世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする 作:パンダプリン
「はあ……」
「女神様。いかがなされましたか?」
「なんでもないわ」
「しかし」
「なんでもない。私はそう言った。次はないわよ」
巫女の一人が顔面を蒼白にして後ろへ下がる。
他の巫女たちも同じく震えているから、これで鬱陶しい言葉はかけてこないでしょ。
それにしても……。本当に生意気ね。
なんだっけ、あの崩壊世界を管理している女神の名前。
……思い出せないというより、最初から覚えてなかったわ。
だって興味ないし。
たかだか低位の神。崩壊世界を押し付けられて、他の神々からも嘲笑されていた愚かな存在。
私たちの中でのあれの役割なんて、どうやって管理に失敗するかを楽しませる程度のもの。
だというのに、あの崩壊世界でどうやって信仰を手に入れているの?
――管理対象世界:〘アルセリア〙
――人口:842,631
――文明レベル:成熟期
――信仰値:104,205
――神格評価:C
私の世界と比べたら、あんな崩壊世界のわずかな信仰なんて全然大したことない。
だけど、あの世界で数百の信仰を稼ぐなんて、本当に生意気だわ……。
「生意気」
私の言葉に巫女たちがびくっと体を震わせる。
ああ、鬱陶しい……。そろそろ別の人間を巫女にして、今の巫女は処分しようかしら。
どうせ生贄なら定期的に送られてくるし、私はあれと違って資源には困っていないから。
そうよ。それだけ私は世界で崇められている。
この世界の人間どもをうまく管理できている。
あいつに同じようなことができているとは思えない。
そんな余裕も力もないでしょ。あの低位神には。
「はあ……。ちょっと出かけてくるわ。巫女の仕事をこなしておきなさい」
びくびくと怯える辛気臭い顔に囲まれていたら、気分が悪くなるわね。
あの生意気な低位神の世界にちょっかいを出すために、あの魔物にありがたい神託でもしにいこう。
ああ、その前に今日も信仰を稼いでおかないと。……本当に面倒くさいわね。
面倒ごとは先に終わらせる。それが私の良いところだと思う。
神殿から外に出てすぐ目の前にある広場に私が降り立つと、人間たちはすぐに周囲に集まりひれ伏した。
まあ、悪くないわね。その殊勝な態度は嫌いじゃないわ。
ただ、そのために私が演技しないといけないというのはいただけないけど。
「神様……」
「神様。今日もお美しい……」
まあまあね。人間たちの信仰はちゃんと続いている。
私を疑うような無礼者は見当たらない。
それでこそ、定期的に神としてこいつらを導いてあげている甲斐があるというものね。
「頭をあげなさい。私を見ることを許します」
その権利を与えたことで、人間たちは畏れ多くも私を目にする。
さてと、今は何もトラブルは起きていないし、今後も平和だとても言っておけば神に感謝するでしょ。
「あなたたちの信仰により、世界の平和は続いています。これからも私への祈りを忘れなければ、この日々が続くことを約束しましょう」
「神様。感謝します」
「私たちのために、世界を管理していただきありがとうございます」
今のところは問題ないわね。
まあ、信仰を集めるなんて簡単なものよ。
適当に平和な暮らしを続けさせればそれでいい。
ただ、あまりにも長く平和が続くとこいつらは神への感謝を忘れる。
だから、信仰が足りなくなってきたそのときは、神の力で災害を起こしてやればいい。
何百人か犠牲者を出した後に災害を消してやれば、神がいないと生きていけないことを思い出すでしょ。
それの繰り返し。こいつらの命は私が握っている。それさえ忘れさせなければそれでいい。
「神様。感謝の証として生贄を捧げさせてください」
「ええ。あなたたちの気持ち受け取りましょう。私は仕事がありますので、神殿に預けておいてください」
ちょうどいいわね。
新しい生贄を巫女としましょう。それで、今いる巫女の何人かは殺してしまえばいい。
そろそろ見飽きたからね。あいつらの顔も。
信仰のためとはいえ、人間ごときに演じなければいけないというのはあまりにもストレスが溜まるからね。
神殿に隔離した人間たちが相手なら、私の本来の顔を見せても何も問題ない。
逃げることはできないし、外部との連絡なんてできやしない。
なら、私はあいつらの前では演じる必要はない。
そうよ。人間ごときのために神が取り繕うなんて馬鹿げている。
だから、あの巫女たちにはその責任を取ってもらっているだけ。
「さて、新しい楽しみができたわ」
人間どもたちから離れ、あの汚らしい崩壊世界への接触を試みる。
帰ったら古い巫女を処分できるし、今日の私は機嫌がいい。
あの魔物にも多少はやさしくしてあげようかしら。
崩壊世界にいた強めの個体。そいつらの生態系を書き換えて、成長限界値を排除した。
そうしたらなんか醜くでかくなったけど、そいつら同士で殺し合わせたらなかなか面白い結果が生まれたわ。
まさか、簡易的な人語を使うようになるとはね。
もっとも、会話が通じるほどの知能はなかったけれど、そこは私が神の力で書き換えてあげた。
うん。やっぱり私という存在あってこそのあの魔物だし。私に感謝して力になるべきよね。
だから、さっさとあの世界を滅ぼすほどの力を得て、あの生意気な低位神の世界なんてめちゃくちゃにしてほしいものだわ。
◇
「さて、邪魔が入りましたね」
あの魔物……。まさか巫女である私に襲い掛かるとは。
やはり短絡的で不敬な存在。神様には絶対に会わせません。
そもそも、巫女である私以外が神様とお会いするなんて駄目です。
神様は私の神様です。絶対に誰にも渡しません。
「あの、巫女様……?」
「失礼。神様へ祈っていました」
「そ、そうですか。それで、セファがあの魔物について聞いていたと思いますが」
「ええ。その話を中断されたところでしたね」
ネルシアに言われて思い出したのではありません。ちゃんと覚えていました。
そう。あの不敬極まりない魔物についての説明をするところでしたね。
ただ、あれについての情報は残念ながらありませんね……。
「……あれは、神様の枠を外れた存在です」
「そ、それほどまでの存在……」
あ。なんか言葉選びに問題があったかもしれません。
今の言い方では、神様でも対処できない例外の存在ととらえられてしまったような気が……。
「どうりで強いわけだな」
「神様の試練とは別、ということか。なるほど、ますますもって俺たちで対処せねばな!」
オルンが今良いことを言いましたね。
そうです。なんでもかんでも神様に頼ってはいけません。
というか、神様だって今調べてくれている最中なのですから、その間は自分たちでなんとかするのが正しい信者というものでしょう。
「ええ。できればあの障害はあなたたちで対処すべきです。ですが、神様もあなたたちに力を貸してくれます。今は手が回りませんが、いずれあの魔物の対処法を授けてくれることでしょう」
「おお、それはありがたい!」
「まあ……それまでは自衛するべきだよな。なんでもかんでも神様任せっていうのも情けない」
「それに、戦えないわけじゃないってことは巫女様を見てわかったからね」
なんかいい感じになりました。
あの魔物と戦った甲斐があったようですね。
では、本題に入りましょう。まったく……これだけを言うために来たというのに、余計なことに時間を取られすぎていますね。
「ネルシア。今日私がここに来たのは、あなたを元の世界に帰すためです」
「え……」
なぜ驚くのでしょう?
そもそもそれが神様や私への用件だったはずでは?
あの魔物が海にいるうちは無理でしたが、今ならネルシアを帰すことは問題ではありません。
むしろ、今のうちに神様の御力によって転移すべきだと思うのですが。
「私は……まだ帰れません」
しかし、ネルシアの口からは私の提案を蹴るような言葉が出てきました。