世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする 作:パンダプリン
ふむふむ……。
宝箱はオルンからすぐに伝わったね。
オルンと対立というか、意見がわりと反対気味のセファも有用性を示している。
そのせいか、翼人たちは宝箱を警戒するってことはないみたい。
「魔物を狩ってレベルを上げて、宝箱は回収」
「順調に強くなっていますし、もしものときのための保険も蓄えていますね」
「うん」
魔物と翼人のバランス、これでそれなりに取れるようになったかな?
今度は翼人が魔物を狩りすぎるということは十分考えられるし、そこだけは要注意だね。
ダンジョンの中の魔物たちの様子、しっかりと見ていかないと。
「また食べてる」
「共食いですか。いくらでも生まれるからこそできることですね」
この滅びかけた世界は魔物のもの、と言えるくらいには数が多いからねえ。
やっぱり、世界に適合できているっていうのは強いよ。
放っておいたら他の種族を滅ぼしてしまう。だけど、魔物が一方的にやられるのもよくない。
何かあったらまた私が対応しないといけないかと思ったけど、今のところ魔物は魔物でたくましく適合しているみたい。
『げ、四つ目の強さだぞ。引き返そう』
『あの数はなあ……』
見た目はわずかに変化するから、翼人たちは翼人たちでそんな魔物の区別もついている。
いいね。互いにけん制しあうのは悪くないことだよ。
翼人たちは浅い階層の魔物を間引き、魔物たちは滅びないように共食いをする。
そうして互いに強くなり続ければ、世界の均衡がようやく釣り合うようになりそう。
「悪くない」
「神様の掌の上ということですね。素晴らしいです!」
え~……。それはむしろ悪いことだと思うなあ。
私は上位の神様たちと違って、この世界の全てを正しく管理する自信なんてないし。
なので、翼人も魔物も海人族も、みんな自分たちで強くたくましく生きてほしいのだ。
「まだ早いかな」
完全に私の手を離れるのは、きっとまだ先だと思う。
それまでは、なんとか見守りつつ適宜修正していこう。
神様だけど、案外やることは多くて大変だねえ。
手当たり次第にデバッグするほどの信仰力もないから、やっぱり日に数か所だけしか直らないけど。
「? そうですね。神様がおっしゃるのなら、きっとそうなんだと思います」
私の巫女がイエスマンすぎる。
この子は特に私に依存しちゃってる気がするなあ……。
それならそれで、この子一人くらいならずっと面倒をみてあげてもいいけど。
巫女にした以上はもう普通の翼人でもないからね。
「……あ」
「あれは……。今までと違って、体そのものが大きくなっている気がしますが」
そっか。魔物たちってレベルが一定以上まで上がるとこうなるんだ。
……ええ? 私、そこまで設定していないはずだよね。
バグ? え、やばっ。あれ自体は別に今は問題じゃない。
だけど、想定していない挙動が発生しているのは怖い。
「リオラ。私、しばらく管理システムを眺めるから」
「かしこまりました。では、神様の邪魔になりそうな者は全て排除しますね」
しますね、じゃないが。
排除する前に私に知らせてほしい。
……まあ、さすがに誰かが私たちに会いに来ることはないだろうけど。
適当な場所を選んで神殿扱いしてからというもの、周囲にはめっきり生き物の気配がなくなった。
神域扱いのため恐れ多いとかで、どの生き物も近寄らなくなったんだろうねえ。
だから、私は邪魔をされずに作業できると思う。
さて……覚えのない機能となると、組み合わせの問題か。
あるいは実装したときの挙動で、想定しきれなかった部分があるか。
一つ一つ調べていくとしよう。
◇
「なんだ……? この巨大な魔物は」
これまでの四足歩行の魔物たちは、俺たちよりも小さな体の個体ばかりだった。
それは、二つ目や三つ目に進んで強化された個体でも同じこと。
多少の見た目や色の変化はあれど、ここまであからさまに異なることはなかった。
でかい。
ともすれば、別の種類の魔物ではないかと疑うほどの姿だ。
だが、その特徴は他の魔物たちと変わらない。
やはり、同じ種類の魔物なのか? であれば、こいつは魔物たちのボス……?
「どうする? オルン」
「一度当たってみる。それで無理なら逃げるぞ」
「聞いたな? 俺たちは退路を確保だ」
「オルンが駄目だったときのために、何人かは助けに入れるようにしておけ」
話が早くて助かる。
俺たちもそれなりに強くなったつもりではあるが……こいつとの力の差はどの程度だ。
測れない。だが、気持ちで負けるようでは俺ではないな!
「行くぞ魔物!」
槍を構えて突撃する。
当たり所によっては、五つ目の魔物さえ致命傷となる攻撃だ。
だが、魔物のボスはその攻撃を見た目にそぐわない俊敏さで回避した。
やるな! この時点で五つ目の魔物よりはるかに強い!
「————!!」
聞き取ることさえ困難な甲高い咆哮と共に、魔物は巨大な前足でこちらを抑え込もうと飛びかかる。
だが、その勢いこそが俺が欲しかったものだ。
「——!!?」
魔物は、やはり聞き取れないほどの音で叫んだ。
だが、今回は苦しんでいることはわかる。
俺の攻撃とお前の突撃、うまくかみ合ってそれなりの威力にはなっただろ。
「おお、いけそうじゃないか。オルン加勢するぞ!」
「ああ、頼んだ!」
ここで仕留める。こいつはたしかに強いが、俺たちも強くなった。
このタイミングで出会えたのは感謝すべきだ。
放置していたら、さらに強くなっていた可能性も十分あり得るのだから。
「くそっ! 悪い、油断したつもりはなかったんだが!」
「気にするな、下がれ!」
強いな。
油断していなくとも、何かを間違えたらこちらが大怪我をする。
これまでの準備がなければ、こいつを倒そうという考えも浮かばなかったかもしれない。
あの傷を癒す水を大量に確保できている今だからこそ、こいつと出会えたことは幸運だったといえよう。
集団で囲んでけん制し、隙を見つけた者が攻撃する。
魔物の攻撃には細心の注意を払って対処し、崩れた者がいたら周囲でフォローしているうちに回復する。
戦えている。巨大な魔物は確実に弱ってきている。
「終わりだ!」
その一撃は、魔物の頭部を正確に貫いた。
……さすがに、これで倒れてもらわないと困るが。
「やったぞ!」
「さすがはオルンだ!」
問題なさそうだな。
体の大きさに比例して耐久力も上がっていたようだが、さすがに頭を貫かれて動けるはずもないか。
魔物の四本の足から力が失われ、そのまま体を支えることもできずに崩れ落ちた。
「ふう……」
これでようやく一息つける。
仲間たちはみんな無事だな? 怪我人も治療の水のおかげですでに完治している。
俺はすっかりと慣れた感覚でステータスを呼び出した。
――自己情報
名称:オルン
種族:翼人
年齢:21
レベル:35
加護:武運の加護
称号:語り継ぐ者、初陣の戦士、魔物狩り、討伐者、熟練討伐者、強敵撃破
技能
・飛行
・魔物捕食
・槍術
・汚染耐性
・大物喰らい
おお。さすがに強敵だっただけあって、一度にレベルが上がったぞ。
このレベルというのはなかなかの曲者で、上がれば上がるほどに倒すべき魔物の数が増えるからな。
最近では俺のレベルは上がらなくなって困っていたところだ。
それに……称号も久しぶりに増えたな。
強敵撃破か。悪くないな。あれはまさしく強敵だった。
そんな強敵との戦いの記録を残してもらえている気がして、なんだか嬉しくなる。
技能のほうは……この魔物を食べるためのものか?
見るからにこれまでの魔物とは別だもんな。
この技能がなければ、食料としては扱えないのかもしれない。
「しっかし、集めていた水が全部なくなったな。なんだったんだこいつ」
「むしろここで倒せて正解だったのかもな。こいつが強くなったら、俺たちの手に負えなかったかもしれない」
「こいつも……奥に進んだら複数で現れたりするのか?」
「それは勘弁してほしいな」
相手は一匹、こちらは複数。それでこれだけ消耗したんだ。
さすがに、これっきりということにしてほしいものだ……。
◇
「……倒されたか。これじゃあまだ足りないな」