世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする 作:パンダプリン
一秒。
相変わらず、それだけでこちらに接近される。
そこから攻撃に移るまでにさらに一秒?
よくもまあ、武器を構えて防ぐことができているものだ。
我ながらよくやっていると自分を褒めたい。そうでないと、目の前の魔物にあっさりと壊される。
「無事か、セファ!」
「……っ!」
オルンの声に答える余裕さえない。
だが、最初に会ったころよりはだいぶマシになっているな。
魔物を狩ってレベルを上げた意味は、一応あるってことか。
「くそっ! そっち行ったぞ!」
「わかっている!」
それにしても、出会ったころとは別人だな。
あのときは余裕をもってこちらに言葉をかけていたというのに、これじゃあ魔物そのものじゃないか。
二足歩行であることは変わらないが、前傾姿勢はさらに前に重心を置いている。
ともすれば、そのまま前向きに倒れるか、四足歩行にでも変わりそうだな。
「なんのっ!」
それに、今はネルシアもいるからな。
俺たちが攻撃を防ぐことに失敗しても、ネルシアが結界魔法で相手の攻撃を防いでくれる。
あのときよりも確実に戦える。
……だが、それだけか? あのときから強くなった。臨時とはいえ仲間も増えた。
だが、それだけでここまで楽に戦えるような相手だったか? お前は。
「……」
淡々と感情もなく本能のままに攻めてくる。
だからか……。相手がどうやって攻撃してくるか、ある程度読めてしまうのか。
そりゃあ、あのときのほうがよほど恐ろしかったわけだ。
「まだまだあっ!」
ちょうどいい。あの様子だとまたオルンに攻撃を仕掛けるはずだ。
あいつ、オルンばかりを見ているからな。
前のお前なら、誰を攻撃するかどこを攻撃するかなんて、まるで読めなかったというのに。
……なんなんだ。そのていたらくは!
「はあっ!」
「セファ?」
見ようによっては、俺がオルンを攻撃しにいったように見えたかもな。
まあそれは仕方ない。あの魔物の速度は俺たちより上なんだ。
なら、あの魔物の攻撃の瞬間に合わせるには、俺が先に動かないといけないだろう。
「!!」
「はは、やるじゃないか!」
「くだらない。この程度、相手を見ていれば誰でもできる」
オルンを狙った魔物の動きに合わせて、先読みして槍で貫いただけだ。
こちらの動きなどまるで気にしていないため、相手はいともたやすく左腕を貫かれた。
攻撃に集中していたから守りがおろそかになったか?
ふざけんな。お前、いつからそんなに弱くなったんだよ。
「今のこいつは魔物と変わんねえよ。動きは速いが、十分対処できる」
「やはりか……。俺も前より防御しやすいと思っていたんだ」
だろうな。オルンもそりゃあ気付くだろ。
俺たちはもっと強いこいつと戦っていたんだ。
あのときのことを思えば、こんなのどうってことはない。
わずかに、あのときよりは速いようにも感じたが、それ以外が劣化しすぎだ。
いつどこにくるかわからない攻撃と、あらかじめどこにくるかわかっている攻撃。
そりゃあ、前のお前のほうが強いに決まってんだろ!
馬鹿なやつだ。魔物と違って知性を獲得し、恐ろしいほどの脅威となっていたというのに。
それが今じゃ見る影もない。
「セファ!」
ああ、わかっている。
オルンやネルシアでなく、傷を負わせた俺が憎いんだろ。
標的はオルンから俺へと移った。
だが、さっきまでとは違うぞ。
いきなり襲い掛かられて、ただ防御に徹していたときとは違う。
オルンとの攻防を見たからわかる。
こいつがどこを狙うかなんて、目線からおおよそは見当がつく。
その位置とタイミングに合わせるように、ただ槍を思い切り振りぬく。それだけだ。
「つまんねえ終わりだったな!」
前のお前なら、この攻撃を見てから回避していたと思うぞ。
腹に深々と槍が刺さった魔物を見て、俺はため息をついた。
強敵であることは間違いない。俺たち翼人にとって、こいつは倒すべき敵だった。
だから、ここで倒せてよかった。それは間違いないはずだ。
だが……。
「……様子がおかしかった気がするな。こいつ、もっと強くなかったか? セファ」
「ああ。こんな簡単に倒せるやつじゃなかったはずだ」
だが、もう考えても仕方がない。
深手を負った魔物にとどめを刺す。あとはそれだけだ。
腹に刺さった槍を持ち直し思い切り引っこ抜くと、魔物から大量の血が噴き出て苦しみ悶えた。
待ってろ。今楽にしてやるから。
「はあ? 困るんだけど」
槍を構えようとした瞬間、その声が周囲に響いた。
別に特別大きな声というわけではない。
ただ、どこか耳に残るというべきか……やけに通るような神々しい声だった。
「誰だ!」
目の前で倒れている魔物よりも、得体のしれない声のほうが危険だ。
そう判断し、俺はすぐに魔物から離れて周囲を見渡す。
だが、そこには誰もいない。この場には俺たち翼人と魔物しかいない。
「せっかく強化したのに、何簡単に負けてんのよ。ほんっと使えない」
なおもその声は響いているというのに、その姿だけはどこにも見当たらない。
待てよ。強化? 負けた? もしかして、この魔物が変わったのはこの声の仕業なのか?
「余計な自我を消してやって、ステータスも強化したでしょ? なんで前より弱くなってんのよ」
よくわからない。
わからないが、この声が余計なことをしたせいで、あの魔物は弱くなったってことか。
本来なら、翼人のためにと感謝すべきだろう。
だが……自我を消されたというのには同情する。
相いれない敵であっても、己の存在を誰かにいじられたというのはな……。
「なんだ? よくわからんが、この魔物を弱体化してくれたのか?」
オルンのやつも、俺と同じようなことを考えたんだろうな。
馬鹿正直に声の主に尋ねると、意外なことにその声は返答してくれた。
「弱体化? 馬鹿なの? 強化したって言ってるのよ」
「いや、前に会った時より確実に弱くなっていたぞ。そうか。自我なんて消したら弱くなるに決まっているな」
「そりゃあそうよね……。考える力なんて消したら、簡単に攻撃が読めたし」
なおも会話を続けるオルンにネルシアまで続いた。
怪しげな声にかかわるのはどうかと思うが、あまりにも理解できていない相手だったので、つい言葉が出てしまったのかもな。
「は、何? 文句でもあるの?」
「いや、事実を言ったまでだ。お前が何者かは知らないが、そこの魔物は確実に弱くなっている」
「それがあなたのしわざというのなら、あなたは私たちの味方ってことでいいのかしら?」
「……本当に、敬意というものがないわね! さすがはあの出来損ないの担当している世界だわ!」
おい……なんか、とんでもないことをさらっと口にしていなかった?
その言葉がこの声の妄想とかでないとしたら、こいつは……。
「ほら、傷は修正した。さらにステータスの値も増加させた。これならやれるでしょ。さっさと動きなさいノロマ」
「復活しただと?」
「傷が……塞がっているわね」
俺が槍で開けた穴が完全に塞がった……?
それに、何事もなかったかのように魔物が立ち上がり、俺たちを再び襲おうとしている。
速っ……。なんだこれ。さっきよりも速い。
突然の出来事だったため、攻撃を予測しての対処なんてものも無理だ。
ああ、くそっ! 無理そうだな。これは……。
「セファ!」
真っ暗になった視界と共に、仲間たちの叫び声が聞こえた。
だが、それらはどこか遠くから響いているような気がする。
どこか現実感がない。実感がわかない。
まるで、俺がこの場からいなくなっているかのようだ。
……もしかして、それほどの重傷ってことか?
駄目だ。もう意識が……。