかな」
「宝ですか?」
「ダンジョンに、魔物や翼人への報酬として」
「神様に考えていただける。それが十分宝だと思います!」
「……うん」
リオラはちょっと私のことが好きすぎるね。
私も好きなので、そこはちょうどバランスが取れている。
ただ、魔物と翼人は君ほど私が好きってわけじゃないから、ダンジョンで暮らすにしても潜るにしても報酬って大事なんだよ。
――管理コマンド入力
――[環境操作]
――対象:循環型迷宮
――操作:魔力結晶化 実装
というわけで、今日はちょっと特別。
環境の修正というお仕事だけでなく、ダンジョンのほうもいじってみよう。
大気や水の浄化は今後も必要だけど、こっちもきっと必要になるはずだからね。
ただ、こっちはそこまでの恩恵として認識されないだろうから、あくまでも実験的な修正として好きにやっていこう。
「さあ、どうなるかな」
「宝を与えることにしたんですか? う~……。神様は翼人や魔物に甘すぎます」
「そう?」
「そうですよ。それならもっと……」
ああ、そういうこと。
結局のところ、この子は私が力を使ったことが不満というわけじゃない。
単にもっと自分をかわいがってほしいと思っている。だけどそれを言い出せなかったってところかな。かわいいね。
「リオラもいい子」
「ありがとうございます!」
さて、ダンジョンの中はどうなっているかな?
甘える巫女にくっつきながら、私はさっそく結果を観察することにした。
ええと、こっちは魔物たちのたまり場で、こっちは水飲み場。
向こうのほうは特に穢れが濃いから、魔物たちにとっては食料庫みたいなものかな。
魔物以外にとっては毒となる穢れさえも取り込めるし、仲間も別の種族も食べられる。
生まれるのも穢れからだし、そりゃあ魔物が台頭するわけだよねえ。
「ん、見つけた」
魔物についてしみじみと考えていると、私は行き止まりとなった小さな一角でそれを見つけた。
急激にダンジョンの魔力が集まってできているそれは、まぎれもなく宝箱だ。
まだ形を成してはいないけれど、このペースなら明日には完成しているはず。
「あれが宝……ですか?」
「そう。明日また見よう」
「はい! 喜んでご一緒します」
「……お互いに仕事を終わらせてから」
そうじゃないと、仕事をほっぽり出して観察しちゃいそうだからねえ。
リオラはその言葉に頷いてくれたけど、私のほうが心配になってきた。
この子に呆れられないように、せいぜい頑張らなくっちゃね。
そして翌日。
私は浄化処理を終え、リオラはそれらの土地を保守……もとい、守ってくれた。
お互いに仕事を終えたので、昨日の続きだね。
「できたかな?」
「神様のしたことなので、ミスはないはずです」
いや、私だいぶミスするよ?
リオラの全幅の信頼に応えるためにも、宝箱よできていてくれ~。
そんな私の祈りが届いたのか、昨日観察していた場所にそれは確かに生成されていた。
「うん。できてる」
「さすがです神様!」
よせやい。照れる。
さあ、これでダンジョンが自動的に宝箱を作ってくれることはわかったね。
あとは、これらを発見して翼人や魔物がどうしていくか。
ちゃんと報酬として扱われるといいなあ。
◇
「一緒に行かないのか?」
「馬鹿かお前は。他のやつならともかく、なんでお前と仲良くダンジョンに向かわないといけないんだよ。オルン」
「あのときは助けてくれたじゃないか」
「死なれても困るってだけだ」
そう言い残すとセファは先にダンジョンに向かってしまった。
う~ん。どうせ同じ場所に向かうのだから、わざわざ別行動する必要もないんだけどなあ。
「俺たちも行こうぜ。オルン」
「いや、今向かうとセファについてくるなと怒られそうだ」
「なんなんだよ。お前らのその面倒くさい関係」
「俺のせいじゃないだろう!?」
いや、俺のせいなのか?
セファは俺の意見に反対することが多いからなあ。
性格の違いというべきか、意見が合わないので共にいたくないということか?
まあ、俺はそれでも一緒にいてもかまわないけどな。
……これか? こういうところがセファと正反対で疎まれているのか?
「お~い、オルン。そろそろいいだろ? 行こうぜ」
「……よし、行くか!」
などと考えている間に、すでにそこそこの時間が経過していたらしい。
今ならセファたちに追いつくこともないだろうし、俺たちは俺たちでダンジョンを探索するとしよう。
「今日はどうする? 一つ目ってことはないだろうし、二つ目か? それとも、三つ目も目指してみるか?」
この一つ目や二つ目というのは、魔物たちの強さの段階のことだ。
入り口付近の魔物は一つ目。そこから一段階強くなった魔物は二つ目などと呼んでいる。
俺がセファに助けられたのは、五つ目の魔物の集団に襲われていたときだ。
今のレベルでは、あのくらいの魔物の集団だと危険のほうが大きい。
であれば、まずは二つ目だ。そして様子を見ながら三つ目にというのがいいだろう。
◇
「よしっ! 問題ないな」
「ああ。二つ目の魔物たちは、よほど油断しなければ大丈夫そうだ」
「じゃあ、いよいよ三つ目か?」
「そうだな」
まだ時間もあることだし、三つ目を狙って狩ってみるか?
それとも、もう少しこのあたりの探索をして道を覚えるべきか。
……後者だな。知らない道をそのままにというのはちょっと怖い。
そこから大量の強敵が押し寄せてきたら、そのまま死ぬしかなくなるのだから。
「このあたり、まだ行ってない道があるだろ? そこを潰してから三つ目に向かおう」
「それもそうか」
仲間たちも反対意見はないようで、すんなりと方針は決まった。
それじゃあ行ってみよう。まだまだ未知が多いダンジョンだが、こうして少しずつ既知に変わるのは楽しいものだからな。
「……って、さっそく行き止まりか。まあ、知れただけよしとするか?」
「……ん?」
たしかに行き止まりだ。
それはわかるんだが……奥で何かが鈍く光っている。
「何かあるぞ。行ってみよう」
「何かって……。ああ、本当だ。なんだあれ?」
さすがにここから魔物と遭遇するなんてことはないだろうが、俺たちは念のために警戒しながらゆっくりと進んだ。
そうして進むにつれてその光へも近づいていく。
箱……? 金属でできた箱だな。なんでこんな場所に。
「……開けてみるか」
「危なくないか?」
「だから俺が開けてみよう。開けないと中身はわからない」
周囲のモンスターは倒してある。
逃げたやつが戻ってくる可能性もあるが、もたもたしなければ問題ない。
なら、安全を確保できているうちに開けるべきだな。
「中身は……」
ビン? それに中には液体が入っている。
苔で着色された水か……? いや、それにしてはなんとなく力を感じる気がする。
「……飲んでみるか?」
「いやいやいや、さすがにやめとこうぜ。穢れはないみたいだけど腹は壊すぞ。たぶん」
「そうか……」
「残念そうにするなよ」
いや、ちょっと残念に思うのは仕方ないだろう?
魔物を倒して経験値を獲得したときだって、力を感じた。
ということは、絶対何かあるぞ。このビンと液体。
もしかしたら、魔物を倒さずともレベルが上がるかもしれない。
試したいなあ。ちょっとだけなら大丈夫じゃないかなあ?
そんな気持ちが仲間に見透かされたのか、ビンを取り上げられてしまった。
仕方ない……。それでもこの周辺の道は覚えた。
予定通りに三つ目の魔物を狩りに進んでみるか。