世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする 作:パンダプリン
「駄目」
だ~! 本当に全然わかんないんだけど!
私一応この世界の管理神だよね!?
いや、崩壊寸前のバグまみれの世界って、こういうもんなのかもなあ……。
むしろ、今までがうまくいきすぎていたのかもしれない。
「神様。私が事情の説明に行きましょうか?」
「ありがとう。でも、まだ原因がわかってない」
オルンもセファもネルシアも不安だよねえ……。
う~……不甲斐ない神様でごめんなさい。
いや、もっと考えなくっちゃ! 抜け漏れはない? システムに全部目を通して……。
「神様……。申し訳ありません」
「リオラは悪くない。私の仕事だから」
そう。リオラはちゃんと巫女として働いてくれている。
信仰だって、こんな世界で思っていた以上に稼いでくれている。
だから、私がしっかりしないといけないんだ。
なんて考えていたんだけど、たぶんリオラが謝ったのはそういうことじゃないみたい。
「失礼します」
「ん……」
目の前が急に真っ暗になった。
普通の人なら突然のことに困惑するだろうけど、私くらいになるとこの程度で焦りはしない。
目元がふかふかときもちいい。あったかい。いいにおい。
さては、私の目を翼で隠しているね?
「あまり根を詰めすぎてはいけないと思い、差し出がましい真似をさせていただきます」
「今日はもう寝る」
「はい。それがよろしいかと」
さすがはリオラ。作業モードに入った私をこうも簡単に夢の世界へ送るとは……。
まあ、連日徹夜続きだったからね。神とはいえ、パフォーマンスの低下は免れないか。
だったら、このままふかふかの翼の中で眠るのが……。
◇
「オルン。あれから巫女は来ないのか?」
「来ないな。お前も知っているだろ? セファ」
知っているが、お前はなんかあの巫女とそれなりに良好な関係だったからな。
もしかしたら、何か聞かされているんじゃないかと思って気になっただけだ。
だが、神様にも巫女にも動きはなしか。
……まいったな。
ネルシアに話したように、すぐに巫女を頼ろうとしたがそうもいかないらしい。
もしかして、神様にとっても想定外の出来事なのか?
「はい。魔物よ」
「おう、悪いなネルシア」
「しかし、本当にオルンやセファ並みに強いとはな……」
「これでも海の巫女だからね」
ネルシアはというと、なんか普通に俺たちに馴染んでいるな。
最初は余計な異種族を養う余裕はないということで、あまり歓迎はされていなかった。
だが、ネルシアは狩りで自身の食い扶持を稼げるということもあり、今では当たり前のように受け入れられている。
「巫女かあ……。巫女だから強いってことだよな?」
「まあ、魔力の扱いには自信があるし、神様の加護で強くもなったわね」
「巫女って神様に近い存在ってことだよなあ……?」
「私は海の巫女だから違うけど、あなたたちと同じように翼を生やした巫女様はそうでしょうね」
他のやつらが何を心配しているかはわかる。
うちで忌み子として扱われていた巫女のことだろう。
これまで虐げていた存在が急に神様に仕える存在となった。
つまり、俺たちの誰よりも圧倒的に偉い存在となったわけだ。
そりゃあ、これまでの行いへの報復を恐れるのも無理はないだろう。
「やっぱり……今までの行いのせいで、俺たちのところにもう来なくなったんじゃないのか?」
「……」
ネルシアは知らない。あの巫女が忌み子として扱われていたことを。
限界寸前だった翼人たちの中で、その負の感情のはけ口にされていたことを。
だが、ネルシアも薄々それに気付いているのだろう。それでも何も言わないのは、こいつなりのやさしさなのかもしれない。
「反省しているのであれば謝ればいい! 未知の魔物を発見しても巫女様がこないのであれば、俺たちだけで対処できるからかもしれないぞ!」
「前向きなのはいいが、無責任なことは言うんじゃねえよ。俺とお前がいても手も足もでなかっただろうが」
「槍は出たぞ」
「そういうことじゃねえ」
たしかに、隙だらけの状態で槍の一撃を見舞っていたな。
もっとも、その状態でさえ相手は攻撃を受け止めていたが。
そういえば……あのとき、あの魔物はなんで隙をさらけ出したんだ?
思えば、その後もオルンに何かを尋ねようとしていたな。
あのときにオルンが口にしていたことといえば……。
神様に関すること。だったよな?
そうだ。それであの魔物自身も神と口にしていた。
「やはり、神様が知っているということか……?」
そのうえで何も説明がないということは、オルンの言う通り俺たちだけで乗り越えるべき存在ということなのか……?
いや、それよりはさっき考えたとおり神様でさえ予想外と考えるべきか。
いずれにせよ、あの魔物が今後何もしないとは思えない。
俺たちはこれからも魔物を狩って強くなるしかないな。
◆
「今日の最低限作業終わり」
「お疲れ様です。神様」
本当に疲れる。一日のノルマがしんどい。
だって、ここまではまだやりたいことができていないもの。
私が本来進めたい作業は、一日のノルマを終えたこの後から始まる。
あ~……。
なんなんだろう。この魔物。
海の中でも普通に行動しているし。
「まさか、海人族たちのほうに移動しているとは。魔物が転移の力を得たということでしょうか?」
「たぶん違う。海が移動したときに入れ替わった」
そう。あのときダンジョンの中に大量の海水が現れたのは、空間の座標の交換だったんだと思う。
だから、翼人たちのほうには海水が流れ、逆にその海水があった場所には空気が流入した。
その範囲内にいた喋る魔物ごと……。
「神様の御力で、あの魔物を元の場所に戻すことは?」
「あるいは、私の権限じゃ無理みたい」
これが不思議だ。なんかロックがかかっているというか、転移させることができない。
管理者としての権利が行使できていない。
だからこそ、あの魔物がバグなんじゃないかと思っている。
ただ、そうなると問題なのは海人族たちだね。
あの魔物が海人族を襲ったら、海人族たちが絶滅すると思う。
翼人族たちでも同じだけど、あっちはまだダンジョンという生息域があって棲み分けができていた。
だけど、海人族の付近に転移したせいで、今は私がしっかりと面倒をみないとまずい。
破壊したはずの結界のようなものを再構築し、毎日毎日維持をする。
それも、海人族に気付かれないようにだ。
気付いたらまた生贄とか出しそうだし……。
そうして安全を確保して、初めてあの魔物についての調査時間が取れる。
「君は誰?」
ほんと、誰なんだろうねえ。君は。
もともと存在した? いいや。それなら私が見落としていたってことになる。
さすがにそこまでザルな管理をしていないよ。
◇
「そろそろいいだろう」
もう十分に平らげた。
魚という生き物に似た魔物は俺の栄養になった。
だが、力の源にはなっていない。
「神よ。まだ足りないのか?」
元の居場所に帰れないということは、まだ何かが不足しているということだ。
このあたりの魔物を喰らいつくせば、神も満足すると思っているのだが……。
まだいるのか? なら探すしかないな。
不毛だ。共食いすればより力を得られるというのに。
こんな何の意味もない捕食は不本意だ。
……俺に食の真の意味を教えてくれた神のやることとは思えない。
「……それとも、やはりこの中なのか?」
水の中で活動してわかったが、ここには見えない壁がある。
その中には何かが存在していることもわかる。
あるいは……この壁を破れるようになれば、神の意図がわかるのかもしれない。
それだけの力をつけた末に、この中にいる何かを食うことで、さらなる力を得るということか?
であれば……。
「まだ足りないか……」