世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする 作:パンダプリン
「おお、セファか!」
「……またぼろぼろになってるな。どうせ無茶したんだろ」
「その通りだ!」
「胸張ってんじゃねえ。いい加減、危険なことはやめろって言ってんだろ」
「い、いや違うんだ。セファ!」
「はあ?」
オルンの野郎がまた無茶をした。
だが、こうして無事に帰っている以上は問題ないということじゃないのか?
どうやら……話はそう簡単なものでもないらしいな。
「何があった?」
オルンのやつはともかく、こいつらの態度はおかしい。
また新しい発見でもあったか? それも、俺たちにとっては喜ばしくないほうの……。
「巨大な魔物が奥にいた。だから倒したところだ!」
「ばっ!」
何を堂々と言ってやがる。
思わず言葉に詰まってしまったが、一度落ち着いて頭の中を整理する。
……よし、整理した。じゃあいいな?
「馬鹿かお前は! 見た目が多少変わっただけの魔物でも、急に強くなることは知ってるだろうが! それなのに、巨大な魔物と戦った!? しかも……倒した?」
倒したのか。じゃあいいか。いや、よくねえよ!
こいつ、絶対にまた無茶したに決まっている。
服についている赤黒い染みは魔物の返り血かと思ったが、それほどの大怪我をしながら治療の水で無理やり治したんじゃないか?
「しかしだなセファ」
「ああ、うるせえうるせえ。言い訳すんな」
「あの場で倒さなければ、もっと強くなっていたかもしれないぞ?」
「……」
これだよ。
こいつは馬鹿みたいに前にだけ進むようなやつなのに、時にこんなふうに正論を言うから嫌いなんだ。
そりゃあそうだろうよ。魔物たちは共食いして強くなることは確認した。
こいつらでさえ苦戦するような魔物がいるのなら、そいつは他の魔物を食い散らかしてさらに強くなるはずだ。
「……はあ。だからといって、全部一人で解決しようとする限り、俺はお前を認めねえよ」
「すまん!」
絶対に悪いと思ってねえな。こいつ。
結局、こいつとは今日も分かりあうことなんてできな……。
「……」
甲高い唸り声。
俺が知る魔物とは異なる不気味な声が、その場に響き渡った。
「……この声の持ち主か? お前らが戦ったのって」
「まずいな……。まさか、他にもいたとは」
オルンのやつの真剣な表情が、何よりの肯定の意だった。
まいったな。そういう厄介ごとに首を突っ込むのは俺らしくないんだが、聞いた以上は放置もできない。
「またっ!」
さっきよりも近い。わざわざ位置を教えてくれるのは助かるな。
問題があるとすれば……どうやら、その魔物は一匹じゃないってことくらいか。
「どうする? もう何匹か倒す余裕はあるのか?」
「厳しいな! だが、放っておくわけにもいかない!」
さっきの自分の考えと同じなのがまた腹立たしい。
本当にどうなっているんだよ……。
今までも魔物の被害はあったが、こんなとんでもない魔物なんて知らないぞ。
これも、神が世界を管理し始めた影響だっていうのか?
「———!!」
目の前に現れた巨大な四足歩行の魔物は、俺たちを見つけると今にも襲い掛かりそうな様子で叫び声をあげた。
おいおいおい……。勘弁してくれよ。
「治療の水を全部使ってでも倒すぞ」
「俺たちの分はもうない! だから、水はお前らが使ってくれ!」
それほどか!
オルンたちが全員で戦って、それでもなお回復用の水を使い切るほどの強さか!
だとしたら、なおさらこいつらの力が必要だ。
「所有者が誰とか言ってる場合じゃねえだろ。怪我したやつから水を使え」
「いや、そういうわけにはいかない!」
変なところで強情さを発揮してんじゃねえよ!
だが、こいつが言っていることも間違ってはいない。
というか、俺が最初にした取り決めかよっ! くそっ!
箱から出る道具は得た者と、その仲間たちが使うなんて言うんじゃなかった!
「なら、お前らは下がってろ」
「だが、さすがにセファたちだけでは」
「お前らに怪我されて、戦力が減ったら困るんだよ。俺たちが前に出るから、お前らはお前らで俺たちを助けろ」
「なるほど。引き受けよう!」
話は決まった。あとは戦うだけだ。
……はあ。こんな見るからに危険なやつ、もっと準備して念入りに調べてから戦うべきだろ。
オルンに感化されてんじゃねえよ。俺までこいつに引きずられたら、翼人は滅びるって言ってんだろうが。
ただ……こいつらをここで仕留めないと、今後さらに強くなるという意見もまた正しい。
ここで倒せないようじゃ、未来で倒すなんてもっと無理だ。
余計なことを考えていたためか、魔物は最初に俺を狙った。
食らいつくように牙をこちらへと向けて飛びかかってくるが、かろうじて槍で受け止める。
「重っ……!」
見た目以上かもしれないな。なんなんだよこの力は……。
だが……受けきれないほどの重さでもないなあ!
魔物と俺の力比べとなってしまったが、俺を潰すにはまだまだ力が足りない。
かといって、こちらも魔物を押しのけるほどの力があるわけではない。
このまま拮抗していても、先に潰れるのは俺のほうだろう。
俺が一人だったらの話だが……。
「セファ様から離れなさい!」
俺に集中している間に、仲間たちの攻撃が魔物へと殺到する。
無防備な状態で攻撃を喰らったためか、想像以上にダメージは大きそうだな。
こちらに向ける力が緩んだ瞬間を逃さず、俺は魔物を無理やり押しのけた。
「次が来てるぞ!」
思った以上に戦えそうではあるが、問題は相手の数だな……。
一匹を退けたと思ったら、すぐに別のやつが襲い掛かってくる。
同時に襲ってこないのは助かるが、俺たちを舐めているのか? あるいは、順番でも決めて獲物を襲っているのか?
「ぐあっ!」
何度も何度も襲われれば、こちらも無傷とはいかない。
腹を切り裂かれた仲間がおびただしい量の血を噴出させる。
以前ならば死んでいた。だが、治療の水のおかげであれは絶望するような傷ではない。
裏を返せば、水がなければ絶望的な致命傷ということだが……。
「後ろに下がってすぐに傷を治せ!」
「悪い……セファ……」
一人抜けるごとに、残ったやつらの負担が増える。
そうなると、そのまま崩されていくだけか……。甘かった。
怪我が治るからと、俺まで無謀な戦いへの抵抗がなくなっていたんじゃないのか?
やはり、ここで無理をせずに逃げることを最優先にすべきだったんだ……。
「さすがにもう見過ごせないぞ!」
またこいつは!
お前は俺たちが治療の水を使うことを拒むだろうが!
だったら、お前が致命傷を負っていなくなるのは、翼人にとって困るんだよ!
だというのに、後先考えずに体ごとぶつけるように槍で魔物を貫い……て……?
「あれ?」
「いや、あれじゃなくて。お前、この魔物に苦戦したって話じゃないのか?」
「そのはずなんだが……。ああそっか。セファたちが弱らせてくれたおかげか?」
俺はそうとは思わない。
でかい図体しているだけあって、この魔物たちの体力は明らかに俺たち以上だ。
多少の小競り合いで傷を負わせはしたが、それほどまでに致命的になるほどじゃない。
「ぼけっとすんな!」
オルンが自分の手を見つめている隙を狙い、魔物が襲い掛かってくる。
仕方がないのでその攻撃を受け止めると、オルンは魔物を的確に貫く。
おい、やっぱりお前一撃でこの魔物に大ダメージを与えているじゃないか。
数秒守ればその隙にオルンが反撃する。そのたびに魔物は傷を負って動きも鈍る。
こんな簡単に倒せるのなら、治療の水なんて使い切ることはないはずだ。
「……俺、強くなったかもしれない」
「あ~……。魔物を倒して一気にレベルが上がったってことか?」
「それも少しは関係あるが、たぶん技能だ!」
「技能?」
汚染耐性を得てからというもの、大して変化していなかった。
だから忘れかけていたが、この様子だとオルンは新たな技能と得たということか。
「大物喰らいという技能が増えていた。てっきりこの魔物を食べるための技能かと思ったが、たぶんこの魔物を倒すためのものだな!」
大物喰らいか……。
格上の相手を倒せるようになる技能? それとも、単に体が大きい相手を倒せる技能か?
まあどっちでもいいか。この場においてそれは重要ではない。
オルンがこの魔物たちに対して、有効な攻撃手段を持っているということが大切だ。
「このままお前が倒してしまえ!」
「もちろん!」
オルンの動き、たしかに今まで以上の速度だ。
一撃の鋭さと重さも俺が知るものじゃない。
レベルが上がったことでここまで強くなったわけではなく、これが技能というものか……。
有効な相手には恐ろしいほどの力を発揮する。なるほどな……レベルだけじゃなく、技能も重要だったってわけだ。
あの巨大な魔物は、それでも一撃で倒れるような相手じゃない。
相手の攻撃をまともに受ければ、あの状態のオルンだって傷を負うだろうし、俺たちなら一撃が致命傷になることは変わっていない。
だが、それでもさっきまでとは明らかに違う。
少なくとも、こいつらに押し切られることはなくなった。
「行くぞ!」
オルンが勇猛果敢に敵を攻める。
怪我をさせないように、後ろに待機してもらっていたのが馬鹿馬鹿しいくらいだな。
こいつが嫌がろうが怪我した瞬間に治癒の水を使ってやる。
お前がこの戦いで一番重要なやつだ。お前が倒れたら魔物の勝ち。お前が倒れなかったら魔物の負けなのだから。
「すげえなオルンのやつ……。あのでかい魔物相手に大暴れしてやがる」
「……今後、余計に無謀なやつになりそうだな」
まあ、この場では許してやる。だから、さっさと全員倒しちまえ。
俺含めて、もはや翼人たちは勝利を疑っていない。
油断をして怪我するような馬鹿はいないが、それでも多少なりとも気が緩む。
だから、それを聞いたときには緩んだ気が一瞬で引き締まった。
「そいつらを簡単に倒すか。……困るな。お前たちは下がっていろ」
知らない声だ。
そいつは、俺たちに対面するようにダンジョンの奥からやってきた。
この時点で警戒しないやつはいない。だってそうだろ。
そいつが現れた瞬間、戦闘中にも関わらず魔物たちがひれ伏した。
まるでそいつに従っているかのように、群れのボスであるかのようにだ。
そいつはそれが当然というように、悠然とこちらに歩みを進めている。
だいたい……その見た目はなんなんだよ。
二足歩行をするところは俺たち翼人と変わらない。
だが、翼が背中にないので翼人とはいえない。
異形といえるような巨大な腕のせいか、姿勢はやけに前傾だ。
そもそも……。顔はむしろ魔物に近い。
「お前は……なんなんだ」
「答える必要があるか? わかっているのだろう?」
言葉が通じる。知性がある。
なんだったら、オルンの馬鹿よりもよほど思慮深い相手に見える……。
そいつの言う通り、俺たちはその正体に薄々気付いてしまっている。
「お前も……魔物なのか?」
「ああ、そうだ」
なんだっていうんだよ。今日は……。
巨大な魔物が複数出現したかと思えば、今度は二本足で歩く人間のような魔物だと?
大きさこそさっきまで戦っていたやつらに劣るが、そいつらが言うことを聞いている時点でこいつのほうが上だとわかる。
「ここまで育ったお前らを簡単に失うのは惜しい。また増やすのも手間だからな」
あまりの出来事に動くこともできない俺たちを気にすることすらなく、そいつは魔物たちに話しかける。
つまり、この巨大な魔物たちは二足歩行の魔物のせいで生まれたってことか……?
魔物なんて、ただ群れていてなんでもかんでも襲うだけの集団だったはずだ。
言葉もなく知性もなく、本能のままに襲い掛かるだけの存在だった……。
それでもかつては苦戦していたというのに、そこに知性が加わったらどうしようもないじゃないか。
「下がれ」
魔物たちは命令に従ってダンジョンの奥へと消えていく。
一見すると脅威が去ったように見えるがそうではない。
この二足歩行の魔物。さっきの巨大な魔物たちよりもやばい存在だろ……。