世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする 作:パンダプリン
なんで。
「セファ様!」
ああ、くそっ。なんでこうなってしまった。
オルンが悪い。あいつのせいだ。
あいつに乗せられて、俺たちも無謀なことをしてしまった。
「わ、私をかばったせいで!」
お前のせいで仲間が混乱しているじゃないか。
これだから、あいつは嫌なんだ。
……ああ。昔からそうだった。知っていたことじゃないか。
あいつは、こんな世の中でも常に前を向いて進むやつだって。
必ずしもそれについていける者ばかりじゃないから、そういうやつらは俺が引き受けるんだって……。
だというのに、俺までオルンに乗せられて後先考えずに馬鹿なことをした結果がこれだ。
「すぐに引き返すぞ! このままじゃセファ様が危ない!」
何言ってんだ。ここは魔物の住処だぞ。
足手まといを運ぶ暇があったら、今すぐにここから出ていけ。
そう言いたいのに言葉にもならない。
……やばそうだな。それだけの痛みなのに、それだけ身体が壊れているってことなのに、やけに意識だけは冴えている。
そうか、俺はもうすぐ死ぬのか。
そりゃあそうだよなあ……。よりによって首を損傷したんだから、もう長くはないだろう。
「大丈夫か、セファ!」
本当に……だからこいつは好きじゃないんだ。
死にかけたのに、もう諦めかけたのに、こいつを見るとまだ大丈夫だと無責任な期待をしてしまう。
というか、死にかけの俺じゃなくて仲間のほうをなんとかしろよ。
さすがのお前でも、この状況で俺を延命することなんてできないだろ。
「ちょっと待ってろ!」
その言葉に返事をすることさえできない。
それは向こうも承知の上らしく、オルンは荷物をあさり始めた。
なんだ? とどめでも刺してくれるのか?
そんな期待をしながらぼんやりと眺めていると、あいつはビンに入った緑色の液体を取り出した。
……カビ?
「よし、飲ませるぞ!」
いや、待て。ちょっと待て。
え、何? 毒? それで苦しみを取り除いて殺してくれるってことでいいのか?
お前! 人が反応できないのをいいことに、わけのわからないものを飲ませようとしてんじゃねえぞ!
「オ、オルン! それ何!?」
「大丈夫だ!」
せめて質問に答えろ! 喋れない俺の代わりに質問してくれた仲間と向き合え!
大丈夫かどうかじゃなくて、この怪しい液体について聞いてんだろうが!
うわっ! まじで飲ませてきた。
……まあ、味は悪くないよ? ただ、あんなわけのわからない液体飲んだら何が起こるか……。
「……は?」
体を起こせる。それに声も出せる。
首に手を当てると、血まみれではあるが傷が完全に塞がっている。
さすがに中まではわからないが、こうしてまともに行動できることを考えると治っている可能性は高い。
「セファ様! すみません、私が無理をしたせいで!」
「いや、オルンが悪い」
「なぜ!?」
「うるせえ。お前が無鉄砲な道を示すせいで、俺の仲間までそれに続くようになったんだろうが」
「それはすまなかった! ……ああ、そうだな。俺についていけない相手はお前が世話を焼いてくれていたというのに、迷惑をかけた」
……まあ、助けてくれたことは感謝する。だが、助けた手段がどうかと思うんだ。
いまだに自分の体が怖いぞ。俺は何をされた? オルンは俺に何を飲ませた?
「さっきのは何なんだ?」
「わからん!」
「おい!」
お前、まさかどうせ死ぬなら俺で人体実験しようとしたってことか!?
……いや、こいつはただの馬鹿だ。そこまで頭が回るやつじゃない。
ということは、理屈はわからないが何かがあると思ってあれを飲ませたってことだろう。
「このダンジョンに金属の箱があってな。その中に入っていた」
「俺たちは腹を壊すと思ったんだが……」
「……今のところ、体調に異変はない」
むしろ調子がいいのがムカつく。まじで何飲ませてんだよ。こいつ。
いや……怪我が完治したことから効果には薄々気付いている。
信じがたいが身をもって体験した以上は疑うのも馬鹿馬鹿しい。
「傷を治す薬ってことか……」
「なるほど!」
なるほどじゃねえよ。お前が知らなくてどうするんだ。
重ね重ねムカつくが、元からこいつのこういうところは治ると思っていない。
ああ、それこそさっきの薬でも治りゃしないだろうさ。
思い込んだら一直線の面倒くさいやつなんだ。こいつは。
「たしかに……セファ様の傷が癒えているな。いいのか? そんな貴重なものを」
「かまわないぞ。俺も飲みたかったが仲間に止められた」
「仲間が止めるような怪しげなものを、人の口に突っ込んでじゃねえよ」
「だが、これでわかった。あの箱の中身はおかしなものが入っているというわけじゃないようだ」
……言いたいことはいろいろとある。
ありすぎて、一番優先すべきことを言わないと、こいつはまた突っ走りそうだな。
「まだ決まったわけじゃないだろ。何度か検証しろよ。ちゃんと」
「そうだな。そのときはまた頼む」
「また死にかけろってか?」
「逆でもいいぞ?」
「ざけんな。せいぜい死なないように魔物を狩ることだな」
さすがにこの状態でダンジョンの中を進む気はない。
俺は仲間を連れながら入り口まで引き返すことにした。
……ちっ、本当に気に食わない!
「悪かったな。感謝する」
「かまわん! 俺もセファたちには助けられたからな。お互い様だ!」
だから嫌いなんだよ。お前は。
◆
「回復薬」
オルンたちが探索をして最初に発見したのは、そんな代物だった。
なるほどねえ。ダンジョンの探索なんてするからには、そういうものも必要になるか。
ただ、オルン自身は何らかの力を感じていたようだけど、さすがに洞窟の中の箱から出た液体なんて怪しくて飲めないかあ。
そうだよね。このあたりはリオラから伝えてもらったほうがいいかな?
ダンジョンで発見した宝箱の中身は、危険なものはないから安心していいって。
「翼人の傷が治りましたね。あれも神様の奇跡……」
「……」
違うと否定しようと思ったけど、ダンジョンを作ったのもダンジョンの機能を追加したのも私。
そう考えると、あれも私の成果の一つって考えていいのかな?
などと悩んだことで、リオラは私が否定しなかったという事実だけを受け止めた。
「さすがは神様です!」
あ~。こりゃあもう、あれは私の奇跡だっていう認識っぽいねえ。
まあいっか。回復薬の分析は終わっているから、私もその気になればあれくらい量産できるし。
とりあえずごまかすように翼をなでておこう。
それにしても、ダンジョンがしっかりと意思を持っているように感じたね。
最初に出てきたのが回復薬ってことは、今後彼らは探索である程度の無茶をしても問題ないと考えるようになったはず。
危険な目に遭ったけれど、それでも問題ないという事実を植え付けたかったのかもしれない。
そうしてダンジョンの中に入った者たちの魔力を少しずつ吸収し、ダンジョンはこれからも維持され続けるんだろう。
おっきい生き物に捕食されているみたいなイメージかな?
まあ、餌となる内部の生き物たちが気付かない程度の微小な魔力の吸収だから、害があるというわけではないけれど。
「落ち着いたら、今後はいろいろなアイテムが出そう」
「そうなのですか? 魔物と翼人、そのどちらにも戦う手段を与えるということですね」
結果的にはそうなりそうかなあ。
回復薬だけじゃなくて、いずれは攻撃や補助用のアイテムが出てくるかもしれない。
そうなると、戦いは激化する可能性がある。
ダンジョンとしては、内部で魔力を大いに消費してほしいんだろうね。
「無茶しないように、それだけ注意して見守ろう」
「神様に見ていただけるなんて、贅沢な者たちですね」
監視されているようなものなのに、その受け取り方は斬新だねえ。