世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする   作:パンダプリン

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第24話 すべて水に流そう

「速いっ!」

 

 ああ、やっぱり予想通りか。

 あのでかい魔物たちより小さくても、スピードも力もこいつのほうが上だ。

 もしかしたら、あのでかい魔物を食ってここまで強くなったんじゃないか?

 

 そんな格上の相手を前にこんな悠長に考えを巡らせているのは……。

 ああ、死ぬ寸前だからか。この一撃はどうあってもしのげない。

 だから、やたらと世界がゆっくりに思えているし、死ぬ間際にいろいろなことが見えているだけか。

 

「セファ!」

 

 ……痛えなあ。だが、かろうじて助けられた。

 オルンが槍の柄で突き飛ばしてくれていなければ、あの魔物の攻撃でそのまま死んでいただろう。

 

「セファ様!」

 

 左腕を軽々と切り落とし、胸を切り裂くほどの攻撃だもんなあ……。

 真っ二つにされなかっただけ、俺はまだ運がいいほうだ。

 

「興味深い。お前は他の翼人と違うのか?」

 

「オルンだ! お前ら魔物にとっては翼人が全員同じに見えるかもしれないが、一人一人別人だぞ!」

 

 たぶん、そういうことを言ってるんじゃねえよ。

 こいつは、お前の力が俺たちより上だと認めたってことだろ。

 ああ、くそっ。情けない。結局肝心な時に何の役にも立てない。

 借りを返すどころか、いまだに足手まといになり続けている。

 

「セファ、駄目だ! 治療の水を使うまで待て!」

 

「俺より……オルンを手伝えっ!」

 

 かろうじてその言葉を絞り出せた。

 腕よりも胸の傷がやばそうだな……。

 いいから、オルンのところに行けよ。あいつが死んだらこのまま全滅だぞ。

 ……いや、翼人が今度こそ絶滅するかもしれないな。

 

「やはり、力が湧いてくる。神様よ! どうか見守っていてくれ!」

 

「神……?」

 

 魔物がぴくっと反応した。

 オルンはそんな反応を知ってか知らずか、勢いよく魔物に向かって突撃する。

 隙を突かれた魔物はオルンの攻撃を回避できないと判断したらしく、その太い腕で槍ごと受け止めた。

 速くて重くて頑丈。なんなんだよ。この魔物は……。

 

「神様よ! この試練、必ず成し遂げてみせるぞ!」

 

「おい、お前……」

 

 気合だけなら十分渡り合えている。

 ……というよりも、魔物のほうが何かオルンに聞こうとしていないか?

 

 だが、こっちにも好都合だな。おかげでなんとか治療の水を使うことができた。

 傷は既に癒えているので、あとは数秒息を整えさせてもらえれば、またあの場に戻って戦うことができる。

 ……できるか? あいつ相手に渡り合える想像ができない。

 俺はまた足手まといになるだけなんじゃないか……?

 

「なんだ!?」

 

 そんな弱音を打ち消そうと頭を振っていると、ダンジョンの奥から地鳴りのような重低音が響き渡る。

 魔物の唸り声かと思ったが、あいつらの声とは明らかに別物だ。

 その正体は……考える間もなく、俺たちの前に姿を現したみたいだな!

 

「水!?」

 

「逃げるぞ」

 

 わからない。急に大量の水がこちらへと押し寄せてきている。

 よくわからないが、まずは逃げる。考えるのはそれからでいい。

 幸いなことに、今ならあの魔物も突然の水に驚いているようで、こちらにかまっている余裕がない。

 

 だが、この場にいた翼人全員は俺の指示に従い、すぐに入り口に向かって走り出している。

 ……オルンもさすがに逃げているな。これで水に向かって行ったら殴って止めていたところだ。

 なんとか、あのやばそうな魔物とは距離が取れそうだ。

 

「魔物たちの水飲み場が溢れたか!?」

 

「いや、それにしては多すぎだろ。どう考えても異変だよ、こんなものは!」

 

「いや、神様の奇跡なら不可能ではない!」

 

「お前、信じている神を悪く言うなよな……」

 

「褒めたつもりなんだが!」

 

 この面倒ごとの元凶って言ったんだぞ。

 そりゃあ大した力ってことにはなる。それに、俺たちの窮地を救ってくれてもいる。

 だが、それ以上に迷惑すぎるだろ。そんな神様。

 

「さっきの魔物は溺死したか?」

 

「……水の中にはいないな」

 

「あんなやばいやつが、この程度で死んでくれるはずもないか……。うまく逃げたんだろうな」

 

 いっそのことでかい魔物も二足歩行の魔物もまとめて、全て洗い流してくれればよかったのにな。

 ……そうなると、食料の確保やレベル上げに困るか。

 

「セファ」

 

「なんだよ」

 

「さっきの魔物はいないが、俺たちが知らない魔物らしきものがいるようだ」

 

「は?」

 

 オルンの言葉の意味を考えるよりも先に、それは水の中から飛び出してきた。

 ……なんだこりゃあ。手足がないぞ。それに、体には鱗のようなものがある。

 蛇……にしては、体が太すぎる。なんで水の中をあんなに素早く動けるんだ。

 ああ、もう! 考えてる場合じゃなかった!

 

「おい、オルン! お前何してんだ!」

 

 オルンの野郎。振り返って水のほうへと走っていきやがった!

 おいおいおい! 魔物相手に殿を務めるってのはわかる。

 だが、それ以上に押し寄せる水がやばいんだろうが! お前の体一つで水を止められるか!

 

「水はここまでらしい! 勢いが弱まっている!」

 

 ……本当に、たまに正論を言うからムカつくやつだ!

 逃げ惑うだけの俺たちと違って、オルンは押し寄せる水の様子をしっかりと観察していた。

 たしかに、もう水を恐れる必要はないらしい。だが、そうはいってもあの不気味な魔物はまだ水の中だぞ。

 こいつ、俺たちを守るために一人で立ち向かうつもりなのか、それとも単なる好奇心なのかどっちだ!

 

「ああ、くそっ! オルンに続くぞ!」

 

 一つわかっていることは、こいつに死なれたら翼人の滅亡が早まるってことだ。

 数はいる。見たことがない魔物ではあるが、様子見くらいはできるだろ。

 それで倒すのが無理だと判断したら、そのときはオルンをぶっ飛ばして引き返そう。

 

「さっきの魔物よりはマシだろうが、油断するんじゃねえぞ!」

 

「もちろんだ!」

 

 この魔物もやけにでかいな。

 俺たちが知っている魔物が小さいだけで、他の魔物はこの大きさなのか?

 だとしたら、急に現れたと思っていたあのでかい魔物たちも、実はあれが本来の姿なのか?

 っといけない。考えるのは後だった。

 

「喰らえ!」

 

 本当に恐れを知らないやつだなこいつは!

 まあ、この魔物がさっきの魔物以上ってことはないだろ。

 あいつには効かなかったが、オルンの今の攻撃ならこいつらを簡単に殺せる……はずだったんだがなあ。

 

「速いな」

 

「やはり、水の中でこれほどのスピードを出せるのは厄介だ」

 

 相手する必要はあるのか?

 さっきの魔物もこの水については知らなかったし、いっそ魔物同士で潰しあったりしないか?

 こっちの魔物は……水の中以外は動けないっぽいな。水に特化した魔物というわけか。

 

 しっかりと観察していると、魔物が俺のほうまで近付いてくる。

 そして……水の中から勢いよく飛びかかってきやがった!

 

「危ねえっ!」

 

 かろうじて攻撃を受け止めて魔物を地面に転がす。

 すぐに槍を構えなおすと、やはり魔物は陸の上ではまともに動けなかったようだ。

 先ほどのスピードが嘘のように、その場でビチビチと跳ねている。

 

「とどめを刺すなら今だな」

 

 それでも、またさっきみたいに跳躍してくる可能性はある。

 最後まで油断せずに確実に……。

 

「駄目よっ!」

 

 な、なんだ!?

 まさか、この魔物たちも話すことができるのか?

 声の主を探してその場を見回すと、どうやらそれが魔物たちの声ではなかったことがわかった。

 

 だが……本当に今日はなんなんだろうな。

 次から次へといろいろなことが起こりすぎている。

 オルンのやつが言うには神様の試練なんて話だったが……もう少し説明してくれよ。あの巫女とかを使ってさあ。

 

「はあ……。お前は誰だ?」

 

 目の前にいるのは翼人ではない。

 むしろ、さっきの魔物に近いかもしれないな。

 体には光る鱗がついているし、なんか全体的にぬめっとしている。

 ただ、顔は魔物ではなく俺たち翼人に近いか。

 そんなわけのわからない女の顔を見て、俺は思わずため息をつきそうになった。

 

「私はネルシア。海の巫女よ」

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