世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする 作:パンダプリン
「神よ。これ以上を求めるか?」
俺は、俺を作り変えた神へ問いかける。
役にも立たない魔物は全て食い荒らしたぞ。
俺を見ても襲い掛かるだけで、実力の差も理解できず、恭順することもできず、倒したところで力にもならない。
こんなやつらをいくら倒せばいい。こんなことに何の意味がある。
「……おかしいわねえ。変化していないみたい」
「だから言っただろう。あれをいくら喰らったところで無意味だ」
「共食いすることで強くなるよう、生態系を修正したってことかしら? なんで? 意味わかんない」
意味が分からないのはこちらのほうだ。
神は時折理解不能な話をする。だが、それは神だけの知識ということだろうな。
要するにいちいち気にするのは時間の無駄でしかない。
「あなた、魔物を食べたら強くなるわけじゃないみたいね」
「だろうな。そもそも魚の魔物は俺たちとは別物だ。同じ効果が期待できるかは五分だった」
「へえ、そうなの。魔物の違いとか気にしたことないし、興味もなかったわ」
——オルンだ! お前ら魔物にとっては翼人が全員同じに見えるかもしれないが、一人一人別人だぞ!
……神の言葉を聞き、あの翼人たちのやり取りを思い出す。
あいつらも、俺のことを単なる魔物のうちの一匹程度に考えているのだろうな。
……正直なところ、不愉快だ。
「神よ。俺の名前はなんだ?」
「名前? つけてないわよ。自分で好きな名前を決めて名乗ったら?」
「そうか」
俺は特別な魔物だ。その自覚がある。
だが、元はそこらの魔物と何も変わらない。狼型の小さな魔物の一匹にしかすぎない。
そんな俺だったが、神の力で体が大きくなった。
体が大きくなった者同士で食い合うことで、さらに力がみなぎった。
そんな特別な個体になった俺を、神は再び改造して知識を得た。
それでも……神は俺をただの魔物としか見ていない。
だから、俺を改造した神は、俺に名前を与えはしない。
「神よ」
「何?」
「俺に何を望む」
「そうねえ。この世界を壊し尽くしてほしいの」
「なぜだ?」
神は世界を管理する者ではなかったのか?
それに、壊し尽くした後俺たちはどうなる?
翼人だけでなく魔物まで住むことができない世界になったとしたら、神にも俺にも何の得がある。
「生意気だからね」
「翼人たちがか? あるいは……俺たち魔物がか?」
「別にあんたたちはどうでもいいわ。生意気なのは、新人のくせに特別な成果を残そうとしているここの管理神」
「……管理神? あなたのことではないのか」
「私が? あはは、笑わせないで。私はこんな辛気臭い壊れかけの世界の管理なんて嫌よ」
……どうやら、俺は大きな勘違いをしていたのかもしれない。
神を名乗る目の前の存在。それはたしかな力を持っている。
俺という存在を作り上げたことから、その力は今でも疑う余地はない。
ただ、それほどの力を持つ以上は、この神こそが世界を統べる者かと思っていた。
……違うのか?
会話から察するに、この世界を統べる神は別に存在する?
そして、この神は本来の管理神を疎ましく思っている……?
「とにかく、ここで得られるものは何もない。そろそろ元の場所に戻してくれると助かるのだが」
「そうね。あ~あ、せっかくもっと強くなると思ったのに、時間の無駄だったわ」
それはこちらのセリフだが、下手なことを言うべきではないな。
目の前の存在を信用してはいけないことはよくわかった。
だが、その力は本物であることも事実なのだから……。
「まあ。あんたなら、今のままでもこの世界の他の生態系を破壊できるでしょ。期待してるわよ。魔物」
「ああ。任せてくれ」
俺の言葉を聞いて満足そうにうなずくと、神は目の前から消えた。
……言わなくとも翼人たちに負けはしない。
オルンとセファといったな。あいつらが翼人の最高戦力だというのなら、俺は一人でも勝てるだろう。
◆
「戻った」
「何がでしょうか?」
「知恵ある魔物が、元の場所に」
「え、神様の御力もなく移動したということですか?」
「そう」
件の魔物を監視していると、彼は一定時間存在が消えていた。
最初は私が見失っただけかと思っていたけど、どうにも監視の目が届いていない気がするね。
バグ……じゃないよね。これって。
「神様でもないのにそのようなことができるとは……。その魔物、相当強力な存在ということですね」
「……うん。まあ、気にしなくて平気」
リオラにはまだ言わないほうがいいかな。
まさか、うちの世界に他の神が関与している可能性があるなんて……。
でも、そうとしか考えられない。
管理神であるはずの私がアクセスできないなんて、それ以外に思いつかないし。
うわあ……。嫌だなあ。
なんでよりによってうちに? そもそも、この世界を押し付けたときにみんなで笑いものにしたじゃん。
それほど価値がないと思っている世界なのに、なんでわざわざ暗躍みたいなことをしてるのさ。
うん。絶対にリオラには言いたくない。
世界を管理さえできず、別の神の介入を許した役立たずの神だなんてばれたら、この子が私を見限ってしまう。
リオラは私の巫女だからね! 絶対、他の誰にも渡す気はないし!
「では、私は翼人たちに状況を伝えましょうか? 今ならネルシアを元の場所に戻してもいいでしょうし」
「そうだね」
まずはそっちから解決すべきだね。
やっぱりこの子は頼りになる。だからこそ、この子に見限られたら私はへこむ。
もっとしっかりと神様らしくがんばらないと!
まずは、あの魔族に別の神が施したであろう修正の解析を……。
うわあ。なにこれえ。別の神様が手を入れた部分で、解析するだけでも一苦労なのかなあ。
これが見づらいのか、それとも効率的なのか、それさえも判断するのが大変だなあ。
◇
「おいオルン! 巫女だ!」
「なに、ついにきたか!」
ネルシアが俺たちと暮らしてから数日。互いに慣れてからさらに数日。
まったく動きがなかった巫女が、ついに俺たちに何かを伝えに来たということか!
「よし、話を聞きに行くぞ! ネルシア」
「ええ。ようやく元の場所に帰してもらえるかもしれないからね」
急ぎその場所に向かおうとするも、今日はセファに止められない。
ということは、これは正しい行動ということだな。
さて、巫女からは何を聞かせてもらえるだろうか。
「来ましたか。オルン、セファ、ネルシア」
「俺たちに用件が?」
「ええ。巫女として神様の御言葉を伝えに来ました」
やっぱり、ネルシアに関することかな?
帰還させてくれるというのなら、喜ばしいことだ。
「ネルシア。あなたの転移は神様にとっても不本意な出来事です。神様が元の場所に帰しますので、ついてきなさい」
「え、ええ。わかったわ」
「それはいいが、今まで帰還させなかった理由は? 神様の力なら、すぐにでも帰還できたんじゃないのか?」
たしかに、セファの言う通りではある。
だからこそ俺たちは、今回の事件を自分たちの手で解決すべきなのかと思っていたくらいだ。
だが、神様にとっても不本意な出来事ということは、想定外の何かが起きている?
「あなたたちも見たはずです。会話可能で二足歩行の魔物を。あれがネルシアの世界にいたため、下手にあなたを戻すことはできませんでした」
「私の世界は無事なの!?」
「問題ありません。神様が海人族たちを隠しましたので、襲われたのは周辺の魔物だけです」
なるほど……。それでネルシアを帰すことができなかったのか。
下手に神様の奇跡を起こすと、あの魔物がネルシアを襲うかもしれない。
もっとひどい場合は、ネルシアから海人族たちの居場所が割れてしまい、海人族ごと襲われるかもしれない。
セファもそれには納得したのか、特に異論をはさむ様子はなかった。
「だから、あれ以来ダンジョンのあいつが現れていないのか。……巫女。あの魔物はなんなんだ」
「それは」
「なるほどな。お前が神の巫女か」
巫女が答えようとするも、その言葉は別の誰かに遮られた。
俺たち翼人ではない。この声は以前一度だけ聞いたことがある。
そして、いまだに記憶しているほどには印象的な声だ……。
「魔物」
「ああそうだ。名前さえない魔物だ。久しぶりだな翼人ども」
声の方を振り向くと、そこにはあの時と変わらぬ前傾姿勢で、件の魔物が二足で佇んでいた。