世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする 作:パンダプリン
「巫女に何の用だ」
「貴様たちには関係ない」
セファの言葉に、魔物は心底興味がなさそうに答えました。
この魔物の今の興味は、巫女である私だけに向いているようです。
神様でもその正体を調べるのに時間を要している魔物……。なんとも、不気味な存在ですね。
「関係ないのはお前のほうだろ。今は、俺たちがこの巫女と話をしているところだ。順番くらい守れ」
そんな軽口を叩きながらも、セファは相手を最大限警戒しているようです。
「ならば、貴様たちが俺の後ろに並び直すことだ」
「っ!」
セファのもとへ一足で跳躍。
魔物としての特性か、その身体能力の高さは翼人よりも上なのでしょうね。
あのままでは、セファは一撃で致命傷を負っていたことでしょう。
ですが、そうはなりませんでした。
「なんだ。お前もか?」
「無論だ! これは翼人とお前たち魔物の問題だろ?」
「俺たち魔物、か……」
オルンに攻撃を防がれた魔物は、そのことをまるで気にしてもいませんでした。
オルンとセファ。二人を相手にしたとしても、自分であれば苦戦することもなく勝利できる。
その自信の表れといったところでしょうか。
ですが、二人はその態度が気に食わなかったようですね。
「あのときの借りを返させてもらうぞ」
「俺たちも強くなったからな!」
「同胞を倒された復讐って言うのなら、こっちも昔から魔物に襲われているらしいからね」
ネルシアの言う通り、かつては魔物こそが翼人の狩人でした。
それが神様の力で逆転、あるいは対等にまで持っていけた。
ですから、ここにきてこのような魔物が現れることは、神様にとって想定外のはずです。
あなたは……神様にとって邪魔なはずです。
「……怖いな。目の前の翼人と女よりも、お前のほうが敵意が強い。巫女というわりには、随分と好戦的じゃないか」
「神様の障害は全て私が破壊する。それも巫女の役目ですので。ということで、そこの三人。早く倒さないと私が乱入します」
まあ、巫女としてあまり手出しするのは良くないんですけどね?
神様は本当にお優しく、魔物にまで慈悲を与える方です。
ですから、この魔物にもその慈悲を与えるべきか悩んでいるのでしょう。
その決断が成されるまで、私が独断で処理するわけにはいかないはずです。
「遅いな。あのときから何が変わった?」
「無論、諦めない力だ!」
「いや、お前のそれは前から変わってねえぞ。オルン」
魔物が一瞬で目の前に現れ、三人のうちの誰かが攻撃を受ける。
ですが、かろうじて武器で受けることはできているみたいですね。
ただ、その一撃で体勢を崩し、そのまま追撃されそうになっていて非常に危なっかしいです。
三人のうち二人がフォローに入ることで、なんとか二撃目を妨害しているようですが……。
「まるで虫だな。いちいちたかられては面倒で仕方ない」
魔物にとっては脅威というよりも、不快という印象のようです。
「オルンたちが防戦一方なのかよ……」
「俺たちも助けに入るべきじゃないのか!?」
「駄目だ。あの魔物に狙われて、自分の身を自分で守れるか? それができるのは、あそこにいる三人だけだろ」
でしょうね。
数で押して勝てるのなら、セファがすぐに指示を出しているはずです。
そうしないのは、いくら数を揃えても無意味だから。
それに、攻撃に対応できない者から狙われ、次々と犠牲者を出すからでしょう。
私は翼人がどうなろうとかまいません。
ただ……減りすぎると、神様の信仰に影響が出てしまいますね。
オルンとセファの槍は空を切り、ネルシアの魔法はそもそも防御寄り。
……ここまでですかね。
「いつまで巫女を待たせる気ですか?」
「悪いな。思いのほかしぶとく生き延びるもので、なかなか仕留めきれん」
「では諦めなさい。私の時間は神様のものです。あなたがまだそこで遊びたいというのであれば、私は今すぐ帰りますが?」
魔物がオルンたちを見つめますが、彼らの戦意はまだ折れていません。
さすがに、すぐには仕留めきれないと判断したのでしょう。
魔物は軽く舌打ちをして、再びオルンたちへの興味をなくしました。
「それで、私に何の用ですか?」
「神に会わせろ」
目的はわかりませんし興味もありません。
ですが、神様を敬う気がないその傲慢な態度、そんな者を対面させるつもりなどありません。
この魔物は……危険極まりない敵であると判断します。
「用件がそれだけだというのであれば、今すぐにダンジョンに帰りなさい。神はあなたのような信仰なき者に会うことはありません」
「なら、貴様の窮地には現れるか?」
わずかに体勢を低くしたかと思うと、魔物は勢いよくこちらに跳躍してきました。
ああ、やはり魔物ですね。
手段はわかりませんが、たしかにあなたは知性を獲得しています。
ですが、結局は本能のままに力を押し付けてくるだけの存在。それが魔物ということなのでしょう。
「……そこの翼人たちよりも強いな」
「当然でしょう。私は神様の巫女ですから」
実は、前までは私のほうが弱かったんですけどね。
神様は、私よりもオルンやセファのほうが強いと言いました。
私を蔑むわけでもなく、馬鹿にするわけでもなく、ただ事実としてそう言いました。
ですが、私はそれを受け入れるわけにはいきません。
神様にとっての翼人の一番は私でないといけないんです!
だから、魔物は狩りました。神様と共にいる時間と巫女として活動する時間以外を使い、可能な限り狩り続けました。
そういう意味では、私はあなたにとっての復讐相手と言えなくもありませんね。
仲間を大量に虐殺してきたのですから。
ですが、あなたも私もそういう存在じゃないでしょう?
私は翼人ですが巫女という別の存在。あなたも魔物ですがただ一人知性を得た別の存在。
私たちは翼人も魔物もどうでもいい。この世界でたった一人の生き物です。
「気が変わった。適当に痛めつけるだけのつもりだったが、そんな余裕はないらしい」
魔物は再び姿勢を低くすると、そのまま地を這うかのように駆けてきます。
やはり、元が四足歩行だったためか、そちらのほうが移動しやすいのでしょうか?
やけに形になっているその走法で私に接近すると、そのまますれ違うように背後まで駆け抜けていきます。
「……戦う気はあるのか?」
「ええ、もちろん。あなたが神様を諦めるまで、徹底的に戦いましょう」
こちらが手出しをしないから、やる気を疑ったようですね。
ですが、こちらにも得手不得手というものがあります。
あなたのそのスピード。たしかに驚異的といっても差し支えないでしょう。
オルンやセファがほとんど反応できなかったのも無理はありません。
ですが……攻撃は軽い。
「あなたのほうこそ、やる気はありますか?」
「言ってくれる」
再び、しなやかな身のこなしからの突進。そしてすれ違う。
魔物は、このすれ違いざまに攻撃を行なってくるようですね。
先ほどもその爪を振るわれました。
が、レベルを上げて巫女としての力も鍛えた私には、よほどの威力でなければ通じません。
「結局のところ、あなたの攻撃は軽すぎる。私どころかオルンたちにも致命傷を与えられていないというのに、私の守りを突破できるはずがないでしょう」
翼に力を入れる。
翼人だったころ、醜く白いと疎まれた翼に。
巫女として仕え、美しく白いと褒められた翼に。
「光……?」
「これが、神様から与えられた力です」
魔力が込められた翼は、白く輝き魔物の攻撃を寄せ付けない堅牢な守りを実現する。
ですが、それだけの硬さということは、翼そのものを武器とすれば……。
「ちっ!」
「……逃げましたか」
光る翼は、羽根の一本一本に魔力を込めている。
それらが強固な守りとなっていますが、羽根を飛ばすことで強力な攻撃へと転ずることもできます。
それこそ、あの大きな魔物を完封する程度には。
ですが、一度攻撃を受けただけで、相手は撤退を判断したようですね。
臆病……とは馬鹿にしません。
むしろ厄介です。あの魔物は敵と自分の力の差を理解し、撤退を選んだ。
つまり、いずれその差を克服したときに再び現れるということなのですから……。
では、私はまだまだ強くなりましょう。この程度のステータスで満足するつもりはありません。
――自己情報
名称:リオラ
種族:翼人
年齢:16
レベル:60
加護:低位管理女神ナギの加護、武運の加護、不屈の加護、勇気の加護
称号:神の巫女、初陣の戦士、魔物狩り、討伐者、熟練討伐者、百戦の戦士、魔物の天敵、英雄、神の盾
技能
・飛行
・神託
・魔物捕食
・汚染耐性
・光魔法
・狂信
・結界魔法
・浄化魔法
・光の翼